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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

29,ゼノとティファニア

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「誰だ?」
「……」
少女は何も言わずにゼノを見つめていた。
「ここは立ち入り禁止だ。すぐに立ち去りなさい」
ゼノはそういうが、少女がなぜ何もしゃべらなかったのかを理解した。その顔は怯えきっていたからだ。
「あぁ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。大丈夫、私に敵意はないよ。だから安心してほしい。そうだ、飴玉でもあげよう。甘いものは好きかな?」
ゼノはポケットの中からアメを取り出し、少女に差し出した。しかし、少女は首を横に振り。
「あ、あの……。今のは……」
「今の?今のというのはどういう意味だい?」
「今のは『闇の精霊』ですよね?……どうして人間の、それもただの人間でしかないあなたにあれが倒せたんですか?」
「……先ほどのは闇の精霊というのかい?」
ゼノの瞳が怪しく輝く。
「え……?知らないで倒したのですか?」
「あぁ、知らなかった。いや、知ろうともしなかった」
「ど、どうして……?」
「わからない。ただ、本能的に察したんだ。奴は敵だと。そして、面白い存在であると。だから戦った。それだけだよ」
「そ、そんな理由で!?」
少女は信じられないものを見るような目でゼノを見た。ゼノは不思議そうに小首を傾げる。
「理由がなくては戦ってはいけないのかい?……いや、そもそも戦いに理由は必要ないのかもしれないな。戦うことに意味があるのではない。勝った方が正義なんだ」
ゼノの言葉を聞いて少女は絶句した。
この人は何を言っているんだろう?いや、人ではないのだろうけど。それでもこの人の思考回路は理解できない。この人もやはりバケモノだ。
……そして、彼こそが少女の、ティファニアの探していた人物だ。
「君の名前はなんというんだい?」
「……ティ、ティファニアです」
「ティファニア君か。いい名前だ。私の名前はゼノ。よろしく頼むよ、ティファニア君」
「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
なんて言う僥倖だろう。アーシャリアに地球に落とされたかと思ったら、その瞬間に精霊を倒すことができる人間に出会うことができた。これで自分は目的を果たすことが出来る。
「それで、君はここでなにをしていたんだい?」
「あ、はい。実は……」
「なに?君も私と同じなのか?私の場合はオカルトだが」
「え?あ、はい。オカルトというか……わたしの場合は……」
「君は先ほどの存在を闇の精霊と言っていたね。ということは何か知っているのかな?教えてくれないか?」
「えっと……その……」
ゼノに詰め寄られてティファニアは困ってしまった。
自分のことは秘密にしておきたい。なぜなら自分はまだ弱い存在なのだから。これから強くならなくてはならないのだ。そのためには自分の正体を隠しておいた方がいいと考えた。
だから嘘をついた。
「わ、私は精霊界から地球に迷い込んでしまって、その時に闇の精霊に襲われてしまったのです。なんとか逃げることが出来ましたが、その際に記憶を失ってしまったみたいで、自分が何者か、どこから来たのか、なにも思い出せないのです」
「ほう、なにやら面白そうな話だ。その闇の精霊とやらはなんのために君を襲ったんだろうな」
「そ、それはわからなくて……」
ティファニアは焦っていた。思わず闇の精霊に襲われた、なんて言ってしまったが。よく考えてみたら、精霊に襲われるということ自体が異常なことであり、普通ならありえないことだ。それなのに、つい口を滑らせてしまい、それを目の前の男に信じさせてしまう結果になってしまったのだ。
しかも、ゼノの方はティファニアの話を信じてしまっている。それがさらにまずかった。
「ふむ……。ならば、その手伝いをさせてもらってもいいかな?」
「へっ!?」
「私は君のような不思議な力を持った人が好きなんだ。君とはもっと話をしていたいし、君が望むなら君の力になりたいと思っている」
「あ、ありがとうございます!ぜひ、お願いしたいと思います!」
「そうか。それはよかった。ところで、君が今いる場所は安全かね?さっきのやつらがまた襲ってくることはないか?」
「あ……。それは、その……」
ゼノの言葉にティファニアは詰まる。地球ではティファニアは力を使うことができない。だからただの少女でしかないし、泊まる場所もないのだ。
「ふむ。どうやらあまり安全な状況ではなさそうだな。だが、私に任せてくれたまえ。私が君を守ってあげよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。もちろんだ。なに、心配する必要はない。私は強いからな」
自信満々なゼノを見て、ティファニアは安堵のため息を吐く。そして同時に確信した。
この人は、きっと悪い人じゃない。そして自分を裏切ったりしないはずだと。
「……っと、もうこんな時間だな」
ゼノは時間を確認する。今の時間は午前十一時だ。
「あの……。なにか用事があるんですか?」
「ああ。私はカジノで仕事をしているんだ」
「か、カジノ!?」
「そうだよ。ギャンブルだ」
「そ、そんなところに行っちゃだめですよ!」
「ん?どうしてだい?」
「だって、危ないですから……」
「大丈夫だよ。私は強いからな」
「でも、やっぱり……」
心配するティファニアの頭をゼノが優しく撫でる。
「ふぇっ!?」
「そんなに心配してくれるのかい?君は優しい子だね」
「あっ……。うぅ……」
顔を真っ赤にしながら俯くティファニア。そんな様子を見てゼノは微笑んでいた。
「心配しなくてもいいさ。私は暗殺者集団『ハウンド』の隊長をしていてね。まあ、今のボスが親から組織を受け継いだ右も左もわかっていない若造で、私はその補佐をしているから実質私が組織のボスみたいなものだがね。今働いているのはその組織が運営しているカジノだ。私はそこで働いているんだよ」
「えっ?暗殺者組織?それにボスって……!?」
ゼノの言葉にティファニアは驚く。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ……。なんでもありません」
「そうか?ならいいが……。そうだな、ティファニア君をこんな場所に残していくのも問題がありそうだな」
ゼノはあたりを見渡した。この辺りはスラム街地区であり、ゼノはそこに身を隠していた男を殺すために来たのだ。もしもこのままティファニアを残していけば、そこら辺から視線を向けてきている男たちに攫われてしまう可能性もある。
第一、せっかく出会えた精霊なんて言うオカルトな存在について知ることのできる人間を失うのは惜しいと考えていた。
「仕方がない。私と一緒にカジノに行こうか?」
「え?でも……お仕事は……」
「大丈夫だよ。私には優秀な部下がいるからね。少しくらいサボっても問題はないだろう」
そう言ってゼノは歩き出す。その後ろ姿を見て、ティファニアは慌てて追いかけた。
「あの、どこにいくのですか?」
「私の職場だよ」
そう言ってゼノは微笑んだ。
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