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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす
20,VSゼノ〈中編〉
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コロシアムの中を満員の観客たちが埋め尽くしていた。彼らは皆、これから繰り広げられるであろう戦いを今か今かと待ち望んでいた。そんな中、司会の男が舞台の上に上がる。
「レディース&ジェントルメン!!ようこそいらっしゃいました!!本日はご多忙な中お集まりいただき、誠にありがとうございます!!」
司会者の声が会場中に響き渡る。
「今回はなんと!あの伝説の殺し屋、『死神』の二つ名で知られる男!ゼノ=カタルシスがハウンドドッグの一員であるナナシを相手に試合を行うとのこと!一体どのようなバトルを見せてくれるのか!非常に楽しみです!!」
司会者の紹介を聞き、観客席から歓声が上がる。
(いやこれ、どういう状況なんだい!?)
ナナシは困惑していた。
ゼノは『暗殺部隊』を率いる隊長であり、物陰から現れて人を殺すような、まさにイメージ留守通りの『暗殺』のみを鍛え続けてきたような男だ。ナナシのように幅広い活躍ができない分、戦闘という面においては比類なき力を持っている。そんな男と戦うなんて想像すらしていなかった。
(ゼノさん、ちゃんと手加減してくれるかなー……)
この試合はナナシがいないところで勝手に決められたものだ。当然、ナナシは自分が出るとは一言も言っていない。だが、もし仮にナナシが断っていたとしても、この盛り上がりの中で中止にすることはできなかっただろう。それほどまでに観客たちは盛り上がっていた。
「さて、今回のルールを説明します!武器の使用は一切禁止!相手を降参させるか気絶させれば勝利となります!」
(まあ、妥当なところだろうね)
これはあくまで宣伝のためのイベントであり、命を奪うことが目的ではない。殺し合いをするつもりはなかった。だが――。
(もしかしたら……)
ナナシの脳裏には最悪のシナリオが浮かぶ。ゼノは冷静沈着に見えて意外と熱くなりやすい男だ。もしかすると、ナナシが生きていることを確認できればそれで満足し、本気で殺しにかかる可能性もある。そうなると、ナナシも無傷では済まない。場合によっては――。
「それでは両者、舞台へどうぞ!」
ナナシの思考はそこで途切れる。もう考えていても仕方がなかった。覚悟を決め、ナナシは舞台へと上がった。
「それじゃあ、ナナシ。始めるとするか」
「わかったよ。……ただしこれは試合だからね?ちゃんとそのへんをわきまえて――」
「わかっている。全力でいく」
ゼノはナナシの言葉を遮り、殺気を込めた視線を向ける。
「……」
ナナシは言葉を失った。
「それでは試合開始だ!」
審判役の男が合図をする。それと同時にゼノは姿を消した。
「ッ!?」
ナナシは反射的に背後を振り返る。そこにはすでにゼノの姿があり、ナナシの首筋めがけて手刀を放とうとしていた。
「おっと、危ない」
間一髪のところで首を傾けることで回避に成功する。だがわずかにかすってしまい、血の雫が地面に滴り落ちた。
「ほう、今のを避けるか」
「あ……あぶなかったぁ!これ、手刀っていうか最早刀だよね!?よけてなかったら死んでたよね!?」
「安心しろ。急所は外してある」
「そういう問題じゃないよ!」
「まあ、そう怒るな。せっかくの美人が台無しだぞ」
「うっさい!」
ゼノは再び姿を消す。気配を消しているだけで本来なら目の前にいるはずなのだが、それでもナナシの目で追うことはできない。
「そこか!」
ナナシは拳を放つ。しかし、そこにいるはずのゼノはいなかった。
「遅いな」
「なにっ!?」
声が聞こえたのは真後ろだった。いつの間にか距離を詰められていたのだ。
「くそっ!」
振り向きざまに蹴りを放つが、またもや空を切る。そして再び距離が取られる。
「なんだ?その程度なのか?」
「そうだよ。私なんてこの程度だから手加減してくれると嬉しいんだけどね」
「そうか、ならば期待に沿おう」
ゼノは地面を強く蹴る。すると、まるで瞬間移動をしたかのようにナナシの眼前に姿を現し、手刀を放った。
「うわっと!」
ナナシは身体を大きく仰け反らせながら避ける。紙一重の差で避けることができたが、頬からは赤い線が引かれていた。
「これで終わりだ」
「終わるって試合がってことだよね?私の人生とか、そういうものが終わるんじゃないよねぇ!?」
ナナシは必死の形相で叫ぶ。だが、その問いに対してゼノは無表情のまま答えた。
「安心しろ。一瞬で終わる」
ナナシは死を予感した。これまで多くの人間を葬ってきたナナシだったが、自分が殺されると思ったのは初めてのことだった。今までは相手が弱かっただけだと思っていた。だが、今は違う。ゼノは強すぎるのだ。
(まったく……。ゼノってば本気出しすぎだよ!叩きつけられるプレッシャーが半端じゃなさすぎ!)
ナナシは冷や汗を流す。
「それじゃあ、行くぞ」
ゼノは手刀を振り下ろす。ナナシは拳をたたきつけて軌道を逸らす。
「やるな」
ゼノは感心したように呟き、今度はナナシの腹に膝を叩き込んだ。
「ぐふぅ……」
ナナシは口から胃液と唾液を吐き出しながら吹き飛ばされる。ゼノから距離を取り、流れた唾液を拳で拭う。
「大丈夫か?」
「うん、なんとかね」
「そうか。なら、もう少し楽しませてもらうぞ」
「ちょっと待って!楽しむってどういうこと!?」
「なに、気にするな。ただの余興だ」
「いやいや!絶対に嘘でしょう!?」
「さあ、来い!」
「ああもう!君がおもしろおじいさん枠じゃないことくらいは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ!」
ナナシは悲痛な叫びを上げる。
「ふむ、確かに俺はおまえより年上だ。だが、それだけでおもしろいというのはどうかと思うぞ?」
「いや、自覚あるんかい!」
「さあ、早くかかってこい」
「いや、無理だって!勝てるわけがないじゃん!」
「何を言っている?まだ始まってすらいないぞ」
「あー、はいはい!わかりましたよ!やればいいんでしょやれば!でも、後悔しないでよ?おじさん、結構強いんだから」
「それは楽しみだな。さあ、始めよう。楽しい殺し合いの時間だ」
ゼノは不敵に笑い、ナナシは覚悟を決めた表情を浮かべた。
「……まったく、本当に厄介な人だ」
ナナシは深く息を吐く。そして、次の瞬間にはゼノの背後に回り込んでいた。
「おお!」
観客たちから歓声が上がる。
(まずは小手調べだ)
ナナシは手刀を繰り出す。だが、ゼノはひらりと身をかわす。
(やっぱり、簡単にはいかないか)
続いて回し蹴りを放つがこれも避けられてしまう。
「どうした?その程度か?」
「……私は自分から攻めるのはどうにも苦手でね。できればこのまま避け続けてくれないかなーなんて思ってるんだけど……」
「残念だが、それはできない相談だ」
ゼノはナナシの懐に入り込み、鳩尾を殴りつけようとするが。ナナシはその腕を掴み、そのまま背負い投げを行った。
「ぬお!?」
ゼノは驚きの声を上げながらも空中で体勢を整え、地面に着地する。
(なるほど。思った以上にできるようだな)
ゼノは内心で舌打ちした。ナナシの実力を低く見積もっていたわけではないが、まさかこれほどとは思っていなかった。
(これは少し、本気を出す必要があるかもな)
ゼノはナナシから視線を外した。
「レディース&ジェントルメン!!ようこそいらっしゃいました!!本日はご多忙な中お集まりいただき、誠にありがとうございます!!」
司会者の声が会場中に響き渡る。
「今回はなんと!あの伝説の殺し屋、『死神』の二つ名で知られる男!ゼノ=カタルシスがハウンドドッグの一員であるナナシを相手に試合を行うとのこと!一体どのようなバトルを見せてくれるのか!非常に楽しみです!!」
司会者の紹介を聞き、観客席から歓声が上がる。
(いやこれ、どういう状況なんだい!?)
ナナシは困惑していた。
ゼノは『暗殺部隊』を率いる隊長であり、物陰から現れて人を殺すような、まさにイメージ留守通りの『暗殺』のみを鍛え続けてきたような男だ。ナナシのように幅広い活躍ができない分、戦闘という面においては比類なき力を持っている。そんな男と戦うなんて想像すらしていなかった。
(ゼノさん、ちゃんと手加減してくれるかなー……)
この試合はナナシがいないところで勝手に決められたものだ。当然、ナナシは自分が出るとは一言も言っていない。だが、もし仮にナナシが断っていたとしても、この盛り上がりの中で中止にすることはできなかっただろう。それほどまでに観客たちは盛り上がっていた。
「さて、今回のルールを説明します!武器の使用は一切禁止!相手を降参させるか気絶させれば勝利となります!」
(まあ、妥当なところだろうね)
これはあくまで宣伝のためのイベントであり、命を奪うことが目的ではない。殺し合いをするつもりはなかった。だが――。
(もしかしたら……)
ナナシの脳裏には最悪のシナリオが浮かぶ。ゼノは冷静沈着に見えて意外と熱くなりやすい男だ。もしかすると、ナナシが生きていることを確認できればそれで満足し、本気で殺しにかかる可能性もある。そうなると、ナナシも無傷では済まない。場合によっては――。
「それでは両者、舞台へどうぞ!」
ナナシの思考はそこで途切れる。もう考えていても仕方がなかった。覚悟を決め、ナナシは舞台へと上がった。
「それじゃあ、ナナシ。始めるとするか」
「わかったよ。……ただしこれは試合だからね?ちゃんとそのへんをわきまえて――」
「わかっている。全力でいく」
ゼノはナナシの言葉を遮り、殺気を込めた視線を向ける。
「……」
ナナシは言葉を失った。
「それでは試合開始だ!」
審判役の男が合図をする。それと同時にゼノは姿を消した。
「ッ!?」
ナナシは反射的に背後を振り返る。そこにはすでにゼノの姿があり、ナナシの首筋めがけて手刀を放とうとしていた。
「おっと、危ない」
間一髪のところで首を傾けることで回避に成功する。だがわずかにかすってしまい、血の雫が地面に滴り落ちた。
「ほう、今のを避けるか」
「あ……あぶなかったぁ!これ、手刀っていうか最早刀だよね!?よけてなかったら死んでたよね!?」
「安心しろ。急所は外してある」
「そういう問題じゃないよ!」
「まあ、そう怒るな。せっかくの美人が台無しだぞ」
「うっさい!」
ゼノは再び姿を消す。気配を消しているだけで本来なら目の前にいるはずなのだが、それでもナナシの目で追うことはできない。
「そこか!」
ナナシは拳を放つ。しかし、そこにいるはずのゼノはいなかった。
「遅いな」
「なにっ!?」
声が聞こえたのは真後ろだった。いつの間にか距離を詰められていたのだ。
「くそっ!」
振り向きざまに蹴りを放つが、またもや空を切る。そして再び距離が取られる。
「なんだ?その程度なのか?」
「そうだよ。私なんてこの程度だから手加減してくれると嬉しいんだけどね」
「そうか、ならば期待に沿おう」
ゼノは地面を強く蹴る。すると、まるで瞬間移動をしたかのようにナナシの眼前に姿を現し、手刀を放った。
「うわっと!」
ナナシは身体を大きく仰け反らせながら避ける。紙一重の差で避けることができたが、頬からは赤い線が引かれていた。
「これで終わりだ」
「終わるって試合がってことだよね?私の人生とか、そういうものが終わるんじゃないよねぇ!?」
ナナシは必死の形相で叫ぶ。だが、その問いに対してゼノは無表情のまま答えた。
「安心しろ。一瞬で終わる」
ナナシは死を予感した。これまで多くの人間を葬ってきたナナシだったが、自分が殺されると思ったのは初めてのことだった。今までは相手が弱かっただけだと思っていた。だが、今は違う。ゼノは強すぎるのだ。
(まったく……。ゼノってば本気出しすぎだよ!叩きつけられるプレッシャーが半端じゃなさすぎ!)
ナナシは冷や汗を流す。
「それじゃあ、行くぞ」
ゼノは手刀を振り下ろす。ナナシは拳をたたきつけて軌道を逸らす。
「やるな」
ゼノは感心したように呟き、今度はナナシの腹に膝を叩き込んだ。
「ぐふぅ……」
ナナシは口から胃液と唾液を吐き出しながら吹き飛ばされる。ゼノから距離を取り、流れた唾液を拳で拭う。
「大丈夫か?」
「うん、なんとかね」
「そうか。なら、もう少し楽しませてもらうぞ」
「ちょっと待って!楽しむってどういうこと!?」
「なに、気にするな。ただの余興だ」
「いやいや!絶対に嘘でしょう!?」
「さあ、来い!」
「ああもう!君がおもしろおじいさん枠じゃないことくらいは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ!」
ナナシは悲痛な叫びを上げる。
「ふむ、確かに俺はおまえより年上だ。だが、それだけでおもしろいというのはどうかと思うぞ?」
「いや、自覚あるんかい!」
「さあ、早くかかってこい」
「いや、無理だって!勝てるわけがないじゃん!」
「何を言っている?まだ始まってすらいないぞ」
「あー、はいはい!わかりましたよ!やればいいんでしょやれば!でも、後悔しないでよ?おじさん、結構強いんだから」
「それは楽しみだな。さあ、始めよう。楽しい殺し合いの時間だ」
ゼノは不敵に笑い、ナナシは覚悟を決めた表情を浮かべた。
「……まったく、本当に厄介な人だ」
ナナシは深く息を吐く。そして、次の瞬間にはゼノの背後に回り込んでいた。
「おお!」
観客たちから歓声が上がる。
(まずは小手調べだ)
ナナシは手刀を繰り出す。だが、ゼノはひらりと身をかわす。
(やっぱり、簡単にはいかないか)
続いて回し蹴りを放つがこれも避けられてしまう。
「どうした?その程度か?」
「……私は自分から攻めるのはどうにも苦手でね。できればこのまま避け続けてくれないかなーなんて思ってるんだけど……」
「残念だが、それはできない相談だ」
ゼノはナナシの懐に入り込み、鳩尾を殴りつけようとするが。ナナシはその腕を掴み、そのまま背負い投げを行った。
「ぬお!?」
ゼノは驚きの声を上げながらも空中で体勢を整え、地面に着地する。
(なるほど。思った以上にできるようだな)
ゼノは内心で舌打ちした。ナナシの実力を低く見積もっていたわけではないが、まさかこれほどとは思っていなかった。
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