上 下
30 / 50
漢たちの闘い(海水浴編)

車内にて

しおりを挟む
季節は移り変わり、八月を迎えていた。
太陽がさんさんと照りつけ、アスファルトの地面を焦がすような暑さだ。そんな中を1台のバンが走る。6人の男たちを乗せて。

「光輝ちゃん、どんな水着を持って来たんだい?」
そんなことを聞きながら、雄三は光輝の太ももを撫でた。光輝はそんなことをまったく意にも介さないで。
「普通のやつだな」
と答えた。その答えに雄三は不満そうだったが、
「さすがに普通の海水浴場でビキニとかは着れないだろ。もし着てほしい、っていうならナイトプールで着てやろうか?」
そう光輝に耳元で囁かれると、雄三は顔を赤くした。その光輝の腕に男がまとわりついてくる。幸人だ。
「光輝さん!雄三さんばっかりずるいです!僕ともプールデートしてください!」
「わかったわかった。休みが取れたら今度一緒に行こうな?」
「はい!絶対ですよ!」
目を輝かせる幸人の頭を、光輝は優しく撫でる。すると後ろから声が聞こえてくる。
「俺たちもいくか?プール」
「うーん……。私は興味がないかな」
「なんでだよ。お前だったら絶対に行きたいって言うと思ったのに」
「私はね、大吾。お前と二人っきりで家でゆっくりしていた方が楽しいんだよ」
「……ったく。このエロ親父め……」
「あぁ!?何か言ったか!?」
「何も言ってないよ。はいはい。俺の負けです」
「わかればいいんだよ」
隼人と大吾はラブラブな雰囲気を出していた。
(……ラブラブな雰囲気だけど、全員男なんだよな……。しかも幸人さん以外は全員格闘技やってるからマッチョだし……)
このバンを運転する翔太は小さくため息を吐いた。だがすぐに気持ちを引き締めると、目的地へと向かってアクセルを踏み込んだ。
「先生疲れた?」
光輝がそう聞いてくる。
「ああ、疲れたよ。……いろんな意味でな」
胸やけをおこしそうなほどに甘い雰囲気を出す5人を背後に感じながら、翔太は再び大きくため息をつくのであった。
光輝を中心として集まった光輝、翔太、大吾、雄三、隼人、幸人の6人。光輝以外はつい最近挨拶を交わした程度の仲ではあるが、この6人で今海水浴に向かっているのだ。それも、一泊二日の日程で。
なぜこんなことになったのかというと、理由は単純。光輝が暇つぶしのために提案したことだ。
『せっかくみんなが集まったんだし、海にでも行かない?』
その提案に全員が賛成し、こうして車で移動しているというわけである。
「疲れているなら俺が運転を変わろうか?」
そう言いだしたのは大吾だ。そう言った瞬間に隼人の睨みつけるような視線が飛んでくる。なんといっても隼人は柔道の金メダリストだ。彼の放つ殺気じみたオーラを受けて大吾は一瞬怯んでしまう。
「い、いい!大丈夫だから!」
「そっか。じゃあ頑張れよ」
「おう……」
大吾は額に流れる冷や汗を拭いながら前を見据える。
(こいつはやっぱり怒らせないようにしないとな……。怖すぎるぜ……)
「それに、光輝との約束だもんな」
「約束?……光輝さんと?」
幸人の声には少し嫉妬の色が含まれていた。それを聞いて光輝は苦笑しながら説明する。
「違うぞ、幸人。翔太先生とはそういう関係じゃない。……まあ、ちょっとした約束でさ。なんでもしてくれるっていうから、今回の運転を頼んだってわけだ」
「なんだ、そうなんですか」
ほっとしたように肩を落とす幸人に、今度は雄三が問いかける。
「幸人はどうしてそんなに光輝ちゃんのことを慕っているんだい?」
「それはですね……」
「おい、やめろ。恥ずかしいだろうが」
「僕は別に構いませんけど」「俺が嫌なんだよ」
「そうですか。わかりました」
残念そうにする幸人と、それを愛おしそうに見つめる光輝。その二人の様子を見て、雄三はニヤリとする。
「なるほどねぇ。……これは面白くなってきた」
雄三が幸人を見つめる視線は若干剣呑な光を帯びていた。その様子に気付いた光輝が声をかける。
「あんまり幸人をいじめないでくれよ?」
「いじめる?とんでもない。ただ俺は可愛い俺の恋人がとられないかって心配なんだよ」
雄三は光輝の肩を抱き寄せて唇を近づける。だが光輝はそれを軽くあしらうだけだ。
「みんながいる前でそういうことはやめとこうぜ、雄三さん」
「つれないなぁ」
「この面子だと歯止めが利かなくなるだろ。な?」
「……わかった。我慢しよう」
雄三は渋々といった表情で引き下がった。そして再び幸人を見る。その目は獲物を狙う猛禽類のようだった。
「幸人も、あまり光輝ちゃんに迷惑をかけちゃいけないよ?光輝ちゃんは俺のものなんだからね?」
「誰がそう決めたんですか!?」
「もちろん俺だよ」
「……もういいです」
幸人が呆れた顔をすると、雄三は声を上げて笑う。一番後ろの席では大吾と隼人がひそひそ話をしていた。
「しかし、まさか光輝が雄三さんと付き合いだすとはねえ」
「だな。だが光輝君は昔から雄三さんにあこがれていたんだろう?だったら普通のことじゃないか?」
「まあそうなんだけどな。でもなあ……」
真ん中のシートには光輝を真ん中に左に幸人、右に雄三が座っている。そして運転席には翔太が一人で。まさに今のこの関係を表しているかのような座り方だ。
「なあ、光輝。雄三さんと付き合いながら幸人君にも手を出すってどうなんだ?普通に考えて無理があるんじゃないか?」
「いや、まだ雄三さんとも付き合ってるってわけじゃないぞ?」
「そうなのか?」
「まあ、そうだな。光輝ちゃんはまだ若い。これからだって色々な出会いがあるだろうし、体を重ねていくこともあるだろう。だが!それでも俺は送り出した光輝ちゃんを俺の元に引き戻して、他の男の記憶を上書きしていくつもりだからな。なあ、光輝ちゃん!」
そう言って雄三は光輝の太もものあたりを撫でまわす。
「おい、雄三さん……」
「ああ、ごめんよ。つい興奮しちゃって」
雄三の鼻息が荒くなっていくのを見て、大吾は心の中でため息をつく。
(光輝と雄三さんの仲を応援したい気持ちもあるんだが、やっぱり雄三さんは怖いんだよなあ……。あの殺気じみた目を見ると、どうしても……)
大吾がそんなことを考えていると、ふと雄三と目が合う。
「ん?どうかしたかい?大吾くん」
「いえ、何でもありません」
大吾は慌てて目をそらすと、バックミラー越しに翔太と目が合った。
(大吾も大変だな)
翔太が同情するような視線を送ってくる。大吾はその視線にため息をついた。
「みんな、そろそろ着くぞ。降りる準備をしてくれ」
翔太の声が聞こえてくる。大吾たちは荷物を持って車から降りた。そこには青く輝く海が広がっている。
これから彼らの海水浴が始まるのだ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

水泳部物語

佐城竜信
BL
タイトルに偽りありであまり水泳部要素の出てこないBLです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ガテンの処理事情

BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。 ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...