17 / 126
仮想空間でセカンドライフ
第17話 ひろし、バンドマンになる
しおりを挟む
G区画の家へ帰る途中、めぐは大きく開けた土地にステージが設営してあるのを見つけた。
するとめぐはイリューシュのほうへ顔を出し、開いている助手席の窓越しにイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、あのステージって何だか知ってますか?」
「あれは夏のバンド・フェスティバルの会場ですよ」
「ええー! すごい!」
「今年はフレア・ウィルスで現実世界の夏フェスがほとんど中止になったので、こちらでやろうという事なんです」
「どんなアーティストが出るんだろう。イリューシュさん、知ってますか?」
「出演アーティストは、ゲーム・プレイヤーのバンドですよ。もうすぐオーディションがあります」
「ええっ! 出たい!」
それを聞いたアカネは興味津々な表情でめぐに尋ねた。
「めぐ、何か楽器弾けるの?」
「うん。あたし学校でギター・ボーカルやってるんだ」
「まぢでか!」
「でも、今年はフレア・ウィルスで学園祭が中止になったからライブできないの」
「そうか……。それは、残念だなぁ」
すると、急に車が止まった。
そしてイリューシュが車から降りてくると、荷台のめぐの手を取って提案した。
「めぐさん、ギター買いに戻りましょう!」
「え!?」
「実は、わたしもチームを辞めてなかったら、わたしのバンドでオーディションに出るつもりだったんです」
「「ええ!?」」
「まだエントリーは取り下げてないので、メンバー変更すればオーディションに出場できますよ」
それを聞いためぐはイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、パートは何ですか?」
「ドラムです」
「「ドラム!?」」
すると、めぐとイリューシュが一緒にアカネを見つめた。
それを見たアカネは「えっ?」と驚いた表情で言った。
「な、なんだよ。あたし楽器なんてできないぞ」
イリューシュとめぐは顔を見合わせて頷くと、めぐがアカネに言った。
「アカネ、ベースね!」
「えぇーー! だから出来ないって!」
おどろくアカネにイリューシュが説明した。
「大丈夫です、わたしが簡単な曲を作りますから。3つの場所だけ押さえられれば弾けますよ」
「いやいやいや、イリューシュさん……。まぁでも……、ちょっとやってみたいかも……」
アカネは恥ずかしそうにしながらも、少し嬉しそうにした。
すると、今度はめぐがおじいさんに言った。
「おじいちゃんはキーボードね!」
「えぇえ! わたしがですか!?」
イリューシュは慌てるおじいさんにも説明した。
「ひろしさん、最新のキーボードは自動でコードを演奏してくれるので、指一本で弾けますよ」
「じ、自動で指一本ですか? え……えぇ、それならば、頑張ればできるかもしれません」
イリューシュはそれを聞くと嬉しそうに言った。
「では、コーシャタの街へ戻って、楽器店へ行きましょう!」
こうして、おじいさんはゲームの世界でバンドを組むことになった。
ー その頃、ピンデチの村近く ー
「マリ様。先ほどコーシャタの街を出たとの連絡が入ったのですが、なかなか帰ってきません」
全身黒ずくめの甲冑に黒い飾り羽を付けた騎士がマリとういう人物にボイスチャットで話をしていた。
「はいマリ様、間違いありません。イベント優勝チームのメンバーです」
その騎士はマリからの指示を聞くとマリに返事をした。
「はい、わかりました。では、探しながらコーシャタへ向かいます」
騎士はボイスチャットを切ると、オフロードバイクのモービルを出現させてバイクを走らせた。
ー その頃、コーシャタの楽器店 ー
アカネはベースを肩から下げて、自分の姿を鏡を見ていた。
「はっはー! ベースってデカくてカッコいいな! あたしヤル気が出て来たよ!」
おじいさんは、めぐと一緒にキーボードを見ていた。
「おじいちゃん、これなら簡単に弾けるよ」
めぐが指差したキーボードは鍵盤が光って押す場所を教えてくれる物だった。
「あぁ、これならわたしも出来そうです」
おじいさんは嬉しそうにめぐに言った。
「よかった!」
めぐも笑顔で返事をすると、イリューシュが一本のギターを持ってきて、めぐに手渡した。
「めぐさん、このギターはどうかしら」
「えっ!」
イリューシュは現実世界とコラボした高級ギター、フェンデーのマスターグレードを持ってきた。
「イリューシュさん、とっても良さそうなんですけど……。値段、高いですよね……」
「あら、めぐさん。楽器はわたしが全部買いますよ。お気になさらず。ふふふ」
「えっ、ホントですか!? いや、でも……」
「本当にお気になさらず。そのギターはわたしの好みでもありますから、ぜひそのギターの音色を聞かせてください」
「あ、は、はい! やった、これ弾いてみたかったんです! ありがとうございますイリューシュさん!」
めぐは目をキラキラさせるとギターを愛おしそうに抱きしめた。
イリューシュは全員分のギター、ベース、キーボード、そして楽器を運ぶためのギグバッグを購入した。
そして全員に楽器を手渡すと、その見た目はすっかりバンドマンの集まりに見えた。
めぐはみんなの前に出ると、嬉しそうにみんなを鼓舞した。
「よーし、絶対みんなであのステージに立とうねっ!」
「「おーー!」」
みんなは一致団結した。
◆
一行はコーシャタの街を後にすると、軽トラでゆっくりとG区画の家へと向かった。
すると街を出てすぐに、正面からオフロードバイクがやってくるのが見えた。
イリューシュはオフロードバイクの騎士が付けている黒い飾り羽に気づくと、静かにおじいさんに言った。
「ひろしさん、車を停めてください。黒です」
「黒……、えぇ! 他のプレイヤーを倒すという……」
「はい。少々手強そうです」
おじいさんは指示通り車を停めると、イリューシュはゆっくりと車から降りて車の前に出た。
バイクで走ってきた騎士もイリューシュに気づくと、近くまでやって来てバイクを停止させ、イリューシュに話しかけた。
「あんた、イベントで優勝したイリューシュだよな」
「あなた黒ですね。わたしたちに御用でしょうか?」
すると騎士が答えた。
「あぁ。でも倒しに来たんじゃない。あんたのスカウトだ。俺たち黒の仲間にならないか。イベントの戦いは良かったよ」
イリューシュはそれを聞くと弓に手をかけながら答えた。
「ありがとうございます。ですが、スカウトはお断りします」
「そう言うと思ったよ。でも、もしこのゲームを黒がコントロールするって言ったら、どうする?」
「なんですって」
「うちのリーダーがもうすぐこの世界のシステムの一部をハッキングする。やがて全部乗っ取るつもりだ」
「そんな脅しは通用しません」
「脅しじゃねぇ。ここの運営は俺たちみたいな献身的な課金者を馬鹿にしてる。月に一回クソみてぇなボス出しても速攻攻略だよ。もう、やる事ねぇんだよ!」
騎士は激昂して話し続けた。
「なのに運営はライトユーザーが喜びそうなイベントばっかやりやがって! あの音楽イベントもそうだよ!」
騎士は遠くに見えるステージを指差した。
「これからリーダーは黒の王国をこのゲームに作る。最高の難易度に設定された最高の国だ。なぁ一緒に楽しもうぜ」
するとそれを聞いていたアカネが荷台から飛び降りて騎士に言った。
「おいおい、聞いてればウソばっか並べて必死だな。イリューシュさんが嫌がってるだろ。やめろよ」
「なんだと?」
騎士はアカネを見ると、ゆっくりとバイクから降りて剣に手をかけた。
するとめぐはイリューシュのほうへ顔を出し、開いている助手席の窓越しにイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、あのステージって何だか知ってますか?」
「あれは夏のバンド・フェスティバルの会場ですよ」
「ええー! すごい!」
「今年はフレア・ウィルスで現実世界の夏フェスがほとんど中止になったので、こちらでやろうという事なんです」
「どんなアーティストが出るんだろう。イリューシュさん、知ってますか?」
「出演アーティストは、ゲーム・プレイヤーのバンドですよ。もうすぐオーディションがあります」
「ええっ! 出たい!」
それを聞いたアカネは興味津々な表情でめぐに尋ねた。
「めぐ、何か楽器弾けるの?」
「うん。あたし学校でギター・ボーカルやってるんだ」
「まぢでか!」
「でも、今年はフレア・ウィルスで学園祭が中止になったからライブできないの」
「そうか……。それは、残念だなぁ」
すると、急に車が止まった。
そしてイリューシュが車から降りてくると、荷台のめぐの手を取って提案した。
「めぐさん、ギター買いに戻りましょう!」
「え!?」
「実は、わたしもチームを辞めてなかったら、わたしのバンドでオーディションに出るつもりだったんです」
「「ええ!?」」
「まだエントリーは取り下げてないので、メンバー変更すればオーディションに出場できますよ」
それを聞いためぐはイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、パートは何ですか?」
「ドラムです」
「「ドラム!?」」
すると、めぐとイリューシュが一緒にアカネを見つめた。
それを見たアカネは「えっ?」と驚いた表情で言った。
「な、なんだよ。あたし楽器なんてできないぞ」
イリューシュとめぐは顔を見合わせて頷くと、めぐがアカネに言った。
「アカネ、ベースね!」
「えぇーー! だから出来ないって!」
おどろくアカネにイリューシュが説明した。
「大丈夫です、わたしが簡単な曲を作りますから。3つの場所だけ押さえられれば弾けますよ」
「いやいやいや、イリューシュさん……。まぁでも……、ちょっとやってみたいかも……」
アカネは恥ずかしそうにしながらも、少し嬉しそうにした。
すると、今度はめぐがおじいさんに言った。
「おじいちゃんはキーボードね!」
「えぇえ! わたしがですか!?」
イリューシュは慌てるおじいさんにも説明した。
「ひろしさん、最新のキーボードは自動でコードを演奏してくれるので、指一本で弾けますよ」
「じ、自動で指一本ですか? え……えぇ、それならば、頑張ればできるかもしれません」
イリューシュはそれを聞くと嬉しそうに言った。
「では、コーシャタの街へ戻って、楽器店へ行きましょう!」
こうして、おじいさんはゲームの世界でバンドを組むことになった。
ー その頃、ピンデチの村近く ー
「マリ様。先ほどコーシャタの街を出たとの連絡が入ったのですが、なかなか帰ってきません」
全身黒ずくめの甲冑に黒い飾り羽を付けた騎士がマリとういう人物にボイスチャットで話をしていた。
「はいマリ様、間違いありません。イベント優勝チームのメンバーです」
その騎士はマリからの指示を聞くとマリに返事をした。
「はい、わかりました。では、探しながらコーシャタへ向かいます」
騎士はボイスチャットを切ると、オフロードバイクのモービルを出現させてバイクを走らせた。
ー その頃、コーシャタの楽器店 ー
アカネはベースを肩から下げて、自分の姿を鏡を見ていた。
「はっはー! ベースってデカくてカッコいいな! あたしヤル気が出て来たよ!」
おじいさんは、めぐと一緒にキーボードを見ていた。
「おじいちゃん、これなら簡単に弾けるよ」
めぐが指差したキーボードは鍵盤が光って押す場所を教えてくれる物だった。
「あぁ、これならわたしも出来そうです」
おじいさんは嬉しそうにめぐに言った。
「よかった!」
めぐも笑顔で返事をすると、イリューシュが一本のギターを持ってきて、めぐに手渡した。
「めぐさん、このギターはどうかしら」
「えっ!」
イリューシュは現実世界とコラボした高級ギター、フェンデーのマスターグレードを持ってきた。
「イリューシュさん、とっても良さそうなんですけど……。値段、高いですよね……」
「あら、めぐさん。楽器はわたしが全部買いますよ。お気になさらず。ふふふ」
「えっ、ホントですか!? いや、でも……」
「本当にお気になさらず。そのギターはわたしの好みでもありますから、ぜひそのギターの音色を聞かせてください」
「あ、は、はい! やった、これ弾いてみたかったんです! ありがとうございますイリューシュさん!」
めぐは目をキラキラさせるとギターを愛おしそうに抱きしめた。
イリューシュは全員分のギター、ベース、キーボード、そして楽器を運ぶためのギグバッグを購入した。
そして全員に楽器を手渡すと、その見た目はすっかりバンドマンの集まりに見えた。
めぐはみんなの前に出ると、嬉しそうにみんなを鼓舞した。
「よーし、絶対みんなであのステージに立とうねっ!」
「「おーー!」」
みんなは一致団結した。
◆
一行はコーシャタの街を後にすると、軽トラでゆっくりとG区画の家へと向かった。
すると街を出てすぐに、正面からオフロードバイクがやってくるのが見えた。
イリューシュはオフロードバイクの騎士が付けている黒い飾り羽に気づくと、静かにおじいさんに言った。
「ひろしさん、車を停めてください。黒です」
「黒……、えぇ! 他のプレイヤーを倒すという……」
「はい。少々手強そうです」
おじいさんは指示通り車を停めると、イリューシュはゆっくりと車から降りて車の前に出た。
バイクで走ってきた騎士もイリューシュに気づくと、近くまでやって来てバイクを停止させ、イリューシュに話しかけた。
「あんた、イベントで優勝したイリューシュだよな」
「あなた黒ですね。わたしたちに御用でしょうか?」
すると騎士が答えた。
「あぁ。でも倒しに来たんじゃない。あんたのスカウトだ。俺たち黒の仲間にならないか。イベントの戦いは良かったよ」
イリューシュはそれを聞くと弓に手をかけながら答えた。
「ありがとうございます。ですが、スカウトはお断りします」
「そう言うと思ったよ。でも、もしこのゲームを黒がコントロールするって言ったら、どうする?」
「なんですって」
「うちのリーダーがもうすぐこの世界のシステムの一部をハッキングする。やがて全部乗っ取るつもりだ」
「そんな脅しは通用しません」
「脅しじゃねぇ。ここの運営は俺たちみたいな献身的な課金者を馬鹿にしてる。月に一回クソみてぇなボス出しても速攻攻略だよ。もう、やる事ねぇんだよ!」
騎士は激昂して話し続けた。
「なのに運営はライトユーザーが喜びそうなイベントばっかやりやがって! あの音楽イベントもそうだよ!」
騎士は遠くに見えるステージを指差した。
「これからリーダーは黒の王国をこのゲームに作る。最高の難易度に設定された最高の国だ。なぁ一緒に楽しもうぜ」
するとそれを聞いていたアカネが荷台から飛び降りて騎士に言った。
「おいおい、聞いてればウソばっか並べて必死だな。イリューシュさんが嫌がってるだろ。やめろよ」
「なんだと?」
騎士はアカネを見ると、ゆっくりとバイクから降りて剣に手をかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
35
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる