「ラブ・ストーリー」にならなかった「ラブ・ストーリー」

中学生の時の「初恋」。階段の上から、突然足元に降ってきた男の子。彼を見下ろした氏家真美と落ちてきた渡辺裕也は、お互いに「初恋」をした。けれどお互いに「好きだ」とは言えなかった。けれど、二人は何度も何度も、その人生が交わる機会があったが、告白する勇気にはつながらず、ただ見ているだけだった。中学を卒業し、高校時代にも出会う機会があったが、やはり二人とも何も言えなかった。
最後に、会う機会があったのは23歳の時だったが、真美は「今更、何を語ればいいのか?」と、その機会を自分から切ってしまった。
その後の二人は人生が交わることがなかった。
それから30年が経った。真美は、渡辺の姿を夢で見ることが多くなったので、彼と同じ高校へ進んだ友人に彼の消息を探してもらったが、実家の住所までしかたどれなかった。
彼女には、一人娘がいた。渡辺と人生が交わっていたら、この子は生まれてなかった。
結局二人は、何度も機会があったが、けっして人生が交わる運命ではなかったのだと思った。
思い出は年を追うごとに冴えて冷えわたり、美しく凍結し続けてくのだった。
「ラブ・ストーリー」にならなかった「ラブ・ストーリー」を真美と渡辺は、中学時代共有していたのだった。
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