固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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24 冒険者登録

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 受付嬢は持ってきた石板を受付のカウンターテーブルに置くと説明を始めた。

「これはレベルとスキルを測定するための石板です。冒険者として活動する上でどれだけの実力を持っているのかの目安にもなりますので、是非協力の方お願いいたします」

「スキルの測定……」

 咲はそう呟く。
 スキルの測定を行うと言うことは彼女の持つ変身スキルがバレると言う事である。
 これまでの外れ勇者としての扱いからして、咲は外れスキルと言われている変身スキルをあまり見せたくは無かった。

「うーん……でも登録には必要なんだもんね……」

 そう言うと咲は王城の時と同じように石板に手を触れる。
 
「どれどれ……えっ? 変身スキルに……か、鑑定!? それにレベル……に、261!?」

 咲のスキルとレベルを見た受付嬢は明らかに動揺した様子でそう叫んだ。
 そしてその瞬間、ギルド中の雰囲気が変わったのだった。
 それまで騒がしかったギルド内は一瞬にして静まり返り、誰もが受付の方を見る。
 
「あの、どうかしたんですか?」

「ど、どうかしたも何も……鑑定スキルなんて伝承とかおとぎ話の話じゃないですか! どうしてそんなスキルを持っているんですか!?」

「どうしてって言われても……」

 咲は鳥人遺跡での事を受付嬢に話す。
 余計な混乱を生まないように勇者としての情報は抜いて……ではあるが。

「た、確かにそのような伝承はありましたけど……あの遺跡の危険度は上層でも上位冒険者が手を焼く程なのに……」

「おい、お前が鑑定スキルを持っているとかいう奴か?」

 気付けば咲の隣には大柄な男が立っていた。
 そして咲に挑発的な視線を向けながらそう言ったのだった。

「いいか、鑑定スキルってのはおとぎ話の中の存在なんだよ。それをお前みたいな弱そうな女が持ってる訳ねえだろうが。なぁ、お前らもそう思うだろう!?」

 男がギルドの一角に向けてそう叫ぶと一瞬にしてそのエリアが沸き立った。

「クレイグの言う通りだぜ! そこの女は嘘をついてやがんだ!」

 そしてゲラゲラと笑いながらグレイグと呼ばれた男の援護射撃に徹するのだった。

「けど石板には確かに……」

「あ? 俺に文句でもあんのか? この辺りの強力な魔物を討伐してやってるのは俺たちだってことを忘れちゃいねえだろうな。それに、そんなのいくらでも偽装とかできんだろうが」

 グレイグは受付嬢に詰め寄ると、彼女の耳元でそう囁いた。

「そもそもよぉレベル261とか言ってたが、それが既におかしいんだよなぁ。ここらじゃ俺が一番強いんだぜ? では、俺のレベルはいくつでしょーうか!」

 先ほどと同じようにグレイグはギルドの一角へと向けてそう叫ぶ。

「じゃじゃん、なんと58でございます!!」

 すると一人の男がおどけた様子でそう返したのだった。

「せーいかーい! ここらじゃ敵なしの上位冒険者である俺がレベル58なんだ。261なんてふざけたレベル、ありえるはずがねえよなぁ?」

 そう言いながらグレイグは受付嬢の胸元に手を伸ばす。

「や、やめてください……」

「んん? 聞こえなかったな。まさかこの俺に歯向かうって訳じゃねえよな?」

 抵抗など出来るはずも無い受付嬢は目に涙を浮かべながら、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
 こういう時、彼女はいつもそうしていた。そうすれば時間が解決してくれたのだ。

 だが、今回は少し違った。

「嫌がってるし、やめた方がいいんじゃないかな」

 咲が割って入ったのだ。

「……おいおい、こりゃ驚いたぜ。まさかこの俺にたてつく奴がいたとはな……それも若え女だぜ? 命知らずにも程があるってもんだ。まあそうだな……受付嬢の代わりにお前が俺と遊んでくれてもいいんだが」

 グレイグの視線が咲の顔から胸元へ、そして胸元から腰へと下りる。
 その動きはまさしく女を品定めするためのそれであり、流石の咲も不快に思うのだった。

「待って咲ちゃん!」

「私は大丈夫。桜は下がってて」

 明らかに穏やかでは無い状況に自ら首を突っ込む咲を心配する桜。
 咲はそんな彼女を安心させるためにそう言ってから少しずつグレイグの方へと歩き出した。

「お前がどうやって石板の測定結果を偽装したのかはわからねえ。けど、この俺……剛腕のグレイグにお前が勝てるなんてことは絶対に無い。何故なら! 圧倒的な実力差には小細工など通用しないからだ!」

 グレイグはそう叫ぶと咲に向けて拳を振り下ろす。
 その勢いは自分で剛腕のグレイグなどと言う二つ名を語るだけあってか凄まじいものであった。

「咲ちゃん!?」

 思わず桜は咲の名を叫んだ。
 その時には既に咲の顔にはグレイグの拳が叩き込まれていた。

「へっへっへ、随分と余裕そうだったが所詮はこの程度か」

 決して軽くは無い一撃を咲の顔にぶち込んだグレイグは笑みを浮かべながらそう言う。
 しかし、すぐに異変を感じ取ったのだった。

「……待て、おかしい。こんなに手ごたえがねえなんてことあるか……?」

 グレイグはあまりにも手ごたえが無さすぎることを不気味に思い、その大きな拳を戻す。
 するとそこには一切の傷がついておらず、万全な状態の咲の顔があった。

 彼程度の攻撃では彼女にはまともなダメージどころか軽微な傷すら与えられないのだ。
 だがそれをグレイグが知ることは出来なかった。

「あ、ありえねえ……全力じゃねえとは言え、今の一撃はホブゴブリンくらいなら軽く吹き飛ばせるはずだ! お前、一体どんな手を使いやがった!」

 見るからに動揺した様子のグレイグは取り乱しながら咲に向かってそう叫ぶ。

「何もしてないよ。あなたの攻撃が私には通用しなかっただけってことでしょ?」 

「て、てめえ……俺を怒らせたらどうなるか、その体に教え込んでやる!!」

 咲のその言葉によってついに怒りの限界を迎えたグレイグは背中に携えていた巨大な斧を両手で握り勢いよく振りかざした。

「グレイグの兄貴! い、いくらなんでもそれは駄目ですって!」

「うるせえ! こうでもしねえと俺の気が済まねえんだよ!」

 それまではグレイグを応援していた男たちも、流石にこれ以上はヤバイと思ったのか彼を止めようとする。
 しかし当然ながらパワーで勝てるはずもなく、グレイグは高く振りかざしたその斧を咲に向けて振り下ろした。

 このままでは咲の奇麗な顔面に全力で振り下ろされた斧がぶち込まれることになる。
 誰もがそう思ったその時だった。

「あなたたち、何をしているの!!」

 ギルド内に女性の声が響く。
 と同時に咲とグレイグの間に一人の女性が割り込み、レイピアを器用に使ってグレイグの斧を弾き飛ばしたのだった。
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