戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

オイシイオコメ

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第25話 アルマジロ

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 虎一郎は槍をしまうと、大熊笹の前に出て深々と一礼した。

 大熊笹も一礼してお互いに頭を上げると、虎一郎は刀を抜いて下段に構えた。

 それを見た大熊笹は、笑顔で虎一郎に話しかけた。

「虎一郎さん。あなたは、すでに気持ちで負けていますな」

「なっ!」

「虎一郎さんの重心は、私の攻撃を待っています。すなわち、ける準備をしています」

「……」

「ですから、こんな予想外の攻撃をされれば何もできません」

 大熊笹はそう言うと、目潰しの粉を虎一郎に投げつけた。

 シュッ バフッ!

「うっ!」

 ザッ ババッ!

 次の瞬間、大熊笹の美しい一本背負いに虎一郎の体はちゅうを舞っていた。

「……、見事だ」

 虎一郎が空中でそうつぶやくと、大熊笹は優しく虎一郎を地面に転がした。

 ゴロン

 虎一郎は素早く立ち上がると大熊笹に一礼して言った。

「完敗でござる」

「はっはっは。戦いになれば敵は使えるものは全て使ってきます。『目潰しの粉』の他にも、相手を滑って転ばせる『抜群ばつぐんに滑る油』や『バナナの皮』なんかもありますよ」

「おっしゃる通りでござる。私は真剣勝負に固執こしつしていた……」

「いえいえ。先程の虎一郎さんの構えは守りの構えでしたが、今まで見てきたプレイヤーの誰よりもきがありませんでした。よほどの達人でしょうな」

「……いや、お恥ずかしい限りでござる」

 すると大熊笹は突然笑って虎一郎に言った。

「はっはっは。虎一郎さん、上を見てください」

「上……?」

 するとその瞬間、茜衣あいが虎一郎の足元に「バナナの皮」を大量に投げつけた。

 ひゅっ ひゅっ ひゅっ ひゅっ

「スキありっ!」

「なっ! 茜衣あい殿?」

 虎一郎が振り返った瞬間、

 ツルッ
 ズデーン!

 虎一郎はすっ転んだ。

「ななっ!」

「ははは! コイっち、こういう攻撃する敵もいるんだよ。あたしのお母さんの得意攻撃だったんだ」

「な、なるほど……。勉強になる、茜衣あい殿」

 虎一郎は立ち上がりながらバナナの皮を拾い上げると、茜衣あいに尋ねた。

茜衣あい殿、これは忍びの道具であろうか」

「え、コイっちバナナ知らないの?」

「ばなな?」

 するとそれを聞いていた茂雄がやってきてバナナを1本虎一郎に差し出した。

「虎一郎さん、これがバナナです。僕も好きでしてね。どうぞ召し上がってください。はい、みなさんも」

 茂雄はバナナを数本出現させると、みんなに渡した。

「やったー! ありがと茂じぃ」
「ぁりがとぅ」
「あ、すいません」
「かたじけない」

 虎一郎はみんなの真似まねをして皮をくと、一口頬張ひとくちほおばってみた。

「!!」

 その瞬間、虎一郎は目を見開いて震えながら驚愕きょうがくした。

「うまい! うますぎる!!」

 ガブッ ガブガブッ!

「うまいぞ!」

 ガブガブッ!

「うまい!!」

 虎一郎は一気にバナナを平らげると、あまりの美味しさに皮まで食べ始めた。

 ガリッ ガリッ!

「お、おお! 皮もいけるではないか」

 それを見ていた愛芽めめは驚いて虎一郎を止めた。

「ちょっ、コイちゃん! ヤバい人みたいになってるよ! 皮は食べちゃだめだって」

 ガリッ ガリッ!

 しかし、虎一郎は皮も一気に平らげた。

愛芽めめ殿、皮もいけるぞ」

「え、ええ!? ほんとに?」

 それを聞いた茜衣あいは虎一郎に尋ねた。

「ねぇコイっち、ほんとに皮おいしいの?」

茜衣あい殿、食べてみてくれ。なかなかであるぞ」

「え、そうなの!? 知らなかった、食べてみよ」

 茜衣あいは皮をかじってみた。

 ガリッ

「うえっ、まずっ」

「「ははははは」」

 茜衣あいひどい表情でバナナを飲み込むと、虎一郎以外は一斉に笑った。


 その頃、知事のイリューシュはピンデチの街にある、虎一郎にゆずった店の前にいた。

「久しぶりだわ、ふふふ。あの子たちもこさないと」

 イリューシュはそう言うと、店のシャッターにライセンスキーをかざしてロックを解除した。

 ガラガラガラガラ……

 イリューシュはシャッターを開けてガランとした店内を見渡すと、笑顔になって呟いた。

「もう、どのくらい経ったのかしら……」

 イリューシュはそう言いながら店のカウンターに置いてある頑丈そうな3つの箱に近づくと、箱の液晶画面を確認した。

「まぁまぁ、あれから30年以上も冬眠保存とうみんほぞんしていたなんて」

 イリューシュはそう呟くとライセンスキーを使って3つの箱を開けた。

 プシュ プシュ プシュ

「きゅうきゅう!」
「きゅうぅう」
「きゅう?」

 なんと箱の中にはアルマジロが1匹ずつ、合計3匹が入っていた。

「ふふふ、起こしちゃってごめんなさいね」

 イリューシュはそう言うとアルマジロを1匹ずつ地面に降ろした。

「昔はこのお店の『看板アルマジロ』だったものね。これからは、わたしの家でゆっくり暮らしてくださいね」

「きゅっ」
「きゅう」
「きゅう?」

 するとイリューシュは手にアルマジロたちの大好物「岩キノコ」を出現させると、アルマジロたちに声をかけた。

「じゃあ、家へ行きますよ。ふふふ」

「「きゅうきゅう!」」

 トトトトトトトトトト……

 アルマジロたちは大好物の岩キノコにつられてイリューシュのあとを付いていった。

 ガラガラガラガラ……

 イリューシュが店から離れると、自動的にシャッターが下り、ロックされた。

 ◆

 イリューシュがアルマジロたちと一緒に家に戻ると、しばらくして虎一郎たちが戻ってきた。

 ガチャ

「ただいまー」
「ただぃま」
「もどりましたー」
「戻り申した」

「あら、おかえりなさい」

 すると暖炉だんろの前で岩キノコを食べているアルマジロを見つけた菜七海ななみが嬉しそうにイリューシュに尋ねた。

「イリューシュさん、ぁれアルマジロ?」

「ええ、ふふふ。菜七海ななみさんのお母様と一緒に冒険した子もいますよ」

「ぇえ、ほんとに?」

 菜七海ななみの母親は認定英雄のナミで、ナミは頑丈がんじょうな甲羅を持つアルマジロを頭に乗せながら大きな戦いを何度も切り抜けていたのだった。

菜七海ななみさんのお母様は、全ての攻撃を防ぐアルマジロに何度も救われたと言ったました」

「ぅん。ぉかあさん、アルマジロの話をたくさんしてくれてた。だから、会えてぅれしぃ」

 菜七海ななみは母親の話を思い出して、嬉しそうに岩キノコを食べているアルマジロたちに近づくと、1匹のアルマジロが手を止めた。

「きゅう?」

 そのアルマジロが菜七海ななみをジーッと見上げていると、菜七海ななみは静かに話しかけた。

「アルマジロさん、こんにちわ」

「きゅうきゅう!」

 トトトトトトトトトト……

 するとアルマジロは走っていって菜七海ななみの体をよじ登り、頭の上に乗っかった。

「きゅうぅぅ」

「ぅふふ。ぃぃこぃぃこ」

 菜七海ななみは頭の上に登ったアルマジロをでると、アルマジロは嬉しそうにした。

 それを見たイリューシュも嬉しそうに菜七海ななみに言った。

「ちょうどお母様のナミさんも、そうやって頭にアルマジロを乗せてましたよ。きっと、その子がお母様のお友達ですね」

「きゅうきゅう!」

 アルマジロが返事をすると菜七海ななみは笑顔になって両手でアルマジロをでた。
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