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1. 疑わしきは罰せず、の原則に従うと
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公訴事実
被告人は令和4年6月13日午前3時ごろ、東京都〇〇○区△△△丁目所在の旧雛菊小学校校舎の中庭において、槇村 和雄(まきむら かずお)に対して複数回刃物で暴行を加えた後、大量のヒガンバナ科の植物、スノードロップで被害者の傷口を埋め「装飾」を施したものである。
罪名及び罰条
殺人罪 刑法第199条
以上について審理願います。
検察官の立花 洋海(たちばな ひろみ)がそう告げると、法廷内はざわめきで包まれた。法廷では静かに見守るのが鉄則だが、今回の事件に限ってはざわつくのも無理はないだろう。
通称花言葉殺人事件と呼ばれる今回の快楽殺人事件は、そのグロテスクな殺害方法により特番を組まれるほどメディアからも多く取り上げられ、東京を中心に多くの国民の不安を仰いでいた。
不可解だったのは、この快楽殺人が連続殺人だということであった。アイビー、スカビオサ、折られた白いバラ...確認されているだけでも十五件以上発生している。全事件に共通して犯人は被害者の体を切りつけた後、その傷口に花を詰めて遊んでいた。
殺害後に被害者の遺体に埋め込まれていた花の販売ルート等を探っていたところ、捜査線上に花屋「LYCORIS」の店長奥原 和花(おくはら わか)が浮上。その経緯は、迷宮入りしていた捜査中に突然警視庁宛てにDVDが送られ、防犯カメラにスノードロップを大量に持った奥原が写っていたことにより任意同行に踏み切ったという週刊誌の記事等があるが、警視庁はその事実を認めておらず、本当のことは定かではないと言われている。
「私は殺人などしていません。」肝が据わった様子で、奥原はそう答えた。
「弁護人のご意見はいかがですか?」
「被告人の無罪を主張します。被告人は殺人事件が発生した令和4年6月13日午前3時ころ、花屋『LYCORIS』で店員の石森 静(いしもり しずか)と共に居ました。」
証言台に立った石森に、立花の尋問が開始した。
「令和4年9月13日午前3時ごろ、あなたはどこで何をしていましたか?」
「『LYCORIS』の店内で和花と一緒に居ました。」
「午前3時にですか?随分とお早いんですね。」
「朝一にハナズオウを空港に取りに行く予定がありましたので。」
淡々と返す石森からは感情の色が見えなかった。
その後再び奥原が証言台に上がり、立花からの尋問が始まった。
「この防犯カメラに写っているのは、あなたで間違い無いですか?」
「間違いないです。」
「では、この大量のスノードロップはどこに?」
「『LYCORIS』で販売しました。」
「購入履歴が無いのは何故ですが?」被り気味に立花が聞く。
「小さい花屋なんです。」
「そうですか...。」有罪率99.9%の日本で、この証拠能力の極めて低い部分の防犯カメラ映像だけで逮捕に踏み切ったのにも関わらず、奥原が一向に犯行を認めないため、検察側からも焦りの表情が読み取れた。実際に、これ以外に現場からも一切証拠は見つかっておらず、警視庁内でも奥原が犯人かどうかで二極分化していた。
「私は殺人など犯していないですから。」声に感情が一切こもっていないが傍から見るとやや不可解ではあったが、犯行を認める雰囲気は全くと言っていいほど無かった。疑わしきは罰せず、の原則に従うと、本人の自白のみが事件解決の鍵を握っていた。
被告人は令和4年6月13日午前3時ごろ、東京都〇〇○区△△△丁目所在の旧雛菊小学校校舎の中庭において、槇村 和雄(まきむら かずお)に対して複数回刃物で暴行を加えた後、大量のヒガンバナ科の植物、スノードロップで被害者の傷口を埋め「装飾」を施したものである。
罪名及び罰条
殺人罪 刑法第199条
以上について審理願います。
検察官の立花 洋海(たちばな ひろみ)がそう告げると、法廷内はざわめきで包まれた。法廷では静かに見守るのが鉄則だが、今回の事件に限ってはざわつくのも無理はないだろう。
通称花言葉殺人事件と呼ばれる今回の快楽殺人事件は、そのグロテスクな殺害方法により特番を組まれるほどメディアからも多く取り上げられ、東京を中心に多くの国民の不安を仰いでいた。
不可解だったのは、この快楽殺人が連続殺人だということであった。アイビー、スカビオサ、折られた白いバラ...確認されているだけでも十五件以上発生している。全事件に共通して犯人は被害者の体を切りつけた後、その傷口に花を詰めて遊んでいた。
殺害後に被害者の遺体に埋め込まれていた花の販売ルート等を探っていたところ、捜査線上に花屋「LYCORIS」の店長奥原 和花(おくはら わか)が浮上。その経緯は、迷宮入りしていた捜査中に突然警視庁宛てにDVDが送られ、防犯カメラにスノードロップを大量に持った奥原が写っていたことにより任意同行に踏み切ったという週刊誌の記事等があるが、警視庁はその事実を認めておらず、本当のことは定かではないと言われている。
「私は殺人などしていません。」肝が据わった様子で、奥原はそう答えた。
「弁護人のご意見はいかがですか?」
「被告人の無罪を主張します。被告人は殺人事件が発生した令和4年6月13日午前3時ころ、花屋『LYCORIS』で店員の石森 静(いしもり しずか)と共に居ました。」
証言台に立った石森に、立花の尋問が開始した。
「令和4年9月13日午前3時ごろ、あなたはどこで何をしていましたか?」
「『LYCORIS』の店内で和花と一緒に居ました。」
「午前3時にですか?随分とお早いんですね。」
「朝一にハナズオウを空港に取りに行く予定がありましたので。」
淡々と返す石森からは感情の色が見えなかった。
その後再び奥原が証言台に上がり、立花からの尋問が始まった。
「この防犯カメラに写っているのは、あなたで間違い無いですか?」
「間違いないです。」
「では、この大量のスノードロップはどこに?」
「『LYCORIS』で販売しました。」
「購入履歴が無いのは何故ですが?」被り気味に立花が聞く。
「小さい花屋なんです。」
「そうですか...。」有罪率99.9%の日本で、この証拠能力の極めて低い部分の防犯カメラ映像だけで逮捕に踏み切ったのにも関わらず、奥原が一向に犯行を認めないため、検察側からも焦りの表情が読み取れた。実際に、これ以外に現場からも一切証拠は見つかっておらず、警視庁内でも奥原が犯人かどうかで二極分化していた。
「私は殺人など犯していないですから。」声に感情が一切こもっていないが傍から見るとやや不可解ではあったが、犯行を認める雰囲気は全くと言っていいほど無かった。疑わしきは罰せず、の原則に従うと、本人の自白のみが事件解決の鍵を握っていた。
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