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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

13,ナナシという男〈後編〉

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「私が生まれたのは、とある国のスラム街だった。そこでは毎日のように子供が死んでいった。そして、その死体を漁るのが私の仕事だった」
ナナシは淡々と語り始める。
「私が十歳の時に、ある男がやってきた。その男は私の親代わりとなってくれた。その男のおかげで、私たちは飢え死にせずに済んだよ。だけど、その男の素性は誰も知らなかった。その男は私たちに文字や計算を教えてくれた。食べ物を盗む方法や、人を殺す方法を教わった。他にも、生きるために必要な知識をたくさん教えてもらった。……それから数年後、彼は姿を消した。ある日突然、彼の姿が見えなくなったんだ。みんな必死に探したが見つからなかった。そして、気づいた時には彼が姿を消してから数年が経っていた。……そして、私たちは大人になった。その頃になると、私たちは盗みや殺しに慣れてしまっていた。……そして、あるとき気づいてしまった。自分たちがどれだけ醜い生き物なのかということにね。だから、私は彼らと別れた。彼らは私を恨んでいるかもしれない。憎まれていても仕方がないことをしたと思っている。……だけど、私にとってはかけがいのない仲間だった。だから、彼らのことは忘れることにした。……そうして、私は一人ぼっちになってしまった」
ナナシは自嘲するように笑う。
「……だから、私の名前なんてものは必要なかった。『ナナシ』という名前だけが私に残された唯一のものだった。だから、私は『ナナシ』と名乗った。……それだけの話さ」
ナナシはそう言って話を締めくくると、クロエが口を開く。
「あなたがどんな人生を歩んできたかなんてあたしたちにはわからないわ。でも、一つだけわかることがある」
クロエは真剣な眼差しでナナシを見つめる。
「……なにかな?」
「それは、あんたが『ナナシ』を名乗ったことだけは絶対に間違っているわ!」
クロエの言葉にナナシは苦笑する。
「……そうだね。確かに、私の選択は間違いだらけだ。今更後悔したところで遅いけれどね」
ナナシは寂しげな表情を浮かべると、ゼノが口を挟む。
「お前がしてきたことは決して許されるものではない。だが、お前が今まで生きてきた中で得た経験や技術は無駄ではなかったはずだ。お前がこれからどうするかはお前次第だ」
「ははっ、ありがとうな。さすが老人の知恵袋と呼ばれるだけのことはあるね」
ナナシは嬉しそうな表情で礼を言うと、ゼノは不機嫌になる。
「誰が老人の知恵袋だ!」
「あーはいはい!その話はもういいから!」
ゼノの文句を遮るようにクロエが叫ぶと、ナナシは楽しそうに笑い出す。
「はははっ!やっぱり君は面白い子だよ」
ナナシはそう言うが、ゼノは不満げな表情を崩さずにナナシを睨みつける。
「ふんっ!お前のような奴に褒められても全くうれしくない」
「まあ、そうだろうねぇ」
ナナシはそう言いながら立ち上がる。
「それじゃあ、そろそろお暇させてもらおうかね」
「おい、待て!まだ聞きたいことが――」
「悪いねぇ。あまり長居すると怒られちゃうんだ」
ナナシは申し訳なさそうに謝るが、ゼノは食い下がる。
「なら、せめてお前の目的を教えろ」
「目的か……。そんなものはないよ。私はただ自分が生きることだけで精一杯さ」
ナナシの言葉にゼノは呆れたようにため息をつく。
「お前はそれで満足できるのか?」
「ああ、もちろんさ。私はただの一般人なんだ。そんな大層なことを望むわけがないじゃないか。……まあ強いて言えば、この世界が変わることを祈っているよ」
ナナシは穏やかな表情で言う。
「……変わった男だ」
「よく言われるよ」
ナナシは笑顔のまま答えると、ゼノは諦めたかのように呟いた。
「……好きにしろ」
「ありがとよ。それじゃあ、またいつか会えるといいねぇ」
ナナシはそう言って部屋を出て行った。
「良かったの?あいつ逃がして」
「……構わないだろ。どうせカジノが始まったらあいつにはディーラーをやってもらうつもりだしな」
「ふぅん……」
ゼノの発言にクロエはつまらなそうに返事をする。
「……なんだ?何か気に食わないことでもあるのか?」
「別にぃ……」
「……そうか」
ゼノはそれ以上は何も言わずに黙り込む。そして、しばらくしてクロエが口を開いた。
「ねぇ、ゼノ。あんたってさ、意外とお節介焼きなところがあるよね」
「なんだいきなり?」
「だってさ、あんなに嫌がってたくせに結局はゴルディのこと助けてあげたじゃない。それに、ナナシのことだってさ……」
クロエの言葉を聞いた瞬間、ゼノの顔色が変わりクロエを怒鳴る。
「馬鹿野郎!!俺はあんな奴を助けた覚えはない!!」
ゼノは声を上げて否定するが、その顔は明らかに動揺しているように見える。そのことに気づかず、クロエはさらに続ける。
「……まあ、ゼノがそういうならそれでも良いけどさ。……でも、ゼノって結構優しいよね」
「……うるさい。お前はさっきから何を言っているんだ?」
「べぇつに~。なんでもありませんよぉ」
クロエはニヤリと笑ってからかい始めると、ゼノのこめかみに青筋ができる。
「……ほう、俺をからかっているようだな?」
「へっ!?いやいやいやいやいや!滅相もございません!」
クロエは慌てて敬語で答えるが、ゼノはクロエのことを睨みつける。
「お前には後できつい仕置きが必要だな」
ゼノはそう言うと、クロエは顔を真っ青にする。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!なんであたしが罰を受けないといけないのよ!?」
「お前が先に手を出したからだ」
「あれはゼノが――」
「問答無用だ」
ゼノはクロエの言葉を遮ってそう告げると、クロエは絶望したような表情を浮かべる。
「……ゼノの鬼畜」
「なんとでも言え」
ゼノはクロエの言葉を聞き流しながら、ナナシが残したトランプを眺めていた。そしてこうつぶやいたのだった。
「……本当に、不思議な男だ」
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