戦国時代の武士、VRゲームで食堂を開く

第10話 虎一郎、長い一日を終える

　虎一郎たちはカイトのモービルでピンデチに戻ってくると、一緒にギルドのある建物へ向かった。

「虎一郎さん、さっきユメからメッセージ来てて、虎一郎さんがベヒーモス倒してくれたお陰で、クエストがクリア扱いになったみたいっす」

「ほう、それは良いことなのであろうか」

「もちろんっすよ！　虎一郎さんのお陰で子ベヒーモスもゲットできて、ギルドからプクナがもらえるんすから」

「ぷくな？」

「あ、プクナはこの世界のお金っす」

「そうか、それは良かった。山から転げ落ちてしまったが、少しは役に立てたようだな」

「いやいや、虎一郎さんが一番活躍したんすよ。ほんと感謝っす！」

「お、おお、そうであったか。ははは、そう言われると嬉しいものよ」

　虎一郎たちは楽しく喋りながらギルドに到着した。


　ギルドに入るとユメとジロウが先に待っていて、虎一郎たちは同じテーブルに座った。

　ユメは隣に座った虎一郎に電子チケットを渡すと、笑顔で虎一郎にお礼をした。

「虎一郎さん、ありがとうございました。これ報酬です。６０００プクナだったので、一番活躍した虎一郎さんに３０００プクナです。うふふ」

「そ、それは受け取れぬユメ殿！　私は情なさけなくも山から転げ落ちた身。どうか納おさめてくだされ」

　虎一郎が慌ててチケットから手を離すと、カイトが虎一郎に言った。

「虎一郎さん、受け取ってほしいっす。おれ虎一郎さんの戦い見て感動したんすよ」

「感動？」

「クリティカル４コンボなんて初めて見たっす。おれ一度もコンボ出したこと無いんすよ。ははは」

「コンボ？　ああ、確か最後は７コンボと書いてあったぞ」

「「ええっ！？」」

「７コンボっすか！？　えっと１コンボで攻撃力＋２０％で、１コンボ増えるごとに倍になるから……。ええっ！　７コンボで＋１２８０％！？」

「千二百八十……。おお、数字にすると、そのような数字が書いてあった気がするな」

「うわ……。そりゃレベル１でベヒーモスも倒せるっすね……。もう伝説っすよ。レベルも一気に９だし……」

「伝説？　いや、それほどの事でもない。私などまだまだだ」

「虎一郎さん、強いのに謙虚けんきょっすね。あ、ってか３０００プクナもらってください。で、また助けてもらえたら嬉しいっす」

「……」

　虎一郎が黙ってしまうと、愛芽めめが虎一郎に言った。

「コイちゃん、３０００プクナ貰ったら？」

「しかし愛芽めめ殿……」

「あ、そうだ。コイちゃん畑やってるじゃない？　そしたら３０００プクナもらって収穫した野菜を分けてあげたらいいんじゃない？」

　それを聞いたカイトとユメとジロウは嬉しそうに言った。

「虎一郎さんの作った野菜っすか！？　おれ食べたいっす！」

「え、虎一郎さん畑を？　わたしも野菜食べたいです」

「おれも食べたい！」

　虎一郎はカイトたちの反応に驚いたが笑顔になって答えた。

「そうか、そう言って頂けると嬉しい。では此度こたびは３０００プクナを頂戴ちょうだいするとしよう。精魂込せいこんこめて野菜を育てようぞ」

「すげぇ、虎一郎さんの野菜だ！」
「嬉しい。うふふ」
「楽しみだ！」

「おお、そんなに喜んで貰えるとは……。しかし、これは責任重大であるな」

　こうして虎一郎は３０００プクナを手に入れ、しばらくカイトたちとお喋りを楽しんだ。

　そしてギルドを出ると、カイトたちと別れて愛芽めめと一緒に家へと向かった。

　◆

　虎一郎はピンデチの街中を歩いていると、ふと種たねの事を思い出して愛芽めめに尋ねた。

「そうだ愛芽めめ殿。野菜の種がほしいのだが」

「あ、そっか。種が無いと野菜作れないもんね。えっと……」

　愛芽めめは手でピンデチの街のマップを開くと、ホームセンターを見つけて虎一郎に言った。

「コイちゃん、あそこに見えるホームセンターに種があると思うんだ。行ってみようよ」

「おお、すまぬ愛芽めめ殿」

　虎一朗と愛芽めめは少し先に見えるホームセンターへと向かった。

　◆

　虎一郎たちはホームセンターの園芸コーナーにやってくると、沢山の種類の種たねや種芋たねいもを見つけた。

「愛芽めめ殿、野菜の種たねや種芋たねいもが沢山あるな」

「ほんとすごい！　知らなかった。ははは」

「人参にんじん、里芋さといもは煮付につけけに良さそうであるな。おお、大豆だいずもあるぞ」

「え、もしかしてコイちゃん料理するの？　昔の男の人は料理しないって聞いたけど」

「私は母上の料理の手伝いをするのが好きでな。父上と刀と槍の稽古けいこを済ませると、母上の手伝いをしていたのだ」

「え、すごい働き者」

「いやいや、そんな事はない。……そうだ愛芽めめ殿。この国には海はあるのだろうか？」

「うん、ピンデチのG区画っていうところに海と砂浜があるよ」

「おお！　私は越中の生まれ。魚の料理が好きなのだ」

「へぇぇ、コイちゃん魚好きなんだ。たしかG区画の砂浜でも魚が釣れるよ。ここで釣り竿ざおも買えるけど買ってく？」

「それは良い！　買いに行こうぞ」

　こうして虎一郎は野菜の種と釣り竿を手に入れて愛芽めめと一緒にプライベート・エリアの家へと戻った。


　家に戻ると、お菊が家の前に伏せていた。

「お菊！」

「モォォ」

　虎一郎はお菊の頭をでるとお菊は嬉しそうに返事をした。

　それを笑顔で見ていた愛芽めめは、ふと腕時計を見ると慌てて虎一郎に言った。

「コイちゃん、ごめん。もう退社の時間なんだ。今日は帰るね」

「おお愛芽めめ殿、お帰りであるか。本日は本当に世話になった。心より感謝いたす」

「ううん、あたし失敗しちゃったし。でも明日もまた来るね」

「うむ、明日も宜しくお願いいたす」

「うん。じゃ、また明日ね」

　愛芽めめは手を振りながら山を降りていくと、虎一郎はお菊と一緒に深々と頭を下げた。

「ん？」

　虎一郎は橙色だいだいいろの光に気がついて振り向くと、美しい夕日が山の向こうへ沈んでいくところだった。

「おお。美しい夕日であるな」

「モォ」

　虎一郎は腕を組みながら夕日を眺めると、生前の事を思い出しながら呟つぶやいた。

「父上と共に戦場いくさばで先陣を切った……。だが槍は折れ……、鉄砲に撃たれ……、私は……」

「モォォ」

「はっはっは。お菊よ、お前は話を聞いてくれているのか」

「ブルルル」

「武士を生業なりわいとする家に生まれ、５００年後に畑を耕すとは、なんという運命か」

　虎一郎は夕日を見ながらお菊を頭を撫でると、お菊は気持ち良さそうに頭を下げた。

「お菊、明日から宜しく頼むぞ」

「モォオ」

「はっはっは、良い子だ」

　虎一郎はそう言ってお菊を軒下のきしたの柱につなぐと、家に入って敷しきっぱなしの布団ふとんに横になった。

　バフッ

「今日は色々あったな。愛芽めめ殿、カイト殿、ユメ殿、ジロウ殿、……ええとコスギに妖術使い。そしてお菊」

　虎一郎は窓から夕日が沈んてゆくのを眺めていると、次第に外は暗くなっていった。

「今日はもう寝るとしよう。それにしても、この国は摩訶不思議だが面白い国であるな……。明日は何が起こるのか……」

　虎一郎は掛け布団を引き上げると、笑顔で眠りについた。