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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

38,ティファニア、ゼノ家に行く

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「これであいつも余計なちょっかいは出してこねえだろ!」
カジノのスタッフルームで、意気揚々とカロンが叫ぶ。そんな彼に対して、ゼノは呆れたような視線を向ける。
「確かにそうだが、やりすぎだ。もう少し手加減できなかったのか?」
「馬鹿言うなよ!俺は全力で戦ったぜ!それに向こうもそれは同じさ!」
そんなやり取りをしている二人をティファニアが苦笑いしながら眺めている。ティファニアの顔は困惑しているように見えるものだ。
(あれ?おかしいな。カロンさんから闇の精霊の気配が消えてる)
先程感じた気配はすでに消えていた。それは良いことなのだろうが、そうなると他に何か異変が起きているのかもしれないと不安になってしまうものだ。
(とりあえずゼノさんに相談しようかな……)
ティファニアはそう決めるとゼノに声かけた。
「あの、ゼノさん……」
「ん?なんだい?」
するとティファニアはおずおずと口を開く。その視線に気が付いたゼノは、優しい笑顔を浮かべながら言葉を返す。
「えっと、少しお話があるんですがお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
そう言って頷くゼノにティファニアはホッとした表情を浮かべると、早速相談を持ちかけようとした時だ。
「ゼノ、閉店の時間が過ぎたけど、ティファニアちゃんは君が連れて帰るてことでいいのかな?」
ナナシがスタッフルームに入ってきて、そんなことを言い出した。
「ああ、そうだね。ティファニアちゃんもそれでいいかな?」
「あ、はい!お願いします!」
ティファニアは笑顔で頷くと、ナナシは着替えるために更衣室へと向かっていく。片付けや清掃は末端の構成員の仕事なので、幹部である彼らは早々に引き上げることになっているのだ。
「それじゃあ、私たちは先に帰るか」
そう言ってゼノが歩き出すと、その後をティファニアがついていく形になるのだった――


「ここが私の家だ」
車に乗せられてゼノに連れてこられたのは、郊外にある一軒家だった。こぢんまりとしているが、庭付き一戸建てでしっかりとした造りをしていることがわかる。
「さあ、入ってくれ」
そう言って玄関の扉を開けて中に入るゼノに続いてティファニアも中へ入ると、そこは広々とした空間になっていた。リビングルームには大きなソファが置かれており、その近くにはテレビが設置されており、棚の上には観葉植物が置かれていた。
「おかえりなさい、あなた。あら、その子は?」
すると、そこには一人の女性がいた。どうやらこの女性はゼノの妻のようだが、ティファニアは初めて見る顔だった。
「ああ、この子はティファニアちゃんだ」
そう言ってティファニアを妻に紹介すると、今度は彼女が、
「あらそうなの。私はあなたの妻、リディアよ。よろしくね」
そう言って柔和な笑みを浮かべるのだった。
「それでしばらくティファニアちゃんを家に泊まらせてほしいんだが、いいかい?」
ゼノが尋ねると、リディアは少し考える素振りを見せ、
「まさかあなたの浮気相手なの?」
「違うよ!ティファニアちゃんはただの友達だよ!」
慌てて否定するゼノに、リディアはクスクスと笑うと、
「冗談よ。あなたがそんなことするとは思ってないわ。それにこの子のことは大歓迎だから安心してちょうだい」
そう言って彼女は立ち上がると、ティファニアに向かって手を差し伸べた。その手を握り返しながら、ティファニアは、
「あ、あの……ありがとうございます!」
とお礼を言った。するとリディアはますます笑みを深くするのだった――


「ねえ、ティファニアちゃんはお父さんとどこで出会ったの?」
そう聞いてきたのはゼノの娘であるリサだ。彼女は興味津々といった様子で、ティファニアのことを見つめている。
(どうしよう……)
まさか異世界からやってきた精霊であり、自分と共にセレンディアに行って精霊と契約をしてくれる人を探しています。だなんて言えるわけがない。どうこたえるべきかティファニアが悩んでいると。
「ティファニアちゃんは命を狙われていてな。それで俺のところに来たのさ」
そう言ってきたのはゼノだった。どうやらティファニアが悩んでいる様子を見て助け舟を出してくれたようだ。
「え、どういうこと?お父さん?」
不思議そうに首を傾げるリサに、ゼノは優しく微笑みかけると口を開く。
「いやなに、この子を狙う輩がいたんだよ。だから俺が保護した、というわけだ」
「そうだったのね。大変だったね……」
(……あれ?)
ティファニアが疑問に思ったのは、リサの言葉に対してだった。それはまるで知っていたかのような口ぶりだったのだ。
(えっと、どういうことだろう……?)
今のやり取りを見ていたティファニアは、こうも簡単にリサが信じるとは思っていなかった。もっと疑われると思っていたのだが、リサはまるで疑うこともなくすんなりと信じてしまったのだ。
「ねえ、ティファニアちゃん」
するとリサが話しかけてきたのでそちらに視線を移すと、彼女は真剣な表情をしていた。そして――
「もし困ったことがあったらいつでも相談してね!」
(え?)
そう口にした彼女の瞳には、何か強い決意のようなものが感じられた。
「あの、リサさん。その……私が命を狙われているっていう話、疑ったりはしないんですか?」
思わず聞いたその質問に、リサはキョトンとした表情を浮かべた後笑った。
「どうして?だってティファニアちゃんは悪い子じゃないでしょ?だったら疑う必要なんてないよ!」
「いや、そういうことじゃなくて……。突拍子もないこと言ったのに、信じてもらえるのかなって思って……」
「ああ、そういうこと。ほら、うちのお父さんってマフィアのファミリーの傘下の組織の偉い人やってるじゃん?だからティファニアちゃんみたいに命を狙われてる人をかくまうことも多いし、もう慣れっこなんだよ」
「そうなんですか……」
「それにティファニアちゃん、嘘ついてないじゃん?だから信じるよ!」
(あ……)
リサの言葉に、ティファニアは胸が熱くなるのを感じた。今までこんな風に自分のことを認めてもらったことがないからかもしれない。だがそれ以上に、目の前の少女の純粋さに心を打たれたのだ。
「ふふっ、どうしたの?ティファニアちゃん?」
思わず笑みがこぼれてしまい、それを見たリサが不思議そうに首を傾げる。そんな彼女に向かって、ティファニアは笑顔で答えた。
「ううん、なんでもないよ」
(それにしても、慣れちゃうくらいにいるんだ。命を狙われてる人って……)
ティファニアがそのことを疑問に思っていると、ゼノが口を開いた。
「ティファニアちゃん。もしよかったらだが、しばらくこの家で過ごしてくれないか?もちろんお金のことは心配しなくていいぞ」
「あ、でも……」
(せっかく泊めてもらえるのはありがたいけど、迷惑をかけちゃうよね……)
ティファニアは不安げにゼノを見上げる。すると、そんな様子に気づいたのか彼は優しく頭を撫でてくれた。
「遠慮することはないさ。それに君とリサちゃんは同い年だし、仲良くしてくれると嬉しいんだが」
(そうだったんだ!良かった、お友達が増えるかも!)
ティファニアは内心ガッツポーズをすると、リサに向かって笑顔を向けた。
「じゃあ、よろしくお願いします!リサさん!」
「うん、よろしくね!」
2人は互いに笑い合うと握手を交わすのだった――
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