40 / 43
アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす
39,一週間が経過した
しおりを挟む
ゼノの家にティファニアが泊まるようになってから一週間。その間にカジノの手伝いをしたり、ゼノに異世界のことを離したり、そしてリディアと料理をしたり……といった生活を送っていた。
そして現在は夜の十時、ゼノの家のリビングでティファニアはソファーに座っていた。だがその表情は暗いものだった。なぜなら――
(どうしよう……)
ゼノから与えられた部屋に戻った後も、ティファニアはずっと一人で考え込んでいたのだ。それは自分がセレンディアから来た目的のことである。
セレンディアに新しい転生者を招くこと。それが目的なのだが、その条件は少なくとも一人で闇の精霊を倒すことが出来る程度の実力は持っていないと話にならない。
だからゼノかナナシが最適なのではあるが。問題はセレンディアに連れていく方法なのだ。
異世界転生というものはかねてからそうであるように、地球で命を落とした後に精霊界でアーシャリアに肉体を再生してもらい、セレンディアに降り立つことで初めて成立する。
そして、それはゼノかナナシにこの世界で死んでもらわないといけないということだ。
(でも、そんなことお願いできないし……)
ゼノには恩があるし、なんだかんだで優しい彼のことだからティファニアのために命を賭けるかもしれない。だがゼノには家族がいる。そしてその家族とすごく仲がいいのだ。そんなゼノを家族から引きはがすなんてできるわけがない。
だったらナナシはどうだろうか。ナナシにはこの世界で守るべきものがあるわけではない。だから、もしかしたらティファニアの誘いにのってくれるかもしれない。だがナナシもまた多くの人に愛されているのだ。彼らからナナシを奪う事は果たして正しいことなのだろうか。
(うう……。精霊契約をしてくれる候補者探しがこんなに難しいなんて……)
ティファニアが頭を抱えていると、ガチャッとドアが開く音がした。そちらに視線を向けると、ゼノが入ってくるところだった。
「あっ、ゼノさん……」
「どうしたんだい?ティファニアちゃん。何かあったのか?」
ゼノは心配そうにティファニアの顔を覗き込む。ティファニアは「あの……」と言葉を詰まらせるが、言葉を続けることができなかった。
「い、いえ。なんでもありません」
「そうか……?」
ティファニアは今、ゼノの家のリビングのソファに座っている。そして目の前にはテレビがあり、ゼノはテレビを観るためにソファに腰掛けたのだ。
テレビからは朝のニュースが流れていた。そこに映されたのは、オリエントシティにある自然保護公園の様子だ。
ごっそりと広範囲の地面が抉られたような跡がある。
「ご覧ください、この抉られたような地面は、先ほど発見されたばかりのものだそうです。何者かによる襲撃があったのではないかと言われており、警察は調査を進めると共に……」
アナウンサーが淡々とニュースを読み上げていると、ゼノが険しい表情でテレビに視線を向けていた。
「どうしたんですか?」
ティファニアが声をかけると、ゼノは何も言わずに画面を指さした。そのクレーターを囲うようにやじ馬が集まっている。そこにゼノもティファニアも見知った顔があったのだ。
ナナシがやじ馬の中にいたのだ。さらにはその隣にはカロンもいる。彼がナナシの付き添いで来たのだろう。
「あの、ゼノさん。これってやっぱり……」
「ああ、襲撃事件だろうな」
(そうですよね……)
ティファニアは頭を抱える。何の意味があって闇の精霊がこんなことをしたのかはわからないが、それでもセレンディアの存在が地球に迷惑をかけているのは事実だ。セレンディアの精霊として、ティファニアはそれを見過ごすことはできない。
「あ、あのゼノさん。私、ここに行ってみたいと思っ……「ダメだ」
ティファニアが話すよりも先に、ゼノは強い口調で拒否をした。だがそれだけでは終わらない。彼は立ち上がると、ティファニアの肩を掴んだのだ。
「いいかい?君は命を狙われているんだ。危険な場所に足を踏み入れてはいけない」
「で、でも……」
ティファニアが反論しようとすると、ゼノは小さく笑みを浮かべ。
「それとも、君が命を狙われているというのは嘘なのかな?」
そんなことを言われてティファニアはどきりと心臓を跳ねさせた。
「な、なんのことですか……?」
動揺を押し隠しながら返答するも、その声は微かに震えている。そんな彼女の反応を見たゼノは満足そうに頷いた。
(あ……)
最初からなのか、それとも途中からなのか。ティファニアが命を狙われているという嘘をゼノは見抜いていたのだ。
「あの、どうしてそれを……?」
「命を狙われているにしては警戒心が薄すぎるからな、君は。今までに命を狙われている者を多く見てきたが、彼ら彼女らは常に怯えて過ごしていた。だが、君はそうじゃなかったから。嫌でも気が付くさそのくらいは」
「……すみません」
ティファニアはただ謝ることしかできなかった。
「それで?ティファニアちゃんが精霊だっていうのも嘘なのかな?」
「いえ、それは本当です!……とはいっても証明する方法がないんですが」
今まで嘘をついていたのだ。いまさら信じてくれ、とはとてもじゃないが言えない。
「ふむ、まあそうだろうね。だが、私は信じるよ」
「えっ……!?」
まさか信じてくれるとは思っていなかったので、ティファニアは驚いた表情を見せた。
「君の気配は私が殺した闇の精霊と似ているし、普通の人とは違うものだからね。いや、似ているとはいっても君から感じるものはあそこまでまがまがしくはない。もっと澄んだものだからな。だが、それでも君が精霊であるという事は間違いあるまい」
「は、はい……そうですけど……」
(気配で分かるって、何者なんですかゼノさん……)
ティファニアが内心で困惑していると、ゼノはさらに言葉をつづけた。
「君は本当はなんの目的で異世界からこちらの世界に来たのか、聞いてもいいかな?」
「それは……」
地球の誰かの命を奪ってセレンディアに連れていくことが目的だ、なんて言えるわけがない。ましてやゼノがその誰かの候補に入っているなんて、言えるはずがなかった。
だが。ゼノの澄んだ瞳で見つめられると、これ以上隠し通すことはできないと悟ってしまう。
「あの、怒らないで聞いてくれますか?」
そう前置きをしてからティファニアは自らの目的を話すことにしたのだった――
そして現在は夜の十時、ゼノの家のリビングでティファニアはソファーに座っていた。だがその表情は暗いものだった。なぜなら――
(どうしよう……)
ゼノから与えられた部屋に戻った後も、ティファニアはずっと一人で考え込んでいたのだ。それは自分がセレンディアから来た目的のことである。
セレンディアに新しい転生者を招くこと。それが目的なのだが、その条件は少なくとも一人で闇の精霊を倒すことが出来る程度の実力は持っていないと話にならない。
だからゼノかナナシが最適なのではあるが。問題はセレンディアに連れていく方法なのだ。
異世界転生というものはかねてからそうであるように、地球で命を落とした後に精霊界でアーシャリアに肉体を再生してもらい、セレンディアに降り立つことで初めて成立する。
そして、それはゼノかナナシにこの世界で死んでもらわないといけないということだ。
(でも、そんなことお願いできないし……)
ゼノには恩があるし、なんだかんだで優しい彼のことだからティファニアのために命を賭けるかもしれない。だがゼノには家族がいる。そしてその家族とすごく仲がいいのだ。そんなゼノを家族から引きはがすなんてできるわけがない。
だったらナナシはどうだろうか。ナナシにはこの世界で守るべきものがあるわけではない。だから、もしかしたらティファニアの誘いにのってくれるかもしれない。だがナナシもまた多くの人に愛されているのだ。彼らからナナシを奪う事は果たして正しいことなのだろうか。
(うう……。精霊契約をしてくれる候補者探しがこんなに難しいなんて……)
ティファニアが頭を抱えていると、ガチャッとドアが開く音がした。そちらに視線を向けると、ゼノが入ってくるところだった。
「あっ、ゼノさん……」
「どうしたんだい?ティファニアちゃん。何かあったのか?」
ゼノは心配そうにティファニアの顔を覗き込む。ティファニアは「あの……」と言葉を詰まらせるが、言葉を続けることができなかった。
「い、いえ。なんでもありません」
「そうか……?」
ティファニアは今、ゼノの家のリビングのソファに座っている。そして目の前にはテレビがあり、ゼノはテレビを観るためにソファに腰掛けたのだ。
テレビからは朝のニュースが流れていた。そこに映されたのは、オリエントシティにある自然保護公園の様子だ。
ごっそりと広範囲の地面が抉られたような跡がある。
「ご覧ください、この抉られたような地面は、先ほど発見されたばかりのものだそうです。何者かによる襲撃があったのではないかと言われており、警察は調査を進めると共に……」
アナウンサーが淡々とニュースを読み上げていると、ゼノが険しい表情でテレビに視線を向けていた。
「どうしたんですか?」
ティファニアが声をかけると、ゼノは何も言わずに画面を指さした。そのクレーターを囲うようにやじ馬が集まっている。そこにゼノもティファニアも見知った顔があったのだ。
ナナシがやじ馬の中にいたのだ。さらにはその隣にはカロンもいる。彼がナナシの付き添いで来たのだろう。
「あの、ゼノさん。これってやっぱり……」
「ああ、襲撃事件だろうな」
(そうですよね……)
ティファニアは頭を抱える。何の意味があって闇の精霊がこんなことをしたのかはわからないが、それでもセレンディアの存在が地球に迷惑をかけているのは事実だ。セレンディアの精霊として、ティファニアはそれを見過ごすことはできない。
「あ、あのゼノさん。私、ここに行ってみたいと思っ……「ダメだ」
ティファニアが話すよりも先に、ゼノは強い口調で拒否をした。だがそれだけでは終わらない。彼は立ち上がると、ティファニアの肩を掴んだのだ。
「いいかい?君は命を狙われているんだ。危険な場所に足を踏み入れてはいけない」
「で、でも……」
ティファニアが反論しようとすると、ゼノは小さく笑みを浮かべ。
「それとも、君が命を狙われているというのは嘘なのかな?」
そんなことを言われてティファニアはどきりと心臓を跳ねさせた。
「な、なんのことですか……?」
動揺を押し隠しながら返答するも、その声は微かに震えている。そんな彼女の反応を見たゼノは満足そうに頷いた。
(あ……)
最初からなのか、それとも途中からなのか。ティファニアが命を狙われているという嘘をゼノは見抜いていたのだ。
「あの、どうしてそれを……?」
「命を狙われているにしては警戒心が薄すぎるからな、君は。今までに命を狙われている者を多く見てきたが、彼ら彼女らは常に怯えて過ごしていた。だが、君はそうじゃなかったから。嫌でも気が付くさそのくらいは」
「……すみません」
ティファニアはただ謝ることしかできなかった。
「それで?ティファニアちゃんが精霊だっていうのも嘘なのかな?」
「いえ、それは本当です!……とはいっても証明する方法がないんですが」
今まで嘘をついていたのだ。いまさら信じてくれ、とはとてもじゃないが言えない。
「ふむ、まあそうだろうね。だが、私は信じるよ」
「えっ……!?」
まさか信じてくれるとは思っていなかったので、ティファニアは驚いた表情を見せた。
「君の気配は私が殺した闇の精霊と似ているし、普通の人とは違うものだからね。いや、似ているとはいっても君から感じるものはあそこまでまがまがしくはない。もっと澄んだものだからな。だが、それでも君が精霊であるという事は間違いあるまい」
「は、はい……そうですけど……」
(気配で分かるって、何者なんですかゼノさん……)
ティファニアが内心で困惑していると、ゼノはさらに言葉をつづけた。
「君は本当はなんの目的で異世界からこちらの世界に来たのか、聞いてもいいかな?」
「それは……」
地球の誰かの命を奪ってセレンディアに連れていくことが目的だ、なんて言えるわけがない。ましてやゼノがその誰かの候補に入っているなんて、言えるはずがなかった。
だが。ゼノの澄んだ瞳で見つめられると、これ以上隠し通すことはできないと悟ってしまう。
「あの、怒らないで聞いてくれますか?」
そう前置きをしてからティファニアは自らの目的を話すことにしたのだった――
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

第3次パワフル転生野球大戦ACE
青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。
野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。
その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。
果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!?
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。



凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる