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漢たちの闘い(文化祭)

憧れのあなたへ

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「はぁ……はぁ……」
光輝は急いで着替えを終わらせるとアリーナへと向かって走っていた。
「まってろよ、幸人!!」
ばん、とアリーナの扉を開く。そこではすでにアイドルのライブが始まっている。そのステージに立つ男性アイドルこそが光輝の友人である北条幸人だ。「はぁ、はぁ、間に合ったぜ……」
光輝は安堵のため息をつきつつ、ライブを見守る。
「きゃーっ!!幸人くーん!!」
「頑張って~!」
「幸人くぅ―ん!」
女子生徒たちが黄色い声援を送っている。
「みんな、今日は僕のために集まってくれて、本当にありがとーっ!」
「「うおおおっ!!!」」
幸人のあいさつに、客席からは激しい雄叫びが上がる。
「ふっ。相変わらずの人気だな」
光輝は苦笑しながら呟く。
「じゃあ、二曲目行くよ!聴いてください!『キミへのラブソング』!」
曲が流れ出すと、光輝は目を閉じてその歌声に聴き入る。
(最高だぜ、幸人のライブ!やっぱりお前の闘う場所はリングなんかじゃねえ。ステージこそがお前の居場所なんだ!!)
そして、歌が終わると同時に目を開け、パチパチと手を叩いた。
「「うおおおおっ!!!」」
すると、先ほどとは比べものにならないほどの盛り上がりを見せる。
「「幸人くーん!」」
「こっちむいてぇ!」
「幸人くん素敵ぃ!」
「幸人くーん!」
「愛してるよぉ!」
「ああもう、うるさいうるさーい!静かにしなさぁい!」
先生がマイクを使って叫ぶ。
「じゃあ、次の曲は――」
どんどんと幸人のライブは進み、終わりの時刻が近づいてくる。
「アンコール!アンコール!!」
「「わああっ!」」
アンコールの声が響く中、幸人は息を整え、話始める。
「みんな、アンコールありがとう!でも、次の歌の前に僕の話を聞いてほしいんだ」
「幸人の話?」
光輝は首を傾げる。
「僕には、大切な人が二人います。その一人は……真理愛です」
幸人に促されて、最前列に座っていた一人の少女が立ち上がる。そして歩き出すと幸人の隣に並んだ。
「えっ、誰?すごくかわいい子だけど……」
「あの子は一体……?」
「まさか、彼女!?」
ざわめく場内。
「彼女は、僕の妹です。妹は数か月前に目の病気にかかり、失明寸前にまで追い込まれました」「そんなことが……」
「かわいそう……」
「幸人くん……」
会場はしんと静まり返っている。
「僕の家は父親の遺した莫大な借金のせいでお金がありませんでした。妹の手術のための費用も工面できない。……そんな状態でした」「…………」
「だから僕は……、ある決心をしたんです。……自分がこの手で働いて、なんとかしようと。それがどんなに辛いことか分かっていたけれど……。それでも……、家族のためにそうするべきだと思ったから」
「幸人……」
光輝は胸が熱くなるのを感じた。
「僕はある格闘技のリングに上がりました。そこで勝つことができればお金が手に入れられる。妹の手術の費用が手に入る!……でも駄目でした。僕は弱いから……お金を稼ぐことなんてできませんでした」
「幸人……!」
「敗北を繰り返した僕はペナルティを受け。酷い目にあいました。……もうだめだ、そう僕は思いました。このまま闘っていてもお金なんて手に入らない。僕は逃げ出したくてたまりませんでした」「幸人……」
「そんなときに、僕はある人に声をかけられました。そのリングの経営者の人です。『君が弱いのならば、パートナーと手を組めばいい。君の代わりに闘ってくれるような強い人と手を組むことができれば、お金を稼ぐことができる』と。そう言われたんです。……でも、いると思いますか?僕みたいなお荷物を抱えて、一人で闘ってくれるような。そんな強い人が」「幸人……」
光輝は拳を強く握りしめていた。
「正直、無理だと思いました。だって、僕みたいなやつと一緒に闘おうと思うような物好きはいないだろうって。……でも、いたんです。僕と手を組んで、一緒に闘ってくれる……。いや、一人でも勝ち抜いてくれた、そんな強くて優しい人が。その人は僕を守るために酷い目にあいました。だから僕は、もうその人が酷い目にあうのが嫌で。彼から離れようと思ったんです。……でも、その人は言ってくれました。『お前が諦めたら妹はどうするんだ!?大切な青春時代を闇の中で過ごすことになっても平気なのか!?』って。そう、励ましてくれたんです」幸人は客席に向かって頭を下げる。
「その言葉を聞いたとき、僕の心の中の何かが吹っ切れた気がしました。……そして今、ここに立っています。みんな、聞いてくれてありがとう!僕が言いたいことはただ一つ!それは――」
幸人は大きく息を吸い込む。
「――愛しています、紀ノ國光輝さん!!」幸人は観客席の最後列にいる光輝をまっすぐに見つめた。
「「きゃああああっ!!」」
「「幸人くーん!!」」
「幸人くんお幸せにーっ!!」
「うおおっ!幸人ぉ―っ!」
客席は大騒ぎだ。
「ちょ、ちょっと待った。幸人、俺は……」
「わかっています。光輝さんには好きな人がいることくらい。……僕のこの気持ちが届かないことくらい。だからこれは……。この気持ちは、格好良くて優しくて、強くて素敵なあなたへの。男としてはるか高みにいるあなたへの『憧れ』なんです」
「幸人……!」
「光輝くん、受け取ってください!僕はあなたへのこの気持ちを歌に込めました。聞いてください。僕の新曲『憧れのあなたへ』」
幸人の歌が始まった。
光輝は涙を流す。
「くそっ!くそっ!なんでだよ!?なんでお前がこんなにも俺のことを想ってくれているんだよ!?」
そして、幸人の歌が終わると同時に。
「うおおっ!!」
会場は割れんばかりの歓声に包まれる。
「「幸人くーん!!」」
「幸人くん最高ー!」
「幸人くん、愛してるぅ!」
「幸人くーん!」
「幸人くーん!」
「幸人く――ん!!」
会場は幸人コールが鳴り止まない。
そんな中、光輝は一人涙を流し続けていた。

***
「光輝さん!本当にいろいろとありがとうございました!」
「私も!光輝さんにお礼を言わせてください!私のことを助けてくれて本当にありがとうございました!!」
控室の中で、幸人と真理愛に頭を下げられて光輝は照れたように笑う。
「いや、いいんだって。いまさらそんなこと言うこともないだろ?水臭いな」
「いえ、言わせて下さい。……僕たちのために一生懸命になってくれたあなたには感謝してもしきれないんです。……それに、真理愛が失明しなかったのは、あなたのおかげですから」
「幸人……。……ああ、わかったよ。ありがたく受け取っといてやる」
「はい」
幸人が微笑む。
「あの……。光輝さんは。光輝さんは、お兄ちゃんのことをどう思ってるんですか!?」
「え?」
「……真理愛?」
「さっきの告白を聞いて、私は分かりました。……お兄ちゃんが誰よりも強い想いを抱いている相手は、光輝さんなんだって。だから……、だから、もし、よかったら……」
「……」
「……」
「……すまない、嬢ちゃん。俺には権田原雄三さんっていう、誰よりも大切で愛している人がいるんだ。だから、その……。あんたの兄貴とは付き合えない」
「そうですか……。そうですよね……。ごめんなさい、変なこと聞いちゃって……」
「……謝ることなんてねえよ。むしろ嬉しいぜ。そこまで言ってくれる相手がいることが」
「ふふっ。ありがとうございます。……でも、光輝さん。確かに僕は光輝さんと付き合えないかもしれない。それでも僕と光輝さんは友達ですよね?ねっ!?」
「……まあ、そうだな」
「やったぁ!」
「……そういえば、その嬢ちゃんの目だけど」
「はい、治りました!これも全部光輝さんのおかげなんですよ!本当にありがとうございました!!」
「そうだったのか。そりゃあ良かった」
「……でも、これでお別れなんて寂しいです。せっかく仲良くなったのに……」
「何を言うかと思えば、馬鹿だなお前」
「……光輝さん?」
「俺はお前の『憧れ』の『ヒーロー』だぞ?困ったことがあったらいつでも駆けつけてやれる距離にいるのが当たり前だろ?だから、また何かあったときはすぐに連絡しろ。いいか?約束だかんな!」
「……はいっ!!はい、もちろんです!!」
「……光輝さん、ありがとうございます」
「気にするなって」
そう言って三人は笑い合う。こうして幸人の恋は終わりを告げたのだった……。
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