固有能力『変身』を使いヒーロー活動をしていた私はどうやらファンタジーな異世界でも最強のようです

遠野紫

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19 交易都市フェーレニア

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 二人が街を求めて歩き始めてから数時間程。
 歩いても歩いても草木しかない平原をただひたすらに歩き続けた二人が丘を越えた時のことだった。

「咲ちゃん、あれ……!」
 
 桜の指さす先に、それはあった。

「街だ……!」

 数十メートルはあろうかと言う大きな外壁がそこにはあった。
 蜃気楼でも幻覚でも無い。確実にそれはそこに存在していた。
 
 そう、二人はとうとう街に辿り着いたのである。

「よ、よかった……このまま夜になっちゃったらどうしようかと思ったよ」

 そう言って桜は安堵する。
 凶暴な魔物が蔓延る異世界で野宿をすることにならなくて済んだのだから至極当然の反応であった。

「すっごい大きいね……」

 門の前へとやってきた桜は思わずそう声に出していた。
 それだけ迫力があったのだ。

「ようこそ、交易都市フェーレニアへ。中へ入られる前に荷物の確認をさせていただきます」

 門番の男性が門を通ろうとした二人にそう声をかける。 
 そして簡単な荷物検査を行った後、二人が持っているアルタリア王国の勇者であることを記した身分証を確認したのだが……。

「変身スキルだって?」

 やはりと言うべきか、咲の変身スキルに反応を示すのだった。

「変身スキルと言えば外れの中の外れ、最弱スキルじゃないか。となるとあんた……外れ勇者か」

 咲が外れ勇者であることを知るやいなや、門番は咲への態度を露骨に悪くした。

「外れ勇者がこの街に何の用だ? 生憎だが、あんたみたいなのにやる仕事は無いぞ」

「ちょ、ちょっとなんですかその態度!」

 門番の態度が露骨に悪くなったことに憤る桜だったが、そんなことなどお構いなしに門番は続ける。

「あんたみたいな外れを呼び出すために俺たちは魔石を提供している訳じゃ無いんだ」

「魔石を提供……?」

「なんだ、知らないのか? 勇者の召喚には大量の魔力を必要とするんだ。だから大陸中から大量の魔石を集めて、やっと一回召喚魔法が使えるんだよ。けど魔石は日々の生活にも重要なもんだからな。勇者召喚を行う前後は魔石が流通しなくなって、平民の俺たちが苦しくなるって訳だ」

「……なるほどね」

 門番の男のその話を聞いた咲はどうして外れ勇者がこの世界でここまで嫌われているのかを知ることとなった。

 脅威と戦うためとは言え、多くの人々が色々な物を犠牲にして勇者を召喚しているのだ。
 それなのにいざ呼び出された勇者が外れ能力持ちだったらどうだろうか。
 少なくとも、生活が苦しくなった平民たちにヘイトを向けられても仕方がないだろう。

 しかし、咲は臆さずに口を開く。

「悪いけど、勝手に呼び出されてまでそんな扱いされる筋合いは無いよ」

「なんだと?」

 よく考えればわかることだが、勇者は勝手に呼び出されているだけであり、能力がどうであれそこに罪は無いのだ。
 要は王国の意向に逆らえない者たちによる逆恨みとも言える訳である。
 もちろんその者たちが完全に悪いと言う訳ではないものの、外れ勇者への扱いの悪さに加担していることには変わりは無かった。

「ま、まあまあ……落ち着いて咲ちゃん」

「桜がそう言うなら……」

 一触即発と言った雰囲気になった咲と門番だったが、桜が咲を止めたことでその場はひとまず落ち着いたのだった。

 その後、街に入った二人はまず宿屋へと向かうことにした。
 日も暮れ始めており、そろそろ今夜泊るところを見つけなければならなかったのである。
 しかし街について何もわからない二人はまず宿屋がどこにあるのかもわからずにいた。

「やぁ、そこのお二人さん」

 そんな二人に一人の獣人が声をかけた。

「あなたは?」

「オレか? オレはハーフウルフのアドルフだ。何やらお困りの用だから声をかけさせてもらったぜ」

 にかっと笑いながらアドルフはそう答えた。
 モフモフの体毛と犬っぽいその笑顔を見た桜は飼っていた犬を思い出したが、流石に獣人である彼にそれを言うのは失礼だと思い胸の中に押しとどめる。

「私たち宿屋を探しているんですけど、どこかいい所はないですか?」

「宿屋か……うん、それならいい所があるぜ。案内しよう」

 そう言うとアドルフは意気揚々と歩き始める。
 その後ろについて行く形で二人も歩き始めたのだった。

 その後、数分程歩いた頃だろうか。

「……二人共、止まって」

 何者かが自分たちを尾行していることに気付いた咲はアドルフと桜に止まるように言った。

「嬢ちゃん、一体どうしたってんだ?」

「しっ……。多分だけど、誰かに尾行されてる」

 咲は二人だけに聞こえるように囁き声でそう言う。

「なにっ!? 尾行だって!?」

 そんな咲の行動の意味を理解していないのか、尾行されていることに驚いたアドルフは大声でそう叫んだ。
 時と場合によってはぶん殴られてもおかしくないレベルのやらかしである。

「咲ちゃん、上!!」

 そしてその瞬間、建物の屋根にいた何者かが三人の前に飛び降りたのだった。
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