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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

2,王の計略

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アルフォンスが次代の王に選ばれたのは『セレンディアの血族』であるからだ。この国の王は政を司る以上に、精霊と契約を果たし、精霊の力をセレンディア中に行き渡らせる役割を持っている。
そしてアルフォンスと契約したのは精霊を束ねる女神、名をアーシャリアという。
彼女こそが、当代のセレンディアの王の契約者なのだ。
(だが……これでよかったのか?)
神官長であるバルト・エルバムは自問した。
神官長は神に仕える身であり、神の代行者である王の言葉を代弁する立場にある。だから当然、神官長は儀式の最中もずっと王に進言しようとしていたのだ。
しかし結局、何も言えなかった。
神官長はこれまで何人もの王位継承者の即位式を執り行ってきたが、こんなことははじめてだった。
(アーシャリア様はアルフォンス様の野心を察して警告されたのだろうか)
だがもしそうだったとしても、もはやどうすることもできない。
すでに儀式は終わってしまったのだ。
アルフォンスは儀式を行ったことによりすべての精霊と契約を交わした。つまりもう後戻りはできない。
「……何事も起きなければよいが」
神官長はそう呟くと、深いため息を落とした。


アルフォンスが行動を起こしたのはその日の夜半過ぎのことだった。
夜になると、城の周りは厳重な警戒態勢が敷かれる。それは、他国からの襲撃に備えてのことでもあるし、また魔物が襲ってくる可能性もあるからだ。
その日も例外ではなく、多くの兵士が警備にあたっていた。
その兵士たちが謀反を企てていたとは、さすがに誰も想像しなかっただろう。
アルフォンス・セレンディアは、幼い頃から優秀な少年であった。勉学でも武術においても、大人顔負けの才能を発揮した。さらにその容姿は誰もが目を奪われるほど美しく、まさに神童と呼ばれるにふさわしい子供だった。
そんな彼が王に即位した時、誰もが喜んだ。
誰もが彼のことを褒め称えた。
誰もが彼に期待した。
誰もが彼を信じた。
だがアルフォンスの本心は違っていた。
自分以外のすべての王族を根絶やしにして、自分以外の者が精霊と契約を結ぶことがないようにすること。それがアルフォンスの望みだった。
そのためにアルフォンスは、ありとあらゆる手段を使ってきた。
たとえば、アルフォンスの母はすでに亡くなっている。アルフォンスがまだ幼い頃に病気で死んだのだ。
アルフォンスにとって母は唯一無二の存在だった。その母を失った時の悲しみと喪失感は計り知れないものだった。
だが、それさえも利用することにした。アルフォンスは母の死が引き金となって王位を継承したという噂を流した。そしてその噂を真実として広めさせた。
その結果、アルフォンスへの支持はますます高まっていったのである。だが、アルフォンスの野望はそれだけではなかった。
アルフォンスの本当の望みは――「父上。あなたの首は僕がもらい受けます」
アルフォンスは玉座の前に立つ男に向かって冷たく言い放った。
その男はアルフォンスの父、すなわち現国王であった。彼は信じられないというように目を丸くしている。
「まさか……お前が……」
「えぇ。僕は精霊の力を手に入れて、この国を支配してみせます」
「ばかな! そんなことができるはずが――」
「できますとも」
アルフォンスは自信満々に笑った。
「あなたは、僕のことを高く評価してくれていましたよね? それはなぜですか?」
「な、なに?」
「あなたが愛していたのはこの僕です。ならば、その血を受け継ぐ僕が優秀でないわけがないでしょう?」
「アルフォンス……!」
「大丈夫ですよ、心配しないでください。すぐにこの国のすべてを奪ってみせましょう」
「……血迷ったか!ええい、誰か!こいつを止めろ!」
王が叫ぶと同時に、謁見の間に武装した男たちが現れた。彼らは一斉にアルフォンスに襲いかかる。
「無駄なことはお止めなさい」
だが、彼らの剣はアルフォンスの体に触れる前に弾き飛ばされた。同時に床から噴き出した炎が、彼らを包み込む。
「ぐあぁっ!」「ぎゃあっ」
断末魔の叫び声とともに、彼らは一瞬で灰となった。
「父上。私を殺せるものなら殺してみてくださいよ。――ただし、その瞬間にこの世界は滅びることになりますけどね」
「なにをいっているんだ?お前がいなくなったとしても他の者を王に立てれば……」
「あなた以外の王家のものはすでに全員死んでいるとしたらどうしますか?」
「そんなばかなことが……」
王がそう言いかけた時だった。扉が開かれ、大勢の兵士がなだれ込んでくる。その先頭に立った男、子爵の位を持つ貴族は王の前まで進み出ると、恭しく頭を下げた。
「陛下、ご無事でしょうか」
「貴様、いったいこれはどういうことだ!?」
王は激昂して叫んだが、貴族の態度は変わらなかった。
「どういうことかはこちらをご覧になられればわかると思いますよ?」
子爵の背後から数名の兵士が進み出る。彼らの手には血の滴る包みが握られていた。その包みを開くと人の首がごろごろと転がり落ちる。
「うわああっ」
王は悲鳴をあげた。その首に見覚えがあったのだ。王の従妹の顔が。その娘の顔が。自分の兄の顔が――王族の人間の生首が次々と現れた。
「なんということだ……!」
「残念ながら、これが現実です」
「アルフォンス……!きさま……!」
「ふっ……ようやくわかりましたか」
アルフォンスは満足げに笑う。
「これで王族はあなた以外いなくなりました。そして、あなたにはもう子供を作る能力もない。これがどういうことなのか、もうおわかりですね?」
「……っ」
王は絶句した。アルフォンスはゆっくりと歩み寄る。
「ですが父さん。あなたはまだ殺しません。あなたには断首台で盛大に死んでいただき、私の絶対王政の始まりを告げる生贄になってもらうのです」
「やめろ……やめるんだ……っ」
王は震え声で言ったが、アルフォンスはそれを一蹴した。
「やめるわけがないじゃないですか」
アルフォンスは冷たい目を向けると、王の首筋に手を伸ばした。
「さようなら、父上」
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