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第1話 虎一郎、甦る

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 この小説はすでに公開しております「VRおじいちゃん」の30年後を描いた作品になります。

 こちらの小説だけでもお楽しみいただけますが、VRおじいちゃんをお読みいただけますと、よりお楽しみいただけます。


 ―― 1584年 ――

「はぁっ、はぁっ、やりはもう使えぬか!」

 乱戦の戦場いくさばで1人の武士が奮闘ふんとうしていた。

 その武士、名を虎一郎こいちろうという。

 虎一郎は使い物にならなくなったやりを投げ捨てて刀を抜くと、そばで戦っていた父親に声をあげた。

父上ちちうえ、あれが大将です! ここは私が道をひらきますゆえ、大将首たいしょうくびを!!」

「うむ! 承知した!」

「後はまかもうした父上! ぃやぁぁあああ!」

 虎一郎は鬼神きしんのごとく斬り込むと、敵の兵を次々と倒していった。

「まだまだぁ!!」

 しかしその時、一発の乾いた破裂音が戰場に響いた。

 パン!

「くっ!」

「こ……、虎一郎!!」

 虎一郎は父親の目の前で敵の銃弾じゅうだんに倒れた。

 ◆

 その後、いくさは虎一郎の居た軍の勝利に終わり、虎一郎の父親は虎一郎の亡骸なきがらの前にいた。

「虎一郎……」

 父親は涙を流すと、ひざいて静かに刀を抜いた。

亡骸なきがらを連れて帰る事はできぬ。せめて首だけでも眺めの良いところに……。すまぬ虎一郎」

 ズッ

 虎一郎の父親は虎一郎の首を切り落とすと涙を流しながら抱え上げた。

 そして近くの川へ持ってゆき、綺麗きれいに首を洗った。

「無念……」

 するとその時、近くにかめ風呂敷ふろしきが落ちているのを見つけた。

「あれは……、兵糧ひょうろうを入れていたかめか」

 虎一郎の父親は虎一郎の頭を置いてかめを拾い上げると、丁寧に川で洗い、風呂敷ふろしきで拭き上げた。

 そして虎一郎の首も風呂敷ふろしきで丁寧に拭きあげると、静かに頭をかめの中へ入れた。

「さあ行こう、虎一郎」

 虎一郎の父親はそう言ってかめふたを閉めると、かめ風呂敷ふろしきで包んだ。


 ――――――――――――――
 next : get the status of A4480
 check ...............ok
 sight : 99.8%
 brain : 89.6%
 body : 94.8%

 next : run A4480 (A4480を起動)
 ――――――――――――――

「はっ!!」

 虎一郎は目を覚ました。

 虎一郎は布団ふとんの上に横になっていて、すぐ近くには細身の男性が立っていた。

 細身の男性は笑顔になると虎一郎に話しかけた。

「こんにちはA4480。体を動かせるかい?」

 虎一郎は細身の男性を見上げると口を開いた。

「あなたは……」

「私はVRゲーム、ザ・フラウのエンジニアの矢口。体を動かせるかい? 君は戦国時代に死んでしまったんだ。覚えているかい?」

 虎一郎は矢口の言葉を聞くと目を見開みひらいて手を震わせた。

「父上!!」

 虎一郎は布団から起き上がると、矢口が慌てて虎一郎に言った。

「落ち着いて! 君が死んでから500年以上経っているんだ。信じられないと思うけど」

「500年以上!?」

「そう。君の頭はかめに入れられた状態で山の頂上で見つかったんだ。粘土質の土のおかげかめは完全に密閉され、低い気温も手伝って腐敗ふはいまぬがれてね」

 するとそこへ大柄おおがら風格ふうかくのある男性がやって来て矢口に話しかけた。

「矢口くん、A4480が目を覚ましたようだな」

「会長! はい、会話も出来ます。大谷社長のプログラムで復元が完了しました」

「はっはっは、さすがは大谷くんだ。歳を取ってもおとろえないな」

「はい。大谷社長は我らのあこがれです」

 虎一郎が会長と矢口の会話をいぶかしげな表情で聞いていると、矢口が虎一郎に経緯いきさつを話し始めた。

「A4480。君の頭は発見されてから非公開のオークションにかけられていてね。こちらの会長が落札したんだ」

「おー……、くしょ……?」

 すると会長は虎一郎の横に腰を下ろして尋ねた。

「君、名前は?」

「名は、虎一郎。越中えっちゅう、後藤家の武士だ」

「ほう、それは興味深い。では、この刀に見覚えは?」

 会長は一本の打刀うちがたなを虎一郎に見せた。

「それは、私の刀!」

「君と一緒に埋葬まいそうされていた刀をエンジニアチームがデータ復元したものだ」

 会長は刀を虎一郎に差し出すと、虎一郎は神妙しんみょう面持おももちで刀を受け取った。

「無念だ……」

 それを見た会長は虎一郎に頭を下げると、話しを始めた。

「虎一郎さん、勝手によみがらせてしまって申し訳ない。しかし我々はあなたが楽しく暮らせるよう努力したいと思っている」

「事情がつかめぬ……。どういうことであろうか」

 会長は立ち上がると、エンジニアの矢口が虎一郎に説明を始めた。

「虎一郎さん。あなたの頭部は完全に密閉されたかめに入って死蝋しろう(永久死体)状態で見つかりました」

「頭が……?」

「はい。虎一郎さんの頭部は地下水が豊富な土壌どじょうと低い温度も手伝って、密閉されたかめの中で腐敗ふはいせず、脳の組織も良好な状態で保存されていたんです」

「保存されていた?」

「ええ。そこで我々は最新技術で虎一郎さんの脳組織の記憶をデータに復元して、いま虎一郎さんがここにいるのです」

「……簡単には理解できる話では無さそうであるな」

「そうですね。少しずつ理解して頂ければ」

 すると会長が虎一郎を外へ誘った。

「虎一郎さん、良かったら外へ出てみませんか」

「……うむ」

 会長は虎一郎を外へ連れ出すと、虎一郎は眼前がんぜんに広がる美しい景色に驚いて声をあげた。

「なんと美しい土地だ!」

「虎一郎さん、気に入っていただけましたか。この世界は我々が作ったVRゲームの世界なのです」

「ぶい、あーる……?」

「これは申し訳ない。これも少しずつ理解してもらえれば……」

「そうであるか……。私の不勉強、申し訳ない」

「虎一郎さん、この山とこの家を差し上げます。好きに使ってください」

 ザザッ

 それを聞いた虎一郎は驚いて後ろに下がりながら会長に言った。

「な、なんと! 貴殿きでんはこの土地の殿とのであらせられるか?」

「殿……。そうですね……、この世界すべての所有者と言って良いかもしれません」

 ザッ!

 虎一郎は驚いて膝をついた。

「そ……、そうありましたか。とうとう天下統一てんかとういつげた将軍様が……」

 虎一郎は突然会長にひれ伏すと、会長に言った。

「将軍様、度重たびかさなるご無礼をお許しください」

「虎一郎さん?」

「将軍様、私は何をすればよろしいでしょうか。いくさならばすぐにでも!」

「ええと……、虎一郎さん、顔を上げてください」

 会長がそう言うと、虎一郎は顔を上げた。

「虎一郎さん、もういくさはありません。この世界で自由に生きてください」

 虎一郎はそれを聞くと再び会長にひれ伏して答えた。

「恐れながら将軍様。私は武士でございます。いくさが無ければ能がございません……」

「そうですか……。では虎一郎さん、この山で畑をたがやしてみてはいかがでしょうか。この辺りの土地は作物が良く育つのです」

「は……、ははっ、承知いたしました。この虎一郎、この山を素晴すばらしい土地にし、沢山の作物を将軍様へお届けしましょう」

「わ……、わかりました。ではお願い致しましょうか」

「おまかせください、将軍様!」

 こうして虎一郎のVRMMO生活が始まったのだった。
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