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83 港湾都市バルエニア
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ゼルがまず初めに案内したのは港であった。
港湾都市と言うだけあり、その港の規模は凄まじいものとなっていた。
大陸間の貿易に限らず大陸内の別の港とのやり取りも含めてその全てがここを中心に行われており、まさしく大陸の交易の中心と言える場所なのだ。
陸上での交易拠点となるのがフェーレニアだとするならば、間違いなく海をベースとした交易の拠点はここバルエニアだろう。
その影響もあってこの街には多くの外来品が日々やってくる。
その中には咲たちにも馴染みのあるものがあった。
「これは……扇子?」
港付近の雑貨屋で売られていた商品を見た咲は思わずそう口にしていた。
その商品は扇子によく似ていたのだ。
しかしそこに書かれている文字は到底日本語と呼べるものでは無く、完全に異世界由来の言語となっていた。
「そいつは東の方にある国の特産品やな」
咲がその商品を食い入るように見ていたことに気付いたゼルはそう言って説明を始めた。
なんでもこの世界にも江戸時代までの日本のような文化を持つ国が存在しているらしく、そこからの特産品は大陸の人々にもそれなりに人気があるとのことだった。
そう言った特産品が海を越えて大陸に渡ってきているため、カタリスでの温泉旅館のように日本風のものを集めることも不可能ではないのである。
「随分と詳しいんですねゼルさん」
「そこ出身の知人から聞いたんや。これでも顔は広い方なんやで?」
「みてみて咲ちゃん!」
桜は慌てた様子で叫ぶ。
そんな彼女の指さす先には米俵が置かれていた。
「米!」
それを見た咲も桜同様叫んでしまう。
「なんやなんや、急にどしたんや?」
いきなりテンションがおかしくなった二人にゼルは驚いていた。
「ゼルさんは私たちが召喚された勇者だってのは知ってますよね。そうなる前の故郷では毎日のように米を食べてたんです。毎日です。それくらい私たちにとって米は大事な食べ物なんですよ」
「はぁ~それで……」
目がキマっている咲のその説明を聞き、ゼルは納得したように頷くのだった。
もしくは納得しなければ咲に何をされるかわからないと言う恐怖からそうするしか無かったのかもしれない。
「じゃ、じゃあ次ん所行こか」
その後、ゼルは未だ米俵に執着し続けている二人を強引に次の場所へと引っ張って行った。
「ここの港が凄いってのはわかったやろ? 色んな大陸や国から物がぎょうさん集まっとる。んで、そうなれば必然的に色んな料理も渡ってくるっちゅう訳や!」
三人が次に訪れたのは料理店であった。
だがただの料理店では無い。
その敷地面積はこれでもかと言う程に巨大だった。
と言うのも、ここバルエニアを利用する人はあまりにも多いため、それを全て捌くためには巨大な飲食の施設が必要なのだ。
また利用する人も色々な文化圏の人が集まっているため、ここではそれに合わせて色々な文化圏の料理が提供されていた。
しかし、驚くべきはそれだけでは無い。
「うわっ、安……え、なにこれ……?」
値段を見た咲はまたしても驚きのあまり声を漏らしてしまう。
他の街と比べても、ここの料理の値段はもう滅茶苦茶に安かったのだ。
「なっ? べらぼうに安いやろ? ま、ちゃんと理由はあるから安心してくれや」
ゼルはあまりにも安すぎる値段を見た咲と桜のリアクションを楽しんだ末に種明かしをするのだった。
「ここバルエニアは『交易と金の街』とも言われる程に経済の中心になっとるんや。だから街自体に金が入って来るし、街も交易のためなら援助を惜しまへん。ほんでここも多額の援助が入っとるからな。費用の大部分を街が負担しとるからこそ、この値段で提供できるっちゅう訳や」
彼の言う通りここバルエニアは大陸の経済の中心となっており、街が率先して交易に関わるものに多額の援助をしていた。
そして交易に関わる人々の食料事情を一手に担うこの料理店も例外ではなく、とにかく値段が安いのは街からの援助のおかげであった。
「よかった、なんか恐ろしい手でも使ってるのかと……」
咲のその言葉の通り、異世界には労働基準法なんてものは無いため人間を使い潰せば値段を下げることは出来るだろう。
しかしそれがもたらす利益はまやかしであることをこのバルエニアは理解しており、それよりは基礎を盤石にした方が良いと判断しての援助なのである。
そうして値段が安い理由を知った二人は安心して料理を楽しむのだった。
港湾都市と言うだけあり、その港の規模は凄まじいものとなっていた。
大陸間の貿易に限らず大陸内の別の港とのやり取りも含めてその全てがここを中心に行われており、まさしく大陸の交易の中心と言える場所なのだ。
陸上での交易拠点となるのがフェーレニアだとするならば、間違いなく海をベースとした交易の拠点はここバルエニアだろう。
その影響もあってこの街には多くの外来品が日々やってくる。
その中には咲たちにも馴染みのあるものがあった。
「これは……扇子?」
港付近の雑貨屋で売られていた商品を見た咲は思わずそう口にしていた。
その商品は扇子によく似ていたのだ。
しかしそこに書かれている文字は到底日本語と呼べるものでは無く、完全に異世界由来の言語となっていた。
「そいつは東の方にある国の特産品やな」
咲がその商品を食い入るように見ていたことに気付いたゼルはそう言って説明を始めた。
なんでもこの世界にも江戸時代までの日本のような文化を持つ国が存在しているらしく、そこからの特産品は大陸の人々にもそれなりに人気があるとのことだった。
そう言った特産品が海を越えて大陸に渡ってきているため、カタリスでの温泉旅館のように日本風のものを集めることも不可能ではないのである。
「随分と詳しいんですねゼルさん」
「そこ出身の知人から聞いたんや。これでも顔は広い方なんやで?」
「みてみて咲ちゃん!」
桜は慌てた様子で叫ぶ。
そんな彼女の指さす先には米俵が置かれていた。
「米!」
それを見た咲も桜同様叫んでしまう。
「なんやなんや、急にどしたんや?」
いきなりテンションがおかしくなった二人にゼルは驚いていた。
「ゼルさんは私たちが召喚された勇者だってのは知ってますよね。そうなる前の故郷では毎日のように米を食べてたんです。毎日です。それくらい私たちにとって米は大事な食べ物なんですよ」
「はぁ~それで……」
目がキマっている咲のその説明を聞き、ゼルは納得したように頷くのだった。
もしくは納得しなければ咲に何をされるかわからないと言う恐怖からそうするしか無かったのかもしれない。
「じゃ、じゃあ次ん所行こか」
その後、ゼルは未だ米俵に執着し続けている二人を強引に次の場所へと引っ張って行った。
「ここの港が凄いってのはわかったやろ? 色んな大陸や国から物がぎょうさん集まっとる。んで、そうなれば必然的に色んな料理も渡ってくるっちゅう訳や!」
三人が次に訪れたのは料理店であった。
だがただの料理店では無い。
その敷地面積はこれでもかと言う程に巨大だった。
と言うのも、ここバルエニアを利用する人はあまりにも多いため、それを全て捌くためには巨大な飲食の施設が必要なのだ。
また利用する人も色々な文化圏の人が集まっているため、ここではそれに合わせて色々な文化圏の料理が提供されていた。
しかし、驚くべきはそれだけでは無い。
「うわっ、安……え、なにこれ……?」
値段を見た咲はまたしても驚きのあまり声を漏らしてしまう。
他の街と比べても、ここの料理の値段はもう滅茶苦茶に安かったのだ。
「なっ? べらぼうに安いやろ? ま、ちゃんと理由はあるから安心してくれや」
ゼルはあまりにも安すぎる値段を見た咲と桜のリアクションを楽しんだ末に種明かしをするのだった。
「ここバルエニアは『交易と金の街』とも言われる程に経済の中心になっとるんや。だから街自体に金が入って来るし、街も交易のためなら援助を惜しまへん。ほんでここも多額の援助が入っとるからな。費用の大部分を街が負担しとるからこそ、この値段で提供できるっちゅう訳や」
彼の言う通りここバルエニアは大陸の経済の中心となっており、街が率先して交易に関わるものに多額の援助をしていた。
そして交易に関わる人々の食料事情を一手に担うこの料理店も例外ではなく、とにかく値段が安いのは街からの援助のおかげであった。
「よかった、なんか恐ろしい手でも使ってるのかと……」
咲のその言葉の通り、異世界には労働基準法なんてものは無いため人間を使い潰せば値段を下げることは出来るだろう。
しかしそれがもたらす利益はまやかしであることをこのバルエニアは理解しており、それよりは基礎を盤石にした方が良いと判断しての援助なのである。
そうして値段が安い理由を知った二人は安心して料理を楽しむのだった。
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