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権田原雄三
スノードラゴン
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チャリティプロレスの当日。空は青く澄み渡っている。とある巨大な公園の広場にプロレスのリングが作られている。そのリングの近くにはテントが設営され、多くの人たちが集まっている。
「しっかし、公園にリングがあるってすごい光景だな」
翔太も驚いていた。テントでは物販が行われていて、チケットを買った客たちがグッズを買っている。プロレス興行というよりはスポーツイベントといった感じである。
「おっ、光輝、見てみろよ!ゴン様の等身大パネルがあるぜ!」
「おぉっ、すげぇな……。あれ欲しいかも」
「俺はサイン入りのTシャツかなぁ……」
「おいおい、お前ら金持ってるんだからもっと高いもん買えよ」
「まあそうだけどさ。こういう場所でしか手に入らないものを買うのも醍醐味じゃん?」
「そういうもんかねぇ……」
確かにこの機会でしか手に入らないものはあるだろうけど……
光輝と大吾、翔太がそんな話をしていると。
「あのっ!プロレスラーの方ですよね!?」
「サインいただけませんか!?」
光輝と大吾が女性二人に話しかけられた。一人は若い女性でもう一人は少し年上の女性だった。二人は大きなバッグを持っている。おそらく物販で購入したグッズが入っているのだろう。
「すみません、俺たちはこう見えてもプロレスラーじゃないんですよ」
光輝はプロレスラー志望で、大吾は柔道部の顧問。二人とも相当に鍛え上げられた肉体をしているからプロレスラーに間違われることは多々あった。だが今回は本当に違うのだ。
「そうなんですか?でも、あなたたちも結構いい体してますよね」
「うん、服の上から見てもわかるくらい筋肉ついてるし」
「いやー、それほどでもないです」
「ありがとうございます」
褒められて悪い気はしないのか二人は照れている。
「あのっ、実は私たちプロレスの大ファンで!もしよかったら握手とかしてくれませんか!?」
「ああ、もちろん構わないですよ」
「わあっ!ありがとうございます!」
「嬉しい!今日は応援に来て良かった!」
女性は大喜びである。その後、女性たちとは連絡先を交換して別れた。
「ふう……、なんか芸能人になった気分だな」
「だなぁ。まさか俺らがこんな体験するとは思わなかったよ」
「本当だよな……」
光輝たちはちょっとした有名人になっていた。女性ファンたちにサインを求められたり写真を撮らせてと言われたり……。光輝たちにとっては予想外の展開であった。そして自分たちはプロレスラーじゃないから、と断るのが恒例のやり取りになっている。
それからしばらくして開場時間となった。まず最初に選手たちが登場して挨拶をする。その中に雄三の姿もあった。観客たちの歓声が上がる。
「やっぱり人気あるんだなぁ、ゴンさま」
「そりゃそうだろ。実力もあるしイケメンだし」
「確かにな」
ゴン様の人気はかなりのものだ。ちなみにゴン様というのはリングネームではなく本名が権田原雄三なのでそのままあだ名として定着しているらしい。
選手入場が終わると、今度はリングアナウンサーが登場する。
『レディースアンドジェントルマン!本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!』
リングアナウンサーのよく通る声が響き渡る。
『ただいまより、第1試合を行います。赤コーナー……』
***
「ふう、トイレ随分混んでたな……」
プロレスのイベントをやっているのだから仕方がないが、トイレに行くだけでも一苦労だ。
「しかし……、思った以上に人が多いな」
今の会場内はかなりの人でごった返していた。立ち見の客もいるようだ。
「まあ、みんな楽しみにしてたんだろうな」
そんなことを呟きながら光輝は席に戻ろうとする。そこでとあるプロレスラーの姿を目撃した。スノードラゴン、というリングネームのついた覆面レスラーだ。今日の雄三の対戦相手でもある。
彼もトイレに行っていたようで、今は用事を済ませて帰ろうとしているところだった。その彼が突然走り出す。公演の出口へと向かって。
「えっ?なんだろう?」
悪い予感がする。光輝も慌てて彼の後を追いかける。彼はすぐに見つかった。そしてその近くには……
横断歩道へと飛び出す少女がいた。信号はすでに赤になっていて、トラックが走ってくる。
(危ない!)
このままだとあの子は轢かれてしまう! そう思った瞬間、スノードラゴンが少女を突き飛ばした。そして代わりに自分が道路に飛び出していく。
「えっ?」
目の前で起こったことが理解できなかった。光輝が呆然としている間に、彼は車に跳ね飛ばされてしまった。
「うそ……だろ?」
「きゃああああああ!!!」
周りにいた人たちが悲鳴を上げる。
「人が撥ねられたぞ!」
「救急車!早く!」
周囲が騒然となる中、光輝はその場に立ち尽くしていた。
「そんな……、嘘だ……」
光輝はフラフラとした足取りで歩き出した。そして事故現場へと向かう。そこには血まみれで倒れている男性の姿があった。
「ぐ……うう……」
男性は苦しげな表情を浮かべていた。
「あのっ!大丈夫ですか!?」
「誰か救急隊員呼べ!」
「私は大丈夫だ……でも……」
呻くような声を上げる。どうやら命に別状はないらしい。だが。このままでは雄三の対戦相手がいなくなり、雄三が試合を出来なくなってしまう。彼が心配しているのはそれだった。
「あの……、雄三の試合は中止になりましたか?」
「いえ、まだこれからですが」
「そうか……。それならいいんだ」
そう言うと、男性の意識は途切れた。
「しっかりしろ!おい、死ぬんじゃねえよ!」
「あんたがいなくなったら誰がゴン様の相手になるんだよ!?」
「おい、目を開けてくれよぉ……」
「死なないでくれよぉ……」
会場に駆けつけたファンたちが泣き叫ぶ。
「みなさん、死んでませんから!落ち着いてください!」
すっかり死んだムードになってしまっている。駆け付けた仲間のレスラーがファンたちを必死に説得している。
とはいえ、このままでは雄三の試合は中止になる。
誰か代わりのレスラーを探すしかないだろう。光輝がそう考えていると、背後から肩を叩かれた。振り返るとそこにいたのは超日本プロレスの社長である木場孝明だ。
「君、いい体してるね。スノードラゴンの代わりに雄三と闘ってみないか?」
「しっかし、公園にリングがあるってすごい光景だな」
翔太も驚いていた。テントでは物販が行われていて、チケットを買った客たちがグッズを買っている。プロレス興行というよりはスポーツイベントといった感じである。
「おっ、光輝、見てみろよ!ゴン様の等身大パネルがあるぜ!」
「おぉっ、すげぇな……。あれ欲しいかも」
「俺はサイン入りのTシャツかなぁ……」
「おいおい、お前ら金持ってるんだからもっと高いもん買えよ」
「まあそうだけどさ。こういう場所でしか手に入らないものを買うのも醍醐味じゃん?」
「そういうもんかねぇ……」
確かにこの機会でしか手に入らないものはあるだろうけど……
光輝と大吾、翔太がそんな話をしていると。
「あのっ!プロレスラーの方ですよね!?」
「サインいただけませんか!?」
光輝と大吾が女性二人に話しかけられた。一人は若い女性でもう一人は少し年上の女性だった。二人は大きなバッグを持っている。おそらく物販で購入したグッズが入っているのだろう。
「すみません、俺たちはこう見えてもプロレスラーじゃないんですよ」
光輝はプロレスラー志望で、大吾は柔道部の顧問。二人とも相当に鍛え上げられた肉体をしているからプロレスラーに間違われることは多々あった。だが今回は本当に違うのだ。
「そうなんですか?でも、あなたたちも結構いい体してますよね」
「うん、服の上から見てもわかるくらい筋肉ついてるし」
「いやー、それほどでもないです」
「ありがとうございます」
褒められて悪い気はしないのか二人は照れている。
「あのっ、実は私たちプロレスの大ファンで!もしよかったら握手とかしてくれませんか!?」
「ああ、もちろん構わないですよ」
「わあっ!ありがとうございます!」
「嬉しい!今日は応援に来て良かった!」
女性は大喜びである。その後、女性たちとは連絡先を交換して別れた。
「ふう……、なんか芸能人になった気分だな」
「だなぁ。まさか俺らがこんな体験するとは思わなかったよ」
「本当だよな……」
光輝たちはちょっとした有名人になっていた。女性ファンたちにサインを求められたり写真を撮らせてと言われたり……。光輝たちにとっては予想外の展開であった。そして自分たちはプロレスラーじゃないから、と断るのが恒例のやり取りになっている。
それからしばらくして開場時間となった。まず最初に選手たちが登場して挨拶をする。その中に雄三の姿もあった。観客たちの歓声が上がる。
「やっぱり人気あるんだなぁ、ゴンさま」
「そりゃそうだろ。実力もあるしイケメンだし」
「確かにな」
ゴン様の人気はかなりのものだ。ちなみにゴン様というのはリングネームではなく本名が権田原雄三なのでそのままあだ名として定着しているらしい。
選手入場が終わると、今度はリングアナウンサーが登場する。
『レディースアンドジェントルマン!本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!』
リングアナウンサーのよく通る声が響き渡る。
『ただいまより、第1試合を行います。赤コーナー……』
***
「ふう、トイレ随分混んでたな……」
プロレスのイベントをやっているのだから仕方がないが、トイレに行くだけでも一苦労だ。
「しかし……、思った以上に人が多いな」
今の会場内はかなりの人でごった返していた。立ち見の客もいるようだ。
「まあ、みんな楽しみにしてたんだろうな」
そんなことを呟きながら光輝は席に戻ろうとする。そこでとあるプロレスラーの姿を目撃した。スノードラゴン、というリングネームのついた覆面レスラーだ。今日の雄三の対戦相手でもある。
彼もトイレに行っていたようで、今は用事を済ませて帰ろうとしているところだった。その彼が突然走り出す。公演の出口へと向かって。
「えっ?なんだろう?」
悪い予感がする。光輝も慌てて彼の後を追いかける。彼はすぐに見つかった。そしてその近くには……
横断歩道へと飛び出す少女がいた。信号はすでに赤になっていて、トラックが走ってくる。
(危ない!)
このままだとあの子は轢かれてしまう! そう思った瞬間、スノードラゴンが少女を突き飛ばした。そして代わりに自分が道路に飛び出していく。
「えっ?」
目の前で起こったことが理解できなかった。光輝が呆然としている間に、彼は車に跳ね飛ばされてしまった。
「うそ……だろ?」
「きゃああああああ!!!」
周りにいた人たちが悲鳴を上げる。
「人が撥ねられたぞ!」
「救急車!早く!」
周囲が騒然となる中、光輝はその場に立ち尽くしていた。
「そんな……、嘘だ……」
光輝はフラフラとした足取りで歩き出した。そして事故現場へと向かう。そこには血まみれで倒れている男性の姿があった。
「ぐ……うう……」
男性は苦しげな表情を浮かべていた。
「あのっ!大丈夫ですか!?」
「誰か救急隊員呼べ!」
「私は大丈夫だ……でも……」
呻くような声を上げる。どうやら命に別状はないらしい。だが。このままでは雄三の対戦相手がいなくなり、雄三が試合を出来なくなってしまう。彼が心配しているのはそれだった。
「あの……、雄三の試合は中止になりましたか?」
「いえ、まだこれからですが」
「そうか……。それならいいんだ」
そう言うと、男性の意識は途切れた。
「しっかりしろ!おい、死ぬんじゃねえよ!」
「あんたがいなくなったら誰がゴン様の相手になるんだよ!?」
「おい、目を開けてくれよぉ……」
「死なないでくれよぉ……」
会場に駆けつけたファンたちが泣き叫ぶ。
「みなさん、死んでませんから!落ち着いてください!」
すっかり死んだムードになってしまっている。駆け付けた仲間のレスラーがファンたちを必死に説得している。
とはいえ、このままでは雄三の試合は中止になる。
誰か代わりのレスラーを探すしかないだろう。光輝がそう考えていると、背後から肩を叩かれた。振り返るとそこにいたのは超日本プロレスの社長である木場孝明だ。
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