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獅子王隼人

獅子王隼人

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「光輝君。今日は時間があるかな?」
柔道の特訓を終えて。汗を流すために柔道場に備え付けられた風呂に入っているときに隼人にそう聞かれた。
「ありますけど……何か用事ですか?」
「私の家に来ないかと思ってね。夕食を一緒にどうかな?」
「隼人さんの家……?」
「そうだよ。私の家はこの近くにあるんだ」
「へぇ、そうなんですね」
「どうだい?来るのかな?」
「行きます!」
即答であった。
その前に食材の買い足しに、と駅前のデパートで買い物をしたのだが。
「獅子王さん……これ全部買うんですか?」
「もちろんだとも。私はよく食べる方だからね。それに、料理を作るのは好きだからね」
(金持ちの考えることはわかんねぇなぁ)
デパートの高級な食材を次々カゴに入れていく隼人。そしてそれを当たり前のようにレジで会計していく店員。光輝はただ唖然としていた。
「さて、行こうか」
「はい」
隼人に連れられて来たのは高級そうなマンションであった。
「ここに住んでるんですか?」
「ああ、そうだよ」
オートロックを解除してもらい、エレベーターに乗って隼人の部屋がある最上階へと向かう。
「さて、着いた。上がってくれ」
「お邪魔しま~す……」
部屋に入ると、そこはまるでモデルルームのような綺麗に整えられた空間が広がっていた。
「すごい……」
「そうかな?普通だと思うが」
「俺の家と全然違うんで……
」光輝の家は築30年以上のアパートである。とてもではないがこんなところに住むことはできないだろう。
「適当に座っていてくれ。すぐに作るからね」
そう言うと隼人はキッチンへと向かっていった。
隼人が作ってくれたのはビーフシチューとサラダ、パンという豪勢なものであった。
「いただきます」
「召し上がれ」
光輝はまず最初に一口食べてみる。
「美味い!すごくおいしいです!プロ並みですよ!」
「そうかい?それはよかった。たくさんあるからどんどんおかわりしてくれたまえ」
「はいっ!」
それからしばらく光輝は無言のまま食事を続けた。食事に集中したのもあるが、それ以上に隼人が話しかけてこなかったからだ。それは光輝にとって非常にありがたいことであった。なぜなら。
「(やばい!緊張して味がわからねえ!)」
そう。隼人と二人きりという状況に光輝は極度の緊張感を覚えていたのだった。
「ごちそうさまでした。本当においしかったです」
「ははは。喜んでもらえて何よりだよ」
「あの、俺食器洗っておきましょうか?」
「いいのかね?」
「はい。俺が食べた分ですし」
「ではお願いしようか」
隼人が皿を手渡してくる。
「はい!任せてください!」
張り切って光輝は洗い物を始める。
「あの、隼人さん」「ん?」
「俺、隼人さんに聞きたかったことがあるんです」
「なんだい?」
「隼人さんの技って、なんていうか、独特なんですよね。でも、なんか、こう……うまく言えないんだけど……。俺が見たことないような動きっていうか……。隼人さんは一体どこで柔道を覚えたんですか?」
「ああ……。ふむ、やはり気になるよね。よし、じゃあ見せてあげようか」
隼人は立ち上がると、光輝に背を向けたまま語り始めた。
「私にはね……ライバルがいたんだよ。高校の時の話だがね。私は団体戦では『大将』を任されていたのだが、その高校は全国常連の強豪校だった。当然、私以外にも強い選手は大勢いて、その中でも特にずば抜けて強かったのがその男だったんだ。彼は間違いなく天才だと思っていたよ。私よりも『大将』に相応しいとさえ思っていた。だけど彼はある日事故で怪我をして選手生命を絶たれた。無念だったよ。あれほどの男が、あれほどの才能が失われてしまったことに。だから私は決めたんだ。彼の分まで強くなろうと。そしていつか必ず彼に勝つのだと」
「隼人さん……」
「そして私は努力を重ね続けたよ。彼が残したビデオを見て研究し、それを基に練習メニューを組み、ひたすらに己を鍛え上げた。そしてついに彼を超えることができたと思った。……そして気が付けば私は金メダルをとり、周りから天才だともてはやされるようになっていた。しかし、私にとってはそんなものはどうだって良かったんだ。私はただ、彼ともう一度戦いたかっただけなのだから」
隼人はゆっくりと振り返る。
「もしも彼がまだ柔道を続けてたら、きっと私なんて簡単に追い抜いていただろうね。……光輝君、来てもらってもいいかな?君に見せたいものがあるんだ」「えっ、あっ、はい」
案内されたのはトレーニングルームだ。そこには様々な器具が置かれていた。自宅を改装したものらしい。隼人のストイックさが良くうかがえるものだ。
だが、本当に隼人が見せたかったもの。それは棚一面にずらりと並べられたトロフィーだった。
「これ、全部隼人さんのものなんですか?」
「そうだよ。全て私が獲得したものだ」
「すごい……」
その数の多さに光輝は圧倒されていた。
「この中には私の人生そのものといっても過言ではないものもあるよ」
「……この写真は?」
その棚の中央に額縁が飾られている。そこに飾られている写真は、隼人がトロフィーを手にして笑っている写真。それを大きく引き伸ばしたものだ。その周りには多くの柔道着を着た男たちがいる。
「ああ、これはね、私の高校時代の写真さ」
「へぇ~これが……みんな強そうですね」
「そうだね。全国大会で優勝したときのものだからね」
「へぇ、そうなんですね。この人、隼人さんですか?隼人さんもすごくかっこいいじゃないですか」
「はは、ありがとう。……そしてここに映っているのが、私の最大の敵であり、最高の好敵手でもある男さ」
「この人が隼人さんのライバル?」
「ああ。そしておそらく、生涯でただ一人のな」
隼人の目は懐かしい思い出に浸るように細められていた。
「彼の名前は黒岩大吾。かつて、最強の名をほしいままにしていた男さ」
「どんな人だったんですか?」
「うーん、そうだね。強い、以外で言うのならば。しいて言えば女好き、かな」
「へ?それだけ?」
光輝は思わず拍子抜けしてしまった。
「はは。まぁそう思うのも無理はないかもしれないけどね。でも彼は確かに女性にモテたよ。ファンクラブまであったくらいだし。……それに、実際かなりの実力の持ち主でもあったからね」
「わかる気がします」
そこに映っている男性は鼻筋が高く彫りが深い。いわゆるイケメンであり、活発そうでどこか野生児のような雰囲気もある。それでいて、まるで彫刻のように美しい肉体を持っているのだ。
「彼はね、とても優しい奴だった。いつも誰かのために戦っていた。自分を犠牲にしても他人を助けようとするような、お節介で世話焼きで、困った人をほっとけないような性格をしていた。だから私は彼を尊敬し、同時に嫉妬した。なぜそこまで他人のために頑張れるのかと。……でも、今なら少し分かるような気がするよ。結局、人は自分が一番かわいい生き物なんだ。自分のためだけに生きることは許されない。だが、それでも生きていくためには何かを捨てなければならないときがある。それが、彼にとっては『強さ』だったのだと思う。……私は、彼のようになりたかった」
隼人は目を閉じて、静かに語り続ける。
「隼人さん……」
「それにね。彼は無類の男好きというか……。とにかく、男にも女性に対しても積極的でね……。私もよく迫られたものだった。……私の初めても、彼だったし」
「えっ!?」
光輝は驚いてしまう。
「いや、驚くところかい?」
「い、いやまあ、はい……」
「はは。……でも、あの時は楽しかったな。毎日が充実していて、幸せだった。……だからこそ、あの日が本当に悔しくてたまらないんだ」
隼人の目には涙が浮かんでいた。
「隼人さん……」
「すまない。湿っぽい話を聞かせてしまったね」
そう言うと隼人はおもむろに服を脱ぎ始める。
「ちょっ!隼人さん何やってるんですか!」
「ん?ああ、気にしないでくれ。ちょっと汗を流したくてね。ほら、見てくれ私の筋肉を!素晴らしいだろう?触ってもいいんだよ」
隼人は上裸になると、その見事なまでに鍛え上げられた体を見せつけてくる。
「えっ、あ、はい。じゃあ失礼して……」
光輝は恐る恐る隼人の腹筋に触れてみる。
「おお、すごい……」
「ふふん。もっと触れてもいいんだよ?」
「は、はい……」
光輝は隼人の胸板をぺたぺたとさわりながら、その感触を楽しんでいた。
「(やっぱりすごいな。俺とは全然違う……)」
隼人の体は、まさに理想の体型だった。無駄な贅肉がなく、全身の筋肉がバランスよくついている。
「ほら、光輝君。君も脱ぎたまえ。一緒に汗を流そうじゃないか!」
隼人の手が光輝の上半身に伸びる。
「ちょ、ちょっと。どこ触って……」
「この部屋にあるトレーニング器具はね、そんじょそこらのスポーツジムにあるようなものとはわけが違うんだ。筋トレも強くなるためには必要な行為なんだよ。さあ、私と一緒にトレーニングしようではないか」
「えっ、あっ……汗を流すってこと?」
「なんだと思ったんだい?君は本当にエッチなんだね」
「いやっ、そんなつもりは……」
「そういう君も好きなんだけどね」
隼人は光輝の顔を両手で包み込むように掴む。
「えっ、あっ……」
そしてそのまま光輝の唇を奪った。


そして今。光輝はベンチプレスをやっている。隼人に指導され、その通りに動かしているのだが……。
「ぐぬぉ~!!ダメだ、もう限界……」
光輝は力尽き、仰向けに倒れ込んだ。
「ははは、まだまだ甘いね。私なんてまだ余裕だよ」
隼人は涼しい顔でバーベルを持ち上げる。
「くそ~……隼人さんのバカ野郎」
「おや?それは私に対する侮辱かな?」
「いえ、滅相もないです」
「よろしい。……しかし、意外と根性あるね。普通は1回もできないものだけど」
「まあ、鍛えてるんで」
「なぁるほどねぇ~」隼人がニヤリと笑う。
「な、なんですか」
「いや?なんでもないよ」
隼人はバーベルを置くと、今度はダンベルを手に取る。
「さて、次は腕立て伏せでもやってみようか」
「えっ、またやるんですか?」
「もちろん。さあ、まずは100回から始めよう」
「そのくらいでいいなら……よっと」
「ほう、なかなか速いね」
「まあ、これくらいは……」
「では、私は200回にチャレンジするとしよう」
「よし!なら俺もそれに挑戦します!隼人さん、どっちが多くできるか勝負しましょう!」
「お、やる気満々だね。受けて立とうじゃないか」
光輝と隼人は向かい合って腕立て伏せをする。真剣な光輝の顔を見て、隼人は微笑ましく思った。
「(全く、可愛い奴め。……おっと、いけない。集中しないと。……それにしても、光輝君の筋肉は綺麗についている。まるで芸術品みたいに美しい……)」
隼人は光輝の体をまじまじと見つめる。
「……隼人さん?どうしたんですか?なんか俺の方ばっかり見てるような……」
「……ああ、すまなかった。つい見惚れてしまっていたよ。……そうだ。せっかくだから君の体を触らせてもらえるかな?ほら、筋肉の付き方の確認をしたいからね」
「わかりました」「じゃあ失礼するよ……」
そう言って隼人は手を伸ばす。
「ふむふむ。なるほど」
「どうですか?」
「君の筋肉のバランスはなかなかすばらしいね。君は筋肉には2種類あるというのは知っているかい?」
「速筋と遅筋のことですか?」
「知っているのなら話が早い。君は遅筋が発達しているね。なにか特別な訓練でもやっているのかな?」
「はい。パルクールを少々」
「なるほど。それでか……。あと、君の筋肉と言えばここが素晴らしい」
そう言って隼人は光輝のお尻に手を伸ばした。
「ちょっ!?そこは……」
「ふふ、君の肛門括約筋は実に優秀だ。締まり具合が最高だね」
隼人はそのまま指先でなぞるようにして触ってくる。
「うわっ!ちょっと!どこ触ってるんですか!」
「んん?どこって、君の大臀筋だが?」
「いや、そんなことはわかってるんですけど!どうしてこんなことを!?」
「君に筋肉を触らせてもらう代わりに、私の筋肉を触らせると言っただろう?」
「いや、確かに言いましたけど!まさか本当に触られるとは思ってなくて!」
「遠慮しなくてもいいんだよ?ほら、もっと触ってごらん」
隼人は自分の胸筋を触るよう促してくる。
「いや、あの……」
「ん?ああ、すまない。私の乳首が気になるのかい?」
「ち、違いますよ!!……くそっ!あんた、本当に変態だな!」
「それを君が言うのか?わたしにあんな勝ち方をしておいて、よくもまあ人のことを変態呼ばわりできるものだね」
「あ、あれは……」
光輝は顔を赤くする。隼人との柔道勝負。光輝が勝ち星を拾えた本当の理由は『色仕掛け』なのだから。そう言われても仕方がないだろう。
「でも、俺だって男なんだから……。あんたみたいに格好いい人に触られたら我慢できなくなっちまう、っていうか……」
「ふふ。光輝君、敬語は?」
「あっ……」
光輝は慌てて口を塞ぐ。
「いや、これは……」
「いいんだよ。ようやく君らしくなってくれたね。私はそっちのほうが好きだな」
「あ……。俺をリラックスさせるためにやってくれたのか。悪かったな、隼人さん。あんたが師匠だと思ったらなんか緊張しちまってて……」
「いいんだよ。なにせこれからセックスでさらに仲を深め合うんだからね」
そう言うと隼人は光輝を押し倒した。隼人の伸びてくる手を光輝は掴み、自分の股間に押し当てる。
「いいぜ。あんたにさんざん挑発されてこっちだって我慢の限界なんだ」
光輝のペニスは既に勃起していた。
「ただし。ちゃんと責任取ってくれよ?……朝まで寝かせてもらえると思うんじゃねえぞ?」
耳元に吐きかけられた吐息に身震いする。甘い囁きと共に快楽の海へと沈められて、もう抜け出すことなどできない。
「光輝君……。君は本当に、なんていう男なんだ。本当に18歳の若者なのかい?」
「嫌か?」
「そんなことはない!むしろ望むところだよ」
隼人は光輝の首に腕を回し、再びキスをした。
「さあ、続きを始めようか」
「ああ。……なあ、隼人さん」
「なんだい?」
「……愛してる」
「私もさ」
二人は互いの体を求め合った。
そして夜は更けていく……
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