45 / 50
漢たちの闘い(文化祭)
前夜祭
しおりを挟む
翔太は大学生だった当時は全国でもそこそこに有名な選手だった。翔太が顧問をつとめる大学のレスリング部にも全国大会に出ている選手が何人もいた。
「先生、お願いします!」
「ああ、かかってこい!」
翔太はここ数日、そういう全国レベルの部員の相手をしていた。
「ぐあっ!?」
「よし、これで終わりだな」
「はい、ありがとうございました!!」
練習が終わった後、選手たちは礼をする。
「みんな、よく頑張ったな」
「はい、先生の指導のおかげです」
「いや、お前たちが努力した結果だ」
「それでも、感謝しています」
「ああ、わかった」
こうして生徒と触れ合っていると、大学時代を思い出す。あの時はまだ自分もこんな風になるなんて想像していなかったな。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
「はい!」
生徒たちが帰った後、一人になった部屋の中で翔太は物思いにふける。
(俺はもっと強くならないといけないんだ!)
翔太はそう思う。光輝がさらわれたあの日、翔太は光輝と一緒にいた。翔太が人質に取られてしまったからこそ、光輝は捕まってしまったのだ。
気絶をさせられ、気がついたら朝だった。犬を連れて散歩に来ていたお爺さんに起こされ、すぐに警察にかけこんだ。捜査は難航したが、光輝は自力で帰ってきたのだ。
(俺が弱かったから……!光輝を守れなかったんだ……!!)
だから、強くなる。誰にも負けないくらい。光輝をもう二度と傷つけさせないように。
それが翔太の決意だった。
「そういえば先生、学園祭のことなんですけど」
「ん?どうしたんだ?」
生徒の一人が話しかけてきた。
「うちの部では学生プロレスやるんですよね?」
「ああ、そうだぞ」
「それで、対戦相手なんですけど、プロの選手を呼んだらどうかなって思うんです」
「ほう……」
確かに悪くはない案だ。プロ、と聞いた時翔太の頭には光輝の顔が浮かんだ。光輝はプロレスラーではないが、プロレスラーを目指している。最近では雄三にコーチをしてもらっているらしい。プロレスラーとうちの学生の光輝。この組み合わせは面白そうだ。
「いいんじゃないか?」
「本当ですか?」
問題は誰を呼ぼうか、ということだが。
「まあ、そういうことは雄三さんに相談すればいいか」
「雄三さんって、まさか超日本プロレスの権田原雄三さんですか!?」
「ああ、そうだ」
「うわぁ、すごいなぁ!」
「だろ?」
雄三の人気は高い。最近はテレビでもよく見かけるようになった。
「ところで、先生はプロレスに詳しいんですね」
「そういうわけじゃないんだけど。雄三さんとはこの間海水浴に一緒に行った仲でさ」
「へぇ、そうなんですか」
雄三さんは良い人だし、強いし、頼りがいがある。そんな人に鍛えてもらえたら光輝だってきっと喜ぶだろう。
「じゃあ、この話は俺に任せてくれ!」
「はい、よろしくお願いします」
こうして光輝が知らない間に学生プロレスに参加することが決まった。
***
幸人は紙に歌詞を書いてはぐちゃぐちゃにまるめ放り捨てる。そしてまた書いては……という無意味な作業に没頭していた。
「お兄ちゃん……。なにしてるの?」
幸人の妹の真理愛が声をかける。
「別になんでもないよ」
「嘘。お兄ちゃんずっと部屋にこもっているじゃん。私、心配してるんだよ?」
「…………」
「ねえ、どうして黙るの?お兄ちゃんはいつもそうやって一人で抱え込んで。たまには私たちを頼ってよ」
「……光輝さんの学園祭で発表する新曲の歌詞を考えてるんだよ」
幸人はアイドルだ。そして、かつて自分を。そして妹を助けてくれた光輝に心酔している。
「光輝さんの!?」
幸人の言葉に真理愛が食いついてくる。真理愛は少し前に目の病気で視力を失いかけた。その治療費を稼ぐために光輝が助けてくれた、と聞いた時以来。いつか光輝にあってお礼を言うのだと張り切って過ごしている。
「うん、そうだけど」
「それなら、その曲私が歌ってもいい!?」
「ダメだよ」
「なんで!?」
「これは僕の曲で僕が歌うための曲だ。それに、これは僕が光輝さんに直接歌うために書いたものだから」
「へー?」
真理愛はにやにやと笑う。
「な、なにその顔……」
「べっつに~」
「むぅ……」
「あはは、ごめんてば」
真理愛の態度に不機嫌になる幸人をなだめながら、真理愛は尋ねる。
「でもさ、お兄ちゃんってほんとに光輝さんのこと好きなんだね」
「え、あ……。まあ、うん」
「ふふ、お兄ちゃん可愛い♪」
顔を赤くする幸人に、真理愛は抱き着く。
「ちょ、ちょっと!?」
「あはは、照れてる!私、お兄ちゃんの恋応援するからね!」
「いや、それは……」
「だって、お兄ちゃんはもう光輝さんとエッチなことしたんでしょ?」
「ぶふぉ!?」
「あはは、やっぱり。ねぇ、どんな感じだった!?気持ちよかった!?」
「そ、そんなこと聞くんじゃありません!」
「あはは、ごめんなさい!」
二人はじゃれあいながらも楽しそうに会話をする。
「でも、学園祭かぁ。行ってみたいな」
「大丈夫だと思うよ。学園祭だから関係者じゃなくても入れるはずだし」
「やった!」
「……でも、僕が光輝さんの恋人になるのは難しいかな」
「なんで?」
「だって、光輝さんは……光輝さんにはもう心に決めている人がいるから」
「そうなんだ……残念」
光輝は開放されたあと雄三を頼った。それは光輝が雄三を選んだということにほかならない。
「だから、僕の恋は理想のあの人への『憧れ』なんだ」
「ふーん……じゃあさ」
「?」
「お兄ちゃんの本当の想いはどうなの?光輝さんのこと好きじゃないの?」
「僕は……好きだよ。とても」
「……そっか」
「……学園祭、行く?」
「もちろん!絶対いく!!」
***
「へー。じゃあ、お前は雄三さんと同棲を始めた、ってわけか」
「まあ、そうなるかな」
大吾の言葉に、光輝は照れたように
答える。
「いや、もう結婚しちまえよ」
「けっ!?」
「いや、雄三さんなら安心できるだろ?それに雄三さんがいれば金にも困らないだろうしさ」
「い、いや、そういう問題じゃなくて」
「ふむ。そういう話をするということは、大吾。お前は私との結婚を望んでいるということだな?」
隼人はにやりと笑って言う。
「はぁ!?何言ってんだよ!?」
「じゃあ嫌なのか!?」
「い、嫌とかそういう話じゃなくってだな!いや、俺はおまえのことは好きだけど……。俺達男同士だし。婚姻届けも出せないだろ?」
「確かにな。だが、養子縁組という手もあるぞ?」
「うわぁ、マジで考えてたのかよ」
「当たり前だ。私は本気で言っている」
「はぁ……。まあ、考えとくよ」
柔道金メダリストの隼人から大吾と光輝は柔道を教わっている。今はその休憩中だ。
「ところでさ、光輝は学園祭どうするんだ?」
「どうする、って。まあ、俺は無所属だから休みってだけだから。少しくらいは遊びに行こうと思ってるけど」
「そうか……。よし、光輝!お前は柔道部を手伝え!」
「あ?あー、まあいいけど。なにするんだ?」
「『筋肉喫茶』」
「……はい?」
「だから、『筋肉喫茶』だよ。上半身裸の筋肉美をさらした漢たちがドリンクサービスを行う喫茶店。そこで、客寄せパンダになってくれ!」
「なんだよそれ……」
「楽しそうだな!」
呆れている光輝とは反対に、隼人はノリ気のようだ。
「お、おい……」
「いいじゃないか。光輝の肉体美を見せれば女性客もたくさん来るだろう。そしてなにより、大吾の体を見られるんだ!最高ではないか!」
「えぇ……」
「……隼人、オレの裸くらいいつもベッドで見てるだろ?」
「バカ者!それとこれとは別物なのだ!とにかく、光輝には参加してもらうからな!」
「まあいいけどな」
こうして、光輝は学園祭で半裸で接客することになった。
「先生、お願いします!」
「ああ、かかってこい!」
翔太はここ数日、そういう全国レベルの部員の相手をしていた。
「ぐあっ!?」
「よし、これで終わりだな」
「はい、ありがとうございました!!」
練習が終わった後、選手たちは礼をする。
「みんな、よく頑張ったな」
「はい、先生の指導のおかげです」
「いや、お前たちが努力した結果だ」
「それでも、感謝しています」
「ああ、わかった」
こうして生徒と触れ合っていると、大学時代を思い出す。あの時はまだ自分もこんな風になるなんて想像していなかったな。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
「はい!」
生徒たちが帰った後、一人になった部屋の中で翔太は物思いにふける。
(俺はもっと強くならないといけないんだ!)
翔太はそう思う。光輝がさらわれたあの日、翔太は光輝と一緒にいた。翔太が人質に取られてしまったからこそ、光輝は捕まってしまったのだ。
気絶をさせられ、気がついたら朝だった。犬を連れて散歩に来ていたお爺さんに起こされ、すぐに警察にかけこんだ。捜査は難航したが、光輝は自力で帰ってきたのだ。
(俺が弱かったから……!光輝を守れなかったんだ……!!)
だから、強くなる。誰にも負けないくらい。光輝をもう二度と傷つけさせないように。
それが翔太の決意だった。
「そういえば先生、学園祭のことなんですけど」
「ん?どうしたんだ?」
生徒の一人が話しかけてきた。
「うちの部では学生プロレスやるんですよね?」
「ああ、そうだぞ」
「それで、対戦相手なんですけど、プロの選手を呼んだらどうかなって思うんです」
「ほう……」
確かに悪くはない案だ。プロ、と聞いた時翔太の頭には光輝の顔が浮かんだ。光輝はプロレスラーではないが、プロレスラーを目指している。最近では雄三にコーチをしてもらっているらしい。プロレスラーとうちの学生の光輝。この組み合わせは面白そうだ。
「いいんじゃないか?」
「本当ですか?」
問題は誰を呼ぼうか、ということだが。
「まあ、そういうことは雄三さんに相談すればいいか」
「雄三さんって、まさか超日本プロレスの権田原雄三さんですか!?」
「ああ、そうだ」
「うわぁ、すごいなぁ!」
「だろ?」
雄三の人気は高い。最近はテレビでもよく見かけるようになった。
「ところで、先生はプロレスに詳しいんですね」
「そういうわけじゃないんだけど。雄三さんとはこの間海水浴に一緒に行った仲でさ」
「へぇ、そうなんですか」
雄三さんは良い人だし、強いし、頼りがいがある。そんな人に鍛えてもらえたら光輝だってきっと喜ぶだろう。
「じゃあ、この話は俺に任せてくれ!」
「はい、よろしくお願いします」
こうして光輝が知らない間に学生プロレスに参加することが決まった。
***
幸人は紙に歌詞を書いてはぐちゃぐちゃにまるめ放り捨てる。そしてまた書いては……という無意味な作業に没頭していた。
「お兄ちゃん……。なにしてるの?」
幸人の妹の真理愛が声をかける。
「別になんでもないよ」
「嘘。お兄ちゃんずっと部屋にこもっているじゃん。私、心配してるんだよ?」
「…………」
「ねえ、どうして黙るの?お兄ちゃんはいつもそうやって一人で抱え込んで。たまには私たちを頼ってよ」
「……光輝さんの学園祭で発表する新曲の歌詞を考えてるんだよ」
幸人はアイドルだ。そして、かつて自分を。そして妹を助けてくれた光輝に心酔している。
「光輝さんの!?」
幸人の言葉に真理愛が食いついてくる。真理愛は少し前に目の病気で視力を失いかけた。その治療費を稼ぐために光輝が助けてくれた、と聞いた時以来。いつか光輝にあってお礼を言うのだと張り切って過ごしている。
「うん、そうだけど」
「それなら、その曲私が歌ってもいい!?」
「ダメだよ」
「なんで!?」
「これは僕の曲で僕が歌うための曲だ。それに、これは僕が光輝さんに直接歌うために書いたものだから」
「へー?」
真理愛はにやにやと笑う。
「な、なにその顔……」
「べっつに~」
「むぅ……」
「あはは、ごめんてば」
真理愛の態度に不機嫌になる幸人をなだめながら、真理愛は尋ねる。
「でもさ、お兄ちゃんってほんとに光輝さんのこと好きなんだね」
「え、あ……。まあ、うん」
「ふふ、お兄ちゃん可愛い♪」
顔を赤くする幸人に、真理愛は抱き着く。
「ちょ、ちょっと!?」
「あはは、照れてる!私、お兄ちゃんの恋応援するからね!」
「いや、それは……」
「だって、お兄ちゃんはもう光輝さんとエッチなことしたんでしょ?」
「ぶふぉ!?」
「あはは、やっぱり。ねぇ、どんな感じだった!?気持ちよかった!?」
「そ、そんなこと聞くんじゃありません!」
「あはは、ごめんなさい!」
二人はじゃれあいながらも楽しそうに会話をする。
「でも、学園祭かぁ。行ってみたいな」
「大丈夫だと思うよ。学園祭だから関係者じゃなくても入れるはずだし」
「やった!」
「……でも、僕が光輝さんの恋人になるのは難しいかな」
「なんで?」
「だって、光輝さんは……光輝さんにはもう心に決めている人がいるから」
「そうなんだ……残念」
光輝は開放されたあと雄三を頼った。それは光輝が雄三を選んだということにほかならない。
「だから、僕の恋は理想のあの人への『憧れ』なんだ」
「ふーん……じゃあさ」
「?」
「お兄ちゃんの本当の想いはどうなの?光輝さんのこと好きじゃないの?」
「僕は……好きだよ。とても」
「……そっか」
「……学園祭、行く?」
「もちろん!絶対いく!!」
***
「へー。じゃあ、お前は雄三さんと同棲を始めた、ってわけか」
「まあ、そうなるかな」
大吾の言葉に、光輝は照れたように
答える。
「いや、もう結婚しちまえよ」
「けっ!?」
「いや、雄三さんなら安心できるだろ?それに雄三さんがいれば金にも困らないだろうしさ」
「い、いや、そういう問題じゃなくて」
「ふむ。そういう話をするということは、大吾。お前は私との結婚を望んでいるということだな?」
隼人はにやりと笑って言う。
「はぁ!?何言ってんだよ!?」
「じゃあ嫌なのか!?」
「い、嫌とかそういう話じゃなくってだな!いや、俺はおまえのことは好きだけど……。俺達男同士だし。婚姻届けも出せないだろ?」
「確かにな。だが、養子縁組という手もあるぞ?」
「うわぁ、マジで考えてたのかよ」
「当たり前だ。私は本気で言っている」
「はぁ……。まあ、考えとくよ」
柔道金メダリストの隼人から大吾と光輝は柔道を教わっている。今はその休憩中だ。
「ところでさ、光輝は学園祭どうするんだ?」
「どうする、って。まあ、俺は無所属だから休みってだけだから。少しくらいは遊びに行こうと思ってるけど」
「そうか……。よし、光輝!お前は柔道部を手伝え!」
「あ?あー、まあいいけど。なにするんだ?」
「『筋肉喫茶』」
「……はい?」
「だから、『筋肉喫茶』だよ。上半身裸の筋肉美をさらした漢たちがドリンクサービスを行う喫茶店。そこで、客寄せパンダになってくれ!」
「なんだよそれ……」
「楽しそうだな!」
呆れている光輝とは反対に、隼人はノリ気のようだ。
「お、おい……」
「いいじゃないか。光輝の肉体美を見せれば女性客もたくさん来るだろう。そしてなにより、大吾の体を見られるんだ!最高ではないか!」
「えぇ……」
「……隼人、オレの裸くらいいつもベッドで見てるだろ?」
「バカ者!それとこれとは別物なのだ!とにかく、光輝には参加してもらうからな!」
「まあいいけどな」
こうして、光輝は学園祭で半裸で接客することになった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる