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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

40,クレーター

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突如として自然保護公園の一部が消失した。そう報告を受けたナナシは自らの足で現場まで向かうことにした。
そう報告してきたのは部下の一人だ。その公園の近くに住んでおり、ランニングコースにしているおかげですぐに気が付けたのだという。
この公園でランニングしている者は多く、またその噂を聞いて近所に住む住民も集まってきたのだろう。やじ馬が大勢いた。そしてその中に、見知ったマッチョな大男の姿を確認することができた。
「カロン。君も見物に来てたのか?」
その人物とはカロンのことだ。カロンはトレーニングウェアを着ている。そのため、カロンもランニングをするために公園に来たのだろう。
「ああ、ナナシか……。俺はこの公園でランニングしてたんだよ。そういうお前は野次馬か?」
ナナシはきっちりとスーツを着込んでいる。どう見ても野次馬の一人だ。
「いやあ、部下から報告をもらっちゃってね。ほら、私の仕事柄、なにか異変があったら調べておかないとまずいじゃない?」
近代兵器を用いれば綺麗にクレーターを作ることはできるだろうが、爆薬の類を使用すれば周辺に住んでいる部下が嫌でも気が付くはずだ。だが彼の話によると、どうやらその手の物が使われたわけではないらしい。
そうなってくると、これは人智が及ばない力が働いて作られたものだと考えた方がいいだろう。例えばアロンのような害意を持つ闇の精霊の力とか。
だがカロンにはその手の話はまだしていない。ここで話してもただ面倒が増えるだけだろう。だから適当にごまかしたのだが。
「まあ、それもそうだな」
胡乱気ではあるが、一応納得してくれたらしい。いや、たとえ納得できていない部分があるとしても『いちいち出しゃばりすぎなんだよ、この爺が』程度に思っているのだろう。
「はいはい、危ないから下がって下がって」
野次馬を蹴散らすように警備員がやってくる。その人物は、
「おや、ロイドさん。警察のお手伝いですか?」
ロイド・ハーロック社長だ。マクドウェル警備保障株式会社の社長自らが現場にやってきて、警察に協力しているらしい。
「あ?なんだよ、ナナシとカロンじゃねえか。お前らも野次馬かよ。まったく、暇そうで羨ましいねえ」
厭味ったらしくロイドは言う。カロンを一瞥すると、ふん、と鼻を鳴らして興味を失ったのか、すぐに視線を逸らした。この間の試合で負けた腹いせなのか、普段よりも当たりが強い。
(随分と幼稚だねえ)
ナナシは呆れたようにため息をつくと、むっとして今にも飛び掛からんとしているカロンの間に立つ。そしてロイドに向き直ると、
「それで?何があったのかはご存じで?」
「いや、詳しいことはわからねえな。まあ、爆弾が爆発したとか、そういうことじゃねえのは確かだな」
そういうとロイドはクレーターの中を指さした。そこではすでに鑑識が調査をしており、ナナシ達とは違うスーツを着た人間が周囲をせわしなく歩き回っている。
「おい!なんか見つかったか?」
ロイドがそう尋ねると、そのスーツの男は首を横に振った。どうやら何も見つけてはいないらしい。
「いえ。焦げているような跡もなくて……。一体どうしてこんなことに……」
鑑識の男も困惑しているようだ。何も見つけることが出来ていないらしい。ロイドは「うーむ」と唸るが、答えは出ないようだ。
「そうかい……それじゃあ、俺はこの辺でお暇させてもらうぜ」
そう言ってロイドは踵を返した。これ以上ここにいても無駄だと判断したのだろう。
「俺たちも帰ろうぜ」
カロンがそう言った時だった。
「きゃーっ!!」
女性の悲鳴が響いた。その悲鳴の方向を見ると、一人の少女がうずくまっていた。そしてその少女の前に立つ人物が一人。それは――
(アロン!?)
そこにいるのはアロンだった。掌に黒い球体を出現させては、近くにいる人々に手当たり次第に投げつけているのだ。
球体を受けた人々の身体には風穴が開き、どさりと地面に倒れ伏す。さらに闇が上から覆いかぶさり、それが晴れた時にはすでにそこには人の姿がなかった。
(あれが闇の精霊が人を『食べる』ってことなのか)
ナナシはそう考えると、
「カロン、ロイド!野次馬たちを避難させろ!」
二人にそう命令すると、すぐさま駆け出した。
「あっ、おい!ナナシっ!危ないだろ!」
「社長!危険です、戻ってください!!」
二人の声が背中越しに聞こえてくるが、ナナシはそれを無視してアロンめがけて走り出した。そしてアロンに話しかける。
「やめろっ!!アロンちゃん!!もう充分だろう?」
「…………」
だが彼は答えない。再び手から闇で出来た球を発射して、逃げ惑う人々に襲い掛かっている。
「くそっ!こうなったら」
ナナシは腰のホルスターから拳銃を抜くと、球体めがけて発砲した。すると闇でできた球体は、空中で弾けて消え去った。
「まだだ……!まだ足りない!」
アロンはナナシに気が付いたらしく、そう叫ぶと再び掌から闇で球を生成した。そしてそれをナナシに向けて放とうとするが。
「っ!!」
突然アロンの様子がおかしくなった。彼が苦しみだしたのだ。頭を抱えて呻くアロンめがけて、ナナシは迷わずに発砲する。
ナナシが使っているのは大口径の拳銃だ。獲物に着弾すれば爆発を起こすその弾丸はアロンの頭部を吹き飛ばす。悲鳴すら上げることが出来ずにアロンは倒れ、代わりに野次馬たちが悲鳴をあげる。
「きゃああああっ!人殺しっ!!」
「誰か警察を……警察に電話を!」
そんな騒ぎの中、ナナシはアロンの目の前まで移動する。そのころにはアロンの頭は再生しており、その身体はすでに元の大きさに戻っている。
そしてアロンは何事もなかったかのように起き上がると、ナナシを睨みつける。
「お前はなんてことをするんだっ!!俺は今までに何人もの人を食べてきたんだ!それをすべて台無しにするつもりなのか!?」
(ああ……そういえばそんなことを言ってたな)
確か闇の精霊は人を食うほどに強くなるとティファニアが言っていた。そして、肉体を再生する際には多大なエネルギーを消耗するらしい。だから殺し続ければいつかは消滅するのだと。
「アロン。君の狙いは私だろう?他人を巻き込むのはやめておいたほうがいい」
ちらりと背後を見ると、カロンとロイドが野次馬たちに声をかけて避難誘導をしているのが見えた。だがそれに応じない人々を中にはいて、こちらの様子を興味深そうに見ている。
二人は彼ら彼女らには早々に見切りをつけ、ちゃんと指示に従ってくれる人たちの避難を急がせている。
(まあ、そりゃあそうだろうな)
カロンはもちろんのこと、ロイドだって傭兵だった上に今はマフィアの傘下の組織の人間だ。つまるところ、二人とも善人ではないのだ。自分たちで残ることを決めたものまで面倒を見るほど人が出来ていないわけではない。
そしてそれはナナシも同じだ。自分の命を惜しむよりも好奇心を優先させるような頭の悪い人間なんて心の底からどうでもいい。
アロンに向き直ると、彼の顔には怒りが満ちていた。
「うるさいっ!お前を倒すためには生贄が必要なんだよっ!」
「そうか。まあ、それはどうだっていいんだけどな。今度はちゃんと殺してやるから覚悟しておけよ?」
「くそっ……!」
ナナシの挑発にアロンは悔しそうに舌打ちをする。そして、再びアロンとの戦いが始まった。
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