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ウルトラマンと人形

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(もう、いい加減にしてよ)

  みちるはめちゃくそ腹が立っていた。

(ロータリーに戻って、珈琲とサンドウィッチでお腹が一杯になって、少しは落ちついたってのに、兎の奴ったら、かぐや姫の欠片を前にして、すでに1時間は泣いてるんだもん。それも、私たちが悪いみたいな愚痴をこぼしながら、さめざめと泣いちゃってさ。どうせ泣くなら、どばっと泣いて、さっさと諦めて欲しいわよ)

  みちるは兎から顔を背け、コンコースを行き交う人たちを眺めながら、その愚痴が終るのを待っていた。

「おいたわしゅうございます。このようなお姿になられてしまってたなんて。わたくし、天帝さまに顔向けができません。なんとしてでも、かぐや姫さまを元のお姿にお戻ししなければ。破滅ですぅ。天界の破滅ですぅぅぅ」

(もうずっと、この調子なんだもん)

 みちるは兎を睨んだ。

「ちょっと、兎。いい加減に泣き止んで、これがどうしてこうなったんか、ちゃんと説明しなさいよ。あんた、かぐや姫が玉だなんて一言も言わなかったじゃない。あたしは、女を一人捜し出せばいいと思ってたのよ」

  みちるはしびれをきらして怒鳴った。

「はぁ……」

  兎はハンカチで涙を拭くと、テーブルの上に置かれた欠片を見た。

「う……」

  見ると再び眼から大粒の涙を溢れさせ、さっきのセリフが繰り返されるのだった。

「ええい! やめんかぁ」

  みちるは両手でテーブルを叩いた。

「も……申しわけございません」

  兎はすんっと鼻をすすると、大きく息をついてうつむいた。

「天人さまは平静へいせい人の形をしておいでですが、真のお姿は汚れなく透明で瑠璃色の輝きをもつ、それはそれは美しい玉でございます」

「それは見りゃわかるわよ。これはぱっかりと割れた欠片だけどね」

 みちるは欠片に向かって、顎をしゃくった。

「うさぎさん、『ぱっかり』はひどいですぅぅぅぅ」

 兎が泣き崩れた。

「だって、ホントじゃない」

 みちるはぷいっと横を向いた。

 あれだけ苦労して見つけてきたのは、まだほんの一部分に過ぎないのだ。悔しくてはらわたが煮えくりかえっていた。

 が、ふっと閃いた。

「ぱっかり! と……割れてるんだからさぁ、かぐや姫は寿命が尽きたのよ、きっと。だからさぁ、もう止めようよ! このへんてこな旅」

 みちるは兎に愛想笑いをした。

「とんでもない。寿命が尽きたら塵となってしまいます」

  兎が大きく首を横に振って叫んだ。

「じゃあ、やっぱりかぐや姫は、欠片でも生きてるってわけだ」

 みちるはがっかりして呟いた。

「だろうな。だって彼女は泣いてるんだぜ」

  拓郎が欠片を指差して言った。

「ああ、そうだった。じゃあ、どうして人の形をとるのをやめて玉に戻って、ついでにぶっ壊れたのかしら?

「うさぎさん。もうちょっと優しい言い方してください。かぐや姫さまがおかわいそうです」

  兎が恨めしそうな眼で、みちるを睨んだ。

「どっちがかわいそうだと思ってんのよ。こんな面倒なことに巻き込んでおいてさ!」

  みちるはぷいっと横を向いた。

「どうして壊れたのか、お前にはわかるか?」

  拓郎が兎を見て言った。

「わかりません。時々へそを曲げた天人さまが、玉に戻ってしまうことがあると聞いたことはありますが、生きながらに壊れてしまうなんて、聞いたことがありません」

  兎は再び泣きだした。

「ええい。止めんか! あんたが泣いたって、状況は変わらないんだからね」

 みちるは再び怒鳴った。

「そういうこと。ところで兎、聞きたいことがあるんだよね」

 拓郎がテーブルに頬杖をついて、兎を見つめた。

「なんでしょうか?」

「異常食欲者の世界で、変な奴らに会った」

「変な奴ら?」

 兎はハンカチを鼻に当てて、すんっと鼻水をすすってから尋ねた。

「ああ。かぐや姫ちゃんを捕えようとしてるようだ」

「かぐや姫さまを? まさか」

 兎は信じられないという顔で叫んだ。

「いたんだよ。おそらく人間界から直接飛んだと思われる三人組だった。俺たちのように、超能力と呼ばれるものがあるらしい。天界から、かぐや姫ちゃんがいなくなったことを知ってた」

「そんな馬鹿な。人間が天界に来られるわけはありません。まさか、阿修羅の手の者? いや、阿修羅は天帝さまが押さえてるはず。それに、かぐや姫さまがいなくなったことを知る天人だって、ごく僅かなんですよ?」

 兎は独り言のように呟いた。

「まぁ、誰でもいいけどね」

 拓郎はぼんやりと視線をそらせて呟いた。

「これから先も、襲われる可能性があるんから、誰でもいいわけないわよ」

 みちるは慌てて叫んだ。

「そう? あいつら結構抜けてそうだもん。なんとかなるんじゃない? 駄目なら、かぐや姫ちゃんを渡せばいいんだし」

 拓郎は無責任に呟いた。

「それこそ冗談はやめてください。かぐや姫さまは、天界に戻っていただかなければなりません。そんなわけのわからない人間に渡してなるもんですか」

 兎が机に両手をつき、身を乗りだして叫んだ。

「で、どんな人でした?」

 兎はそのままみちるを見て続けた。

「あたしと同じくらいの年齢の男2人と、女1人。あれは、どう見ても人間だったわ」

 みちるの説明を聞いて、兎は両腕を組んで首を傾げた。

「普通の人間が、どうしてかぐや姫さまを必要とするんでしょう。あのお方は天人にはなくてはならない方ですが、人間には必要ないはず。女が混じっていたのでしょう? かぐや姫さまの美貌の虜になったというわけでもあるまいし。第一、どうしてかぐや姫さまのことを知ってるんです?」

「だから飛べるんだよ、彼らは」

 拓郎は、どうでもいいというような口調で言った。

「拓郎! その覇気はきのない喋り方やめない? ことは重大なのよ。かぐや姫を渡してなるもんですか」

 みちるはりきんで言った。

「そう? なんとかなるよ。どうせかぐや姫はまだ欠片なんだし」

「欠片だと知られるわけにはいかないのよ! ついでに、私たちがこれを持ってることも、知られるわけにはいかないんだから」

「どうしてさ?」

 拓郎は大きな欠伸をした。

「あの女の子。『恵利』って言ったっけ? 彼女に欠片を捕られたら、これを元に、他の欠片すべてを見つけだすわよ」

「あっ、そうか。おまえって頭いいじゃん。じゃあさぁ、この欠片はあげちゃって、彼らに見つけてもらうってのはどうだ? 兎」

 拓郎は両腕を万歳状態でテーブルに投げ出すと、ついでにあごもテーブルに載せて、真ん中あたりまで這ってきていた兎を見た。

「拓郎……。そのだらしのない格好はやめてよ」

 みちるは大きな溜息をついた。

「それはだめです。兎であるあなた方が探すのが使命でしょう? そんな怪しげな人たちに、大切なかぐや姫さまを捜させて、何かとんでもないことが起きたら、どうしてくれるんですか!」

 兎は眼の前で自分を見つめている拓郎を睨んだ。

「その『使命』ってやつは気に入らないけど、あたしも兎の意見に賛成する。赤い眼が戻らなかったらやだもん。それに、奴らにかぐや姫を渡して、天界に何か起こったら責任取れんの?」

 みちるはきっぱりと言った。

「おまえって、しっかりしてんなぁ……」

 拓郎の眼は、何か別のものを見ているような感じだった。

「拓郎、自分がすることに、ちゃんと責任持って生きてんの?」

 みちるは思わず言ってしまった。

「う―――ん。それって面倒くさい。何となく生きてるのが気楽でいいんだぁ」

 みちるを見つめた拓郎の眼が、作り物のようになった。

「うさぎはさ、ウルトラマンみたいだな」

 拓郎は身体を起こすと、気を取り直したように言った。

「あたしのどこがウルトラマンなのよ!」

 みちるは憮然とした。

「ウルトラマンが、ミニチュアの街を蹴散らしながら戦う姿にそっくりなんだもん」

 みちるはウルトラマンが、いとも簡単に街を踏み潰し、「シュワッチッ!」とか言いながら、ウルトラビームで破壊しながら進む映像を思いだして、完全に頭に来た。

「どうせ、あたしはウルトラマンよ。そうよ、人生は戦いよ。ずんずんと何もかも蹴散らして生きてるわよ。けどね、あたしがウルトラマンだったら、拓郎はただの人形よ!」

 みちるはまたもや、完全にブチ切れてしまった。

「生きるのが面倒くさい? そんな奴! 息するだけ、地球上の貴重な酸素の無駄遣いよ! CO2も輩出するな! 地球温暖化が加速する! 流れに逆らって、せめてひとかきしようと思わないの?」

「ひとかき? そのひとかきの仕方がわからないんだよね~」

 みちるがこんなに怒っているのに、それすら理解していないようだった。

「わかった。お兄さん。あたしが教えてやろうじゃない」

 みちるは威勢よく立ち上がると、拓郎の腕を掴んだ。

「行くわよ。かぐや姫を捜す。それに命をかけてよ。さっき六条院たちから逃げ切ったじゃない。あれで十分にひとかきよ。自分から何かをする。そのくらいのことしてみなさいよ」

 みちるは拓郎の腕を掴んだまま、コンコースに向かってずんずんと歩いて行った。

「早くかぐや姫を見つけて、こんな面倒なことちゃちゃっと済ませて、元の自分を取り戻すのよ!」

 みちるは顔の前でこぶしを握りしめた。

「やっぱり、ウルトラマンだ」

 拓郎はおもしろそうに、みちるを見つめて笑った。

「悪かったわね。眼のためでなかったら、誰がこんな面倒なこと引き受けるか! やけくそよ。どうせあたしの人生は戦いよ」

 拓郎は片手に兎を抱え、空いた手でみちるの肩に手をかけた。

「けれどおまえはすごい奴だ。うん、それだけは言える。おまえはまだ、生きることを放棄してない」

 みちるを見つめる拓郎の眼が、底なし沼のようだと思った。しかしみちるは、その眼をあえて睨みつけた。

「死ぬ勇気があったら、何だってできるわよ。拓郎にだって、そのくらいのエネルギーはあるはずよ」

「使い果たしちゃったのかもな」

 拓郎は眉をハの字に下げて寂しく笑うと、みちるの頭をぽんぽんと叩いた。

「さあ、今度はどこかな。うさぎ、またおまえが選ぶか?」

「今度は拓郎が選んで」

「いいのか? 変な所でも怒らない?」

 拓郎がちょっと驚いたような表情で言った。

「うん。どうせろくな所じゃないのよ。そんな気がしない?」

 みちるはやるせない思いで言った。

「わからないよ。俺にとっては、俺たちの世界だって、そんなに良い所には思えないもん」

 拓郎は言いながら扉の前に立ち、ボタンを押した。

「確かに異常食欲者の世界は変だったわ。あそこは、もっのすごくわかりやすかった」

「食うことしか考えてなかったもんな」

「そう。しかも、誰か一人でも満足してた人いた?」

「あ……」

 拓郎の声を、みちるは気づいたと勘違いした。

「そういうこと! あそこはね、逃げ道が一つもない世界だったの!」

 みちるは拓郎を睨んだ。

「ごめん」

 拓郎が切符を見ながら、ぼそりと呟いた。

「わかればいいのよ。まぁ、拓郎の言うとおり、私たちの世界には、考えなくちゃいけないことがたくさんあるから? 放棄したくもなるわよ」

「いや、そうじゃなくて、この切符……」

「え?」

「どうも、俺たちの世界ではないところの切符が出たみたい」

「どこよ?」

 みちるの問いに、拓郎が困ったような表情をした。

「張り倒さない?」

「拓郎に『ボタンを押して』と言ったのはあたしよ。張り倒さないわよ。さっきの六条院じゃないけど、あたしの力も実戦級だから、まともに食らったら死ぬわよ」

「げっ? うさぎの力って、そんなに凄かったの?」

「試したことはないけどね。暴走したら怖いから、そこまで自分を追い詰めないようにしてるわ」

「あー、良かった。じゃあ、危なくなったら守ってね?」

 最後は甘えたような声だった。

「気持悪い。で、どこよ」

 みちるは嫌な予感がして、顔をしかめながら再び尋ねた。

「じゃーん。発表しまぁす。『生か死か。それはあなたの力次第駅』でぇーす」

「死」という言葉を聞いた瞬間、みちるは拓郎の足を踏んでいた。

「痛てぇ」

「なんて所を引くのよ!」

「怒らないって、言ったじゃんか」

「張り倒すわよ」

「しないって言った」

 拓郎の言葉にみちるはぐっと詰まった。

「というわけで、行こうぜ」

 拓郎がみちるの肩を押した。

「しょうがないわね。でも、自分の身は自分で守ってよね。あたしに守ってもらおうなんて、あさましいこと、考えないでちょうだい」

「うそ。俺、期待してるんだから」

「恥ずかしくないの? その根性?」

「ない。俺、痛いの嫌い」

「死んでるみたいな奴が、何を言う」

「あっ、俺って人形だったっけ」

 拓郎は否定も肯定もしていない口調で言いながら笑った。

 これでは、誰のことを言っているのかわからないと、みちるは思った。

「それでも、痛いのはやだなぁ。ま、俺だって一応生きてるわけだし、痛い思いするくらいなら、年下の女の子に守ってもらっても恥ずかしくない。それに、強い奴が弱い者を守るのは当然だろ?」

「お言葉ですがぁ」

 突然、兎が間の抜けた声を発した。

「何よ? あ、そうだ。あんたなんか、絶対に守ってやんないからね。拓郎に頼みなさいよ」

 みちるは拓郎の腕の中に収まっている兎を睨んで言った。

「ご心配なく。私は拓郎さんの鞄の中で、かぐや姫さまと一緒にぬいぐるみしてますから」

「あんた、また自分だけ楽しようって言うの?」

 みちるは兎の耳を握り締め、拓郎の腕から取り上げた。

「止めてください。かんむりが壊れます」

「なによ、偉そうな格好して。これでぬいぐるみになって、自分だけ楽しようってのが、気に入らないのよ。大体あんたが一番悪いんだからね。頼みもしないのに、こんな面倒なことに、私たちを引きずり込んで」

 まくしたてて、怒りを兎にぶつけてやったのに、当の兎が微動だにしない。

 みちるは完全にブチ切れた。

「な・ん・で、ぬ・い・ぐ・る・み・に・な・る・の・よ!」

 みちるは耳をもつたまま、兎をぶんぶんと振り回した。

「止めろよ、うさぎ」

 拓郎が、みちるの手から兎を取り上げた。

「私にはぬいぐるみになる必要があるんです!」

 拓郎の手の中で、ぬいぐるみが兎に戻って叫んだ。

「あんた、ど――――――してあたしが掴むと、ぬいぐるみになんのよ!」

「うさぎさん、怖いんですもの」

 兎が上目遣いにみちるを見た。

「あんたが、怖くしてるんでしょ!」

 みちるも負けずに睨み返した。

「俺さ」

 拓郎が、突然みちるの肩に手を置いた。

「何よ?」

「天帝がどうして俺を選んだか、わかるような気がする」

「どうしてよ?」

 みちるは拓郎を睨んだ。

「おまえと兎だけだと、どうして自分を引きずり込んだかって所で喧嘩してて、ちっとも話が進展しないのな。確か兎は、『お言葉ですが』って言ったんだぜ。なんか、反論することがあったんじゃないかな? と、俺は思うんだけど、そこにたどり着けずに、おまえら、すぐ喧嘩に突入するんだもん」

 みちるはすっとぼけの拓郎に言われて、自分が情けなくなってきた。

「悪かったわよ」

 彼女は謝りつつも、もう一言くらい兎に言ってやりたかった。

「で、兎は何を言いたかったんだ?」

「拓郎さんが、『強いものは弱いものを守るのが当然』と言いましたでしょう? それは、『生か死か、それはあなたの力次第』では、通用しないんです。強いものが勝つというところなんです。だから私のように弱いものの象徴である兎は、真っ先に殺されてしまうでしょう。だから『ぬいぐるみになって隠れてます』と、言いたかったんです」

「なんか、凄いところみたいね」

 みちるは顔をしかめた。

「大丈夫です。あなた方は人間ですから、誰が見たって、旅行者にしか見えません。万が一に備えて、旅行者には武器も売ってます」

「な、俺が仲裁にはいると、これだけ話が進展するだろう?」

 拓郎が得意そうに言った。

「はいはい」

 みちるは軽く受け流した。

(このお兄さん、大丈夫だろうか? 単に不安材料が増しただけのことだと思うんだけれど。だってそうでしょう? 兎が兎のままでいたら殺されるところよ? 旅行者は武器をもたなければいけないのよ? 自慢じゃないけど、いくら『念動力』があっても、血を見るような戦いはしたことないわよ。それを、ナイフだぁ~、銃だぁ~ってものを突然持たされて、それを使わなければならない状況におちいる可能性が十分ある所に行くのよ?)

「うさぎ、何してんの? 電車が来たよ」

 拓郎がみちるを車内に引きずり込んだ。

「ねぇ、何にも考えてないでしょ?」

 みちるは拓郎を見上げて、呆れたように言った。

「最低限のことは考えてるさ。でも、あれこれ考えるのって面倒くさい」

「じゃあ、何でこんな面倒なことを、やってんのよ」

「決まってるじゃん。何も考えてないからさ」

(さいざんすか)

 みちるはがっくりとうなだれた。

(拓郎って奴は、一体何を考えてるんだろうか? 脳天気に見えるのに、突然世捨て人のような表情をする。でも、こういう人ほど、自分のことは話したがらない気がするわ)

 みちるは大きな溜息をついた。

(考えたいことはたくさんある。なのにどれも簡単に答えが出ない。でも、拓郎のように、考えることを止めるなんて、自分を放棄するようでできない!)

 みちるはこぶしを強く握った。強い逆風の中に立ち、風上に向かって歩こうとしているようなものだと思った。

(そうよ。なんとしてでも、この強い逆風は突破しなければいけない。あたしは絶対に負けない!)

 みちるは天井を睨んだ。

「お、やっと復活しましたね。いつ復活するかと思って時間を計ってたんだ。ぴったり5分。さっきの喧嘩が3分だったから、1人で哲学しているほうが、長く時間を浪費するんだな」

 みちるは拓郎を見つめた。

「何だよ」

 拓郎は不思議そうな眼をして小首を傾げた。

「なんでもない」

 みちるはうつむいた。

「おい、うさぎ、外を見ろよ。この電車、海の上を走ってる」

「まさか?」

 みちるは驚いて外を見た。

「うっそぉ――――――。やだ、やだ! やだぁ――――――! 本当に海の上だわ。見て、拓郎。橋とかじゃないのね。レールが海の上に直接設置されてるわ。海の中から『にょきにょき――――――』って伸びてるみたい。ぐらっときたら、私たち落ちちゃいそうよ」

「おまえ、恐ろしいこと言っている割には、嬉しそうに聞こえるぞ」

「だって、すごく奇麗なんだもん。今度行く所って、とても奇麗な南の島かもしれないわね。ああ、きっとそうよ。でさ、ジャングルかなんかがあんのよ。だから、旅行者には猛獣対策用に、武器を売ってるんだわ」

 みちるは一人で決めつけて喜んでいた。

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