5 / 101
5 外れ勇者の運命
しおりを挟む
「……それ、どういう意味」
国王の視線に嫌悪感を抱きつつも咲は平静を装ってそう返す。
「なに、簡単なこと。この世界において外れスキルを持った勇者は嘲笑の的なんじゃ。まともな職に就くこともできんじゃろう。所詮は外れじゃからな」
国王は時折笑いながら、明らかに咲を煽っているような声色で続ける。
「過去にも外れ勇者の女が召喚されたことがあったが……冒険者や傭兵としてやっていくにも能力も適性も貧弱だったようでな。最終的には奴隷商に自らを売り、その後性奴隷として娼館に売り払われたと言う」
「……で、何が言いたいの?」
だから何だと言った様子でそう返す咲。
もちろん彼女だって何にも思っていない訳では無かった。性奴隷という存在自体は知っていたし、他人がそうなるのを良くは思っていない。
ましてや自分がそうなるのはまっぴら御免だと思っていた。
しかし今ここで感情を表にするのは悪手であると理解していたため、あえて何も感じていないかのように振舞ったのだ。
「まだわからんのか? 今どの道を選ぼうと、遅かれ早かれ其方もじきにそうなると言うことじゃ。まあ、我としては其方のような麗しい女が娼館に追加されるのも悪くは無いがの」
「何と言うか、悪趣味ね」
「むぅ……」
国王は咲の言葉と様子が想像していたものとは違ったのか、露骨に面白く無さそうな表情を浮かべた。
「こういう時、普通は懇願するものではないのかの~。何でもするから助けてくれ~とか、言う事聞くからそれだけは~とか、そういうやつを期待しておったのじゃが……はぁ、つまらん。もうよい、この外れ勇者をさっさと追放しろ」
「ま、待って!」
兵士が咲の腕を掴み部屋の外へ連れ出そうとしている時、桜がそれを呼び止めた。
「どうして咲ちゃんが追放されないといけないの……!? 強い能力が無くたってきっと何かできることが……」
「残念ながらそれは無い。能力の高さと勇者への適性で全てが決まる……そういうものなんじゃ」
「そんな……」
桜はその場に泣き崩れた。追放されそうな友人をどうにかして助けたいのに、今の自分にはどうすることも出来ない。そんな惨めな自分に、ただ泣くことしか出来なかった。
ただでさえ急に異世界に召喚され精神が参っているのだ。そこに追い打ちをかけるように友人の追放など、とうてい普通の女子高生が受け入れられるはずも無かった。
「あ、そうだ」
そんな中、佐上が再び口を開く。
「それじゃあ俺が咲ちゃんを保護する代わりに、桜ちゃんが俺の言う事を聞くってのは……んぁ?」
「……桜には手を出すな」
一瞬。そう、それはまさに一瞬の出来事だった。
佐上が軽はずみにそう言ったのとほぼ同時に、咲が彼の懐に潜り込んでいたのだ。
「な、なんだ今のは……! 確かにあの者の能力は外れスキルの変身のはずじゃったが!? あれではまるで『上級俊足』……いや、それ以上では無いか!」
まるで瞬間移動をしたかのような凄まじい移動速度。その場の誰もが咲の移動を目でとらえられなかった。
しかしそれはおかしいと国王は何より理解している。
所持している能力も勇者への適性も遥かに高いはずの者が、外れ勇者の移動を目で追えないなど決してあってはならないのだ。
だが現にそれは起こってしまった。
「お、おいどうなってんだ! なんで外れ勇者のお前にそんな動きができんだよ!?」
「もう一度言う。桜には手を出すな。わかった?」
「ふざけんなよ……誰に向かってモノ言ってんだお前!」
咲の態度が気に入らなかったのか佐上は拳を強く握り咲へと振り下ろす。
その時だった。
「なんだ、地震か?」
ズシン、ズシンと部屋が揺れ始めたのだ。
佐上もそれが気になるのか振り下ろしていた拳を止める。
「いや、地震にしては妙に規則的なような……。これ、もしかして足音じゃ……」
一人の生徒がそう言うように、その揺れは地震にしては規則的であった。
だが異変はそれだけでは終わらない。
「ねえ見て、外が……!」
それまで光が差し込んでいたはずの窓がまるでカーテンでもかけられたかのように突如として真っ黒になったのだ。
「これは……ぐぅっ、何事だ!!」
国王が何かを言おうとした瞬間、とてつもない轟音とともに部屋の天井が吹き飛んだ。
石造りの壁はガラガラと崩れ落ち、煌びやかな装飾が施されていた窓はガシャンと砕け散る。
そして天井の無くなった部屋の外にいたのは……一体の巨大な龍だった。
国王の視線に嫌悪感を抱きつつも咲は平静を装ってそう返す。
「なに、簡単なこと。この世界において外れスキルを持った勇者は嘲笑の的なんじゃ。まともな職に就くこともできんじゃろう。所詮は外れじゃからな」
国王は時折笑いながら、明らかに咲を煽っているような声色で続ける。
「過去にも外れ勇者の女が召喚されたことがあったが……冒険者や傭兵としてやっていくにも能力も適性も貧弱だったようでな。最終的には奴隷商に自らを売り、その後性奴隷として娼館に売り払われたと言う」
「……で、何が言いたいの?」
だから何だと言った様子でそう返す咲。
もちろん彼女だって何にも思っていない訳では無かった。性奴隷という存在自体は知っていたし、他人がそうなるのを良くは思っていない。
ましてや自分がそうなるのはまっぴら御免だと思っていた。
しかし今ここで感情を表にするのは悪手であると理解していたため、あえて何も感じていないかのように振舞ったのだ。
「まだわからんのか? 今どの道を選ぼうと、遅かれ早かれ其方もじきにそうなると言うことじゃ。まあ、我としては其方のような麗しい女が娼館に追加されるのも悪くは無いがの」
「何と言うか、悪趣味ね」
「むぅ……」
国王は咲の言葉と様子が想像していたものとは違ったのか、露骨に面白く無さそうな表情を浮かべた。
「こういう時、普通は懇願するものではないのかの~。何でもするから助けてくれ~とか、言う事聞くからそれだけは~とか、そういうやつを期待しておったのじゃが……はぁ、つまらん。もうよい、この外れ勇者をさっさと追放しろ」
「ま、待って!」
兵士が咲の腕を掴み部屋の外へ連れ出そうとしている時、桜がそれを呼び止めた。
「どうして咲ちゃんが追放されないといけないの……!? 強い能力が無くたってきっと何かできることが……」
「残念ながらそれは無い。能力の高さと勇者への適性で全てが決まる……そういうものなんじゃ」
「そんな……」
桜はその場に泣き崩れた。追放されそうな友人をどうにかして助けたいのに、今の自分にはどうすることも出来ない。そんな惨めな自分に、ただ泣くことしか出来なかった。
ただでさえ急に異世界に召喚され精神が参っているのだ。そこに追い打ちをかけるように友人の追放など、とうてい普通の女子高生が受け入れられるはずも無かった。
「あ、そうだ」
そんな中、佐上が再び口を開く。
「それじゃあ俺が咲ちゃんを保護する代わりに、桜ちゃんが俺の言う事を聞くってのは……んぁ?」
「……桜には手を出すな」
一瞬。そう、それはまさに一瞬の出来事だった。
佐上が軽はずみにそう言ったのとほぼ同時に、咲が彼の懐に潜り込んでいたのだ。
「な、なんだ今のは……! 確かにあの者の能力は外れスキルの変身のはずじゃったが!? あれではまるで『上級俊足』……いや、それ以上では無いか!」
まるで瞬間移動をしたかのような凄まじい移動速度。その場の誰もが咲の移動を目でとらえられなかった。
しかしそれはおかしいと国王は何より理解している。
所持している能力も勇者への適性も遥かに高いはずの者が、外れ勇者の移動を目で追えないなど決してあってはならないのだ。
だが現にそれは起こってしまった。
「お、おいどうなってんだ! なんで外れ勇者のお前にそんな動きができんだよ!?」
「もう一度言う。桜には手を出すな。わかった?」
「ふざけんなよ……誰に向かってモノ言ってんだお前!」
咲の態度が気に入らなかったのか佐上は拳を強く握り咲へと振り下ろす。
その時だった。
「なんだ、地震か?」
ズシン、ズシンと部屋が揺れ始めたのだ。
佐上もそれが気になるのか振り下ろしていた拳を止める。
「いや、地震にしては妙に規則的なような……。これ、もしかして足音じゃ……」
一人の生徒がそう言うように、その揺れは地震にしては規則的であった。
だが異変はそれだけでは終わらない。
「ねえ見て、外が……!」
それまで光が差し込んでいたはずの窓がまるでカーテンでもかけられたかのように突如として真っ黒になったのだ。
「これは……ぐぅっ、何事だ!!」
国王が何かを言おうとした瞬間、とてつもない轟音とともに部屋の天井が吹き飛んだ。
石造りの壁はガラガラと崩れ落ち、煌びやかな装飾が施されていた窓はガシャンと砕け散る。
そして天井の無くなった部屋の外にいたのは……一体の巨大な龍だった。
12
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説


ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる