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第12話 虎一郎、料理する

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「やぁぁあああ!」

 茜衣あいは虎一郎に勢いよく組み付くと、素早く虎一郎のふところに入って背負投げに持ち込んだ。

 バッ ババッ!

 しかし虎一郎は瞬時に横へのがれると、茜衣あいの帯をつかんで茜衣あいを転がした。

 ザザッ!

「うわっ!」

 ゴロン

茜衣あい殿。そなたは私に組み付いた時に、その投げ方しか考えておらぬな。それでは読まれてしまうであろう」

「え、すごい! お母さんも同じ事言ってた」

「ほう、そなたの母上も柔術を」

「うん。オリンピックで金メダル取ったんだ。だから、あたしも部活で柔道がんばって将来オリンピックに出るんだ」

「おりん……?」

「ねぇ、もう一度やっていい?」

「うむ、よかろう。かかってくるが良い」

「やぁあぁ!」

 茜衣あいは虎一郎に組み付くと、押し込んで大外刈おおそとがりに持ち込んだ。

 バッ!

 しかし、虎一郎は茜衣あいを回転させるように引き込むと、足をかけて茜衣あいを転がした。

 ゴロン

茜衣あい殿。そなたの技は素晴らしいが、人の心を読んでおらぬな」

「ははは。コイっち、ほんとにお母さんと同じこと言うね」

「コイっち?」

 すると、それを聞いた茜香里あかりが慌てて茜衣あいに言った。

「こら茜衣あい! また変なアダ名つけて。失礼でしょ」

「え、そう? コイっち、だめ?」

 茜衣あいが虎一郎を見ると、虎一郎は笑顔で答えた。

「はっはっは、私は構わぬ。この国はあだ名を付けるようであるからな」

 茜衣あいと虎一郎の会話を聞いていた茜香里あかりは、小さく溜め息をついて呟いた。

「もう。茜衣あい愛芽めめは、すぐ変なアダ名付けるんだから……」

「……愛芽めめ? それは愛芽めめ殿の事であろうか」

 虎一郎は思わず茜香里あかりに尋ねると、茜香里あかりは驚いて虎一郎に聞き返した。

「お知り合いですか? ……愛芽めめって名前は珍しいし、きっと愛芽めめだよね……」

 茜香里あかりはタブレット端末を手に出現させると、愛芽めめと一緒に撮った写真を虎一郎に見せた。

「このですか?」

「おお、愛芽めめ殿!」

「え、ほんとにお知り合いですか? わたし、愛芽めめ幼馴染おさななじみなんです」

「おお、そうであったか! これは奇遇きぐうであるな。私は愛芽めめ殿にお世話になっておるのだ」

「え、そうなんですね」

「今日も家に来てくださると言っておった。まことに助かっておるのだ」

 するとそれを聞いた茜衣あい茜香里あかりに言った。

「ねぇ茜香里あかりお姉ちゃん、後でコイっちの家に行っていい? メーちゃんに会いたい!」

「だめよ、茜衣あい。急に押しかけたら失礼でしょ」

「ええ~。ねぇ、コイっち。家に行ったら迷惑?」

 すると釣りをしていた奈七海ななみも虎一郎に言った。

「ぁたしも、コイっちの家に行ってみたぃ」

「はっはっは、問題ござらん。牛しかおらぬ退屈なところであるが、それでも良ければられるがよい」

「やったー、ありがとうコイっち!」
「ぁりがとぅ」

 その後、虎一郎は奈七海ななみと一緒に砂浜で釣りをしたり、茜衣あい茜香里あかり稽古けいこを見学したりして、楽しく過ごした。

 そして、みんなに教わりながらフレンド交換をすると虎一郎の家へ向かうことにした。


 茜香里あかりは時間を確認すると茜衣あいに言った。

「じゃあ、わたしは会社行くから。ゲーム終わったら、ちゃんと春休みの宿題やりなさいよ」

「はーい」

「じゃあ、仕事に行ってくるね」

「いってらっしゃーい」
「ぃってらっしゃぃ」

 茜衣あい奈七海ななみ茜香里あかりに手を振ると、茜香里あかりはその場で消えていった。

 虎一郎はそれを見ると、静かにつぶいた。

茜香里あかり殿は消えたが、2人とも驚いておらぬな……。お菊が消えたのと同じような事だろうか」

「コイっち、じゃあ家行こう!」
「ぃこう」

 茜衣あい奈七海ななみが嬉しそうに虎一郎を見ると、虎一郎も笑顔で答えた。

「うむ。そうしよう」

 虎一郎は浜で釣り上げていた魚を縄でまとめて縛り付けると、釣り竿にくくりつけて2人と一緒に家へと向かった。

 ◆

 虎一郎たちは虎一郎のプライベート・エリアに入って山を登ると、お菊が出迎えた。

「モォォ」

 お菊を見た茜衣あい奈七海ななみは驚いて声をあげた。

「でっかい牛!」
「ぉぉきぃね」

「お菊だ。畑を耕す素晴らしい牛なのだぞ」

 虎一郎たちはお菊の近くに行くと、茜衣あい奈七海ななみは優しくお菊をでた。

「キクちゃん、おはよ!」
「かわぃぃ」

 ララ太郎とララ次郎もお菊を見上げていると、お菊はゆっくりと頭を下げて2匹を優しくめた。

「クルルルル」
「クルルルッ」

 ララ太郎とララ次郎は嬉しそうに鳴くと、それを見ていた奈七海ななみも嬉しそうに2匹を撫でた。

「ょかったね。なかよし」

「クルル」
「クルッ」

 するとその時、山の下から愛芽めめの声が聞こえてきた。

「コイちゃん、おはよー!」

「おぉ、愛芽めめ殿!」

「あ、あれ? アイアイとナナミン?」

 愛芽めめ茜衣あい奈七海ななみを見つけると、驚いて駆け寄ってきた。

「あ、やっぱりアイアイとナナミン!」

「メーちゃん、おはよー」
「メーちゃん、ぉはょ」
愛芽めめ殿。今日も宜しくお願いつかまつる」

「みんな、おはよう! っていうか2人とも何でここに?」

 それを聞いた茜衣あい愛芽めめに嬉しそうに答えた。

「コイっちと一緒に砂浜で稽古したんだ!」

「え、そうなんだ。茜香里あかりは?」

「仕事いった」

「あ、そっか、今日平日か。ははは」

 すると虎一郎が愛芽めめに尋ねた。

愛芽めめ殿、先ほど海で魚を釣ったのだが、料理道具が家に無いのだ。何か持ってござらんか?」

「料理道具……? あ、ある。前にガチャで当たったのがあるはず」

 愛芽めめはそう言うと、アイテム欄を探して「至高の調理セット」を選択した。

 ボワン!

 虎一郎の前に大きな寸胴鍋ずんどうなべと、その中に高級な包丁やフライパン、まな板や鍋などの料理道具が入った「至高の調理セット」が出現した。

「おお! 愛芽めめ殿、これは素晴らしい! 鉄の鍋ではないか」

 虎一郎は嬉しそうに調理道具を引っ張り出すと、鍋の下に味噌の入った壺と、塩の入った壺、そして陶器の入れ物をさらに2つ見つけた。

「これは味噌と塩であるな。この入れ物は……」

 虎一郎は陶器の入れ物のふたを開けると嬉しそうに言った。

「この香りは醤油とみりんか。なんと貴重な!」

 虎一郎は入れ物の蓋を閉めると、みんなに言った。

「これだけあれば魚の煮付けができる。みな、朝食はまだであろう。食べていかぬか?」

「え、コイっち料理できるの?」
「すごぃ」
「え、うそ、食べたい!」

 こうして虎一郎はみんなを家の中に招いた。
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