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第41話 一時間城

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 ―― 約1時間後 ――

 コスギたちは1時間で城を完成させ、虎一郎と愛芽めめは3階の天守閣に居た。

「500年も経つと、城もあっという間に建つのだな……」

 虎一郎は美しいたたみかれ、虎の絵が描かれたふすまに囲まれた天守閣をゆっくりと見回した。

 コスギは虎一郎の前にひざまずくと嬉しそうに言った。

「虎一郎様、お気に召しましたでしょうか」

「う、うむ……。しかし、私のような者が城に住んでも良いのだろうか」

「もちろんでございます! 我々は1階の大部屋におりますので、いつでもこのボタンでお呼びください!」

 コスギはそう言うと、ファミリーレストランにあるような押しボタンを虎一郎に手渡した。

「おぉ、これを押すのだな」

 虎一郎はなんとなくボタンを押してみた。

 ♫ テロテテテロン~ テロレロリン ♪

 聞き覚えのあるメロディーが流れると、愛芽めめが思わず呟いた。

「この音って、ファミリーマ……」

 ダダダダダダダダ!

 すると1階から忍者たちが駆け上がってきた。

 忍者たちは天守閣に上がってくると一斉にひざまずいた。

「虎一郎様!」
「どういたしましたか!」
「何なりとお申し付けください!」

「あ、いや……」

 虎一郎は上がってきた忍者たちに一瞬驚いたが、スッと背筋を伸ばして正座をすると、コスギと忍者たちに言った。

「このような素晴らしい城を建てて頂き、大変感謝いたす。誠にかたじけない」

 虎一郎はそう言うと、深々と頭を下げた。

 バババババババッ!!

 それを見たコスギと忍者たちも一斉に伏せるように頭を下げた。

「「ははー」」

 スッ

 虎一郎は頭をあげると、頭を下げているコスギたちを見て笑顔で言った。

「よし、では下で飲み直そうではないか! 少ないがまだ酒はあるぞ」

「「はい!!」」

 虎一郎は立ち上がって階段へ向かうと、忍者たちも虎一郎について行きながら口々に言った。

「やった、おれたちの殿様だね」
「だな!」
「なんか、つかえるっていいな」
「うん」
「おれ刀の練習がんばろ」
「ぼくも」

 愛芽めめは楽しそうに虎一郎についていく忍者たちを見ると、思わず笑顔になった。

「コイちゃん、したわれてるなぁ」

 愛芽めめも一番後ろからついていって3階の天守閣から2階に降りると、2階で待っていたコスギが愛芽めめに話しかけてきた。

「プリーズ、ウェイト! こちらは、お世話の方のルームです。お使いください!」

 ススッ

 コスギはそう言ってふすまを開けると、10畳ほどの和室が現れた。

「え、これ、あたしが使っていいの?」

「オフコース、もちろんです! はい、ボタンです」

 愛芽めめはコスギから呼び出しボタンを受け取ると、コスギに頭を下げてお礼をした。

「コスギさん、ありがとう。ありがたく使わせてもらうね」

「はい!」

 コスギは嬉しそうに返事をすると、駆け足で1階へ降りていった。

 するとその時、愛芽めめは向かいにも1部屋、そして左隣ひだりどなりにも1部屋ある事に気がついた。

「あれ? 向かいと、左隣ひだりどなりにも部屋あるんだ……。覗いちゃおっかな。へへ」

 愛芽めめ左隣ひだりどなりふすまを2センチほど開けて中を覗くと驚いた。

「えっ! ツバキちゃん?」

「くぅぅ……」

 愛芽めめは慌ててふすまを開けると、豪華絢爛ごうかけんらんな10畳ほど和室の真ん中に、金色の羽織はおりを着させられたツバキがプルプルふるえながら座っていた。

「えっ!? ってか、ここツバキちゃんの部屋!? あたしのより豪華ごうか!」

「わんわん!」

 ツバキは嬉しそうに愛芽めめの所へ走っていくと愛芽めめはツバキを抱え上げた。

「こんなに震えて……。まぁ、こんな広い部屋で1人ぼっちじゃ寂しいよね。ははは」

「わん……」

「じゃあ、もう1つの部屋って……」

 すると愛芽めめは部屋のふすまの上に「麻衣歌まいか様」と書かれた木札を見つけた。

「あ、そっか。こっちは麻衣歌まいかさんの部屋か。ちょっと覗いちゃお」

 スッ

 愛芽めめふすまを少し開けると、頭の中に「ぅわ~ぉ」というセクシーボイスが流れた。

「えっ、行灯あんどんに枕2つの布団……。って、これ、あれだよね……。コスギさん、気を使いすぎじゃ……」

 スッ……

 愛芽めめふすまを静かに閉めると、ツバキを抱えて自分の部屋に戻った。


 その頃、1階の大部屋では酔っ払った虎一郎たちが盛り上がっていた。

「コスギよ、忍者たちはこれで全員か?」

「あ、いえ、交代であと6人ほどいます。あ、そうだ虎一郎様。今送るメンバーたちにフレンド承認していただけますか」

 コスギはそう言うと虎一郎にフレンド紹介を送り、虎一郎の視界には6名のリストが表示された。

「おぉ、そうか。この承認ボタンを押せば良いのだったな」

 虎一郎は全ての承認ボタンを押すと、残りの忍者たちともフレンドになった。

 その様子を見ていたコスギは虎一郎に言った。

「虎一郎様、これで我らは全員この城でお仕えできます」

「おぉ、そうか。これはすまぬな。しかし、その6人は今どうしておるのだ」

「あ、はい。彼らは仕事中です」

「仕事……?」

「はい。あ、ちなみに、虎一郎様は何かお仕事は……」

「私は、ここの畑を耕すよう言われておる。そのうち店も出すつもりだ」

「え、畑を耕すように言われて……? あ、もしかしてデバッガーさんですか! 誤作動ごさどうを探し出して直す人ですよね」

 その時、った虎一郎にはコスギの最後の言葉が『猛者共もさどもを探し出して倒す人ですよね』と聞こえた。

「はっはっは、おだておって! それより、お主は何か仕事をしておるのか?」

「はい、わたしは夜勤のジムトレーナー……」

 コスギはその瞬間、麻衣歌まいかに「虎一郎には正しい日本語を使うように」と言われたことを思い出した。

「ええと、夜に筋肉を増強させる監督かんとくする仕事です」

「ほぅ。たしかにお主は良い体をしておるからな」

「はっ、ありがとうございます!」

 ムキッ!

 コスギが笑顔でボディビル・ポーズをとると、忍者も次々と自分の仕事を虎一郎に言った。

「おれは夜の警備員っす」
「ぼくはホスト、あ、夜の酒場です」
「おれは、夜穴掘ってます!」
「お金に余裕があって何もしてません」
「あたし、花嫁修行中はなよめしゅぎょうちゅう家事手伝かじてつだい。えへへ」

「うん?」

 虎一郎は女性の声に引っかかった。

「コスギ、くノくのいちもおるのか?」

「あ、はい。あの小さいのが」

 虎一郎が小柄こがらな忍者を見ると、小柄こがらな忍者は恥ずかしそうに下を向いた。

「お主が、くノくのいちか」

「は、はい。サクラです」

 サクラはそう言うと恥ずかしそうにして、顔をおおう頭巾ずきんを引っ張り下げて目元も隠した。

 すると虎一郎はサクラが背中に背負っている刀のつか(手に持つ所)を見て感心しながら言った。

「サクラよ、お主のつかはだいぶ減っておる。しかも良い具合に減っておるな。お主、コスギよりも強いであろう」

「えっ、あ、ははっ、いや、その……」

 ざわざわざわざわ……

 コスギを含めてその場にいた忍者たちは一斉にどよめいた。
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