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第19話 麻衣歌、やってくる

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 茜衣あいがお菊の背中に乗ると、お菊は静かに立ち上がって歩き出した。

「わぁあ! キクちゃん大きいから見晴らしいい!」

「モォォ」

 お菊が歩きだすと、ララ太郎とララ次郎、そしてツバキも後ろを付いていった。

「クルルル」
「クルルッ」
「わんわん!」

 そしてその後ろから菜七海ななみが付いていくと、愛芽めめも笑顔で付いていった。

 茜衣あいはお菊の背中で楽しそうに笑うと、お菊を撫でながら言った。

「ははは! キクちゃん、力持ちだね!」

 するとそれを聞いた愛芽めめ茜衣あいに言った。

「そりゃそうだよ。だってベヒーモスだもん」

「えっ!? キクちゃんベヒーモスなの?」

「モォ」

「すげー、いかづち魔獣まじゅうだ、初めて見た! でもキクちゃんは優しくて、かわいいね。ははは」

「モォー」

 茜衣あいが優しくお菊の頭を撫でると、お菊は嬉しそう鳴いた。


 お菊は菜七海ななみ愛芽めめも交代で乗せて散歩をしていると、茜衣あいが近くで畑仕事をしている虎一郎の所へやってきた。

「コイっち、何を埋めてるの?」

「うむ、里芋さといも種芋たねいもだ。この畑で里芋さといも人参にんじん大豆だいずを作るのだ。この土地の土質が分からぬゆえ、試しにこの3つを植えてみる」

「へぇぇ。ねぇコイっち、あたしもやってみていい?」

「おお、それは助かる。では、そこにある種芋たねいもをこのうねに植えてくれぬか」

「このれつに埋めればいいんだね」

茜衣あい殿、種芋たねいもはよく見ると芽が出ておる。それを上にして、こぶし1つ分の深さに植えてくれ」

「わかった!」

 茜衣あいは嬉しそうに種芋たねいもを数個抱えると、1個ずつうねに穴をあけて植えていった。

 すると、それを見ていた菜七海ななみもやってきて虎一郎に言った。

「コイっち、ぁたしもやりたぃ」

まことであるか。ぜひお願いしたい」

「ぅん」

 菜七海ななみ種芋たねいもを抱えると、茜衣あいと一緒に種芋たねいもを植え始めた。

 お菊はララ太郎とララ次郎、そしてツバキを背中に乗せてゆっくりとやってくると、畑仕事をしている虎一郎たちを興味深そうに眺めた。

 ◆

 虎一郎たちがワイワイと楽しく畑仕事をしていると、山の下から1人の女性がやってきた。

 愛芽めめはそれに気づくと驚いて声をあげた。

「あれっ? 麻衣歌まいかさん!」

「こんにちは、高橋さん」

「何かあったんですか?」

「高橋さん。私は今日付けで庶務課しょむかに移動になりました。よろしくお願いいたします」

「ええっ!」

 麻衣歌まいかが丁寧に頭を下げると、愛芽めめは驚きながら麻衣歌まいかに言った。

麻衣歌まいかさん、何かの冗談ですよね?」

「いえ、私は今日から高橋さんの部下ですわ」

「部下!?」

 愛芽めめが驚いて声をあげると、麻衣歌まいかは頭を下げながら愛芽めめに言った。

「高橋さん。今日から私はA4480様のサポートを午後5時からす引き継ぐことになりました。よろしくお願いいたします」

「え、それって、あたしと入れかわりって事ですか?」

「はい。それとエンジニアの矢口さんから許可を頂いて、高橋さんの昼休みも交代させていただくことになりましたわ」

「昼休み?」

 愛芽めめは腕時計を見ると、すでに午後1時を過ぎていた。

「あ、もうこんな時間! え、でも麻衣歌まいかさん。あたしの昼休みも来て、5時から夜勤なんて大丈夫なんですか?」

「ええ。わたくし会社に住むことにしましたの」

「会社に住む??」


 ―― イグラァ社内 仮眠室 ――

 仮眠室に新しいシーツを持ってきた2人の女子社員は、仮眠室の一番奥に『鶴井田』と書かれたテントを見つけた。

「えっ、鶴井田……? うそ、専務?」

「ちがうよ、麻衣歌まいかさんなんだって」

「え、なんでなんで?」

「さっき給湯室きゅうとうしつで聞いたんだけど、麻衣歌まいかさん会社に住むみたい」

「うそ!?」

「社長から許可ももらってるんだって」

「あ、ほんとだ。テントの下に『社長許可済み』って書いてある。それにしても、テントがウィ・ヴィトンって……」

「だって鶴井田専務の年収って五千万超えらしいし、麻衣歌まいかさんも動画の広告月収が100万超えてるんだってよ」

「そうなの!? 超セレブ! ってか、ウィ・ヴィトンってテント作ってたんだね……」

 すると作業服を着た男性が仮眠室にやってきた。

「あのぉ、すみません。仮眠室はこちらですか?」

「あ、はい」
「はい」

「あ、隣のビルの無印新品です。鶴井田麻衣歌つるいだまいか様がお買い上げの商品を持ってきたのですが……」

「あ、ええと……。あの奥のテントのところに置いていただければ良いかと……」

「ありがとうございます。おい、みんな! こっちだ!」

「「はいっ!!」」

 バタバタバタバタ……

 すると冷蔵庫やリゾートチェア、本棚や衣装ケースなどが次々と運び込まれた。

「これで全部です、ありがとうございました!」

「あ、はい」
「はい……」

 こうして麻衣歌まいかは、会社の仮眠室に「麻衣歌まいかエリア」を完成させたのだった。


 ―― 虎一郎の畑 ――

 愛芽めめは手で何かを操作すると、農作業をしている虎一郎に手を振りながら言った。

「じゃあ、あたしはお昼ごはん食べてくるね」

「おお、承知した」

 すると茜衣あい菜七海ななみも虎一郎に言った。

「じゃ、あたしもご飯食べに帰る」
「ぁたしも」

「2人とも、大変助かった。かたじけない」

「うん! コイっち、また来ていい?」
「ぁたしも来たい」

「もちろんだ、いつでも来てくだされ。もし私が留守でもお菊がるのでな。ははは」

「やったー! じゃあ、また来る」
「またくる」

 愛芽めめ麻衣歌まいかに午前中のレポートを送信すると、茜衣あい菜七海ななみと一緒に並んで虎一郎に手を振った。

「じゃぁ、コイちゃん。また1時間後」
「またねー」
「コイっち、1時間は半時はんとき

「おぉ、承知した」

 虎一郎が手を振ると、愛芽めめたちは消えていった。

 愛芽めめたちを見送った麻衣歌まいかは少し恥ずかしそうにすると、静かに虎一郎に話しかけた。

「こ……、虎一郎様とお呼びしても宜しいでしょうか」

「うむ。問題ない、妖術使い殿」

「え……、ええと麻衣歌まいかと申します」

「おお、そうであった。これは失礼つかまつった」

「これから、高橋さんが居ない間の世話役になりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 麻衣歌まいかはそう言うと両膝をつき、美しく三つ指をついて頭を下げた。

 それを見た虎一郎はひざをついて麻衣歌まいかに言った。

麻衣歌まいか殿。どうか、頭をお上げくだされ。しかし、その美しい所作しょさ良家りょうけ娘殿むすめどのであるな」

「それほどでも御座いませんわ。茶道さどう花道かどう、書道を少々致しておりますので、所作しょさは身についております」

「おお、そうであったか。では私は畑仕事に戻る。何か用事があったら呼んでくだされ」

「あ、こ、虎一郎様、フレンド交換をさせてください!」

 麻衣歌まいかはそう言うと虎一郎にフレンド申請を送信した。

「おお。これは、あれであるな……」

 虎一郎はフレンド申請を承認すると、麻衣歌まいかの頭の上に「マイカ Lv47」の文字が現れた。

 虎一郎は麻衣歌まいかのフレンド申請を承認すると、畑に戻りながら麻衣歌まいかに言った。

「では、私は畑に戻るゆえ」

「あ、わ、わたくしもお手伝いさせて頂いても宜しいでしょうか!」

「おぉ、そうであるか。ではお願い致しても良いであろうか」

「はいっ!」

 麻衣歌まいかは嬉しそうに返事をすると虎一郎と一緒に人参にんじんの種を取りにいった。
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