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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす
21,VSゼノ〈後編〉
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(隙あり!……っていきたいところだけど、わざとだよね、あれ)
ナナシはゼノの誘いに乗ることなく、慎重に間合いを取る。
「どうした?来ないのか?」
「……そうだねぇ。どうせならこのまま降参してくれてもいいんだよ?なんなら今から土下座して謝るからさ」
「それはできんな」
「あらら、即答ですか」
「当たり前だろう?ここで俺が引き下がるなどありえない」
「ま、そうなるよね」
「そういうことだ。だからさっさと本気でかかってこい」
「はいはいわっかりましたよ!それじゃあ遠慮なくいかせていただきますよ!」
ナナシがそう言った瞬間。ゼノの背筋にぞくりと悪寒が走った。
(な……何が起こった?)
ゼノは困惑していた。ナナシの動きは先程までと何も変わっていない。だが、ゼノにはわかってしまった。ナナシの放つ雰囲気が変わったことを。
「それじゃあいこうか」
ナナシはゆらりとした動きで、ゼノに近づいてくる。
(……来る!)
ゼノは身構えるが、ナナシはゼノの前で足を止めると後ろへと退いてゼノと距離をとる。
「怖いねえ。こっちから攻めたら殺されちゃいそうだよ」
ナナシはニヤリと笑う。
「……そう思うならさっさと諦めてくれていいんだぞ?」
「だからさっきから諦めたいって言ってるじゃないか。君が逃がしてくれないんだろう?」「……まったく。面倒な男に目をつけられたものだ」
「あはは、ごめんね?でも、もう逃げられないよ?」
「逃げるつもりはない」
「なら――」
「――終わらせるまでだ」
ナナシの言葉を遮り、ゼノが動く。ナナシの眼前にゼノの手刀が迫るが、ナナシは半歩退いてその手刀を躱すとゼノの腹にカウンター気味の拳をたたき込む。的確に肺を撃ち抜かれたゼノは苦悶の表情を浮かべる。だが、すぐに持ち直し、ナナシにつかみかかろうとするがその時にはすでにナナシは後ろへと退いていた。
「ははは。鬼さんこちら、っと!」
ナナシは軽快なステップでゼノの追撃を回避する。
「逃がすか!」
ゼノは地を蹴るとナナシを追いかける。だが、ナナシは器用にもそのすべてを回避していく。
「すごいなぁ。私なんかよりもずっと速いじゃない」
「ふん、まだまだこんなものではないわ!」
「あはは、そんなことは知ってるよ」
「ならばなぜ余裕の表情を浮かべていられる!?」
「そりゃあ簡単だよ。君が私に追いつけるはずがないって確信しているからさ」
「なにっ!?」
「だって君は私に攻撃を当てることすらできていない。私の速さに付いてこれていない。つまり、そういうことだよ」
「くっ!」
「まあ、君が全力を出してないことも原因の一つだとは思うけど、それでもこの差は埋まらないよ」
「ほざけ!この程度で勝った気になるなよ!」
ゼノはナナシに向かって飛びかかる。しかし、ナナシはひらりと避ける。そして、すれ違いざまに拳を叩き込んだ。
「ぐふっ!?」
「だから無駄だって。いくら速くても当たらなければ意味がない。たとえどんなに優れた反射神経を持っていたとしてもね」
ナナシと対峙するゼノは焦りを覚えていた。
(こんな奴は初めてだ。こんなに――まともに戦おうとしない奴は)
ナナシの戦い方は一見すると消極的に見えるが、その実、しっかりと計算された戦い方だった。まず最初に自ら仕掛けることはせず、相手の様子をうかがい、相手が痺れを切らすのを待つ。そうやって相手の油断を誘ったところで一気に攻勢に出るのだ。
だが、ゼノはナナシが考えているような弱者ではない。
(舐めるなよ!俺は今まで数多の強者と戦ってきた!そいつらは皆、真正面からぶつかるだけの愚か者たちばかりだった!だが、俺は違う!常に頭を使い、あらゆる状況に対応できるようにしてきたのだ!)
ゼノはナナシの思考の裏をかくためにあえて攻撃をくらうことにした。
(さあ、来い!おまえの考えは全てお見通しだ!)
「……ゼノ。君は強い。踏んだ場数の数、相手取ってきた強敵の数。その実践経験によるものもあるだろうが、なによりも君はセンスがいい。君はまさに戦うために生まれてきたような男だ。尊敬できる、実に素晴らしい男だよ君は」
ナナシはにこやかに微笑む。
「……なんだ?急に褒めたりして気持ち悪いぞ?」
「ひどい言われようだね。私は素直に称賛しただけなのに」
「ふん、嘘をつくならもっと上手くつくことだな」
「嘘じゃないんだけどな……。まあいいや、あんまりディーラーの仕事もさぼれないし、そろそろ終わりにしようか」
「ほう?ようやく本気を出すというわけか?」
「うん。君に敬意を表して、ね?」
ナナシの雰囲気が変わる。それはまるで別人になったかのような豹変ぶりで、観客たちは息を飲む。
「さあ、行こうか!」
ナナシが地面を強く踏みつけた瞬間。ゼノの視界からナナシの姿が消えた。
「なにっ!?」
ゼノは慌てて周囲に目を配る。だが、どこを見てもナナシの姿を捉えることはできない。
「ここだよ」
背後から声が聞こえ、振り返ろうとしたその時。ゼノの首にナナシの腕が巻き付いた。
「おやすみ、ゼノ」
耳元で囁かれナナシの言葉。それを聞いた瞬間にゼノの意識は闇に飲まれていた。
♦
「勝者!ナナシ選手です!!」
審判の宣言によって観客たちの歓声が上がる。
「すげえ!あいつゼノに勝っちまったぞ!?」
歓声が響く中。ゴルディはぽつりとつぶやいた。ゴルディにとってゼノは第二の親といってもいいだろう。それくらいに親密な関係であり、ゼノのことを最強の男だと信じて疑わなかった。だが、今の光景を目にして考えを改めざるを得なかった。
ゴルディがクロエとハクタケの方を見ると、二人は顔を見合わせて首を横に振っていた。
「まさか……あの人が負けるなんて……」
「信じられない……信じたくない……」
「……ああ、俺も同じだ」
三人は言葉を失う。それほどまでにゼノの強さは圧倒的だった。
「おい、あれ見ろよ!」
「おお!マジかよ!」
「すっげぇ!」
「なあ、賭けはどうなるんだ?」
「知らねーよ!でも、ナナシの勝ちは揺るがないだろうな」
「そうだよなー」
観客たちがざわつき始める。それも当然のことであろう。なにせほとんどの人間がゼノに賭けて大金を注ぎ込んでいたからだ。
「はー、終わった終わった……。死ななくてよかったー」
ナナシは深くため息を吐くと、控え室へと向かった。
ナナシはゼノの誘いに乗ることなく、慎重に間合いを取る。
「どうした?来ないのか?」
「……そうだねぇ。どうせならこのまま降参してくれてもいいんだよ?なんなら今から土下座して謝るからさ」
「それはできんな」
「あらら、即答ですか」
「当たり前だろう?ここで俺が引き下がるなどありえない」
「ま、そうなるよね」
「そういうことだ。だからさっさと本気でかかってこい」
「はいはいわっかりましたよ!それじゃあ遠慮なくいかせていただきますよ!」
ナナシがそう言った瞬間。ゼノの背筋にぞくりと悪寒が走った。
(な……何が起こった?)
ゼノは困惑していた。ナナシの動きは先程までと何も変わっていない。だが、ゼノにはわかってしまった。ナナシの放つ雰囲気が変わったことを。
「それじゃあいこうか」
ナナシはゆらりとした動きで、ゼノに近づいてくる。
(……来る!)
ゼノは身構えるが、ナナシはゼノの前で足を止めると後ろへと退いてゼノと距離をとる。
「怖いねえ。こっちから攻めたら殺されちゃいそうだよ」
ナナシはニヤリと笑う。
「……そう思うならさっさと諦めてくれていいんだぞ?」
「だからさっきから諦めたいって言ってるじゃないか。君が逃がしてくれないんだろう?」「……まったく。面倒な男に目をつけられたものだ」
「あはは、ごめんね?でも、もう逃げられないよ?」
「逃げるつもりはない」
「なら――」
「――終わらせるまでだ」
ナナシの言葉を遮り、ゼノが動く。ナナシの眼前にゼノの手刀が迫るが、ナナシは半歩退いてその手刀を躱すとゼノの腹にカウンター気味の拳をたたき込む。的確に肺を撃ち抜かれたゼノは苦悶の表情を浮かべる。だが、すぐに持ち直し、ナナシにつかみかかろうとするがその時にはすでにナナシは後ろへと退いていた。
「ははは。鬼さんこちら、っと!」
ナナシは軽快なステップでゼノの追撃を回避する。
「逃がすか!」
ゼノは地を蹴るとナナシを追いかける。だが、ナナシは器用にもそのすべてを回避していく。
「すごいなぁ。私なんかよりもずっと速いじゃない」
「ふん、まだまだこんなものではないわ!」
「あはは、そんなことは知ってるよ」
「ならばなぜ余裕の表情を浮かべていられる!?」
「そりゃあ簡単だよ。君が私に追いつけるはずがないって確信しているからさ」
「なにっ!?」
「だって君は私に攻撃を当てることすらできていない。私の速さに付いてこれていない。つまり、そういうことだよ」
「くっ!」
「まあ、君が全力を出してないことも原因の一つだとは思うけど、それでもこの差は埋まらないよ」
「ほざけ!この程度で勝った気になるなよ!」
ゼノはナナシに向かって飛びかかる。しかし、ナナシはひらりと避ける。そして、すれ違いざまに拳を叩き込んだ。
「ぐふっ!?」
「だから無駄だって。いくら速くても当たらなければ意味がない。たとえどんなに優れた反射神経を持っていたとしてもね」
ナナシと対峙するゼノは焦りを覚えていた。
(こんな奴は初めてだ。こんなに――まともに戦おうとしない奴は)
ナナシの戦い方は一見すると消極的に見えるが、その実、しっかりと計算された戦い方だった。まず最初に自ら仕掛けることはせず、相手の様子をうかがい、相手が痺れを切らすのを待つ。そうやって相手の油断を誘ったところで一気に攻勢に出るのだ。
だが、ゼノはナナシが考えているような弱者ではない。
(舐めるなよ!俺は今まで数多の強者と戦ってきた!そいつらは皆、真正面からぶつかるだけの愚か者たちばかりだった!だが、俺は違う!常に頭を使い、あらゆる状況に対応できるようにしてきたのだ!)
ゼノはナナシの思考の裏をかくためにあえて攻撃をくらうことにした。
(さあ、来い!おまえの考えは全てお見通しだ!)
「……ゼノ。君は強い。踏んだ場数の数、相手取ってきた強敵の数。その実践経験によるものもあるだろうが、なによりも君はセンスがいい。君はまさに戦うために生まれてきたような男だ。尊敬できる、実に素晴らしい男だよ君は」
ナナシはにこやかに微笑む。
「……なんだ?急に褒めたりして気持ち悪いぞ?」
「ひどい言われようだね。私は素直に称賛しただけなのに」
「ふん、嘘をつくならもっと上手くつくことだな」
「嘘じゃないんだけどな……。まあいいや、あんまりディーラーの仕事もさぼれないし、そろそろ終わりにしようか」
「ほう?ようやく本気を出すというわけか?」
「うん。君に敬意を表して、ね?」
ナナシの雰囲気が変わる。それはまるで別人になったかのような豹変ぶりで、観客たちは息を飲む。
「さあ、行こうか!」
ナナシが地面を強く踏みつけた瞬間。ゼノの視界からナナシの姿が消えた。
「なにっ!?」
ゼノは慌てて周囲に目を配る。だが、どこを見てもナナシの姿を捉えることはできない。
「ここだよ」
背後から声が聞こえ、振り返ろうとしたその時。ゼノの首にナナシの腕が巻き付いた。
「おやすみ、ゼノ」
耳元で囁かれナナシの言葉。それを聞いた瞬間にゼノの意識は闇に飲まれていた。
♦
「勝者!ナナシ選手です!!」
審判の宣言によって観客たちの歓声が上がる。
「すげえ!あいつゼノに勝っちまったぞ!?」
歓声が響く中。ゴルディはぽつりとつぶやいた。ゴルディにとってゼノは第二の親といってもいいだろう。それくらいに親密な関係であり、ゼノのことを最強の男だと信じて疑わなかった。だが、今の光景を目にして考えを改めざるを得なかった。
ゴルディがクロエとハクタケの方を見ると、二人は顔を見合わせて首を横に振っていた。
「まさか……あの人が負けるなんて……」
「信じられない……信じたくない……」
「……ああ、俺も同じだ」
三人は言葉を失う。それほどまでにゼノの強さは圧倒的だった。
「おい、あれ見ろよ!」
「おお!マジかよ!」
「すっげぇ!」
「なあ、賭けはどうなるんだ?」
「知らねーよ!でも、ナナシの勝ちは揺るがないだろうな」
「そうだよなー」
観客たちがざわつき始める。それも当然のことであろう。なにせほとんどの人間がゼノに賭けて大金を注ぎ込んでいたからだ。
「はー、終わった終わった……。死ななくてよかったー」
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