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第61話 筋肉は愛だ!!

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 ―― 夜遅く ――

 塔での稽古を終えたカオリは「らぁ麦」を守る「黒帯の亡霊」の前に立っていた。

 黒帯の亡霊は、ぼんやりと光る目でカオリを見ると不敵に笑った。

「ほぅ、お前も黒帯か。面白い。いつでも良いぞ。かかってこい」

 ババッ!

 黒帯の亡霊がそう言いった瞬間、カオリは凄まじい勢いで体勢低く飛び込むと、一瞬で腕を巻き込んだ。

「ぃやぁああ!」

 ブワッ!!

「なっ!」

 黒帯の亡霊はあまりの素早さに反応することすら出来ず、スローモーションのように宙を舞った。

「……」

 ズバン!!

 黒帯の亡霊はかろうじて受け身を取ると、カオリはおさみには入らずに手を離し、少し下がって黒帯の亡霊に言った。

「かかって来てください」

 それを聞いた黒帯の亡霊は静かに立ち上がって道着を直すと、カオリに一礼した。

「素晴らしい一本背負いだった。私の負けだ、道を進むがよい」

 黒帯の亡霊がそう言って道をあけると、カオリは姿勢を正して一礼し、「らぁ麦」の生えているフィールドへと向かった。


 その頃、麻衣歌まいかたちは「北のほなみ」の小麦が生えているフィールドに向かう道を進んでいたが、道の先にどう見ても獰猛どうもうそうな熊を見つけた。

 ダイゴは熊を確認すると、みんなに言った。

「あれ、ボス・ツキノワグマだ。見つかるとツキノワグマも出てくる。隠れたほうがいい」

 ガサガサガサガサ……

 それを聞いた麻衣歌まいかたちは草むらの中に隠れると、麻衣歌まいかが作戦を考え始めた。

「そうですわね……。やはり、ボス・ツキノワグマはわたくしとサクラさんで戦いましょう。仲間のツキノワグマが出てきましたらコスギさんとダイゴさんにお任せしますわ」

「はい!」
「はっ!」
「うん、わかった」

「では、コスギさんとダイゴさんが先にボス・ツキノワグマに近づいていただいて、ツキノワグマが現れたらそちらを」

「はっ!」
「うん!」

「わたくしとサクラさんは後ろから追いついてボス・ツキノワグマと戦いますわ」

「はい!」

「では、行きますわよ!」

 ガサガサッ!

「うぉぉおおおお!!」
「いくぞぉぉおお!!」

 コスギとダイゴは刀と棍棒を装備すると、一直線にボス・ツキノワグマに走っていった。

 ガァアァアアアアア!!!

 ボス・ツキノワグマが大きく咆哮ほうこうすると、左右の草むらから数頭のツキノワグマが現れた。

「ダイゴ、いくぞ!」
「うん、コスギさん!」

 ダイゴとコスギが素早く左右に分かれて手下のツキノワグマに襲いかかると、その後ろから麻衣歌まいかとサクラがボス・ツキノワグマに走り込んだ。

「いきますわよ!」
「はい!」

 サクラは低い姿勢から鋭く踏み込むと、美しい姿勢でボス・ツキノワグマを斬り上げた。

 ズバッ!
『HIT!』

 タッ、ズザッ!

 そしてサクラは素早く地面に伏せると、麻衣歌まいかが展開した魔法陣から炎が吹き出した。

 ブォォオオオオ!
『HIT!』

 ガァァアアア!

 ボス・ツキノワグマは炎を食らって少しだけ怯むと、後ろに下がりながら体勢を整えた。


 その頃、コスギとダイゴはツキノワグマと戦っていたが、五分の戦いになっていた。

 コスギは相手にしている3頭のうち1頭は倒せたが、残り2頭は動きが素早く刀を当てることが出来なかった。

 ダイゴは2頭を相手に棍棒を振り回していたが、短い棍棒が当たらずに悪戦苦闘あくせんくとうしていた。

 コスギはダイゴを心配して声をかけた。

「ダイゴ、大丈夫か!」

「コ、コスギさん! こ、棍棒が当たらない!」

「なにっ! しかし、おれも刀が……、くっ」

 するとツキノワグマたちが突然、魔法陣を展開している麻衣歌まいかの方へ向かって走っていった。

 麻衣歌まいかはそれに気づくと、コスギとダイゴに大声で言った。

「ちょっ、クマたちが来ますわよ! なんとかしなさい!」

「はっ!」
「わかった!」

 コスギとダイゴは慌ててツキノワグマを追いかけると、刀と棍棒を振り回した。

「おりゃあぁああ!」
「やぁああああ!」

 ブンブンブンブン!

 しかし刀も棍棒も当たらずにくうを切り、ツキノワグマたちはどんどん麻衣歌まいかせまっていった。

 麻衣歌まいかはそれを見て慌てるとコスギとダイゴに声をあげた。

「ちょっと、武器が当たってませんわよ! 武器なんか捨てて相撲すもうでもしたら良いんじゃないかしら!!」

「!」
「!!」

 それを聞いたコスギとダイゴは、自分の筋肉たちが嬉しそうに笑いかけてくるのを感じた。

 ビクビクッ
 ビクビクビクビクッ!!

「筋肉! そーれーだー! うぉぉおおお!!」
「ぬぅぅうううう!!」

 コスギとダイゴは武器を投げ捨てると、筋肉がおもむくままに走り出した。

 シュタタタタタタタタ!

 そして2人はそのまま麻衣歌まいかに向かうツキノワグマを追い越すと、クルリと振り返って前に立ちはだかった。

 ズザァアア!

 ガァアオオオオ!!

 ツキノワグマたちは驚いて足を止め、大きく咆哮ほうこうすると、コスギとダイゴは腰を落として四股を踏んだ。

 ドシン! ドシン!

 それを見たツキノワグマたちが警戒するような素振りを見せると、コスギが拳を握りしめながらダイゴに言った。

「ダイゴ、何としても麻衣歌まいか様たちをお守りするんだ!」

「うん!」

「いいか! 筋肉だ! 筋肉を信じるんだ! 人は裏切るが、筋肉は絶対に裏切らない!!」

「うん!!」

「いくぞっ! マッスルGOだ!! うぉおおおお!」

 ダダダダダダダダダダダッ!

 コスギとダイゴは一直線にツキノワグマに突っ込んだ。

「どっせいぃいい!!」
「ぬぉぉおお!!」

 バッチーン!!

 バリバリバリバリバリ!!

 コスギとダイゴはツキノワグマとがっぷりつに組むと、筋肉が急激にパンプアップして忍者装束がやぶけ去った。

 ムキムキムキムキムキムキ!!

 コスギは背中に筋肉で鬼の顔を浮かび上がらせると、全身の筋肉に語りかけた。

「おいっ! おれの筋肉!! お前は勝ちたいのか! 負けたいのか? ……勝ちたーーい!!! あーーーぱーーー!!」

 コスギは奇声きせいをあげると、なんとツキノワグマを持ち上げて投げ飛ばした。

「どぉぉりゃぁぁあああ!」

 ブワッ ゴチン!!

『クリティカル +20%』

 ガァァアアア!

 なんとコスギはツキノワグマを投げ捨てると、もう1頭のツキノワグマにぶつけてダメージを負わせた。

 側にいたダイゴは、ツキノワグマを両手で羽交はがめにすると、どんどんHPを奪っていった。

「ぬぅぅぅううううう!!」
『HIT!』
『HIT!』
『HIT!』
『HIT!』
『HIT!』
『HIT!』

 ガァァオオオ……、オ……、オォ……

 すると、とうとうツキノワグマはHPが限界に達してズルリと地面に落ち、体を伏せた。
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