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14話 嫉妬(※R15)

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 広い背中にかかる長い黒髪。その後姿を見て、私は走りながら叫んだ。

 「――朱里っ!」
 「……マリ」
 
 私に呼ばれた朱里は振り返った。その顔にはまだ怒りが浮かんでいる。
 私は朱里の目の前まで走った。上がった息を整えると、背の高い彼を真っ直ぐに見上げた。

 「朱里、ごめんね。私――」
 「聞きたくない」

 (……え)

 謝る私の言葉を遮り、朱里がピシャリと言い放つ。そして私に背を向けると、そのまま歩き出した。
 私は彼の言動にショックを受け、動けずにいた。

 (このままで、良いの? また、さっきみたいに朱里が何処かへ行って、また見送るだけ?)

 ――そんなの、嫌だ。
 私は走り出した。その背中目掛けて走って、そしてその背中目掛けて抱き着いた。ドンっと鈍い音がして少し痛かったけれど、朱里はびくともしない。・ただ、彼は立ち止まって驚いた様に私を見下ろしている。

 「マ、マリ?」
 「……かないで」
 「え?」
 「行かないで」

 不安そうに私の名前を呼んだ彼に、私は震えた声で言う。嫌わないで欲しいとか、仲直りしてほしいとか、考えていた台詞が飛んだ。ただ、どこにも行かないでほしかった。

 (ダメ、泣きそう)
 
 じわり、視界が歪み始める。私は鼻を鳴らしながら、彼の厚い胸板に顔を埋めた。暫くの間、私のすすり泣く声だけが辺りに響いた。
 ……先に動き出したのは、朱里だった。

 「――ごめん」
 「……え?」

 朱里の声と同時に、私は強く抱きしめられた。痛い位に強い力で抱きしめられ、私は困惑しながら考える。

 (なんで朱里が謝るの?)

 私は思っている事を口にした。・

 「どうして朱里が謝るの? 悪いのは赤鬼と出かけた私なのに……」
 「あー、なんで俺が怒ってたのかバレてんだ。恥ずかしいな」

 抱きしめる力を弱めた彼は、言葉通り恥ずかしそうに頬を掻くと、少し顔を歪ませて話し始めた。

 「俺さ、嫉妬してたんだ。マリは俺の花嫁なのに、他の男と二人で出かけちゃうからさ」
 「ご、ごめんなさい」
 「……いや、仕方ない。マリにとっては鬼は鬼でしかない、そこに性別なんて感じられないだろ? 仕方ない、分かってたはずなんだ。……でも、俺気付いちゃったんだ。俺、俺以外の奴とマリが楽しそうにしてるの見るの、ダメみたい。それが女でも」
 「え……」

 (なんかすごく、嫉妬してくれてる?)

 話してくれている朱里の顔は、自分への羞恥に染まっている。嫉妬している事が恥ずかしいのだろう。その事実に体が熱くなる。

 (そっか。……そっかぁ)

 私は嬉しくなって、朱里にぎゅっと抱き着いた。彼は驚いた様に私の名前を呼びながら私の体を受け止めた。

 「ごめん、ごめんね。私、朱里が嫉妬してくれてるのが、すごく嬉しいの」
 「……そ、そうなの?」
 「うん。だって、それだけ私に執着してくれてるんでしょ? すごく嬉しい」
 
 そう言って私は彼を抱きしめる腕に力を込めた。私がどれだけ喜んでいるか、喜びが伝わって欲しいから。
 私の言葉に彼の息を飲む音が聞こえた。

 「……俺、マリに執着していいの?」
 「うん、良いよ。だって将来の旦那様なんだもの」
 「……だ、旦那様……!」

 嬉しそうな首里の声が頭上に降りかかる。見上げると、彼の顔は赤く、瞳はキラキラと輝いていた。

 (? なんでこんなに嬉しそうなんだろ)

 私は首を傾げながら彼の整った顔を見上げた。私に見られていると気付いた朱里はハッとして、表情を引き締めた。なんでか、真剣な顔をしている。

 「? 朱里、どうしたの?」
 「……マリ」
 
 真剣な顔と声で私の名を呼び、彼は屈んだ。私と同じ高さの目線になると、彼はそのまま私に顔を近づけた。

 (……え?)

 近いと思った瞬間、彼の唇が私の唇を奪っていた。キスされた、そう気付いた瞬間、幸せに包まれた感覚が私の全身を包んだ。
 唇を離した朱里は、真剣な顔を赤くさせたまま話し始めた。

 「マリ。俺、マリの事、世界一大切にする。……その代わり、執着させて欲しいし、嫉妬もさせて欲しい。マリは俺だけのマリでいて欲しい。マリを笑わせるのも泣かせるのも、セックスするのも俺だけがいい。――もし他の男に靡いたら、俺、マリが失神するまで抱いて、マリの事ぐちゃぐちゃにするから」
 「っ、んっ」
 
 ……最後の台詞は、耳元で囁かれた。

 (そんなえっちな事、耳元で言われたらっ……!)

 私のおまんこがじゅわっと愛液を放出したのを感じた。思わずもじもじと足を動かせば、目ざとく気付いた朱里が意地悪く笑った。

 「もしかして、今ので感じたの?」
 「っ……う、ん」

 (は、恥ずかしい……!)

 朱里に言い当てられ、カァっと顔が熱くなる。そんな私を見下ろしながら、「そういえば」と朱里は続けた。

 「今日なんで赤鬼と出かけたの?」
 「えっ?」
 「何か欲しい物でもあった? それだったら俺が何でも買ってあげたのに」

 頬を膨らませ、怒ったように朱里が言う。その姿は可愛らしいが、私はとある事実に焦り始めた。

 (……言えない! えっち中の朱里が余裕そうだから強力な媚薬を買いに行ったなんて言えない!)

 「え、ええと……内緒」
 「……マリ?」

 私の返答に、朱里の瞳が細くなる。まずい、これは本気で怒らせてしまう一歩手前だ。
 本当の事を言うしかない。そう思った私は、恥も承知で告げた。

 「え、えっち中の朱里がなんだか余裕そう? っていうか、なんだか本気出してない気がしたから……強力な媚薬を、買いに行ってました」
 「……ふぅん? 俺が余裕そうで本気を出してない、ねぇ?」

 朱里の低い声が耳に届く。まずい、余計に怒らせてしまった?
 私は彼が何を考えているか分からなくて、ただ怯えながらその行く末を見守った。……その結末は、意外な物だった。

 「マリ」
 「はっ、はい!」
 「……鬼ってさ、めちゃくちゃ性欲の強い生き物なんだよね」
 「……はい?」

 返ってきた言葉に、私は間抜けな声を出した。

 (そりゃあ、毎日の様にえっちしてるし、性欲強い事なんて知ってるけど……?)

 「知ってるけど、それがどうかしたの?」
 「あ、知ってたんだ? ――じゃあ、俺がセックスの回数抑えてたのもバレてた?」
 「……は?」

 (今この男、何て言った?)

 「セックスの回数を抑えている」。朱里は確かにそう言った。先程も言った様に私達は毎日の様にセックスをしている。だから性欲が強いと思っていたのだ。しかし、今この男は何と言った?

 「え、えっと、朱里? それって、どういう……」
 「そのまんまの意味。鬼の男って、基本絶倫なんだよね。正直、一日の内で何回もできちゃうの。でも、人間の体って弱いでしょ? だから基本一回、やっても二回って赤鬼達と決めてたんだよねー」

 そこまで言った朱里は「でも」と続けると、いきなり私を横抱きにした。そして端正な顔を近づけると、甘い声で囁いた。

 「――マリが酷くしていいって言うなら、もっとしてあげる。マリのおまんこが馬鹿になるまで、ぐっちゃぐちゃにしてあげる」
 「っ、ひぁ」

 (もう馬鹿になってるよぉ!)
 
 低い朱里の声に、おまんこがきゅんと締まった。
 私を横抱きにしたまま、彼は屋敷内を歩く。女中の鬼からは「ラブラブねぇ」なんて声をかけられるも、私はもうそれどころじゃなかった。

 (――早く朱里とえっちしたい)
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