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31話「村荒らし」

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 川辺を歩く一同。

「ニケよ。お主は、具体的にどういう魔法を覚えたいのだ?」

 歩きならがらミーチェは、シロと遊びながら歩くニケに聞いた。

「どういう?そうだな、かっこいいやつがいい!」

「っはは、なんだそれは」

 ミーチェは、笑いながら前を向いた。

「でも、シロと契約して思ったんだ。もっと、別の魔物とかとも契約してみたいって」

「シロは、神獣だぞ?」

「そうだった」

 シロは、あくびをしながら歩いていた。
 それに釣られ、ニケもあくびをしていた。

「もうすぐ村だ、帰りは何事もなくてよかったな」

「確かに、目線もにおいもなんもなかったね」

 シロを撫でながら、ニケは答えた。
 シロは、うれしそうに尻尾をぶんぶん振っていた。
 それを見ながらミーチェは、まるで犬だなっと呆れた顔をして言った。

「神獣も犬扱いされると、犬みたいになってしまうのだろうか」

「んー、どうなんだろうね。でも、シロ可愛いだろ?」

「っう……そこは何も言わん」

 ミーチェは、少し顔を赤くしながら歩き出した。
 一同は、森を抜け来るときに持ち出した布袋を回収した。

「さて、村へ行こう。食料があると思うからな」

「朝からなにも食ってないから、俺もう腹ペコだぜ」

 そういいながら、お腹を撫でるニケ。

「そういえば、召還獣ってメシ食わないのか?」

「召還獣は基本、主人から魔力を吸い取って生存している。簡単に言えば、お主が魔力切れで倒れたらシロは指輪に戻ってしまう、ということだ」

「そういうことか」

 村へ続く丘をのぼり始めるミーチェ。
 その後ろを、ニケとシロが続く。

「ふむ。まだ魔物たちは、村へ入り込んではおらんようだな」

「村に入り込む?どういうことだ?」

「村には、人がおるだろう?魔物は人を恐れ、なかなか人里には姿を現さないのだ」

「なるほど。つまり人がいなくなった村は、安全だと思って入り込むってことか」

「そうだ」

 返事をすると、ミーチェは丘を下り始めた。

「シロ、先に村の中見てきて」

 念のために、シロを村の偵察に向かわせるニケ。
 シロは小さくほえると、ミーチェを追い越し村へと消えていった。

「召還獣の扱いに、慣れてきたようだな」

「そりゃ。一緒にいる時間が長いからな!」

 えっへんと胸を張るニケ。
 鼻で笑い、歩みを進めるミーチェ。
 ちょうど日が真上から、傾き始めたところだった。
 村に入ると、昨日の焼死体が消えていることに気がついた。

「師匠。家に戻るとき、ここに転がってた死体がなくなってる」

「不自然だな。何者かが、この村に入ったのだろう」

 ニケとミーチェは、広場に向かい足を進めた。
 広場は特に変化がなく、広々としているだけだった。

 アォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!

 シロの遠吠えが、聞こえた。

「露天市の方からか。何があるかわからん、準備しておけ」

「わかった」

 ニケは左手に魔力を流し込む。
 左手が光を帯びた。
 光はそのまま、刀の形に変形した。
 左手を握ると、刀が練成される。
 練成に掛かった時間は、2秒。

「ふむ、早くなったな。では、シロのもとへ参るとしようか」

 広場の西口から、走って露天市へと向かう。
 露天市につくと、シロが5体のレッドキャップに囲まれているところだった。

「あれはまずいな。ニケ、前衛を頼む」

「わかったッ!!!」

 ニケは、シロのもとへと駆け出す。
 低姿勢で刀を突きたてながら。
 そのまま、こちらに背を向けていたレッドキャップの背中に突き刺す。
 レッドキャップたちが、一斉にこちらを向いた。
 ニケは、刀を横に薙ぎ払いながら引き抜いた。
 血しぶきがあがる。
 レッドキャップたちが、こちらに2体詰め寄ってくる。
 シロのところにも2体。

「″水よ我が元へ来たれ、その力を持って敵を打ち倒せ″ウォーターハンマー!」

 ミーチェが、魔法を詠唱する。
 ニケは、右手に刀を持ち変え双線を引く。

「綴る″雷電よ、我に力を、衝撃と共に敵を弾け″雷電の咆哮!」

 ミーチェの魔法が、シロを取り巻くレッドキャップの頭上に展開される。
 魔方陣が展開され、魔法が発動する。
 水の塊が生成され、レッドキャップ目掛け勢いよく地面に叩きつけられる。
 ニケは、左手に魔方陣が展開されると、刀で右側のレッドキャップに切りかかる。
 レッドキャップは斧で、刀を受け止める。
 そこに左手をむけ、魔法を放つ。
 レッドキャップは吹き飛ばされ、冒険者ギルドの壁に叩きつけられた。
 シロは、障壁を展開すると地面に伸びているレッドキャップを無視し、もう1体のレッドキャップにたいあたりをした。
 仰け反るレッドキャップに対し、大きく腕を振り下ろし爪跡をつける。
 レッドキャップの腕はえぐられ、血が滴っている。
 どうやら斧は重いようで、片手では持ち上げれないようだ。
 シロは、距離をおくと咆哮を放った。
 吹き飛ばされたレッドキャップは、頭から壁に突っ込み首が変な角度に折れ曲がって動かなくなった。
 ニケに対し、斧を振り上げたレッドキャップが襲い掛かる。 

「あっぶね!あたったらどうすんだよッッッ!!」

 振り下ろされた、斧を回避して刀を切りつける。
 カンッ!カンッ!斧で刀を受け止めるレッドキャップ。

「右手しか見てないと危ないよッッ!!!」

 大きく刀を切り上げ、左手でレッドキャップの腹部にパンチをいれる。
 左手が離れる前に、魔法を放つ。
 ゼロ距離から放たれる雷電の咆哮。
 レッドキャップは、内臓が爆ぜ、血を噴き出しながら吹っ飛ばされた。
 ニケは、ミーチェの魔法で気絶したレッドキャップのもとまで行き、首を切り落とした。

「これで終わりかな」

「もう近くにはおらんようだな。そこの肉の並んでいる店に、お邪魔させていただくとしよう」

 ミーチェは、店先に干し肉などがならぶ店を指差した。
 ニケは、うなずくと店の中へと入って行った……。
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