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Scene 7

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 冬になった。

 3年生は、受験勉強も追い込みとなり、当然部活は終了。2人が出会う機会も少なくなった。

 1月、高校を決めるための3者懇談が行われた。N県の高校入試は一発勝負だった。

 他県のように、滑り止め制度はなく、全高校が同じ日に受験を行う。そのため、希望校の選定は慎重に行わないといけない。 

 万が一落ちたら、とてつもなくレベルが低い、定員割れの高校へ進学するか、中学浪人をするしかない。

 模試を受けて希望校への合格率を測ったりもする。

 真美の第一希望は、N西女子高校だった。

 県立女子校ではN市学区第一位の有名校だ。次が私立女子学院。

 このどちらか決めかねていた。共学のY高校も選択肢にあったが、親が反対していた。

 模試の結果で言えば、N西女子高だったら中程度の学力レベルで合格。女学院だったら、トップテン内での合格予想が出ていた。

 このどちらか決めかねていた。

 真美が母親とともに教員室に入ろうとしたら、渡辺も父親とともにやってきた。
 


(どきっ! 

     えっ? 

           時間が一緒だったの?) 



 久しぶりに見た渡辺に、真美は口から心臓が飛び出すかと思った。 


(どきっ! 

     えっ? 

           氏家さんと同じ時間?) 



 渡辺も、真っ直ぐに真美を見た。


(しかし……、

       ……今さら……、

                  だよね……)



 ふたりは思った。



(渡辺君ってお父さんにそっくり。

      美男子の遺伝子は、お父さん譲りだったんだ。

            きっと40代になったら、

                  こういう顔になるんだろうな……)



 真美は絶対に見ることのない、40代になった渡辺を想像した。



(氏家さんって、

    お兄さんとも似てなかったけれど、

          お母さんとも全然似てないんだな。

                   彼女だけ西洋人みたいだもん。

もしかしたら、

          お父さんが西洋人なのかもしれない……)



 何気に担任の席を見たところで、ふたりは固まってしまった。

 通路を挟んで、背中合わせだったのだ。


 
(わ……

       渡辺君の話が、

              聞こえるんじゃないの?) 



(う……

       氏家さんの話が、

              聞こえるんじゃないのか?)



 ふたりとも、背中に大きな耳ができてしまった。
 
 お互い、それが分かっていたが、逃げ出すことはできない。

 内情を全て聞かれてしまうと覚悟した。


「N高校だったら、真ん中あたりの学力で受かる可能性がありますね。確実なのはY高校ですが……」 

 10組の担任が声を発した。N高校は、N市学区ではトップレベルの高校だ。


(渡辺君。

     N高校志望か。

           頭、いいんだ。でも……。

                  私と同じ状況なんだな。

合格に賭けるか、

       レベルを落とすか話している。

                   Y高校だったら……)



 真美は、両親の反対を押し切ってでも、Y校を受験しようと思った。 


(氏家さん。     
     
     僕と同じなんだ。

             N西女子高にするか女学院にするか、

                          迷っているんだ)



「どうしますか? レベルを落として確実を狙うか、それとも挑戦するか」 

 ふたりの教員が同じ言葉を発した。

「N高校に挑戦します」 

 渡辺の声がした。 


(そ……っか……。

       挑戦するんだ。

            N高校は私の家から一番近いな。

                  でも、N高校へ行かれるほどの学力は、

 私にはない。

          私も、N西女子高に挑戦しよう) 



「N西女子高を受験します」 

 真美も、渡辺に聞こえる声を発した。

 これでもう、ふたりは絶対に、同じ学校へは進学しない。

 中学を卒業したら、会うこともないだろう。



(それでいい……。

        『とくんっ……』とは……、

                  ……さよならだ……)



 高校受験が終わって一週間後、合格発表を待つ間、3年生は映画を見に行った。とても古い映画だった。

「小さな恋のメロディ」

 日本で言うところの、中学生の男の子と女の子の甘酸っぱい初恋のお話だった。

 多くのクラスメイトに冷やかされたり、お互いに意識しながらも、冷たい態度をとったり……。 


 男の子役のマーク・レスターは、金髪巻き毛のきれいな顔立ちだった。

 女の子役のトレーシー・ハイドは、ちょっとませた雰囲気だった。

 真美は漠然と、線が細くてきれいな顔立ちの渡辺とマーク・レスターが重なった。

 ラスト・シーン。二人は友人たち立ち合いの元、野原で結婚式を挙げる。

 それを阻止しようと大人たちが駆けつけるのだが、友人たちの妨害に遭いふたりに近づけない。

 ふたりはトロッコのこぎ棒をギッタンバッコンとシーソーのように押して、廃坑へと逃げていく。

 真美たちふたりと同年代の少年少女の淡い初恋物語だった。


(さようなら……)



 見終わった真美は、お互い好きだったのに、結局はどちらからも言い出せなかった、渡辺と自分に別れを告げた。 

 卒業式のあと、ふたりはお互いを探した。

 でも……、12組もあるマンモス校だ。見つけることはできなかった……。

 ふたりはそれぞれ志望校に受かっていた。 



(もう、二度と会えないだろうな……) 



 渡辺は、校門を振り返った。

 真美も同じように校門を見つめていた。

 ふたりとも背中にすっとカッターが滑ったような気がした。 



(渡辺君が切り離された?)



(氏家さんが切り離された?)



……何となく……。

             ……そう思った……。 


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