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まだまだ現役

第82話 和代、フライング

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 ー ハーイム ー

 ハーイムの入り口に辿り着いた美咲と和代は、ビッグスクーターから降りて町の中を覗いてみた。

 するとなんと、前からNPCの町人が走って来た。

「うわー、助けてくれー海賊だー」

「ひゃっはー! この町のお宝はオレたちがもらったぜー!」

 それを見た美咲は慌てて和代に言った。

「おばあちゃん大変! メインクエスト始まっちゃった!!」

「ええ!?」

「ごめん、おばあちゃん。お友達と行く予定だったのに……」

「いいのよ、予行練習ね! みんなには内緒でね。うふふ」

 すると美咲は嬉しそうに和代に言った。

「じゃあ、せっかくだから軍神零式を使ってみようよ。下に軍神零式の枠が増えてない?」

「え、ええ。あったわ」

「それをタッチすると召喚準備ができるから」

「これね」

 和代の視界の下には新しい枠が増えていて「軍神零式」と書いてあった。

 和代は「軍神零式」をタッチすると「選択中」になり、下の文書が変わったので記憶した。

 ……機械の魔力を手に入れし者よ、我はその力を従わせる者。その激しい力の根源に命を下す。その絶大なる力を今見せよ……

「ちょっと長いけど大丈夫そうね……。美咲ちゃん、準備できたわ!」

「よし、じゃあ行こう」

 美咲と和代は海賊が荒らし回っているハーイムに入っていった。


 ハーイムに入ると早速3人の海賊がやってきた。

「おばあちゃん、軍神零式を召喚して!」

「はい! 機械の魔力を手に入れし者よ、我はその力を従わせる者。その激しい力の根源に命を下す。その絶大なる力を今見せよ」

「ウォォォオオオオ!」

 ゴゴゴゴゴゴ

 すると軍神零式が地面の魔法陣から浮かび上がってきた。

 和代は海賊の1人を選択すると、軍神零式は一直線に海賊に向かってゆき、斧を振り下ろした。

 ドガン!!

「うわぁああ!」

 海賊は一瞬で消滅し、それを見た和代は他の海賊を選択した。

 軍神零式は背中のジェットエンジンを点火させると一気に海賊に突っ込み、そのまま壁へと叩きつけた。

「うわぁああ!」

 海賊が消滅すると、後ろで美咲が最後の一人を倒していた。

「美咲ちゃん! 軍神さん、とっても強いわね!」

「おばあちゃんも上手く選択できてるよ!」

「そ、そうかしら」

 和代が嬉しそうにすると、NPCの町人がやってきて美咲と和代にお礼を言った。

「ありがとうございます! お守り頂いたお礼に、ぜひ伝説の宝玉を見ていってください」

 それを聞いた美咲は和代に言った。

「また敵が来るから、軍神零式は出したままにしておいてね」

「わかったわ」

 NPCの町人は2人を村の中心の大きな宝物庫へ案内して、扉を開けた。

「はっはっはー! 我こそは世界の海を股にかける海賊の中の海賊、ゴンゴビだ! この宝玉はもらったぞ!」

 和代は即座にゴンゴビを選択した。

「ウォォオオオ!」

 軍神零式はジェットエンジンを点火して一直線に突っ込むと、ゴンゴビは猛毒の霧を吐いた。

「おばあちゃん離れて! 毒!」

「はい!」

 和代と美咲は即座に離れたが、軍神零式には猛毒が全く効かず、ゴンゴビは軍神零式のタックルを正面から食らった。

「ぐわ!」

 ドゴォォオオオ!

 そして軍神零式はゴンゴビに突っ込んだまま宝物庫の壁に穴を開けて外に飛び出し、そのままジェットエンジンを点火して町の奥まで飛んでいった。

 ゴォォオオオオ!

「うわぁーーーーーー」

「あらあら、軍神さん! どこまで行くのかしら!」

 美咲と和代が軍神零式を追いかけて走っていると、遠くに宝玉が転がっているのを見つけた。

『15ポイントのステータスポイントを獲得しました』

『メインクエスト 第ニ章 完』

「おばあちゃん、軍神零式が倒したみたい。ははは」

「あらあら、本当ね。うふふ」

 こうしてメインクエストをクリアした2人は、軍神零式を呼び戻してピンデチに向かった。


 その頃、シャームのスマイル道具店2号店では、ナミが採集してきた毒虫と痺れ虫をマユが買ってきた虫かごに入れていた。

 ナミは優しく虫たちを掴むと、砂漠の砂が敷き詰められた虫かごへ移していった。

「毒虫さん、痺れ虫さん、こちらへどぅぞ」

 ナミは丁寧に虫たちを虫かごに移すと、虫たちは嬉しそうに砂漠の砂を食べ始めた。

 その様子を見ていた黒猫は不思議に思ってナミに尋ねた。

「ナミ殿。その虫たちはどうやって手に入れたのでしょうか。通常、毒虫や痺れ虫はプレイヤーを怖がって隠れてしまうはず……」

 するとナミは不思議そうな表情で黒猫に答えた。

「手を出してジッとしてたら寄ってくる。みんなカワイィ」

 しかしそれを聞いたメイは驚いて両手をギュッと握りながら言った。

「え、ちょ、まじで? わたしムリかも。ナミ、すごいね!」

「ぇ? そうかな」

 ナミはそう言いながら毒虫の頭を優しく撫でると、毒虫は嬉しそうにした。

 それを見た黒猫は感心した様子でナミに言った。

「ナミ殿は滅多に現れない素質をお持ちのプレイヤー様かもしれません」

 しかしナミは「?」な表情をした。

 黒猫はナミの表情を見ると真剣な声色で説明を始めた。

「この世界には、ほんの一握りのプレイヤーの方が虫や動物、さらにはモンスターまで味方にしてしまう素質を持っています。ナミ殿はその素質があるように思えます」

 ナミは黒猫の言っている意味が分からなかったが黒猫に尋ねた。

「じゃあモンスターを味方にしたら、モンスターみんなと仲良しになる?」

「仲良し……。申し訳ございませんナミ殿。みんな仲良しになるのは難しいかもしれません」

「なんで?」

「……ええと」

 黒猫が返答に困ると、メイがナミに言った。

「ナミの言ってる事は分かるんだけどさぁ、モンスターたちも嫌いなモンスターがいるんじゃない?」

 それを聞いたナミは納得してマユに言った。

「ぁ、そうか。人間と一緒」

「そうそう。わたしたちだって、クラスの気が合わないコたちは嫌いじゃないけど、一緒には遊びに行かないじゃん?」

「ぅん」

「でも学校の行事があったら協力するよね?」

「ぅん」

「だから、きっとモンスターたちの相性も複雑なんじゃない?」

「ぅん。そっか、わかった。ぁりがとぅ、メイ」

 黒猫はメイの発言を聞くと、驚きながら言った。

「メイ殿、その通りです。素晴らしい」

 すると、メイは驚いて答えた。

「え、素晴らしいの? ってか、わたし思った事を言っただけなんだけど」

「いえ、我にはそのような発想がありませんでした。メイ殿、大変感謝いたします」

 それを聞いたメイは不安そうに答えた。

「え? えっと、感謝されて良いのかなぁ。わたし感謝されるような人じゃないけど。ははは」

 おばあさんはメイの言葉を聞くと笑顔でメイに言った。

「メイさん、わたしはいつもメイさんに感謝していますよ。こんなに楽しくゲームができるのも、みなさんのお陰。メイさんが居てくれなくては困るわよ」

「え? わたしだって洋子ちゃんに感謝してるよ。洋子ちゃんが居なくなったらヤだよ」

 そのやり取りを聞いていた黒猫は薄っすら目に涙を浮かべると、決意を新たにしておばあさんに言った。

「洋子殿。洋子殿は素晴らしいご友人をお持ちでいらっしゃる。我はこの身が滅びようとも、洋子殿とご友人をお守りいたしたいと決意が固まりました」

 それを聞いたおばあさんは思わず黒猫に言った。

「猫ちゃん、ありがとう。でも、猫ちゃんも滅びちゃダメよ。会えなくなっちゃうわ」

「……そうですね。実は我ら眷属は消滅しても体は復活するのですが……、主人と過ごした記憶は消されてしまいます……」

 すると、それを聞いたおばあさんは優しく黒猫を撫でながら言った。

「猫ちゃん。あなたは本当に大切なの。一緒に過ごした記憶が無くなっちゃったら悲しいじゃない。絶対に居なくならないでちょうだいね」

 黒猫はその言葉を聞くと、感じた事の無いような感情を感じた。
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