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40話「新しい仲間」
しおりを挟む焚き火を囲みながら、顔を合わせていた一同。
「まったく。ニケは、防御魔法を使っていても、私を守るのだな」
先のたたかいで、矢を弾くためだけにミーチェの前に入ったことを怒っているようだ。
「へへ、師匠になにかあったら困るからな」
ニケは、頭を掻きながら答えた。
馬鹿者がっとミーチェは呟くと、アンデットの方へ振り向いた。
「ついてくるなら、名前を知っておかねばな」
アンデットに声をかけるミーチェ。
「そうだな、流石に名前がわからないのは困る」
頷きながら、ニケが言った。
それを聞いていた、アンデットはフードをとった。
そこには、セミロングの茶髪、大きく見開かれる目、顔立ちはニケより少し上だろうか。
「わ、私は、アシュリーって言います……家名は……あれ?思い出せない……」
「記憶の欠損やもしれんな」
右手で頭を押さえるアシュリーに、ミーチェは言うのだった。
「記憶の欠損?」
「そうだ、死んだときの衝撃で記憶がなくなったのでは?」
ミーチェがそういうと、アシュリーはたしかにっとつぶやいていた。
「まぁ、名前がわかればいいんじゃない?」
呑気にシロを撫でながら、ガリィに突かれるニケが言った。
「そうだな。追々思い出すやもしれん。そのときに聞けばよい」
そういいながら、ミーチェは焚き火の前へと立った。
「私は、西の魔女、ミーチェ・クリスタだ」
腰に手をあて、上から目線にミーチェは言い放った。
それを見ながら、ニケはなんだあれっと思っていた。
「に、西の魔女……ッ!?」
何気に、西の魔女っというのは有名な肩書きのようだ。
アシュリーは口に右手を添えると、有名人でもみたかのような反応だった。
「なぁ師匠。西の魔女って肩書き、すごいのか?」
「ん?すごいもなにも、王からもらった肩書きだぞ?」
「王からもらうって……すごいんだな」
肩書きの重要性が、わからないニケ。
「お、王からもらうってことは、それなりに実績があるってことですよ!」
それを聞いたアシュリーが、身を乗り出しながらニケに言い寄ってきた。
「近い近いッ!!!」
アシュリーの顔を押しやるニケ。
「次は、お主が言う番だぞ?」
「わかってるよ。俺の名は、ニケ・スワムポール。そこにいる、西の魔女さんの弟子さ」
ちょっと鼻を高そうに言い張るニケに、ミーチェは笑いながら問いかけた。
「弟子なのに、魔法はなかなか覚えぬがな」
「勉強する時間がないの!覚えてる!時間がないの!」
重要だから2回言ったっとニケはつぶやいた。
そこに、アシュリーが問いかけた。
「お、男の人なのに、魔法が使えるんですか?」
「そのようだ、魔法以外にも錬金術と召喚術を使えるようでな」
ミーチェが、つまらなそうに答えた。
「さて、自己紹介を終えたことだ。歓迎するぞ、アシュリー」
手を伸ばすミーチェ。
「あ、ありがとうございます。西の魔女様と、旅ができるなんて光栄です」
深く頭を下げながら、アシュリーが手を伸ばした。
二人が、笑顔で握手するのをニケはシロに乗っかりながら眺めていた。
「なんか、扱い違うくね?なぁ、シロ」
シロは、興味なさそうにあくびをしていた。
「あ、相変わらずだな……」
あくびをするシロを見ながら、ニケもあくびをした。
焚き火が消えかかってきた。
「さて、朝食としようか」
「やっとかぁ。待ってました!」
「あ、あの。私は、いらないのでお構いなく」
アシュリーは、おどおどしながら小さく頭を下げた。
「お腹すいてないの?」
「馬鹿者、アンデットは基本なにも食わぬ」
ニケの問いかけに、ミーチェはため息をつきながら答えた。
「え、そうなの」
アシュリーを見ながら、ニケは申し訳なさそうに頭を掻いた。
どうやら自分がアンデットだということを、アシュリーは理解しているようだった。
ミーチェが、魔編みの鞄からパンなどを取り出す。
干し肉をちぎり、塩を塗しパンに挟む。
それを、消えかかっている焚き火の上に浮かせて見せた。
「すげぇ。これも魔法なのか?」
宙に浮く干し肉の挟み込まれたパンを見ながら、ニケは興味が沸いたようだ。
「これは、魔線の応用だ」
「物体に魔力を流しこんでいるってこと?」
「そうだ。それに応じて、物体を引っ張ったり持ち上げたりできる」
胸を張りながら、ミーチェは語りだした。
「これは、初心のうちに習うものだ。覚えておくが良い」
「わぁ、すごいですね」
ミーチェの講義を聴きながら、アシュリーは目を輝かせていた。
「そういえば、アシュリー。お主の職業はなんなのだ?」
「あ、冒険者のですか?」
「そうだ、見たところ特徴がないのでな」
「師匠。特徴ないとかひどい」
ニケの野次に、ミーチェは少し悩んでから呟いた。
「ふむ。なら言い直そう、武器などを持ってないのが気になったのだ」
「冒険者のときは、『バーサーカー』って呼ばれてました」
『バーサーカー』――とりあえず、強い。ニケはそれしか説明できなかった。
正確に言うと、「怒り狂う」という解釈が多いらしい。
俗に言う暴れん坊。
「ほほう?となると、ユッケル村の者ではないのだな」
驚くニケを横目に、ミーチェは冷静に解析していた。
「あ、はい。私は『ムグル』の出身です」
『ムグル』――亜人が、人間と共存を望んで出来上がった街。エルフ、ダークエルフなどの森に住まう亜人族が多いらしい。ミーチェが、後にニケに後付するかのように説明していた。
「ムグルか、ガリム地方の密林に位置する街であったな」
「そうです、あそこに比べたらこっちは涼しいですね」
私、アンデットなのでわかりませんがっと、小声で言うアシュリー。
「では、なぜこちらにおるのだ?それと、なぜアンデットになったのか」
「わ、私たちは協会のことを調べていました。その途中……暗闇の中襲われて、気がついたら……」
ニケは、いろいろあったんだなぁと思っていた。
呑気な顔をするニケに、シロは尻尾を当てていた。
まじめな話をしておるのにっと、ミーチェは頭を抱えた。
一方、なにがどうなっているかわからないアシュリー。
旅は、仲間が加わり楽しくなっていく。
「協会が、この辺に居座っているのはわかった。だが、私達は王都を目指す。お主も来い、アシュリー」
ミーチェが差し出す手を握りながら、アシュリーは微笑むのだった。
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