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Scene 6

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 やがて10月になった。

 体育祭が近づき、校内がにぎわっていた。

 100メートル走や棒倒し・綱引き。そして〆は、恒例行事フォークダンス……。

 時計と逆回りに、男子生徒と踊っていた真美は、時計回りにきている渡辺の姿を見つけた。


(とくん……)



渡辺が、近づいてきた真美を見つけた。



(とくん……。

     わくっ! 

         わくっ!  

              あせっ! 

                   どきっ! 

                         やばっ! 

                            は……恥ずっ! 

心臓の音、聴こえちゃったりして…… 。

                 でも……。

                     ……確実に……

                          一緒に踊れる……)



 ふたりとも全く同じことを考えていた。


(手をつなぐ。

       肩を抱く。

             くるっとターンさせる。

                       氏家さんを僕の腕の中で……)



(手をつなぐ。

      肩を抱かれる。

            くるっとターンする。

                       渡辺君の腕の中で……)



(きっと……、

       最初で最後だ……)



 ふたりとも、これだけは確信していた。


(だって、絶対に話しかけられない……。

               ……勇気がない……。

                     『好きです』って言えない……)



 あとふたりというところで、彼らの心臓は爆発寸前だった。


(ばっくん! 

        ばっくん! 

                 ばっくん!)



(ああ、初めて握る手……。

          柔らかいのかな? 

                     温かいのかな?)



(抱いた肩は小さいのかな?)



(抱かれた胸は広いのかな?)



 ふたりは、無表情のままお互いの手を取った。完全に、頭の中は真っ白気だった。



(えっ……と……。

          えっ……と……)



 気がついたら、手を離していた。


(有りかぁぁぁぁぁ――――!)



 フォークダンスが終わった後、ふたりは別々の場所で、同じことを考えて頭を抱えていた。



(な~ぁんにも……。

         覚えていない……。

               えっと……。

                     えっと……。

どんな顔していたっけ? 

               どんな手のひらだったっけ?)



(肩……。抱かれたよね)



(肩……。抱いたよな)



(覚えていなぁぁぁぁ―――い!)



 こうして、彼らふたりが接触する機会は、見事、無記憶の状態で失われた。

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