スノードロップの操り人形

3. 交通道路法以外なら、違反したことあります。

　察しの良い読者ならそろそろ気付き始めているだろうが、私はあまり太陽の下を堂々と歩けるような人間では無い。章のタイトルにもあるように私は、窃盗、殺人、恐喝、不法侵入、放火、等々、犯せるような犯罪はほぼ全てコンプリートしている。（交通道路法を違反すると現行犯で捕まる確率が高いから、そこは気をつけている。）
　この章を自己紹介をする場所として設けるのであれば、休憩も兼ねてもう少し自分の話をしよう。年齢と性別は皆さんの想像にお任せするが、そうだな、守銭奴なら気になっているであろう私の資金源について語ろうかな。太陽の下を堂々と歩けない人間にとって、一般企業等に「就職」するというものは基本的に重力に逆らう以上に難しいことなのである。面接試験で自らの経歴を話す際に、「交通道路法以外なら、違反したことあります。」なんて万が一でも言ってしまえば、最後の晩餐は緊張しながら飲み干した缶コーヒーに留まってしまうだろう。よって自分の収入は、親の遺産や人脈の大切さを教えてもらった、日本銀行に居る”友達”から定期的に送られてくるお金に頼っている。その”友達”は、いくら考えてもどうやって行っているのかが分からないが、日本銀行から毎月数十億のお金を盗んでいる。これを初めて聞いた時は、流石に海外マフィア映画にでも転生したかと自分を随分と疑ったものだ。まあ、そんなこんなで、そういった経済的な面に関しては私は恵まれていると思う｡
　ここまで読んで、私のことをどう思ってもらっても構わない。「性別も年齢も不明なこの人外はなんて気持ち悪いんだ。」とか、「あなたの魅力に魅了されました、崇拝します！」とかでも大歓迎だ。だが三千万円を年に数十回散財したり、犯罪を犯しまくったりするのも、一応自分なりの正義の元で動いていることは分かって欲しいと、これを綴りながら思うようになった。だからこの機会を使って、少し話させてもらおう。
　一言で表すなら、”壮絶な過去”なんて言葉を利用するのが鉄板だが、どうも私はこの言葉を好きになれない。そりゃ確かに、９歳でお金目的で親を目の前で惨殺され、親戚の家をたらい回しにされた挙げ句、復讐の為に人生を捧げ、LIEU DU CRIME と出会ってしまった。ある意味それは”壮絶”なのかもしれないが、気持ち的にはまだ過去を生き続けている自分にとって、自分の人生が”壮絶”なんて言葉で言い表せてしまうのがどうも気に食わない。当時はよく分かっていなかったが、両親は相当な大富豪だったらしい。故に、世界各国の貧乏人から恨まれた結果、何故か私は殺されること無く親の首が吹っ飛ぶのを遊び部屋から眺めていた。
　たまに、というか頻繁に、考えてしまう。その犯人は私の存在に気づいていたのにも関わらず、どうして私を見逃したのか。殺しちゃえば良かったのに。子どもは殺さない、という良心が自分の心のどこかに残っているのであれば、逆に人は殺すなよ。と悪態をつきながら、毎晩やけ酒の日々を今でも送ってしまっている。
　当時、警察もあまり真面目に捜査はしてくれなかった。大人になって捜査資料を手に入れた頃にはあまりの資料の少なさに驚いたものだった。類似した事件を調べたり、自分で実際に似たような事件を起こしてみたり、色々とやった結果、LIEU DU CRIME に辿り着いた。最初は組織の崩壊なんて壮大なことは考えておらず、親が殺されてからとっくに死んでしまったモラルや感情を元に、サイト内を遊び半分で見まくった。
　寝れない夜を過ごして幾年かが経った。深夜のBSドキュメンタリーをぼーっと眺めていて、カニバリズムを知った。カニバリズムとは、人を食うこと。 特に、呪術的信仰から、また宗教儀礼として人肉を食う慣習という意味だが、ある意味深夜テンションで、殺人代行で雇い主を全員殺してしまえば良いというアイデアに行き着いた。その沼はどす黒く、酷く深く、自分をある意味侵食しているのにも関わらず、一度決めたらやり通すこの曲がった性格のせいで、結局今日まで生きていてしまった。
　最初に言い損ねたが、雇い主を殺すのには親の復讐も兼ねているが、個人的に他の雇い主の殺人代行を頼む理由が気に食わないのも最近は理由としてある。LIEU DU CRIME 内に居るほとんどの雇い主はお金を持て余した社長やマフィアたちだ。社長は愛人との関係が妻にバレそうになったりなどしたら殺す、マフィアはバレたら都合の悪い事の口封じの為などに殺す。自分たちでやると後処理が面倒、というのが本質的な理由だろう。だから、殺し方は正直何でも良い、と思っているのが大半である。それに反して、というのも何か違うかもしれないが、悪の成敗というものは自分の中では、正しいものだと認識している。
　雇い主を全員殺して、LIEU DU CRIME を潰す。君はこれも悪と呼べるか？