8 / 23
8話 嫌われたくない(※途中朱里視点)
しおりを挟む
帰省をしてから、朱里の様子がおかしい。
まず、スキンシップを取らなくなったし、話をしなくなった。……つまり、それ以上の行為であるセックスも全くしなくなった。
寂しくなって何度も部屋に押し掛けるも「寝る」と言われ、部屋を追い出される。そんな日々が続いていた。
朱里の様子がおかしい事に気付いていたのは私だけじゃない。赤鬼や青鬼もだ。彼等は私の部屋へ押しかけ、今畳の上に座っている私の目の前で跪いている。
「何があったんですか、お嬢」
「何が、って言われても……」
私は過去の記憶を引っ張り出す。朱里の様子がおかしくなったのは、我が妹の言葉を聞いてからだ。
――「……なんで? なんでこんな鬼とお姉様が結婚しなきゃいけないの!? こんなの、ただ見てくれが良いだけの化け物じゃない!」
(……酷い言葉だ。確かに、言われたら傷つく。でも、それと私を避けるのに何の関係があるの……?)
私はため息をついて、赤鬼達に説明した。帰省中、お父様と話しているときに妹が酷い言葉を言った事、その後から様子がおかしくなった事を。赤鬼達は腕を組み「ふむ」と考えると、こちらを真っすぐに見て言った。
「……もしかしたら、という予想はありますが、確実じゃない。俺達、若様に聞いてきますよ」
「えっ、いいの?」
「もちろんでさぁ。お嬢と若様が仲良くしてくれないと、俺達が困るんだ。なぁ?」
「っす」
おちゃらけた風に、でも優しく笑う二人に少し涙が浮かんだ。この二人はなんて優しい鬼だろうか。いつもいつも、私達の事を思ってくれている。
私は涙を拭って笑った。
「いつもありがとう、二人とも。ごめんね」
「お嬢が謝る事ありません! ……というか、うじうじしてる若様が悪いんだよなぁ」
「え?」
「いえ、こちらの事です。……じゃ、俺達、行ってきますから」
そう言って二人は一礼して部屋を出て行った。
*
(※朱里視点)
「若様、入りますぜー」
そんな声が掛けられ、襖が開いた。寝転んでいる俺は視線だけを動かし、赤鬼達を見た。
「何の用だ?」
「本当は分かってんでしょ、何の用かなんて」
呆れたようにそう言ってから、赤鬼と青鬼は畳の上へと座った。俺は溜息をついて、上半身を起こし、胡坐をかいた。
「お嬢の事、無視してますよね?」
真っすぐな赤鬼の質問が俺の心を抉る。俺はまた溜息を吐いた。
(コイツには「でりかしー」ってもんがないのか)
「……だから? お前達になんか関係があんのか?」
俺は思わずだるそうに言ってしまう。すると赤鬼達は一斉に溜息を吐いた。主人にむかってなんだ、その態度は。
赤鬼が「あのですねぇ」と少し怒ったような声で言う。
「若様、俺達は若様とお嬢の間に子供を授けさせなきゃいけねーそれはもう大事なお役目があるんです。二人が仲違いして子作りしねーってんなら、他の人間の花嫁を貰ってこなくちゃいけなくなる」
「っす」
「は? 他の人間の花嫁?」
赤鬼の言葉に俺は顎が外れたかのように驚く。……他の人間の花嫁と、取り換えられる? マリが、ここからいなくなる?
(――そんなの嫌だ!)
「――そんなの嫌だ!」
俺はいつの間にか立ち上がって、思っていた事を口にしていた。今の俺は必死だ。だって、大切にしている女性がいなくなるかもしれないんだから、当然の事だ。
焦っている俺を見上げて赤鬼は冷静に言い放った。
「じゃあなんでお嬢を無視してるんですか。理由によっちゃ、怒りますからね、俺」
「うっ……分かった、話すよ。怒るのは勘弁だ」
俺は折れた。正直話したくないけれど、花嫁を交換されるとなったら話は別だ。
俺は浅く深呼吸をして、口を開いた。
「……『ただ見てくれが良いだけの化け物』。そう言われてさ、やっと気づいたんだよ。ああそっか、俺って人間の姿してるけど鬼なんだよなーって」
「今更じゃないですか」
「そうだな、今更だ。……でもさ、マリからしたらどうなんだろうって。怖かったんだ、マリに俺が化け物だって気付かれたんじゃないかって。本当は俺に触れられるのが怖いんじゃないかって。……怖くなったんだよ、マリに嫌われるのが」
胸の内を話せば、じんわりと涙が浮かんだ。
(俺はマリに嫌われるのが怖いんだ)
その思いに気付いた瞬間、腑に落ちた。なぜ俺がこんな行動をとっているのかを。自分の思いなのに、全然気づかなかった。誰かに話してやっと気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろうか。
赤鬼もそう思っているらしい、溜息を吐くと呆れた声で言った。
「若様。アンタがそんな馬鹿だったとは思いもしなかったぜ」
「ああ、馬鹿だ、俺は。話してやっと気づいたんだから、マリに嫌われたくないからこんな行動をしていたなんて」
「ハァ? そうじゃねーよ。お嬢がそれだけでアンタを嫌いになるはずないって話だ」
「……え?」
俺は俯いていた顔を上げた。そこにはやはり、声の通り呆れた顔の赤鬼がいる。
「あのなぁ、若様。これだけ体を重ねて、これだけ言葉を交わした相手を『化け物だ』って言われただけで嫌いになるはずないでしょう」
「え……で、でも。俺と体を重ねていたのは家のためで――」
「俺にはお嬢がそんな女には見えませんがね」
俺の言葉に重ねて、赤鬼は立ち上がった。そして共に立ち上がった青鬼と共に襖に手をかけると、最後に振り返った。
「俺は、お嬢は芯のある人間に見える。自分の好きな事をして、曲がった事は嫌う。そんな良い女に見えるけど、若様は違うんですかい?」
「……俺は……」
「……まぁいいや。若様! お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」
そう言って二人は一礼して去っていった。残された俺はただ立ち尽くして、畳へ視線を落とした。
――「お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」
(寂しがっている? ……本当に?)
本当にそうなら、どれだけ嬉しいだろうか。俺は赤鬼の言葉を信じる事にした。
俺は部屋の襖を開け、走り出す。将来夫婦となるのに、俺とマリの部屋は離れている。
(赤鬼に言って、部屋割りを変えてもらわないとな……っ!)
走っていれば、驚いた様子の女中達とすれ違う。ぶつかりそうになりながら、俺は真っすぐにマリの部屋を目指した。
まず、スキンシップを取らなくなったし、話をしなくなった。……つまり、それ以上の行為であるセックスも全くしなくなった。
寂しくなって何度も部屋に押し掛けるも「寝る」と言われ、部屋を追い出される。そんな日々が続いていた。
朱里の様子がおかしい事に気付いていたのは私だけじゃない。赤鬼や青鬼もだ。彼等は私の部屋へ押しかけ、今畳の上に座っている私の目の前で跪いている。
「何があったんですか、お嬢」
「何が、って言われても……」
私は過去の記憶を引っ張り出す。朱里の様子がおかしくなったのは、我が妹の言葉を聞いてからだ。
――「……なんで? なんでこんな鬼とお姉様が結婚しなきゃいけないの!? こんなの、ただ見てくれが良いだけの化け物じゃない!」
(……酷い言葉だ。確かに、言われたら傷つく。でも、それと私を避けるのに何の関係があるの……?)
私はため息をついて、赤鬼達に説明した。帰省中、お父様と話しているときに妹が酷い言葉を言った事、その後から様子がおかしくなった事を。赤鬼達は腕を組み「ふむ」と考えると、こちらを真っすぐに見て言った。
「……もしかしたら、という予想はありますが、確実じゃない。俺達、若様に聞いてきますよ」
「えっ、いいの?」
「もちろんでさぁ。お嬢と若様が仲良くしてくれないと、俺達が困るんだ。なぁ?」
「っす」
おちゃらけた風に、でも優しく笑う二人に少し涙が浮かんだ。この二人はなんて優しい鬼だろうか。いつもいつも、私達の事を思ってくれている。
私は涙を拭って笑った。
「いつもありがとう、二人とも。ごめんね」
「お嬢が謝る事ありません! ……というか、うじうじしてる若様が悪いんだよなぁ」
「え?」
「いえ、こちらの事です。……じゃ、俺達、行ってきますから」
そう言って二人は一礼して部屋を出て行った。
*
(※朱里視点)
「若様、入りますぜー」
そんな声が掛けられ、襖が開いた。寝転んでいる俺は視線だけを動かし、赤鬼達を見た。
「何の用だ?」
「本当は分かってんでしょ、何の用かなんて」
呆れたようにそう言ってから、赤鬼と青鬼は畳の上へと座った。俺は溜息をついて、上半身を起こし、胡坐をかいた。
「お嬢の事、無視してますよね?」
真っすぐな赤鬼の質問が俺の心を抉る。俺はまた溜息を吐いた。
(コイツには「でりかしー」ってもんがないのか)
「……だから? お前達になんか関係があんのか?」
俺は思わずだるそうに言ってしまう。すると赤鬼達は一斉に溜息を吐いた。主人にむかってなんだ、その態度は。
赤鬼が「あのですねぇ」と少し怒ったような声で言う。
「若様、俺達は若様とお嬢の間に子供を授けさせなきゃいけねーそれはもう大事なお役目があるんです。二人が仲違いして子作りしねーってんなら、他の人間の花嫁を貰ってこなくちゃいけなくなる」
「っす」
「は? 他の人間の花嫁?」
赤鬼の言葉に俺は顎が外れたかのように驚く。……他の人間の花嫁と、取り換えられる? マリが、ここからいなくなる?
(――そんなの嫌だ!)
「――そんなの嫌だ!」
俺はいつの間にか立ち上がって、思っていた事を口にしていた。今の俺は必死だ。だって、大切にしている女性がいなくなるかもしれないんだから、当然の事だ。
焦っている俺を見上げて赤鬼は冷静に言い放った。
「じゃあなんでお嬢を無視してるんですか。理由によっちゃ、怒りますからね、俺」
「うっ……分かった、話すよ。怒るのは勘弁だ」
俺は折れた。正直話したくないけれど、花嫁を交換されるとなったら話は別だ。
俺は浅く深呼吸をして、口を開いた。
「……『ただ見てくれが良いだけの化け物』。そう言われてさ、やっと気づいたんだよ。ああそっか、俺って人間の姿してるけど鬼なんだよなーって」
「今更じゃないですか」
「そうだな、今更だ。……でもさ、マリからしたらどうなんだろうって。怖かったんだ、マリに俺が化け物だって気付かれたんじゃないかって。本当は俺に触れられるのが怖いんじゃないかって。……怖くなったんだよ、マリに嫌われるのが」
胸の内を話せば、じんわりと涙が浮かんだ。
(俺はマリに嫌われるのが怖いんだ)
その思いに気付いた瞬間、腑に落ちた。なぜ俺がこんな行動をとっているのかを。自分の思いなのに、全然気づかなかった。誰かに話してやっと気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろうか。
赤鬼もそう思っているらしい、溜息を吐くと呆れた声で言った。
「若様。アンタがそんな馬鹿だったとは思いもしなかったぜ」
「ああ、馬鹿だ、俺は。話してやっと気づいたんだから、マリに嫌われたくないからこんな行動をしていたなんて」
「ハァ? そうじゃねーよ。お嬢がそれだけでアンタを嫌いになるはずないって話だ」
「……え?」
俺は俯いていた顔を上げた。そこにはやはり、声の通り呆れた顔の赤鬼がいる。
「あのなぁ、若様。これだけ体を重ねて、これだけ言葉を交わした相手を『化け物だ』って言われただけで嫌いになるはずないでしょう」
「え……で、でも。俺と体を重ねていたのは家のためで――」
「俺にはお嬢がそんな女には見えませんがね」
俺の言葉に重ねて、赤鬼は立ち上がった。そして共に立ち上がった青鬼と共に襖に手をかけると、最後に振り返った。
「俺は、お嬢は芯のある人間に見える。自分の好きな事をして、曲がった事は嫌う。そんな良い女に見えるけど、若様は違うんですかい?」
「……俺は……」
「……まぁいいや。若様! お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」
そう言って二人は一礼して去っていった。残された俺はただ立ち尽くして、畳へ視線を落とした。
――「お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」
(寂しがっている? ……本当に?)
本当にそうなら、どれだけ嬉しいだろうか。俺は赤鬼の言葉を信じる事にした。
俺は部屋の襖を開け、走り出す。将来夫婦となるのに、俺とマリの部屋は離れている。
(赤鬼に言って、部屋割りを変えてもらわないとな……っ!)
走っていれば、驚いた様子の女中達とすれ違う。ぶつかりそうになりながら、俺は真っすぐにマリの部屋を目指した。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。


軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる