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あの日の記憶

第27話 ひろし、外国人に戸惑う

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 おじいさんとおばあさんは昼食を終えて一緒に食器を洗うと、居間に行ってVRグラスを用意した。

「おばあさん、キノコ集めがんばってな」

「ええ。おじいさんも気を付けて」

 2人は一緒にゲームの世界へ入った。


 おじいさんは時計台からG区画の家へ向かおうとすると、柔和な笑顔の武闘家らしき人が話しかけてきた。

「สวัสดีครับ コンニチハ。Thai language or English ok?」

「あぁ、ハ、ハロウ!」

 おじいさんは外国人に驚いた。

「あ、イリューシュさんなら! 一緒に来てください。英語が得意な人がいます。ツギャザー、ツギャザー!」

「Thank you. アリガトウ」

 武闘家はおじいさんの後についていった。


 おじいさんはG区画の家に着いて中へ入ると、みんなはバンド練習をしていた。

「こんにちは!」

「あ、じぃちゃん!」
「こんにちは、おじいちゃん!」
「ひろしさん、こんにちは」

 みんなはおじいさんに気づいて一旦手を止めると、おじいさんはイリューシュに事情を話した。

「あの、イリューシュさん。英語を話す方がいらっしゃって……」

「あ、通訳ですね。どちらですか?」

「この方です」

 おじいさんは家の外にいる武闘家を紹介すると、イリューシュは驚いた。

「あら、タマシリさん! It’s been a long time! (お久しぶり!)」

「Ahh, Illush! Long time no see! (あぁ、イリューシュ久しぶり!)」

 イリューシュは暫く楽しそうに会話すると、タマシリを家の中に招き入れ、みんなにタマシリを紹介した。

「みなさん、この方は武闘家のタマシリさんです。タイの方で、前のチームのメンバーさんなんです」

「おー、よろしくな! ハローハロー」

 アカネがそう言うとタマシリは両手を合わせて笑顔で頭を下げた、するとめぐも続けた。

「あ、えっと、サワディカー」

 それを聞いたタマシリはとても喜んで、両手を合わせて優しい笑顔で答えた。

「สวัสดีครับ」

「めぐ、何それ?」

 アカネがめぐに尋ねると、めぐは手を合わせて答えた。

「タイ語の挨拶だよ。サワディカー」

 するとアカネも両手を合わせて挨拶した。

「サワディカー」

「สวัสดีครับ」

 タマシリは優しい笑顔で答えた。

 タマシリは手を前に出して何か操作すると、イリューシュは驚いて声をあげた。

「Oh, Pukuna. you remembered it. (あ、プクナ。覚えていたのですね)」

「Yes. It was so helpful at that time.(はい、あの時は助かりました)」

「ふふふ。I'm glad I could help you out.(お役に立てたなら嬉しいです)」

 タマシリはイリューシュに両手を合わせて頭を下げた。イリューシュも頭を下げるとタマシリに尋ねた。

「Are you leaving now?(もう行くのですか?)」

「Yeah, I should buy some flowers for my wife. (うん、奥さんに花を買わないと)」

 するとタマシリからフレンド申請が届きイリューシュは笑顔でお礼をした。

「Thank you. Please say hello to your wife.(ありがとう。奥さんに宜しく)」

「Okay. Have a nice day.(はい。では、良い一日を)」

 タマシリは笑顔でみんなに手を振ると村へ花を買いに行った。


 タマシリが帰るとアカネは腕を組みながら言った。

「いい笑顔だなぁ、あの人。武闘家な感じがしないよ」

 それを聞いたイリューシュはアカネにタマシリの素性すじょうを教えた。

「タマシリさんは現実世界でムエタイの有名選手だったんですよ」

「ええ!? まじで」

「でも事故で足を失ってしまって、いまは奥さんと一緒にゲームの世界を楽しんでるんです」

「そうか……。あの人すごいな。もしあたしが足無くなったら笑ってられないな」

「ええ。あの人はいつも優しく笑っていて、前のチームで唯一信用出来る人だったんですよ」

「へぇぇ、すごいなぁ……、てか唯一信用出来るって、前のチーム、なんかヤバそうっすね」

「え、ええ。そうですね。わたし辞めましたからね」

「「ははははは」」

 みんなは笑い合うと、明日のオーディションに向けてバンド練習を始めた。


 その頃、おばあさんたちはピンデチ近くの荒野にいた。

「洋子ちゃん、岩キノコ60個以上集まったよ」

「あら、もうそんなに! それなら、そろそろ帰りましょ」

 おばあさんはアルマジロたちに1個ずつ岩キノコをあげると、マユのモービルでピンデチの村へ向かった。


 しばらく走ってピンデチの村の入口に近づくと、なんと黒い飾り羽を付けた武闘家がいた。

「やば、黒だ。なんでこんな所に」

 マユがそう言うと、メイとナミも怖がった。

「ちょっと怖いから裏から帰ろうかな」

「うん……」
「そうね」

 マユはモービルを迂回うかいさせて村の裏へ行くと、そこでモービルを仕舞って村へ向かった。

「ねぇ、なんで逃げたの? 俺さけて遠回りしたでしょ」

 なんと、さっきの黒の武闘家がいた。

「え、いや」

 マユが言葉に詰まると武闘家は続けた。

「なんで村の奴ら、みんな俺を避けるんだよ。意味わかんね」

 それを聞いたおばあさんは武闘家に言った。

「ごめんなさいね。もう行ってもいいかしら。お店を開けなければならないんです」

 チッ

 武闘家は舌打ちをすると、おばあさんを睨みつけて言った。

「なんで俺に許可とるの?」

「あら、ごめんなさい。では失礼しますね」

 おばあさんたちは武闘家の横を通って村へ入ろうとすると、武闘家は突然おばあさんに背後から殴りかかった。

「洋子ちゃん!」

 それに気づいたメイが叫ぶと、横から人影が飛び込んできた。

「あぁぁああいいっ!」

 ドス!

 なんと誰かが間に入って、素早く黒の武闘家へ前蹴りを決めた。

 武闘家はたまらず吹き飛んだが、受け身を取ると即座に立ち上がった。

「何だお前。ムエタイか?」

 そこにいたのは花束を持ったタマシリだった。

 タマシリは花束を地面に置くと、おばあさんたちのほうを向いて手で村の中へ入るように合図した。

 おばあさんたちは合図を見ると、急いで花束をひろって戦闘禁止区域の村の中へ入り、タマシリを見守った。

 すると武闘家はニヤリと笑ってタマシリに言った。

「おい、調子に乗るなよ。おれが何で黒い飾り羽を付けているか教えてやるよ」

 武闘家は攻撃強化薬を飲み干すと、ファイティングポーズをとった。

 タマシリは笑顔で両手を合わせると、武闘家に頭を下げた。
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