魔族に愛される私(※聖女)

諫山杏心

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6話 頭なでなで

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「ラピスー、ここに人間の女の子…来てますね~」

 小さな音を立てて部屋のドアが開いて、そちらを見てみればリールがいた。リールは私を見ると、安心した様に表情を緩ませてこちらに歩み寄ってきた。その後ろにはリールに隠れる様にくっついているラルドくんがいる。

「見つかってよかったー。…ってか、なんでラピスの部屋のベッドにいんの?」

 私はハッとした。私はまだ、ベッドの中にいるのだ。…ってか、この部屋ラピスの部屋だったのか。そしてそのベッドにいるという事は…変な汗が私の頬を伝う。
 そんな私にリールが目を細めた。そしてそのままラピスの方に顔を向ける。

「…まさか、ラピス。もう手ェ出したの? 早くね?」
「お前が言うかそれ?」

 全くその通りである。言われたリールもそう思ったらしく、「違いない!」とケラケラ笑っている。…そんなリールの後ろで、ラルドくんは静かに俯いている。どうしたのだろうか。

「あの、ラルドくん?」
「!」

 私に名前を呼ばれたラルドくんは肩を震わせると、リールの服の裾をギュッと握った。…なんか、怖がってる?
 そう思っていると「あー」と言いながらリールが頭を掻く。

「あのさ、アイリ。ラルドの奴、食堂での事気にしててさ。アイリに嫌な事しちゃったーって、謝らなきゃーでも嫌われたかもーって」
「ちょっと、リール!」

 焦った様にラルドくんが飛び出してきた。そこで、私とラルドくんの目が合う。ラルドくんは気まずそうに目を逸らした。

「あ、のさ、アイリ」
「う、うん、なあに? ラルドくん」
「…さっきは、ごめん。アイリが俺を見て気持ち悪くないって、かっこいいって言ってくれたのが嬉しすぎて。…ちょっと暴走した。嫌だったよね、ごめんね。もうしないから、俺と、その。と、友達になってくれる…?」
「…………」

 涙を溜めて、上目遣いにの顔を覗き込んでくるラルドくんに、私は言葉を失った。…かわいすぎる。何この生き物。この世の生き物?
 私はあまりの可愛さに震える手を、ラルドくんに近づける。

「? あの、アイリ…?」

 無言で手を近づける私にクエスチョンマークを出して頭を傾げるラルドくんの可愛さに私は抑えられず…伸ばした手をラルドくんの頭に置いた。
 
「え、アイリ…!?」
「…ラルドくん、かわいすぎる」
「え? え?」
「私もう怒ってないよ。ってか、そんな怒る事でもなかったかも。私の方こそごめんね」
「じゃあ、じゃあ…友達になってくれる?」
「もっちろん!」

 何なら弟にしたい。かわいい。そう思っている私の事などつゆ知らず、ラルドくんはパァっと表情を明るくさせた。かわいい。私はラルドくんの頭に置いた手でその頭を撫で回す。その髪は柔らかくてサラサラしていて触り心地がいい。
 それを見ていたリールが「あー!」と大声を出した。

「ずるい! 俺も撫でて!」
「はいはい」

 私に近づきしゃがむリールの頭に手を置いて、その赤い頭を撫でる。こっちの髪は男らしくちょっと固い。
 右手でラルドくんの、左手でリールの頭を撫でている私は、まるで犬の飼い主になった気分だ。二人ともニコニコした顔で私を見上げている。

「………」

 視線を感じてそこを見ると、ラピスが無言でこちらをじっと見ている。その顔は何かを考えている様な顔で。
 私が首を傾げると、ラピスはその長い手を伸ばしてきた。

 ぽすん。頭上に手を置かれた。見上げれば、少し頬を染めたラピスの端正な顔。

「…俺は撫でられるより、お前を撫でていたい」

 少し微笑んで、甘い低い声で囁く。胸とお腹の奥がキュンとして、私はそれを隠すように俯いた。
 俯いた時、ラルドくんと目が合う。その目はきょとんとしていて、それは次第に疑う様な目つきに変わっていく。

「アイリ。今、感じた?」
「えっ!? な、何言って」
「アイリは俺の言葉にすげー感じるんだよな? さっきまでのアイリはすごかったぞ、ずっとイきっぱなしで…」
「ちょっちょっとラピス! ラルドくんに変な事言わないで!」
  
 私は慌ててラピスの口を手で押さえる。その時、ぬるっとした感覚が手のひらを襲い、私は思わず甘い声を漏らした。…ラピスに手のひらを舐められたのだ。

「ほんっと、感じやすいんだな」
「~~~っ! もう!ラピスの馬鹿!」

 私はラピスの胸を両手で叩く。ラピスの胸板は固く、分厚い。叩きながらも男らしさを感じられて、私はここでもキュンとなる。…何だか私、この世界に来てから淫乱になってる気がする。どうしよう。
 バシバシとラピスの胸を叩き続けていると、その手を誰かに掴まれた。ラピスかと思ってその手の先を見ると…そこにはラルドくんの姿があった。

「………」
「…ら、ラルドくん?」

 私の手を掴んでいるラルドくんは無言だ。俯いた顔からは表情を読み取れないが、どこか怒っている雰囲気を感じる。
 それを見たリールが「あららー」と言ってこちらを見ている。

「ラルドー。もしかしてお前、嫉妬してる?」
「…うん。結構、してるかも」
「え、嫉妬?」
「…ラピスとリールとはセックスして、俺とはしてない」

 そう言ってラルドくんは俯いていた顔を上げた。その顔は、なんていうか。怒りと悲しみが混ざった様な、そんな顔だ。

「アイリは、俺とするの嫌?」
「え!? 嫌とかじゃなくて、その、二人とは結構、無理やりだったから…」
「無理やりであんな感じるかよ」
「うるさい!!…きゃっ!?」

 茶々を入れてくるラピスに怒鳴れば、途端に体に感じた浮遊感。…急にラルドくんに横抱きにされたのだ。
 驚いてラルドくんの顔を見れば、どこかイライラした様な表情だ。

「ら、ラルドくん? いきなりどうしたの?」
「おいラルド、お前何する気だ?」
「…アイリ、連れてく」
「はぁ? お前、何言って…おい!」

 ラピスの制止を振り切って、ラルドくんは私を横抱きにしたまま部屋を飛び出した。その速度は人間では到底出せないスピードで、私は思わずラルドくんの首に腕を巻き付ける。

 それにラルドくんが嬉しそうにしていたのを、その時の私は知らなかった。


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