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体育教師の敗北
一夜明けて
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「ここは……」
翔太が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。部屋の中は薄暗い。カーテンの隙間から日が差し込んでいた。どうやら朝になっているらしい。
「夢か……」
まだ頭がボーっとしている。全身に鈍い痛みを感じた。
「くっ……」
ゆっくりと起き上がる。その途端に、股間に痛みが走った。思わず顔を歪める。
(昨日のことは、本当にあったことなのか?)
思い出そうとするが、よく覚えていない。あの後、自分は何をしたのだろうか?
「確か、俺はリングであの男と闘って……」
昨日のことを思い出そうとすると、頭痛が襲ってきた。まるでそれ以上考えるなと警告するかのように。涙が滲んでくる。
(どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ)
今までだって辛い目に遭ってきた。それでも必死に耐えてきたのだ。それなのに、なぜ今になってこんな仕打ちを受けなければならないのか?
(こんなはずじゃなかったのに……)
翔太は拳を握りしめる。悔しさと怒りが入り混じった複雑な感情を抱いていた。
「くそ……。どうやったらこの地獄から脱出できるんだよ……?」
翔太は呟き、頭を抱える。
その時。こんこん、と扉がノックされる。入ってきたのは町澤秀樹(まちざわひでき)。この悪趣味な地下闘技場のオーナーにして、翔太をこの地獄に叩き落した張本人だ。
「調子はどうですか?」
「最悪だよ」
翔太はぶっきらぼうに答える。秀樹はその返事を聞いて、楽しげな笑みを浮かべた。
「それはよかった」
「何がいいもんかよ」
「いえ、あなたにとっては最高の状態ですよ」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味です。あなたのこれまでの人生は、全て無駄だったんですから」
「……ッ!!」
その言葉に、翔太は激昂する。しかし、秀樹は涼しい顔のままだ。
「おい。いい加減にしろよ」
「なんでしょうか?」
「ふざけんなって言ってんだよ!!」
「ふざけてなどいませんよ。私は真実を述べているだけです」
「やめろよ!! もうやめてくれよッ!!」
「やめろと言われても困りますね。これが私の仕事なので」
秀樹の言葉に、翔太は俯いた。そして、ポツリと言葉を漏らす。
「……いつになったら終わるんだ」
「それはあなたが一番ご存じでしょう?あなたが抱えている借金、1200万円。これが返し終わるまでは、あなたに は闘い続けてもらわないといけませんから」
「……金、金、金!そんなに金が大切なのかよっ!!俺の尊厳よりもっ!!」
「ええ。それが当然でしょう」
「ふざっけんなッ!!!!」
翔太は立ち上がり、秀樹を睨む。だが、その視線を向けられても、秀樹は全く動じる様子はなかった。
「なんだ? その目は」
「ッ!?」
突然口調が変わる。その迫力に押され、翔太は一歩後ろに下がった。
「反抗的な態度をとるんじゃねえぞ。テメエの命がどうなるかわかっているだろうな?」
「……」
「また痛めつけられたいか? ああん?」
「……すみませんでした」
翔太は素直に謝る。だが、秀樹は納得していないようだった。
「お前は誰のおかげで生きていられると思ってるんだ?」
「はい……」
「そうだろ? 違うっていうなら、その証拠を見せてみろ」
「……わかりました」
「いいか?この地下闘技場の賞金は、1回勝てば50万円もらえる。ただし、負ければ1円すら入ってこない。つまりお前は24回勝たないとこの地獄から抜けられないってことなんだよ。わかるか?」
「はい……」
「だったら、まずはしっかりと働け。それから、余計なことを考えるな。わかったな?」
「……はい」
「よろしい。……ですが。あなたがどうしても嫌だとおっしゃるのでしたら、別の方法で稼いでもらってもいいんですよ?」
「……どういうことだ?」
「簡単なことです。ここで一生働いてもらうという方法もありますよ。もちろん、その場合の給料は出ますし、衣食住も保証します」
「……」
「まぁ、オススメはしませんが。あなたも、この生活が続くよりはマシだと思うかもしれません。それか、もう一つ。あなたの代役を立てる。というのも手ですね」
「……ッ!」
「誰かに戦わせて、自分は安全な場所に隠れておく。そして賞金を手に入れて、それで終わり。そういう手もアリだと思いますけどねぇ。ただし、これはあなたに協力してくれる方がいる場合に限る。……あなたにはいらっしゃいますか?あなたよりも強く、信用できる方が」
「……」
「どうですか? どちらを選びますか?」
「俺は……」
翔太は迷う。このまま戦い続けるか、他人に任せるか。
「……わかりました」
翔太は呟くように答える。
「どうするかお考えいただけましたか。……それでは、もう帰っていいですよ。ただし、あなたがもしも逃げようとした場合。どうなるかはわかっていますよね?」
「…………」
翔太は何も答えない。秀樹はそれを肯定と受け取ったようだ。
「そうですか。……それでは、今日一日ゆっくり休んでください。明日から頑張ってもらいましょう」
「はい……」
翔太は部屋を出ていく。秀樹はその後姿をじっと見つめていた。
翔太が目を覚ますと、そこはベッドの上だった。部屋の中は薄暗い。カーテンの隙間から日が差し込んでいた。どうやら朝になっているらしい。
「夢か……」
まだ頭がボーっとしている。全身に鈍い痛みを感じた。
「くっ……」
ゆっくりと起き上がる。その途端に、股間に痛みが走った。思わず顔を歪める。
(昨日のことは、本当にあったことなのか?)
思い出そうとするが、よく覚えていない。あの後、自分は何をしたのだろうか?
「確か、俺はリングであの男と闘って……」
昨日のことを思い出そうとすると、頭痛が襲ってきた。まるでそれ以上考えるなと警告するかのように。涙が滲んでくる。
(どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ)
今までだって辛い目に遭ってきた。それでも必死に耐えてきたのだ。それなのに、なぜ今になってこんな仕打ちを受けなければならないのか?
(こんなはずじゃなかったのに……)
翔太は拳を握りしめる。悔しさと怒りが入り混じった複雑な感情を抱いていた。
「くそ……。どうやったらこの地獄から脱出できるんだよ……?」
翔太は呟き、頭を抱える。
その時。こんこん、と扉がノックされる。入ってきたのは町澤秀樹(まちざわひでき)。この悪趣味な地下闘技場のオーナーにして、翔太をこの地獄に叩き落した張本人だ。
「調子はどうですか?」
「最悪だよ」
翔太はぶっきらぼうに答える。秀樹はその返事を聞いて、楽しげな笑みを浮かべた。
「それはよかった」
「何がいいもんかよ」
「いえ、あなたにとっては最高の状態ですよ」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味です。あなたのこれまでの人生は、全て無駄だったんですから」
「……ッ!!」
その言葉に、翔太は激昂する。しかし、秀樹は涼しい顔のままだ。
「おい。いい加減にしろよ」
「なんでしょうか?」
「ふざけんなって言ってんだよ!!」
「ふざけてなどいませんよ。私は真実を述べているだけです」
「やめろよ!! もうやめてくれよッ!!」
「やめろと言われても困りますね。これが私の仕事なので」
秀樹の言葉に、翔太は俯いた。そして、ポツリと言葉を漏らす。
「……いつになったら終わるんだ」
「それはあなたが一番ご存じでしょう?あなたが抱えている借金、1200万円。これが返し終わるまでは、あなたに は闘い続けてもらわないといけませんから」
「……金、金、金!そんなに金が大切なのかよっ!!俺の尊厳よりもっ!!」
「ええ。それが当然でしょう」
「ふざっけんなッ!!!!」
翔太は立ち上がり、秀樹を睨む。だが、その視線を向けられても、秀樹は全く動じる様子はなかった。
「なんだ? その目は」
「ッ!?」
突然口調が変わる。その迫力に押され、翔太は一歩後ろに下がった。
「反抗的な態度をとるんじゃねえぞ。テメエの命がどうなるかわかっているだろうな?」
「……」
「また痛めつけられたいか? ああん?」
「……すみませんでした」
翔太は素直に謝る。だが、秀樹は納得していないようだった。
「お前は誰のおかげで生きていられると思ってるんだ?」
「はい……」
「そうだろ? 違うっていうなら、その証拠を見せてみろ」
「……わかりました」
「いいか?この地下闘技場の賞金は、1回勝てば50万円もらえる。ただし、負ければ1円すら入ってこない。つまりお前は24回勝たないとこの地獄から抜けられないってことなんだよ。わかるか?」
「はい……」
「だったら、まずはしっかりと働け。それから、余計なことを考えるな。わかったな?」
「……はい」
「よろしい。……ですが。あなたがどうしても嫌だとおっしゃるのでしたら、別の方法で稼いでもらってもいいんですよ?」
「……どういうことだ?」
「簡単なことです。ここで一生働いてもらうという方法もありますよ。もちろん、その場合の給料は出ますし、衣食住も保証します」
「……」
「まぁ、オススメはしませんが。あなたも、この生活が続くよりはマシだと思うかもしれません。それか、もう一つ。あなたの代役を立てる。というのも手ですね」
「……ッ!」
「誰かに戦わせて、自分は安全な場所に隠れておく。そして賞金を手に入れて、それで終わり。そういう手もアリだと思いますけどねぇ。ただし、これはあなたに協力してくれる方がいる場合に限る。……あなたにはいらっしゃいますか?あなたよりも強く、信用できる方が」
「……」
「どうですか? どちらを選びますか?」
「俺は……」
翔太は迷う。このまま戦い続けるか、他人に任せるか。
「……わかりました」
翔太は呟くように答える。
「どうするかお考えいただけましたか。……それでは、もう帰っていいですよ。ただし、あなたがもしも逃げようとした場合。どうなるかはわかっていますよね?」
「…………」
翔太は何も答えない。秀樹はそれを肯定と受け取ったようだ。
「そうですか。……それでは、今日一日ゆっくり休んでください。明日から頑張ってもらいましょう」
「はい……」
翔太は部屋を出ていく。秀樹はその後姿をじっと見つめていた。
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