アラフィフ暗殺者、世界の滅亡を防ぐために精霊との契約を目指して異世界転生を果たします

佐城竜信

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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

39,一週間が経過した

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ゼノの家にティファニアが泊まるようになってから一週間。その間にカジノの手伝いをしたり、ゼノに異世界のことを離したり、そしてリディアと料理をしたり……といった生活を送っていた。
そして現在は夜の十時、ゼノの家のリビングでティファニアはソファーに座っていた。だがその表情は暗いものだった。なぜなら――
(どうしよう……)
ゼノから与えられた部屋に戻った後も、ティファニアはずっと一人で考え込んでいたのだ。それは自分がセレンディアから来た目的のことである。
セレンディアに新しい転生者を招くこと。それが目的なのだが、その条件は少なくとも一人で闇の精霊を倒すことが出来る程度の実力は持っていないと話にならない。
だからゼノかナナシが最適なのではあるが。問題はセレンディアに連れていく方法なのだ。
異世界転生というものはかねてからそうであるように、地球で命を落とした後に精霊界でアーシャリアに肉体を再生してもらい、セレンディアに降り立つことで初めて成立する。
そして、それはゼノかナナシにこの世界で死んでもらわないといけないということだ。
(でも、そんなことお願いできないし……)
ゼノには恩があるし、なんだかんだで優しい彼のことだからティファニアのために命を賭けるかもしれない。だがゼノには家族がいる。そしてその家族とすごく仲がいいのだ。そんなゼノを家族から引きはがすなんてできるわけがない。
だったらナナシはどうだろうか。ナナシにはこの世界で守るべきものがあるわけではない。だから、もしかしたらティファニアの誘いにのってくれるかもしれない。だがナナシもまた多くの人に愛されているのだ。彼らからナナシを奪う事は果たして正しいことなのだろうか。
(うう……。精霊契約をしてくれる候補者探しがこんなに難しいなんて……)
ティファニアが頭を抱えていると、ガチャッとドアが開く音がした。そちらに視線を向けると、ゼノが入ってくるところだった。
「あっ、ゼノさん……」
「どうしたんだい?ティファニアちゃん。何かあったのか?」
ゼノは心配そうにティファニアの顔を覗き込む。ティファニアは「あの……」と言葉を詰まらせるが、言葉を続けることができなかった。
「い、いえ。なんでもありません」
「そうか……?」
ティファニアは今、ゼノの家のリビングのソファに座っている。そして目の前にはテレビがあり、ゼノはテレビを観るためにソファに腰掛けたのだ。
テレビからは朝のニュースが流れていた。そこに映されたのは、オリエントシティにある自然保護公園の様子だ。
ごっそりと広範囲の地面が抉られたような跡がある。
「ご覧ください、この抉られたような地面は、先ほど発見されたばかりのものだそうです。何者かによる襲撃があったのではないかと言われており、警察は調査を進めると共に……」
アナウンサーが淡々とニュースを読み上げていると、ゼノが険しい表情でテレビに視線を向けていた。
「どうしたんですか?」
ティファニアが声をかけると、ゼノは何も言わずに画面を指さした。そのクレーターを囲うようにやじ馬が集まっている。そこにゼノもティファニアも見知った顔があったのだ。
ナナシがやじ馬の中にいたのだ。さらにはその隣にはカロンもいる。彼がナナシの付き添いで来たのだろう。
「あの、ゼノさん。これってやっぱり……」
「ああ、襲撃事件だろうな」
(そうですよね……)
ティファニアは頭を抱える。何の意味があって闇の精霊がこんなことをしたのかはわからないが、それでもセレンディアの存在が地球に迷惑をかけているのは事実だ。セレンディアの精霊として、ティファニアはそれを見過ごすことはできない。
「あ、あのゼノさん。私、ここに行ってみたいと思っ……「ダメだ」
ティファニアが話すよりも先に、ゼノは強い口調で拒否をした。だがそれだけでは終わらない。彼は立ち上がると、ティファニアの肩を掴んだのだ。
「いいかい?君は命を狙われているんだ。危険な場所に足を踏み入れてはいけない」
「で、でも……」
ティファニアが反論しようとすると、ゼノは小さく笑みを浮かべ。
「それとも、君が命を狙われているというのは嘘なのかな?」
そんなことを言われてティファニアはどきりと心臓を跳ねさせた。
「な、なんのことですか……?」
動揺を押し隠しながら返答するも、その声は微かに震えている。そんな彼女の反応を見たゼノは満足そうに頷いた。
(あ……)
最初からなのか、それとも途中からなのか。ティファニアが命を狙われているという嘘をゼノは見抜いていたのだ。
「あの、どうしてそれを……?」
「命を狙われているにしては警戒心が薄すぎるからな、君は。今までに命を狙われている者を多く見てきたが、彼ら彼女らは常に怯えて過ごしていた。だが、君はそうじゃなかったから。嫌でも気が付くさそのくらいは」
「……すみません」
ティファニアはただ謝ることしかできなかった。
「それで?ティファニアちゃんが精霊だっていうのも嘘なのかな?」
「いえ、それは本当です!……とはいっても証明する方法がないんですが」
今まで嘘をついていたのだ。いまさら信じてくれ、とはとてもじゃないが言えない。
「ふむ、まあそうだろうね。だが、私は信じるよ」
「えっ……!?」
まさか信じてくれるとは思っていなかったので、ティファニアは驚いた表情を見せた。
「君の気配は私が殺した闇の精霊と似ているし、普通の人とは違うものだからね。いや、似ているとはいっても君から感じるものはあそこまでまがまがしくはない。もっと澄んだものだからな。だが、それでも君が精霊であるという事は間違いあるまい」
「は、はい……そうですけど……」
(気配で分かるって、何者なんですかゼノさん……)
ティファニアが内心で困惑していると、ゼノはさらに言葉をつづけた。
「君は本当はなんの目的で異世界からこちらの世界に来たのか、聞いてもいいかな?」
「それは……」
地球の誰かの命を奪ってセレンディアに連れていくことが目的だ、なんて言えるわけがない。ましてやゼノがその誰かの候補に入っているなんて、言えるはずがなかった。
だが。ゼノの澄んだ瞳で見つめられると、これ以上隠し通すことはできないと悟ってしまう。
「あの、怒らないで聞いてくれますか?」
そう前置きをしてからティファニアは自らの目的を話すことにしたのだった――
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