固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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65 無敵の魔霊王

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 咲は上空へと浮かび上がって行った魔霊王に向けてカルノセイバーを振る。

「おっと、これはこれは随分と勇ましいことで」

 しかしその斬撃は魔霊王の体をすり抜けてしまい、一切のダメージとはならなかった。

「やっぱり効かないか……。実体が無いって厄介過ぎるでしょ。いくらなんでもズルだよズル!」

 ゼルの言った通り、魔霊王には物理的な攻撃が通用しないのだと言う事を改めてその身で理解した咲。
 そんな彼女は自分もこの世界においては中々チート的な存在であることを忘れて魔霊王に対し文句を言っている。

「では私にお任せください」

 その様子を見ていたソリスは魔法ならば通用するのではないかと考え、剣先を魔霊王に向け魔法を発動させた。

「フロストブリザード!」

 ソリスはメンシスが使用したものと同じ超位魔法を剣の先から魔霊王へと放つ。
 しかし今回は先程のような広範囲への攻撃ではなく、一点に集中させたものとなっていた。  

 彼女の持つ剣は魔力を凝縮させることが出来るため、その能力を利用することで魔法を一転集中で撃ち出すことが可能となるのだ。
 範囲殲滅のメンシスと一点集中のソリスと言うように、それぞれ別の役割に特化しているのも金銀姉妹の強みの一つであった。

 範囲攻撃であってもあれだけの威力があるフロストブリザードが一点に凝縮されれば、いくら魔霊王と言えど無傷では済まないだろう。
 そう、「無傷」では。

「良い一撃でした。私に少しでも傷をつけたのだから誇ってもらっても構わんよ」

「嘘、でしょ……?」

 あれだけの一撃を受けてなお、魔霊王は大したダメージを受けていなかった。
 それこそ彼の言うようにほんの少し傷が付いた程度だ。
 彼には光属性以外への高い属性耐性があったため、いくら超位魔法と言えどダメージにはならなかったのである。

 当然そんな事を信じられるはずもなくソリスは呆然としていた。
 今の一撃は彼女の本気の一撃だったのだ。
 それがほぼ通用しないとなればもはやソリスに打つ手は無かった。

「この程度だとは……誠に残念。せっかく用意したワイバーンをああも見事に全滅させたものだから、てっきりもっと骨のある者を想像していたのだがね?」

 たった今受けた攻撃がソリスの持つ全力の一撃だと言う事に気付いていた魔霊王はそう言って残念そうに肩を落とす。
 
「用意したですって……? ではゾンビワイバーンにしただけではなく、街を攻めさせたのも全てあなたが……!?」

 そんな魔霊王の言葉が気になったソリスは思わずそう口にしていた。
 それに対し魔霊王は淡々と事実を述べる。
 
「無論、私だ。アルタリア王国は人類を滅すると言う魔龍神王様の目的には邪魔なのでね」

「……ではやはり、あなたはここで殺さなければならないようね」

「そうは言うがね。今の攻撃が全く通用していないのは君にもわかっているだろう? 全く、大量のワイバーンの犠牲の先がこれとは、非常に面白くない。いや、私のために戦えたうえに不死の体をも貰えたのだから犠牲では無いか。むしろ喜んでいることだろうね。私も嬉しいよ」

「まさか、本気で言っているのではないでしょうね……」

 ソリスはそう言うものの、奥底では魔霊王が本心でそう言っている事を理解してしまっていた。
 彼にとって自分以外の命などどうでも良いものであり、ワイバーンを道具として利用したことも彼らをゾンビ化させたことも全てはどうでも良いことだったのだ。
 なんなら五大魔将である自分のためになれたのだからこれ以上に幸せなことは無いだろうと勝手に決めつけてすらいた。

 彼のそれは五大魔将の根底の部分を成す「自分勝手さ」の極致であると言えるだろう。

「もちろん本気だ。むしろ私が私のために他の命を使うことに何の問題がある? 魔霊王たる私は死を超越せし者なのだ。どのような存在であれ、生かすも殺すも自由。それこそが私と言う存在なのだよ」

「こんなのを放って置いたら街が……いや、世界中が滅茶苦茶になっちゃう。けど……」

 ここで魔霊王を倒さなければその被害は計り知れないものとなるだろう。
 しかし今の咲には彼を倒す手段が無かった。
 ゼルの言うように回復のポーションを使えばダメージを稼ぐことは出来ただろうが、そんなものを用意する時間も無ければ、そもそもそれだけの大量のポーションを持ち運ぶ手段が無いのだ。

 打つ手なし。
 その言葉を思い浮かべてしまった咲が一瞬諦めかけたその時である。

「咲ちゃん!!」

「桜……!?」

 屋敷に置いてきたはずの桜が彼女の元にやってきたのだった。
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