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北条幸人

パートナー

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「お疲れ様です、光輝さん」
「ああ、秀樹さん、お疲れさん」
控室に戻る途中、光輝は秀樹に声をかけられた。町澤秀樹、この地下闘技場の経営者だ。
「今日も見事な勝ちっぷりでしたね」
「まあ、あのくらいはね」
謙遜しつつも内心では誇らしく思っている。
「まあ、とりあえずこれで一区切りってとこだな」
「一区切り?ああ、あなたは翔太さんの抱えた借金を返済するために闘っていたんでしたね。ようやく目標金額にたどり着けたということですか」
「そういうことだ。まあ、たまに小遣い稼ぎに来るくらいのことはすると思うけどな」
「そうですね、その辺りの判断は任せますよ。ですが、あなたにはスター性があった。積極的にご参加いただけないのは残念ですね」
「はは、そりゃあどうも。スター、っていえばさ」
光輝はテレビの中の試合に目をやった。そこでは太っている男にずたぼろにされた幸人が首を絞められてもがいている。
「あいつ、アイドルだろ?」
「おや。よくご存じで」
「いや、俺だって現役大学生だよ?テレビとかで見るアイドルくらい知ってるって」
「それは失礼しました」
「でも、相手はあいつか。……あいつってたしか、顔のいいやつ見るとぼこぼこにしたくなる性癖持ってたっけ。可哀そうに、もっと簡単に倒してやりゃあいいんだけどな」
「先ほどのあなたのように、ですか?」
「んー。まあ、そうかもな。俺は弱い奴を痛めつけるのも、過剰に辱めるのも嫌いだからさ」
幸人は先ほどから何度もギブアップを叫んでいる。しかし、まだ射精をさせられていないので、試合を放棄する権利が与えられていないのだ。
「……胸糞悪いな」
ぽつりとつぶやいた光輝の声には、わずかに怒気が混じっていた。
「なにかおっしゃいましたか?」
「……いや、なんでもない。んじゃあ、そろそろガキは帰っておねんねするわ」
光輝は秀樹に背を向けると歩き出した。


『光輝!よくやってくれた!!』
翔太の電話を出るなり、光輝は怒鳴られる。
「おい、いきなり大声出すなよ。耳がキーンとするだろ」
『お前のおかげで、ついに俺の借金を全額返済できた!ありがとう!』
「はいよ。じゃ、もう切ってもいいよな?」
『待ってくれ!せっかくだし、どこか飯食いに行くぞ!奢ってやるから』
「はいはい。わかったよ」
光輝は適当に返事をして通話を切る。そしてすぐにメールが来た。
「……ったく」
内容を確認する。そこには待ち合わせの場所と時間が書かれていた。
「……めんどくさいなあ」
光輝がそう呟いた時だ。電話がかかってきた。表示されている名前は『町澤秀樹』。
「なんだ?」
電話にでると、秀樹が言った。
『お疲れ様です。今、よろしいでしょうか?』
「大丈夫だけど、どうかしたのか?」
『本日、時間を取っていただいてもよろしいでしょうか?』
「ああ、大丈夫だ。ったく、今日はモテモテだねえ」
『何の話ですか?』
「いや、こっちの話、んで、時間は?」
『時間は――』

「失礼しま~す」
秀樹に指定された時間に地下闘技場の社長室へと入ると、そこには秀樹と幸人が立っている。
「来ましたね」
「おう。それで、用件は何だ?」
「実は、幸人くんのことでお願いがあるのですが」
「お願い?なんだよ改まって」
「光輝さん。君には幸人くんと組んで試合をしてもらいたいのです」
「つまりタッグってこと?悪いけど俺は……」
「…………」
幸人はうつむいて黙っている。その様子を見ながら、光輝は尋ねた。
「なんでまた急に?今までそんなことなかっただろ」
「それは……幸人くんが光輝さんと一緒に闘いたいと申し出てきたからですよ」
「ふーん……なるほどね」光輝は幸人の方を見る。幸人は視線をそらしたままで何も言わない。
「北条さん、それは本当か?」
「それは……僕はだれでもいいんです。僕を勝たせてさえくれれば……」
実力のない幸人を勝たせる。それがどれほど難しいことなのかを知っていて、幸人は言っているのだろうか。
(…………)
光輝は少し考えてから手を差し出した。
「誰でもいい、ってことは俺でも構わないってことだな?」
「えっ!?」
「俺は紀ノ國光輝。よろしく頼むぜ」
「あ、あの……はい!」
戸惑いながらも幸人も手を握り返す。こうして光輝は幸人とタッグを組むことになったのであった。
「ははっ。握手券もないのにアイドルと握手できるなんて光栄だな!」
「あのっ!本当に僕なんかが光輝さんのパートナーでいいんでしょうか?」
「ん?いいんじゃないか?俺が決めたことだしさ」
「は、はい。わかりました。精一杯頑張ります」
幸人が緊張しながら答えた。
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