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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

16,ハウンドドッグ

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ディーラーの制服に身を包んだナナシは、鏡に自分の姿を映して確認をする。
「ふむ……。これならまあ、よさそうかな?」
ナナシは53歳の壮年の男性ではあるが、筋肉もしっかりとついているし顔も相当に整っている。制服と合わせると、老歴の色気が滲み出ているようにすら見えるほどだ。
「どうかな?みんな。なかなかにそれっぽいだろう?」
ナナシが試着を終えて幹部たちの前に姿を現すと、ゴルディとハクタケは呆然とナナシを見ていた。特にゴルディなんかは喉をごくりと鳴らしており、今にも襲いかからんばかりである。
(え……?なんかゴルディさん、怖いんだけど!?)
ゴルディの様子を見たナナシは若干引き気味であったが、そんなことにはお構いなしにゴルディが口を開く。
「おっ……おう!なかなか似合ってるじゃねぇか!」
「そっ、そうだね。うん、悪くないと思う」
二人からの素直じゃない褒め言葉を聞いたナナシは、少し照れ臭そうに頬を掻いた。
「あー、ありがとう……」
そのナナシの肩にゼノが手を置いた。
「ふむ。なかなかにきまっているな。これならばいいカジノの看板になるだろう。うむ、実に素晴らしい」
ゼノの言葉を聞きながら、ナナシは自分の格好を見下ろした。
(……看板?)
「……あっ、やっぱりこの仕事やめます」
「おいこらぁ!!何言ってんだよ!!」
ゴルディの怒声が響き渡った。
「冗談だよ、冗談。まあでも、その様子を見ると本当に大丈夫みたいだね。よかった」
「てめぇ、ふざけんなよマジで!もう後戻りできねえからな!」
「ああ、わかってるよ。覚悟の上だ。ところでゴルディ、店の名前は――」
ナナシがそう言いかけた時だった。スタッフルームの扉が開いてカロンが入ってくる。
「おーい、ゴルディ。やっぱりだめだ、開店までにコロシアムのほうは作り終わらねえ……。って爺さん、随分とエロい格好をしてるなあ」
にやにやと笑う二メートル越えのガテン系マッチョに、ナナシは顔をしかめた。
「うるさいぞ、お前さんには関係ない話だろ?」
「へへ、まあそりゃそうなんだがな」
カロンはナナシの腰に手を回し。
「こうまでエロい格好を見せられちゃあ、男として黙ってられねえよな。どうだい、これから一緒にホテルにでも行って大人の遊びをしねえかい?」
下品な笑みを浮かべながら、ナナシを誘ってきた。
「ふんっ、遠慮しておくよ」
「つれないこと言わずによぉ~」
ナナシの首筋を舐めるように見つめてくるカロンの顔を押し退けると、ナナシはゴルディに視線を向けた。
「ゴルディ、店の名前はもう決まったのか?」
「あー……。やっぱり名前って必要だよな?」
「あったほうがいいに決まってるだろう。まさか店名も決めていなかったのか?」
「わりぃ、すっかり忘れてたぜ。でも、急に言われても思いつかねぇしなぁ……。何か案があるなら教えてくれよ」
「うーん、そうだな……」
ナナシは腕を組みながら考え込む。
そしてしばらくすると、ポンッと手を打った。
「『カジノ・オブ・ザ・デッド』なんてどうかな?ゾンビだらけのカジノっていう意味でさ」
「却下だ、馬鹿野郎!」
ゴルディは即座に否定した。
「えー、なんで駄目なんだ?」
「だってよ、縁起悪すぎじゃねえか!?」
「そうかな?私は別に気にしないけど……」
「俺が嫌なんだよ!それに、この店のコンセプトはもっと違うものだろ!?」
「コンセプト?ああ、『紳士淑女の皆様に楽しんで頂けるような安心安全な健全なカジノ』だったっけ?」
「そうそう、それそれ!だからそんな物騒なのはダメだ!まったく、センスがねぇなあ」
「……君にだけは言われたくなかったかな……」
ナナシは呆れた様子だったが、しかしすぐに気を取り直して他の案を考えてみた。
(うーん……。他にはどんなものがいいだろうか……)
ナナシは再び考え込み始める。
するとその時、ハクタケがボソリと呟いた。
「……『ハウンドドッグ』とかはどう?」
「おっ、それ良いな!かっこいいじゃんか!」
ゴルディの反応を見て、ナナシは首を横に振った。
「……いや、ちょっと安直すぎないかい?」
彼らの組織は暗殺者組織『ハウンド』だ。その名前を冠するというのは、少しばかり抵抗があった。
「そっか……。確かに、そうかもしれないね……」
しゅんとするハクタケ。だがゴルディは意気揚々と、
「いいじゃねえか、『ハウンドドッグ』!俺たちが表舞台に躍り出る最初の一歩としては相応しいんじゃねぇか?」
そう言って、満面の笑みを浮かべている。
「……ふむ、それもそうだな。よし、今日からここは『カジノ・オブ・ザ・デッド』改め、『ハウンドドッグ』だ!」
ナナシの宣言により、この日この場所から新たな物語が始まることとなった。
「あら、ようやく店名が決まったのね」
その時、クロエが更衣室から出てきた。クロエはバニーガールの衣装に身を包んでいる。
「おっ、すげえな姉ちゃん!めちゃくちゃ似合ってるぜ!」
「ふふん、当然よ」
カロンの言葉を受けて、クロエは胸を張ってみせる。
「いやー、やっぱりバニーガールといえば巨乳だよなぁ!うん、実に素晴らしい!」
ゴルディがでれっと鼻の下を伸ばしながら、そう言った。
「いやらしい目つきね……。そんなに私の身体が見たいの?」
「そりゃあもちろんだぜ。なんせ俺はお前さんの大ファンだからな。なあ、ゼノの旦那もそう思うだろ?」
カロンが話をふると、ゼノは少しだけ考える素振りを見せた。
「うーむ、まあ確かに魅力的だとは思っているぞ」
その言葉を聞いた瞬間、クロエの顔色が曇る。
「……嘘でしょう?あなたほどの男が私の魅力に気がついていないわけがないわ」
「いや、本当だ。お前さんのことは嫌いではないし美しいとも思ってはいるが、それは恋愛感情とは違うものだ」
「……へぇ、そうなのね。意外だったわ」
「うむ。ちなみに、私はお前さんのことをそういう対象として見たことはないぞ」
「……」
クロエは真顔のまま固まった。
「おいこら爺さん、いくらなんでも言い過ぎだぞ!」
カロンが慌ててフォローに入る。
「いやいや、本当のことだ。私はお前さんよりも年上だし、そもそも女に興味はないからな」
「…………」
「おいっ、黙ってないでなんとか言ってくれよ!なんか怖いんだけど!」
カロンは必死にクロエに話しかけるが、彼女は無反応だった。
「うーん、これは重症だなぁ……」
カロンは困ったように頭を掻いた。
「……ところでカロン、コロシアムの方はもうできたのかい?」
ナナシの質問に対し、カロンは苦笑いを浮かべながら答える。
「いや、それがまだなんだよ。思ったより作業が進まないんだ」
「ふむ、そうか……」
ナナシは顎に手を当てて考え込む。するとゴルディが口を開いた。
「まあ、コロシアムのほうは急がなくても大丈夫だろ。それよりも、まずは店の準備だ。従業員の選別もしないといけないからな!」
カジノの従業員はハウンドの隊員の中から選ばれることになっていた。ゴルディの言う通り、まずは人員の確保をしなければならない。
「そうだな。とりあえず、人選だけでも済ませてしまおう」
「ああ、任せておけ。すでに何人かには声をかけてある」
組織のボスであるゴルディの命令は絶対だ。彼には逆らうことはできない。
だがゴルディは命令ではなく、あくまでお願いという形で部下たちに協力を求めた。
(こういうところからも人柄の良さが滲み出ているんだよなぁ)
ゴルディの優しさに触れたナナシは嬉しくなった。
「よし、それじゃあ早速取りかかろう。ハクタケ、君はカジノの受付係をやってもらうことになると思うけど、大丈夫かな?」
「うん、頑張るよ」
ゴルディとカロンはコロシアムの整備を行い、ゼノは客の誘導を行う。そしてナナシとハクタケはカジノの内装を整えていくことになった。
「いやー、カジノって言っても何をすればいいのかよくわからないな」
ナナシはカジノの内部を見回しながら呟く。内部はかなり広く作られているため、掃除をするにもかなりの労力が必要だと思われた。
「まあ、最初は簡単なことから始めよう。お客様に挨拶をしたり、ルーレットの玉を投げたりといった感じでさ」
「なるほど、わかったよ」
こうしてカジノ『ハウンドドッグ』は開店に向けて動き出したのであった。
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