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71 心の闇
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突如現れた桜により、咲はその動きを止めていた。
「私は大丈夫だから……お願い、戻ってきて……咲ちゃん!」
動けるようになったとはいえ、桜はまだ完全に治っている訳では無い。
そのため、彼女は痛みに耐えながらそう叫ぶのだった。
そして忘れてはいけないのが、その間にもグレイシャルライザーから放たれる冷気が彼女を襲っていると言う事である。
「うぐっ……」
少しずつ、彼女の体が凍り付いて行く。
腹の負傷と、体を覆う冷気による全身の焼けるような痛みが徐々に桜の身を蝕んでいった。
「それ以上は君が危険だ! 離れたまえ!!」
見ていられないと言った様子でメンシスが叫ぶ。
それでも彼女が咲から離れることは無い。
「咲ちゃんがこうなっちゃったのは、私のせい……だから、私が止めないと……いけないんです……!」
桜のその言葉には確かな覚悟が込められていた。
それはまるでメンシスが街を守ろうとした時のようである。
「……ッ!」
その瞬間メンシスは炎魔法を発動させ、桜の近くに配置したのだった。
「これで少しは時間が稼げるはずだ! だが私の魔力ももう長くはもたない……あまり期待はしないでくれよ!」
「ありがとうございます……!!」
完全に咲の放つ冷気を無効化することは出来ずとも、その炎は確実に桜の体を温める。
これが正真正銘、最後のチャンスだった。これ以上長引けばメンシスの魔力は尽き、桜もただでは済まないだろう。
「お願い、咲ちゃん……! 戻ってきて……!!」
桜はその声が咲に聞こえているのかどうかもわからないまま、ただただひたすらに彼女へと声をかけ続けた。
――――――
「……」
真っ暗闇の中、咲は歩いていた。
目的も無く、あても無く、ただ無心に歩き続けていた。
果たして自分が何をしているのか、それすら今の彼女にはわからないだろう。
『……ちゃん!』
そんな時、真っ暗な世界に一つだけ光り輝く点が現れる。
その光はとても温かく、彼女を優しく包み込むようだった。
「……」
咲がそれに気付いたのかどうかはわからない。
しかしその足は確かに光の方へと向かい始めていた。
その時である。
「ッ!」
背後から無数に伸びる真っ黒な手が彼女の体を掴み、物凄い力で後方へと引っ張ったのだった。
「……いやだ、そっちには行きたくない!!」
それまでは無心のまま歩いていた咲だが、掴まれた瞬間に意識を取り戻したらしく全力でそう叫んだ。
だが彼女を掴む手の力は強く、少しずつ咲の体は闇の中へと引きずり込まれていく。
「何故拒むの?」
「……えっ?」
そして突如として咲の前に彼女そっくりの姿をした人物が現れ、咲に向けてそう言うのだった。
「桜を失ったのは貴方のせい」
「ま、待って……それは違……!」
「何が違うの? 貴方が油断したから。あの時、一緒に戦う事を選んだから。全ては貴方……いや、”私”のせいでこうなってしまったのに」
「いや……やめて……」
咲は目に涙を浮かべて泣き叫ぶ。
両手を拘束され、耳を塞ぐことも出来ず、目の前にいるもう一人の自分の声から耳を背けることは決して許されなかった。
『……お願い、戻ってきて!』
しかし、その間も温かな光と自身を呼ぶ声は徐々に大きくなり続けている。
「……ああ、そっか。私……帰らないと駄目なんだ」
その光に包まれた咲はそれまでの悲観的な感情を押しのけるようにして、光に向かって強く踏み出した。
そんな彼女に抵抗するように、もう一人の咲が口を開く。
「もう一度同じことが起こってもいいの? 今回は助かったのだとしても、今後無事であり続ける保証はどこにもない。また彼女を目の前で失うことになるのに……」
「……それでも、私は戦い続けるよ。もう二度と失わないように、私が守り抜いて見せる」
だがもう彼女が迷うことは無かった。
『咲ちゃん!!』
「……桜、今戻るよ」
その瞬間、咲は真っ白な光に包み込まれ、同時に彼女を掴んでいた無数の手が消え去ったのだった。
――――――
「咲ちゃん!!」
それがもはや何度目だかわからない程に、桜は彼女の名を叫び続けていた。
しかし時間は無情にも過ぎ去り、とうとうその時がやってくる。
「クソッ限界か……桜、もうこれ以上は無理だ! せめて君だけは……!」
「まだです! 咲ちゃんは強いから……きっと帰ってくるはずなんです……!!」
メンシスはふらつく体で無理やりにでも桜を引き剥がす。
そうしなければ彼女が低体温によって命を落とすのは確実であった。
しかしその時、不思議な事が起こった。
「な、なんだ……!?」
突如として咲の体が眩く光り始めたのだ。
『融解……! 脈動……! メルトライザー!!』
そしてそれが収まった時、そこにはそれまでのどす黒いアーマーとはまるで違うものに身を包んだ咲が立っていた。
全身はまるで太陽のような眩いオレンジ色で彩られており、各部には氷山が溶けたかのような形状のアーマーが装着されている。
「咲ちゃん……!!」
そんな彼女に桜は全力で飛び掛かるようにして抱き着いた。
「ありがとう……桜のおかげで戻って来られたよ」
そして咲も柔らかな声でそう言いながら桜を優しく抱きしめた。
決して諦めることの無かった桜の声が、愛が、闇に堕ちて凍り切ってしまった咲のその心を溶かしたのだ。
そして、彼女は戻ってきた。新たな力であるメルトライザーと共に。
「私は大丈夫だから……お願い、戻ってきて……咲ちゃん!」
動けるようになったとはいえ、桜はまだ完全に治っている訳では無い。
そのため、彼女は痛みに耐えながらそう叫ぶのだった。
そして忘れてはいけないのが、その間にもグレイシャルライザーから放たれる冷気が彼女を襲っていると言う事である。
「うぐっ……」
少しずつ、彼女の体が凍り付いて行く。
腹の負傷と、体を覆う冷気による全身の焼けるような痛みが徐々に桜の身を蝕んでいった。
「それ以上は君が危険だ! 離れたまえ!!」
見ていられないと言った様子でメンシスが叫ぶ。
それでも彼女が咲から離れることは無い。
「咲ちゃんがこうなっちゃったのは、私のせい……だから、私が止めないと……いけないんです……!」
桜のその言葉には確かな覚悟が込められていた。
それはまるでメンシスが街を守ろうとした時のようである。
「……ッ!」
その瞬間メンシスは炎魔法を発動させ、桜の近くに配置したのだった。
「これで少しは時間が稼げるはずだ! だが私の魔力ももう長くはもたない……あまり期待はしないでくれよ!」
「ありがとうございます……!!」
完全に咲の放つ冷気を無効化することは出来ずとも、その炎は確実に桜の体を温める。
これが正真正銘、最後のチャンスだった。これ以上長引けばメンシスの魔力は尽き、桜もただでは済まないだろう。
「お願い、咲ちゃん……! 戻ってきて……!!」
桜はその声が咲に聞こえているのかどうかもわからないまま、ただただひたすらに彼女へと声をかけ続けた。
――――――
「……」
真っ暗闇の中、咲は歩いていた。
目的も無く、あても無く、ただ無心に歩き続けていた。
果たして自分が何をしているのか、それすら今の彼女にはわからないだろう。
『……ちゃん!』
そんな時、真っ暗な世界に一つだけ光り輝く点が現れる。
その光はとても温かく、彼女を優しく包み込むようだった。
「……」
咲がそれに気付いたのかどうかはわからない。
しかしその足は確かに光の方へと向かい始めていた。
その時である。
「ッ!」
背後から無数に伸びる真っ黒な手が彼女の体を掴み、物凄い力で後方へと引っ張ったのだった。
「……いやだ、そっちには行きたくない!!」
それまでは無心のまま歩いていた咲だが、掴まれた瞬間に意識を取り戻したらしく全力でそう叫んだ。
だが彼女を掴む手の力は強く、少しずつ咲の体は闇の中へと引きずり込まれていく。
「何故拒むの?」
「……えっ?」
そして突如として咲の前に彼女そっくりの姿をした人物が現れ、咲に向けてそう言うのだった。
「桜を失ったのは貴方のせい」
「ま、待って……それは違……!」
「何が違うの? 貴方が油断したから。あの時、一緒に戦う事を選んだから。全ては貴方……いや、”私”のせいでこうなってしまったのに」
「いや……やめて……」
咲は目に涙を浮かべて泣き叫ぶ。
両手を拘束され、耳を塞ぐことも出来ず、目の前にいるもう一人の自分の声から耳を背けることは決して許されなかった。
『……お願い、戻ってきて!』
しかし、その間も温かな光と自身を呼ぶ声は徐々に大きくなり続けている。
「……ああ、そっか。私……帰らないと駄目なんだ」
その光に包まれた咲はそれまでの悲観的な感情を押しのけるようにして、光に向かって強く踏み出した。
そんな彼女に抵抗するように、もう一人の咲が口を開く。
「もう一度同じことが起こってもいいの? 今回は助かったのだとしても、今後無事であり続ける保証はどこにもない。また彼女を目の前で失うことになるのに……」
「……それでも、私は戦い続けるよ。もう二度と失わないように、私が守り抜いて見せる」
だがもう彼女が迷うことは無かった。
『咲ちゃん!!』
「……桜、今戻るよ」
その瞬間、咲は真っ白な光に包み込まれ、同時に彼女を掴んでいた無数の手が消え去ったのだった。
――――――
「咲ちゃん!!」
それがもはや何度目だかわからない程に、桜は彼女の名を叫び続けていた。
しかし時間は無情にも過ぎ去り、とうとうその時がやってくる。
「クソッ限界か……桜、もうこれ以上は無理だ! せめて君だけは……!」
「まだです! 咲ちゃんは強いから……きっと帰ってくるはずなんです……!!」
メンシスはふらつく体で無理やりにでも桜を引き剥がす。
そうしなければ彼女が低体温によって命を落とすのは確実であった。
しかしその時、不思議な事が起こった。
「な、なんだ……!?」
突如として咲の体が眩く光り始めたのだ。
『融解……! 脈動……! メルトライザー!!』
そしてそれが収まった時、そこにはそれまでのどす黒いアーマーとはまるで違うものに身を包んだ咲が立っていた。
全身はまるで太陽のような眩いオレンジ色で彩られており、各部には氷山が溶けたかのような形状のアーマーが装着されている。
「咲ちゃん……!!」
そんな彼女に桜は全力で飛び掛かるようにして抱き着いた。
「ありがとう……桜のおかげで戻って来られたよ」
そして咲も柔らかな声でそう言いながら桜を優しく抱きしめた。
決して諦めることの無かった桜の声が、愛が、闇に堕ちて凍り切ってしまった咲のその心を溶かしたのだ。
そして、彼女は戻ってきた。新たな力であるメルトライザーと共に。
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