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13話 伝説の魔法使い
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「リリアさんが規格外なのは分かっていましたが、貴女様の弟子だったとは……。しかしまさか、魔法以外の方法で勝つとは夢にも思っていませんでしたわ」
「いいやフィデス、あれはれっきとした魔法だぞ?魔力を身に纏い、強化する。接近戦を苦手とする魔法使いの弱点を補う魔法で……」
「分かりました、もう十分です。勝ったのですから、もう何でも良いです」
私の目の前で、アロウとフィデスが話している。
話し方からして知人なのだろう、なにやら親し気だ。
「……さて、私達はイレックスを保健室まで連れて行きます。戻るまで、皆さんは休憩です」
フィデスはそう告げて、意識のないイレックスを担いだ白ローブの集団と共にこの場を去った。
魔法で浮かせればいいのに、なんて思いながら見ていると、体に小さな衝撃が当たった。
「リリアちゃん、すっごーい!あの嫌味な人を倒しちゃうなんて!」
「あ、ありがとう、フォルティア」
その衝撃の正体はフォルティアだった。
彼女が私に抱き着いてきたのである。
「スキルなしって聞いた時はびっくりしたけど、これだけ強かったら誰も何も言えないよ!すごいよ、リリアちゃん!」
「……うん。ありがとう、フォルティア」
フォルティアの反応に、私は表情が柔らかくなる。
――スキルなしと知ってこんなに好意的なのはいつぶりだろうか。
パトリアの街で私がスキルなしと知っているのは、ユーリとシルワ、後はサーヤくらいだ。
その三人は、私がスキルなしと知っても尚好意的だったが、全員がこうではない事を私は知っている。……他の街の人達は、私がスキルなしと知った途端、顔を歪めたのだから。
だからこそ、フォルティアのこの反応は新鮮で、とても有難い。
嬉しい気持ちを噛みしめていると「リリア」と声を掛けられた。
その声の主は我が師匠――アロウだった。
「用事があるから私は先に帰る。帰り道は覚えてるな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ならいい。じゃ、気を付けて帰ってくるんだぞ」
そう言いながら、彼女はひらひらと手を振って行ってしまった。
「あの人、リリアちゃんのお母さん?」
「おかっ……私の師匠だよ」
「え、お師匠様がいるの!?リリアちゃん、すごーい!」
――師匠がいるのはすごい事なのか?
少し疑問に思いつつ、こちらを褒めてくれるフォルティアに笑顔を返した時だった。
「おい」
「え?」
後ろから声を掛けられ、フォルティアに抱き着かれたまま振り返る。
そこには、金髪の少年――レオがいた。
「あ、レオ・レベリオ君だっけ。何?」
「お前、師匠がいるんだな」
「うん、そうだけど」
「名前は?」
「……アロウ、だけど」
「……ハァ?」
こちらを試すように質問をしてきたレオに、少し警戒をしながら答えた。
すると彼は怪訝な顔をして、俯く。
「……プッ」
「?」
「……あっはっはは!」
突然大声で笑い始めたレオに、私は少し体を震わせて驚いてしまう。
――いきなりなんなんだ?
そう思ったのは私だけではなかったらしい。
この場にいる子供、全員がレオに注目し始めた。
「アロウだって!?アロウってのは、伝説の魔法使いの名前だぞ!?お前、騙されてるんじゃねぇの?」
「は?」
――騙されている?私が?
レオの言葉を頭の中で反芻するが、余計に混乱してしまう。
なぜそういう話になるんだろう?
困惑している私をレオは鼻で笑い、話を続けた。
「ハッ、騙されてる事も知らずに魔法学校へ入学するなんて、かわいそうな奴!アロウなんて存在しない伝説に踊らされてるお前みたいな奴が、魔法使いになれる訳――」
「そこまでです」
レオの話を遮るような、芯の通った声が聞こえた。
その声は特別大きいわけでもないのにとても良く響いた。
レオが驚いた顔で「フィデス校長」と呟いて、私の背後を凝視している。
釣られて振り返ると、そこにはフィデスが立っていた。
その顔からは、短い付き合いしかしていない私から見ても静かな怒りを感じる。
「レオ・レベリオ。この騒ぎは一体?」
その声を聞いた私は、正直かなりビビった。……これ多分、相当怒っている。
彼もそれを感じ取ったのだろうか、レオは少し引き気味になりながらも返事をした。
「あ、その……コイツの師匠の話を聞いていました」
「そうですか。しかし、彼女の師匠の話を聞いただけでこの様な騒ぎが起きるとは思いませんが?」
「え、あ、いや」
口ごもるレオに、フィデスは溜息を吐いた。
そんな彼女の態度に、レオは更に焦った様子を見せる。
……怒られるのが嫌なら、こんな騒ぎ起こさなければいいのに、と冷静に考えているのは、この中で私だけだろう。
「レオ・レベリオ。貴方は先程、アロウという伝説の魔法使いは存在しない、そう仰っていましたね?」
「え?あ、はい。アロウなんて、大人の作った作り話ですから」
「それは間違いです」
「……え?」
ハッキリとした否定に、思考が停止したかの様にレオは固まった。
「伝説の魔法使い、アロウ様は確かに存在しています。先程私が話していた、赤毛の彼女がアロウです」
「は……?」
フィデスの言葉が理解できないのだろう、レオは呆けている。
しかし、彼女の話はそれでは終わらない。
「彼女は魔法に関して人類に多大な貢献をし、この魔法学校の設立にも関わった。……その彼女は、確かにそこにいるリリアさんの師匠でもある。校長である私が保障します」
「……は?この学校の設立に、関わった?そんな……そんな筈、ある訳がない!だって、この学校は――」
「今年で設立六百八十五年になります。それよりも大昔から、彼女は存在するのです」
「そんな訳……!そんなの、あり得るわけない!」
――いや、待て。私も知らない情報が含まれているんだけど。
そんな私の心情を知らないフィデスは、真っ直ぐな瞳をレオに向けたまま、言い放った。
「彼女は存在しています。そして、リリアさんはその伝説の魔法使い――アロウ様が初めて採った弟子なのです」
フィデスのその台詞に、レオの顔が歪んだ。
それを見て、私の顔も歪んだ。なんか、余計な敵を作った感が拭えない。
――学校生活、うまくいくのかな。
重い溜息を吐いた私を、レオが睨みつけ始めて、更に気が重くなってしまった。
「いいやフィデス、あれはれっきとした魔法だぞ?魔力を身に纏い、強化する。接近戦を苦手とする魔法使いの弱点を補う魔法で……」
「分かりました、もう十分です。勝ったのですから、もう何でも良いです」
私の目の前で、アロウとフィデスが話している。
話し方からして知人なのだろう、なにやら親し気だ。
「……さて、私達はイレックスを保健室まで連れて行きます。戻るまで、皆さんは休憩です」
フィデスはそう告げて、意識のないイレックスを担いだ白ローブの集団と共にこの場を去った。
魔法で浮かせればいいのに、なんて思いながら見ていると、体に小さな衝撃が当たった。
「リリアちゃん、すっごーい!あの嫌味な人を倒しちゃうなんて!」
「あ、ありがとう、フォルティア」
その衝撃の正体はフォルティアだった。
彼女が私に抱き着いてきたのである。
「スキルなしって聞いた時はびっくりしたけど、これだけ強かったら誰も何も言えないよ!すごいよ、リリアちゃん!」
「……うん。ありがとう、フォルティア」
フォルティアの反応に、私は表情が柔らかくなる。
――スキルなしと知ってこんなに好意的なのはいつぶりだろうか。
パトリアの街で私がスキルなしと知っているのは、ユーリとシルワ、後はサーヤくらいだ。
その三人は、私がスキルなしと知っても尚好意的だったが、全員がこうではない事を私は知っている。……他の街の人達は、私がスキルなしと知った途端、顔を歪めたのだから。
だからこそ、フォルティアのこの反応は新鮮で、とても有難い。
嬉しい気持ちを噛みしめていると「リリア」と声を掛けられた。
その声の主は我が師匠――アロウだった。
「用事があるから私は先に帰る。帰り道は覚えてるな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ならいい。じゃ、気を付けて帰ってくるんだぞ」
そう言いながら、彼女はひらひらと手を振って行ってしまった。
「あの人、リリアちゃんのお母さん?」
「おかっ……私の師匠だよ」
「え、お師匠様がいるの!?リリアちゃん、すごーい!」
――師匠がいるのはすごい事なのか?
少し疑問に思いつつ、こちらを褒めてくれるフォルティアに笑顔を返した時だった。
「おい」
「え?」
後ろから声を掛けられ、フォルティアに抱き着かれたまま振り返る。
そこには、金髪の少年――レオがいた。
「あ、レオ・レベリオ君だっけ。何?」
「お前、師匠がいるんだな」
「うん、そうだけど」
「名前は?」
「……アロウ、だけど」
「……ハァ?」
こちらを試すように質問をしてきたレオに、少し警戒をしながら答えた。
すると彼は怪訝な顔をして、俯く。
「……プッ」
「?」
「……あっはっはは!」
突然大声で笑い始めたレオに、私は少し体を震わせて驚いてしまう。
――いきなりなんなんだ?
そう思ったのは私だけではなかったらしい。
この場にいる子供、全員がレオに注目し始めた。
「アロウだって!?アロウってのは、伝説の魔法使いの名前だぞ!?お前、騙されてるんじゃねぇの?」
「は?」
――騙されている?私が?
レオの言葉を頭の中で反芻するが、余計に混乱してしまう。
なぜそういう話になるんだろう?
困惑している私をレオは鼻で笑い、話を続けた。
「ハッ、騙されてる事も知らずに魔法学校へ入学するなんて、かわいそうな奴!アロウなんて存在しない伝説に踊らされてるお前みたいな奴が、魔法使いになれる訳――」
「そこまでです」
レオの話を遮るような、芯の通った声が聞こえた。
その声は特別大きいわけでもないのにとても良く響いた。
レオが驚いた顔で「フィデス校長」と呟いて、私の背後を凝視している。
釣られて振り返ると、そこにはフィデスが立っていた。
その顔からは、短い付き合いしかしていない私から見ても静かな怒りを感じる。
「レオ・レベリオ。この騒ぎは一体?」
その声を聞いた私は、正直かなりビビった。……これ多分、相当怒っている。
彼もそれを感じ取ったのだろうか、レオは少し引き気味になりながらも返事をした。
「あ、その……コイツの師匠の話を聞いていました」
「そうですか。しかし、彼女の師匠の話を聞いただけでこの様な騒ぎが起きるとは思いませんが?」
「え、あ、いや」
口ごもるレオに、フィデスは溜息を吐いた。
そんな彼女の態度に、レオは更に焦った様子を見せる。
……怒られるのが嫌なら、こんな騒ぎ起こさなければいいのに、と冷静に考えているのは、この中で私だけだろう。
「レオ・レベリオ。貴方は先程、アロウという伝説の魔法使いは存在しない、そう仰っていましたね?」
「え?あ、はい。アロウなんて、大人の作った作り話ですから」
「それは間違いです」
「……え?」
ハッキリとした否定に、思考が停止したかの様にレオは固まった。
「伝説の魔法使い、アロウ様は確かに存在しています。先程私が話していた、赤毛の彼女がアロウです」
「は……?」
フィデスの言葉が理解できないのだろう、レオは呆けている。
しかし、彼女の話はそれでは終わらない。
「彼女は魔法に関して人類に多大な貢献をし、この魔法学校の設立にも関わった。……その彼女は、確かにそこにいるリリアさんの師匠でもある。校長である私が保障します」
「……は?この学校の設立に、関わった?そんな……そんな筈、ある訳がない!だって、この学校は――」
「今年で設立六百八十五年になります。それよりも大昔から、彼女は存在するのです」
「そんな訳……!そんなの、あり得るわけない!」
――いや、待て。私も知らない情報が含まれているんだけど。
そんな私の心情を知らないフィデスは、真っ直ぐな瞳をレオに向けたまま、言い放った。
「彼女は存在しています。そして、リリアさんはその伝説の魔法使い――アロウ様が初めて採った弟子なのです」
フィデスのその台詞に、レオの顔が歪んだ。
それを見て、私の顔も歪んだ。なんか、余計な敵を作った感が拭えない。
――学校生活、うまくいくのかな。
重い溜息を吐いた私を、レオが睨みつけ始めて、更に気が重くなってしまった。
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