【完結】泣き虫鬼さんに愛されたい!~乱暴エッチされた次の日に「大嫌い」と言ったら泣かれました~

諫山杏心

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8話 嫌われたくない(※途中朱里視点)

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 帰省をしてから、朱里の様子がおかしい。

 まず、スキンシップを取らなくなったし、話をしなくなった。……つまり、それ以上の行為であるセックスも全くしなくなった。
 寂しくなって何度も部屋に押し掛けるも「寝る」と言われ、部屋を追い出される。そんな日々が続いていた。

 朱里の様子がおかしい事に気付いていたのは私だけじゃない。赤鬼や青鬼もだ。彼等は私の部屋へ押しかけ、今畳の上に座っている私の目の前で跪いている。

 「何があったんですか、お嬢」
 「何が、って言われても……」

 私は過去の記憶を引っ張り出す。朱里の様子がおかしくなったのは、我が妹の言葉を聞いてからだ。

 ――「……なんで? なんでこんな鬼とお姉様が結婚しなきゃいけないの!? こんなの、ただ見てくれが良いだけの化け物じゃない!」

 (……酷い言葉だ。確かに、言われたら傷つく。でも、それと私を避けるのに何の関係があるの……?)

 私はため息をついて、赤鬼達に説明した。帰省中、お父様と話しているときに妹が酷い言葉を言った事、その後から様子がおかしくなった事を。赤鬼達は腕を組み「ふむ」と考えると、こちらを真っすぐに見て言った。

 「……もしかしたら、という予想はありますが、確実じゃない。俺達、若様に聞いてきますよ」
 「えっ、いいの?」
 「もちろんでさぁ。お嬢と若様が仲良くしてくれないと、俺達が困るんだ。なぁ?」
 「っす」
 
 おちゃらけた風に、でも優しく笑う二人に少し涙が浮かんだ。この二人はなんて優しい鬼だろうか。いつもいつも、私達の事を思ってくれている。
 私は涙を拭って笑った。
 
 「いつもありがとう、二人とも。ごめんね」
 「お嬢が謝る事ありません! ……というか、うじうじしてる若様が悪いんだよなぁ」
 「え?」
 「いえ、こちらの事です。……じゃ、俺達、行ってきますから」

 そう言って二人は一礼して部屋を出て行った。



 *


 
 (※朱里視点)
 
 「若様、入りますぜー」

 そんな声が掛けられ、襖が開いた。寝転んでいる俺は視線だけを動かし、赤鬼達を見た。

 「何の用だ?」
 「本当は分かってんでしょ、何の用かなんて」

 呆れたようにそう言ってから、赤鬼と青鬼は畳の上へと座った。俺は溜息をついて、上半身を起こし、胡坐をかいた。

 「お嬢の事、無視してますよね?」

 真っすぐな赤鬼の質問が俺の心を抉る。俺はまた溜息を吐いた。

 (コイツには「でりかしー」ってもんがないのか)

 「……だから? お前達になんか関係があんのか?」

 俺は思わずだるそうに言ってしまう。すると赤鬼達は一斉に溜息を吐いた。主人にむかってなんだ、その態度は。
 赤鬼が「あのですねぇ」と少し怒ったような声で言う。

 「若様、俺達は若様とお嬢の間に子供を授けさせなきゃいけねーそれはもう大事なお役目があるんです。二人が仲違いして子作りしねーってんなら、他の人間の花嫁を貰ってこなくちゃいけなくなる」
 「っす」
 「は? 他の人間の花嫁?」

 赤鬼の言葉に俺は顎が外れたかのように驚く。……他の人間の花嫁と、取り換えられる? マリが、ここからいなくなる?

 (――そんなの嫌だ!)
 「――そんなの嫌だ!」

 俺はいつの間にか立ち上がって、思っていた事を口にしていた。今の俺は必死だ。だって、大切にしている女性がいなくなるかもしれないんだから、当然の事だ。
 焦っている俺を見上げて赤鬼は冷静に言い放った。

 「じゃあなんでお嬢を無視してるんですか。理由によっちゃ、怒りますからね、俺」
 「うっ……分かった、話すよ。怒るのは勘弁だ」

 俺は折れた。正直話したくないけれど、花嫁を交換されるとなったら話は別だ。
 俺は浅く深呼吸をして、口を開いた。
 
 「……『ただ見てくれが良いだけの化け物』。そう言われてさ、やっと気づいたんだよ。ああそっか、俺って人間の姿してるけど鬼なんだよなーって」
 「今更じゃないですか」
 「そうだな、今更だ。……でもさ、マリからしたらどうなんだろうって。怖かったんだ、マリに俺が化け物だって気付かれたんじゃないかって。本当は俺に触れられるのが怖いんじゃないかって。……怖くなったんだよ、マリに嫌われるのが」

 胸の内を話せば、じんわりと涙が浮かんだ。

 (俺はマリに嫌われるのが怖いんだ)

 その思いに気付いた瞬間、腑に落ちた。なぜ俺がこんな行動をとっているのかを。自分の思いなのに、全然気づかなかった。誰かに話してやっと気づくなんて、俺はなんて馬鹿なんだろうか。
 赤鬼もそう思っているらしい、溜息を吐くと呆れた声で言った。

 「若様。アンタがそんな馬鹿だったとは思いもしなかったぜ」
 「ああ、馬鹿だ、俺は。話してやっと気づいたんだから、マリに嫌われたくないからこんな行動をしていたなんて」
 「ハァ? そうじゃねーよ。お嬢がそれだけでアンタを嫌いになるはずないって話だ」
 「……え?」
 
 俺は俯いていた顔を上げた。そこにはやはり、声の通り呆れた顔の赤鬼がいる。

 「あのなぁ、若様。これだけ体を重ねて、これだけ言葉を交わした相手を『化け物だ』って言われただけで嫌いになるはずないでしょう」
 「え……で、でも。俺と体を重ねていたのは家のためで――」
 「俺にはお嬢がそんな女には見えませんがね」

 俺の言葉に重ねて、赤鬼は立ち上がった。そして共に立ち上がった青鬼と共に襖に手をかけると、最後に振り返った。

 「俺は、お嬢は芯のある人間に見える。自分の好きな事をして、曲がった事は嫌う。そんな良い女に見えるけど、若様は違うんですかい?」
 「……俺は……」
 「……まぁいいや。若様! お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」

 そう言って二人は一礼して去っていった。残された俺はただ立ち尽くして、畳へ視線を落とした。

 ――「お嬢は寂しがってる! さっさと話しかけてあげてくだせぇ」

 (寂しがっている? ……本当に?)

 本当にそうなら、どれだけ嬉しいだろうか。俺は赤鬼の言葉を信じる事にした。
 俺は部屋の襖を開け、走り出す。将来夫婦となるのに、俺とマリの部屋は離れている。

 (赤鬼に言って、部屋割りを変えてもらわないとな……っ!)

 走っていれば、驚いた様子の女中達とすれ違う。ぶつかりそうになりながら、俺は真っすぐにマリの部屋を目指した。
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