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47 戦いの終わり
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「ふぅ、終わった……あっ」
魔獣王が完全に動かなくなったことを確認した咲は一息ついていた。しかしまだ魔人王が残っていることを思いだすとすぐさま警戒態勢をとるのだった。
「……」
しかしその心配は杞憂に終わる。
魔人王は既に事切れていたのだ。あれだけの出血をしていたのだから当然であった。
こうして咲とレイナの二人は、間違いなく強大な存在である魔人王と魔獣王を討ち取ることに成功したのである。
だが代償が無かった訳では無い。失ったものも確かにあった。
「兄上……」
レイナはどこを見るでもなく、そう呟く。
彼は魔人王に完全に吸収されてしまったため、遺体すら残っていないのだ。
「レイナさん……大丈夫ですか?」
そんなレイナの元へと歩きながら咲はそう言った。
「……ええ、完全に受け入れられた訳ではありませんが、過去をどれだけ悔やんだところで仕方がないですから」
レイナは瞳に涙を浮かべながらそう言う。
だが悲しそうな表情こそしているものの、彼女のその目は既にやるべきことを見据えていた。
過去にとらわれず、確実に前を向いていた。
「咲ちゃん!!」
その時、咲を呼ぶ声が辺りに響いた。
闘技場が静かになったため桜が出てきたのだ。
「桜……! 大丈夫、怪我は無い?」
「うん! 咲ちゃんも無事で本当によかった……!!」
固く抱き合い、互いの無事を確認する二人。
そこに人の姿に戻ったレイナが駆け寄って行く。
「サクラさんも無事でしたか。……このままここにいるのもあれですし、一旦私の屋敷に戻りましょう。色々とやらねばならないこともありますから」
レイナのその言葉に二人は頷き、彼女についていく。
そして屋敷に戻った彼女らを真っ先に出迎えたのは、他でもないレイナの父であった。
魔人王が死んだことで彼にかけられていた呪いも解けたのだ。
「レイナ……レイナなのか!?」
「お父様!?」
レイナはそんな父の姿を見て、喜びや嬉しさよりもまず驚愕してしまっていた。
長いこと病で眠っていたはずの父が何故か自分を出迎えているのだ。そうなるのも無理もないだろう。
「ど、どうして……眠っていたはずでは……」
「理由は私にもわからない。だが、これだけはわかるぞ。……随分と大きくなったな、レイナ」
レイナの父は穏やかな笑みを浮かべながら彼女を抱きしめる。
「お父様……」
それは実に数年ぶりの再会であった。
彼の最後の記憶においてレイナはまだ十代前半くらいであり、その頃と比べて今の彼女は遥かに成長していた。
そうして立派に育ったことを嬉しく思っていたのだ。
その後、レイナは彼に全てを話した。眠っていた間にダニエルが行っていた所業を。魔人王と魔獣王が討伐されたことを。……そしてダニエルが亡くなったことを。
「そうか、ダニエルが……。それもまさか魔人王のせいであったとは。うむ、こうしてはいられんな」
その話を聞いたレイナの父は一瞬その表情を曇らせるものの、レイナと同じようにすぐにこれからの事を考え始めるのだった。
「お父様、病み上がりなのです。もう少し休んでいた方が……」
今すぐにでも動かなければと言った様子の父をレイナが止める。
だがその制止を振り切って彼はやるべきことを成そうとしていた。
「いいや、今ブルーローズ家は危うい状況となっている。今すぐにでも動かなければならん」
それからと言うもの、あっという間に事は進んだ。
彼がまず手を付けたのは次期当主の件である。
これまではダニエルがブルーローズ家の次期当主となっていたが、それをレイナへと変更。そしてレイナ側陣営とダニエルが牛耳っていた本家を合体し、ブルーローズ家の本来の力を出せるようにしたのだった。
次に、ダニエルが行ってきた数々の悪行の清算だ。
彼が行ってきたことは決して許されることではない。それは変わらぬ事実である。だがそれでも今まで迷惑をかけてしまった者たちに誠心誠意謝罪をしたのだった。
悪評が広まったままでは今後フェーレニアやその他の国で活動する上で問題があるため、これもまた急務であった。
もちろんすぐに全てを清算することは出来ないだろう。それでも時間をかけて罪を償っていく覚悟をレイナと父の二人は持っていた。
また今回の魔人王と魔獣王の件から、レイナはフェーレニアの防衛力を上昇させる必要があると考えていた。
そのため彼女はブルーローズ家を主軸としていくつかの有力な貴族を集め、共同で騎士団や冒険者の育成を行っていくことに決めたのだった。
そうしてブルーローズ家が少しずつ再建を行っていく中、咲はと言うと……。
「おめでとうございます! これで今日からサキ様は超位冒険者ですよ!」
超位冒険者になっているのだった。
魔獣王が完全に動かなくなったことを確認した咲は一息ついていた。しかしまだ魔人王が残っていることを思いだすとすぐさま警戒態勢をとるのだった。
「……」
しかしその心配は杞憂に終わる。
魔人王は既に事切れていたのだ。あれだけの出血をしていたのだから当然であった。
こうして咲とレイナの二人は、間違いなく強大な存在である魔人王と魔獣王を討ち取ることに成功したのである。
だが代償が無かった訳では無い。失ったものも確かにあった。
「兄上……」
レイナはどこを見るでもなく、そう呟く。
彼は魔人王に完全に吸収されてしまったため、遺体すら残っていないのだ。
「レイナさん……大丈夫ですか?」
そんなレイナの元へと歩きながら咲はそう言った。
「……ええ、完全に受け入れられた訳ではありませんが、過去をどれだけ悔やんだところで仕方がないですから」
レイナは瞳に涙を浮かべながらそう言う。
だが悲しそうな表情こそしているものの、彼女のその目は既にやるべきことを見据えていた。
過去にとらわれず、確実に前を向いていた。
「咲ちゃん!!」
その時、咲を呼ぶ声が辺りに響いた。
闘技場が静かになったため桜が出てきたのだ。
「桜……! 大丈夫、怪我は無い?」
「うん! 咲ちゃんも無事で本当によかった……!!」
固く抱き合い、互いの無事を確認する二人。
そこに人の姿に戻ったレイナが駆け寄って行く。
「サクラさんも無事でしたか。……このままここにいるのもあれですし、一旦私の屋敷に戻りましょう。色々とやらねばならないこともありますから」
レイナのその言葉に二人は頷き、彼女についていく。
そして屋敷に戻った彼女らを真っ先に出迎えたのは、他でもないレイナの父であった。
魔人王が死んだことで彼にかけられていた呪いも解けたのだ。
「レイナ……レイナなのか!?」
「お父様!?」
レイナはそんな父の姿を見て、喜びや嬉しさよりもまず驚愕してしまっていた。
長いこと病で眠っていたはずの父が何故か自分を出迎えているのだ。そうなるのも無理もないだろう。
「ど、どうして……眠っていたはずでは……」
「理由は私にもわからない。だが、これだけはわかるぞ。……随分と大きくなったな、レイナ」
レイナの父は穏やかな笑みを浮かべながら彼女を抱きしめる。
「お父様……」
それは実に数年ぶりの再会であった。
彼の最後の記憶においてレイナはまだ十代前半くらいであり、その頃と比べて今の彼女は遥かに成長していた。
そうして立派に育ったことを嬉しく思っていたのだ。
その後、レイナは彼に全てを話した。眠っていた間にダニエルが行っていた所業を。魔人王と魔獣王が討伐されたことを。……そしてダニエルが亡くなったことを。
「そうか、ダニエルが……。それもまさか魔人王のせいであったとは。うむ、こうしてはいられんな」
その話を聞いたレイナの父は一瞬その表情を曇らせるものの、レイナと同じようにすぐにこれからの事を考え始めるのだった。
「お父様、病み上がりなのです。もう少し休んでいた方が……」
今すぐにでも動かなければと言った様子の父をレイナが止める。
だがその制止を振り切って彼はやるべきことを成そうとしていた。
「いいや、今ブルーローズ家は危うい状況となっている。今すぐにでも動かなければならん」
それからと言うもの、あっという間に事は進んだ。
彼がまず手を付けたのは次期当主の件である。
これまではダニエルがブルーローズ家の次期当主となっていたが、それをレイナへと変更。そしてレイナ側陣営とダニエルが牛耳っていた本家を合体し、ブルーローズ家の本来の力を出せるようにしたのだった。
次に、ダニエルが行ってきた数々の悪行の清算だ。
彼が行ってきたことは決して許されることではない。それは変わらぬ事実である。だがそれでも今まで迷惑をかけてしまった者たちに誠心誠意謝罪をしたのだった。
悪評が広まったままでは今後フェーレニアやその他の国で活動する上で問題があるため、これもまた急務であった。
もちろんすぐに全てを清算することは出来ないだろう。それでも時間をかけて罪を償っていく覚悟をレイナと父の二人は持っていた。
また今回の魔人王と魔獣王の件から、レイナはフェーレニアの防衛力を上昇させる必要があると考えていた。
そのため彼女はブルーローズ家を主軸としていくつかの有力な貴族を集め、共同で騎士団や冒険者の育成を行っていくことに決めたのだった。
そうしてブルーローズ家が少しずつ再建を行っていく中、咲はと言うと……。
「おめでとうございます! これで今日からサキ様は超位冒険者ですよ!」
超位冒険者になっているのだった。
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