固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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69 暴走②

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 ソリスの放った超位魔法アビス・ホールによって生まれた次元の裂け目へと吸い込まれてしまった咲。
 この次元の裂け目は吸い込んだ対象に闇属性のダメージを与えるものであり、それが例え超位冒険者であっても無力化できてしまう程の魔法である。
 
 だがそんな次元の裂け目は内側から破壊されてしまった。

「そんな……!?」

 そこからほぼ無傷の咲が出てくる。
 それだけグレイシャルライザーは強大な力を持っていたのだった。

「咲さん……?」

 しかし裂け目から出てきた咲はソリスに攻撃をすることは無く、その場から離れるように歩き始める。

「一体何が……いや、これは……!」

 咲を追おうとしたその瞬間、ソリスは気付いてしまった。
 
「向こうには街があるはず……まさか!?」

 そう、彼女は街に向かって歩いていたのだ。
 守るべき街を破壊の対象にしてしまっていたのである。

「いけません咲さん!」

 それを止めようとするソリスは背後から咲へと迫ると、そのまま全力で剣を振り下ろした。
 にも関わらず、ワイバーンの首すら容易に断ち切れるその一撃を咲はものともしていないようだった。
 残念ながらそれだけソリスとグレイシャルライザーの間には決して超えられない壁があるのだ。

 そしてもう一度攻撃をしようとしたソリスに咲は拳を叩きこむ。

「がはっ……」

 しかし咲による容赦のないカウンターを喰らい、彼女は後方へと大きく吹き飛ばされてしまった。
 超位冒険者としての頑強な体のおかげか死にはしなかったものの、ソリスはそのまま気を失ってしまう。
 彼女では暴走状態の咲を止めることなど不可能なのだ。

 一方そのころ、中央都市の正門前ではメンシスがソリスの無事を祈りながら帰りを待っていた。
 時間の経過によってある程度魔力が回復した彼女はすぐにでも戦おうとしていたのだが、流石にあれだけの魔力を消費してしまったため周りに止められていたのである。

 自分には何もできず、ただ待つことしか出来ない。
 それはメンシスにとってかつての自分を思い出してしまう呪いのようなものであり、彼女の中にトラウマが蘇りつつあった。

 そんな時、ゆらゆらとした自我を感じない動きで街に近づく者が一人。

「あれは……さっきの」

 それに気付いたメンシスはその正体にすぐさまたどり着く。
 その者は先程大量のワイバーンを葬り去った戦士によく似た装備をしているのだ。
 
 だが、明らかに纏う雰囲気が違う。
 そのことを本能的に理解したメンシスは杖を構えて警戒するのだった。

「何があったと言うんだ……。それにソリスはどこにいる……!?」

 メンシスの中で最悪の結果が想起される。
 あの戦士とソリスが共に居ないこと。そして明らかに異常な姿となっている謎の戦士。
 それらが導き出す最悪の結末……すなわち、ソリスの死。

「いや、そんなはずは無い……! ソリスは私の自慢の妹なんだ。そう簡単にやられるはずがないさ……」

 決して受け入れたくないその結末を振り払うかのように、メンシスは自身にそう言い聞かせる。

 その間にも咲は少しずつ街へと近づいていた。
 同時に彼女の周りが凍結していく。草も、木も、地面も、小動物も、咲の周りのものはその全てが例外なく絶対零度の世界へと閉じ込められてしまう。
 皮肉にも死の概念たる魔霊王を倒した彼女本人が、ありとあらゆるものに死を振りまく災厄と化してしまっていた。

「警告する。それ以上は近づくな」

 それ以上進めば間違いなく街に影響が出るだろうと言う所でメンシスはそう言って咲を止めた。
 だがそのすぐ後、咲は再び動き出す。
 彼女はメンシスの言葉を認識したのではなく、ただ単に彼女の声に反応しただけだった。

「警告はしたぞ……」

 まだ完全に治ってはいないものの、メンシスは目の前の脅威を払うべく立ち上がる。

「フレイムランス!」

 そして牽制も兼ねて中位魔法であるフレイムランスを発動させた。
 それにより生み出された無数の炎の槍が咲へと飛んで行く。
 しかし、そのどれもが咲に接触する前に霧散してしまうのだった。

「やはりこの程度では駄目か……ではこれならばどうだ」

 続けてメンシスは魔法を放ち続ける。
 火、水、風、土、果ては光に闇と、彼女は己の持ちうる全ての力を咲へとぶつけた。
 だが、残念ながらそのどれもが咲にまともなダメージを与えることは無いのだった。
 
 彼女にもまたグレイシャルライザーと化した咲との間に決して超えられない壁があったのだ。
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