固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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42 死を克服し、その呪いは祝福となった

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 魔人王の攻撃を受け、死んだはずだったレイナ。
 しかしどういう訳か彼女は五体満足でその場に立っているばかりか、真っ白な狼へとその姿を変えたのである。

「どういうこと……? あっ」

 咲は何かを思い出したようだ。

「狼と言えば、確かレイナさんには狂狼の呪いだかそんなのがあったような……」

 一昨日、ギルドにて彼女に鑑定スキルを使用した時に見えたその呪いの名を咲は口にする。
 だがもう一度鑑定を使った彼女の目に映ったのは全く違うスキルであった。

――――――
個体名:レイナ・ブルーローズ
年齢:20
レベル:82

所持スキル:『身体強化』『上位剣術』『白狼の祝福』
所持称号:『剣聖』『死の恐怖を乗り越えし者』
――――――

「『白狼の祝福』……? こんなの、この前見た時は無かったような。それに『死の恐怖を乗り越えし者』なんてのも無かったはず」

 改めて鑑定スキルを使って出てきた情報には見知らぬ物が二つあったのだ。
 一つは狂狼の呪いが無くなり、その代わりに現れた白狼の祝福。
 もう一つは死の恐怖を乗り越えし者と言う謎の称号であった。

 そんな二つのスキルと称号についての情報を咲は鑑定の詳細表示機能を使って確認する。 

――――――
『白狼の祝福』
「狂狼の呪い」を所持している者が正義の心を持ち続け、なおかつ死に抗いその恐怖を克服した場合に与えられる祝福。
使用すれば巨大な白狼へとその姿を変え、常識を遥かに凌駕する力を得ることができる。

『死の恐怖を乗り越えし者』
死の直前まで決して諦めず、その恐怖を乗り越えた者に与えられる称号。
――――――

「よくわからないけど、何はともあれ生きていて良かった……!」

 目の前の光景はカオスそのものとなっているものの、ひとまず咲はレイナが生きていたことに安堵するのだった。

「……これは一体?」

 一方でレイナ自身も自分の体に何が起こっているのかわからずにいた。
 気付けば巨大な白い狼になっていたのだ。理解できるはずが無かった。

「なんなのよその姿……! 意味わからない……だっておねーさんはざこざこで、私に簡単に殺されなきゃいけないの!!」

 そんなレイナに対して魔人王は酷く動揺していた。
 つい先程まで軽く魔法で小突いてやれば死にかける程に貧弱な人間を相手にしていたのだ。
 弱者をいたぶることを何よりも楽しく思う彼女にとって、あれだけの魔法を畳みかけて死なない彼女は想定外であり決して許されるはずが無かったのである。

「……よくわからんが、今度はこちらの番と言う事で良いんだな」

 レイナはそう言うと魔人王の方へと歩き始める。
 その動きには一切の無駄が無く、たった今この狼の姿になったとはとても思えないものだった。
 
 彼女の持っていた機敏さはそのままに獣としての力強さが加えられている。
 それはまるで最初から狼として生まれ、今の今まで生きてきたかのように思えるほど洗練されていた。

「こ、こんなの許さない……私は最強の人間なの! 魔人王より強い人間がいていいはずがないのよ!! 」

 その姿を見た魔人王は怒りや恐怖と言った感情を隠すことも無く魔法を撃ち始める。
 しかしその魔法の連撃をレイナは容易く回避するのだった。

「どうして当たらないのよ! くぅっ……もっともっと速度が必要だけど、そのためにはもっと魔力が必要に……あっ、そうだ」

 レイナに攻撃が当たらないことに苛立っていた魔人王だが、地面に転がっているダニエルを見て何かを思いついたのかその表情を一転させた。

「もう用済みだし、私の力になってちょうだいね♡」

「な、なんだ……!? 体が、引寄せられ……!?」

 魔人王がダニエルの方に手を向けると、謎の力によって彼の体が彼女のいる方に向かって引寄せられ始めた。

「兄上!!」

 そんな彼の元にレイナは駆け寄ろうとする。

「手を出したらすぐにでも殺すよ」

「ぐっ……」

 それを魔人王はその一言で止めるのだった。
 洗脳されているとは言え、あんな人格になってしまったとは言え、彼女の中ではダニエルは大事な兄であった。
 そのことに気付いていた魔人王はこの一言で彼女を止められると理解していたのである。

「おい、待て! 貴様、私に何をするつもりだ……!」

「おにーさん、ざこざこ過ぎて使えないからさ~。最後に私の魔力になって貢献してね♡」 

「ま、待ってくれ……私は今まで貴様の言う通りに動いてきたはずだ! 今回は少し負けただけじゃないか! 次は……次は必ず役に立って見せると約束する! だから命だけは助けてくれ……!!」

 咲に殺されそうになった時のプライドはどこへやら。ダニエルは恐怖に顔を歪ませながら命乞いをする。 
 と言うのも、結局のところ彼は咲が甘さを持っていることに気付いていたのだ。
 咲が容易に人を殺せないことを見抜いていたのである。

「え~、どうしよっかな~?」

 魔人王はダニエルを煽るような声色でそう言った。
 その間も彼はズリズリと地面を引きずられており、とうとう魔人王の目と鼻の先にまでやってくる。

「わかった。助けてあげるよ」

「ほ、本当か!?」

 魔人王のその言葉にダニエルは一瞬安堵の表情を浮かべた。

「な~んてうそ♡ 私の魔力になれるなんて名誉なことなんだから感謝してよね」

「……は?」

「あははっ、その顔サイコー♡」

 しかし魔人王には最初からその気は無く、彼の絶望に染まる顔を楽しむためにそう言っただけであったのだ。

「いやだ……! こんな死に方は絶対に嫌だ!! おい、誰でもいいから俺を助けろ!! 俺はブルーローズ家の次期当主だ……ぞ……」

 ダニエルは最後の最後まで絶望と恐怖に支配されたまま魔人王の手に吸収されてしまうのだった。

「兄上!! くっ……う゛あ゛ぁ゛ぁぁ!! ……こんな! こんなことが許されていいはずが無い……!」

 あと一歩間に合わなかったレイナはその動きを止め、頬を涙で濡らしながら叫ぶ。
 それでも決して戦う意思を失ってはおらず、狼の鋭い目で魔人王の事を睨んでいた。

「ふぅ~ごちそうさま。これでもっと強い魔法が使えるからさ。期待しててね、強くなったおねーさん」

 そんなレイナを挑発するかのように魔人王はそう言うのだった。
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