1 / 1
華麗なる推理の真似事
しおりを挟む
「ワトソン君、制限時間はいつもどおり20分だ。今日こそは必ず時間内にクリアするよ。」
古びた木製の扉の前に、かの有名なシャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンが立っていた。二人が扉を押し開けて中に入ると、木の軋む音がして、バタンという盛大な音と共に二人はその洋館の中に閉じ込められてしまった。目の前には大きな振り子時計が12時半を指していた。ゴーンと地響きのような音が、二人の事件解決の合図。
「今回はこの洋館で昔殺された女の幽霊が来る人を呪ってしまうから、20分以内に彼女を殺した犯人を特定すれば、呪われずに済むということなんだそうだよ。」ワトソンが杖と歩きながら独特なリズムを刻む。ほこりっぽいエントランスでホームズは視界の隅に蜘蛛が巣を作っているのを眺めながら、思考を巡らせた。
「ワトソン君、とりあえず洋館内の散策からだ。」
エントランスには時計の他に本棚が一つあったが、最も特徴的なのは天井からぶら下がる巨大なシャンデリアであった。大きな布に覆われ、寝ぼけていたら巨大な幽霊だと勘違いしてしまいそうだ、とホームズは思った。
「これ、絶対ヒントになるよね。」几帳面なワトソンはメモを取りながら、散策をエントランスの散策を続ける。
エントランスからは、二手に分かれる方向があった。途中の踊り場で左右に開いているクラシックな両階段が存在感を放っていた。二人で階段を登れば、いつもの茶番が始まる。
「今日はあちらの方がヒントが多いと思う。」ホームズがパイプで右を指す。
「いやいや、左の方が大きい部屋ありそうだよ。」とワトソン。
「君は『クリミカ理論』を聞いたことが無いのかね?某漫画で『確かに行動学の見地からも人は迷ったり未知の道を選ぶ時には無意識に左を選択するケースが多いらしい』とクリミカが言っていたではないか。理論を逆手にとって、“左を選びやすいからこそ、右を選んだ方が無難”という考え方は結局正しかっただろう?」
「じゃあ俺はレオリオだな...。じゃなくて!もう時間が無いから、分かった、右へ行こう。」盛大なため息と共に一行は右の階段へと足を進めた。結局ワトソンが折れてホームズに従うのはいつものことだった。
残り17分。
「この部屋、鍵がかかってる。場所的には子供部屋ってところかな。」ワトソンが扉のハンドルを乱暴に揺するがびくともしない。
「こっちは開いているよ。」ホームズが隣の部屋から声をかける。
昼間なのにも関わらず部屋は薄暗く、空気が籠もっているような雰囲気だった。本棚や真ん中に置かれた机の感じから、書斎だというのは感じとれたが、本棚の中には本が一つも入っておらず、部屋自体はとても閑散としていた。
「こういうのって大体本棚にヒントがあるものじゃないの?」呆れたようにワトソンが周りを見渡す。机に向かったホームズとワトソンが二人で引き出しを開けると同時に二人の声が重なった。
「絶対これじゃん。」
残り15分。
「これ、ヴィジュネル暗号かな?」一生懸命殴り書きをしながらワトソンがホームズに尋ねる。
「いやこれは単純にシーザー暗号で良いと思うのだが、生憎私は英語が出来ない。ワトソン君、ここは任せた。」ホームズがそう告げると、彼はすぐさまキッチンへと向かった。
「D・I・F・F・R・E・N・Tなんて英単語は多分無いよね?あー分かんない!」ワトソンが暖炉の前で項垂れる。
残り10分。
「ホームズは左側覚えて、俺右やる。」
「青、赤、赤、紫、黒、青、緑。青、赤 ――」
「いや、こっちも覚えてるから黙ってよ。」ワトソンがホームズを杖で突く。
残り5分。
「ローレンスは新しく入ったメイドと恋に落ちたけど、アルフレッドはそれを気に入らなかった!え、これもうちょっとで謎解けるじゃん!」ホームズの目が輝きを帯びる。
残り2分。
「犯人分かったのになんで最後の鍵の場所が分からないんだよ!これ、バグ?リロードしたら直る系?」
「知らねーよ。」
残り30秒。
キーンコーンカーンコーン…
シャーロック・ホームズこと相原智也と、ジョン・ワトソンこと深川尚弥が机の上で項垂れる。
「ワトソン君、今日も失敗だよ。」
「このゲームいつになったらコンプできんだよ!」深川が足をバタつかせる。
「っやばい、次体育らしいぜ!」
高らかな笑い声が昼休みの教室に響いた。
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
古びた木製の扉の前に、かの有名なシャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンが立っていた。二人が扉を押し開けて中に入ると、木の軋む音がして、バタンという盛大な音と共に二人はその洋館の中に閉じ込められてしまった。目の前には大きな振り子時計が12時半を指していた。ゴーンと地響きのような音が、二人の事件解決の合図。
「今回はこの洋館で昔殺された女の幽霊が来る人を呪ってしまうから、20分以内に彼女を殺した犯人を特定すれば、呪われずに済むということなんだそうだよ。」ワトソンが杖と歩きながら独特なリズムを刻む。ほこりっぽいエントランスでホームズは視界の隅に蜘蛛が巣を作っているのを眺めながら、思考を巡らせた。
「ワトソン君、とりあえず洋館内の散策からだ。」
エントランスには時計の他に本棚が一つあったが、最も特徴的なのは天井からぶら下がる巨大なシャンデリアであった。大きな布に覆われ、寝ぼけていたら巨大な幽霊だと勘違いしてしまいそうだ、とホームズは思った。
「これ、絶対ヒントになるよね。」几帳面なワトソンはメモを取りながら、散策をエントランスの散策を続ける。
エントランスからは、二手に分かれる方向があった。途中の踊り場で左右に開いているクラシックな両階段が存在感を放っていた。二人で階段を登れば、いつもの茶番が始まる。
「今日はあちらの方がヒントが多いと思う。」ホームズがパイプで右を指す。
「いやいや、左の方が大きい部屋ありそうだよ。」とワトソン。
「君は『クリミカ理論』を聞いたことが無いのかね?某漫画で『確かに行動学の見地からも人は迷ったり未知の道を選ぶ時には無意識に左を選択するケースが多いらしい』とクリミカが言っていたではないか。理論を逆手にとって、“左を選びやすいからこそ、右を選んだ方が無難”という考え方は結局正しかっただろう?」
「じゃあ俺はレオリオだな...。じゃなくて!もう時間が無いから、分かった、右へ行こう。」盛大なため息と共に一行は右の階段へと足を進めた。結局ワトソンが折れてホームズに従うのはいつものことだった。
残り17分。
「この部屋、鍵がかかってる。場所的には子供部屋ってところかな。」ワトソンが扉のハンドルを乱暴に揺するがびくともしない。
「こっちは開いているよ。」ホームズが隣の部屋から声をかける。
昼間なのにも関わらず部屋は薄暗く、空気が籠もっているような雰囲気だった。本棚や真ん中に置かれた机の感じから、書斎だというのは感じとれたが、本棚の中には本が一つも入っておらず、部屋自体はとても閑散としていた。
「こういうのって大体本棚にヒントがあるものじゃないの?」呆れたようにワトソンが周りを見渡す。机に向かったホームズとワトソンが二人で引き出しを開けると同時に二人の声が重なった。
「絶対これじゃん。」
残り15分。
「これ、ヴィジュネル暗号かな?」一生懸命殴り書きをしながらワトソンがホームズに尋ねる。
「いやこれは単純にシーザー暗号で良いと思うのだが、生憎私は英語が出来ない。ワトソン君、ここは任せた。」ホームズがそう告げると、彼はすぐさまキッチンへと向かった。
「D・I・F・F・R・E・N・Tなんて英単語は多分無いよね?あー分かんない!」ワトソンが暖炉の前で項垂れる。
残り10分。
「ホームズは左側覚えて、俺右やる。」
「青、赤、赤、紫、黒、青、緑。青、赤 ――」
「いや、こっちも覚えてるから黙ってよ。」ワトソンがホームズを杖で突く。
残り5分。
「ローレンスは新しく入ったメイドと恋に落ちたけど、アルフレッドはそれを気に入らなかった!え、これもうちょっとで謎解けるじゃん!」ホームズの目が輝きを帯びる。
残り2分。
「犯人分かったのになんで最後の鍵の場所が分からないんだよ!これ、バグ?リロードしたら直る系?」
「知らねーよ。」
残り30秒。
キーンコーンカーンコーン…
シャーロック・ホームズこと相原智也と、ジョン・ワトソンこと深川尚弥が机の上で項垂れる。
「ワトソン君、今日も失敗だよ。」
「このゲームいつになったらコンプできんだよ!」深川が足をバタつかせる。
「っやばい、次体育らしいぜ!」
高らかな笑い声が昼休みの教室に響いた。
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
0
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

とある最愛の肖像
相馬アルパカ
ミステリー
騎士団長の息子・クラウディオの婚約者は推理がお得意だ。令嬢探偵・ヴィオレッタは可憐な外見からは想像できないほど行動的である。
画家志望の青年から『消えた肖像画を探してほしい』と相談されたクラウディオはヴィオレッタの力を借りて失せ物探しを始めるのだが。
人が死なないミステリー。
きっと彼女はこの星にいる
花野りら
ミステリー
行方不明になった彼女、森下真里を救うため探偵になった和泉秋斗。しかし現実は失踪してからもう十年の月日が流れていた。そんなある夏の日、事務所の二階に住む田中奈美からこんな依頼を持ちかけられる。「うちの猫を助けてください」彼女の依頼を受け見事に猫を助けた和泉だったが、突然記憶を失ってしまう。何が起こったかわからないまま、猫を送り届けようと奈美の部屋を訪れた和泉の前に、絶世の美少女田中あかねが現れ「行方不明の彼女を見つけにいくぞ」と告げられる。なぜあかねが真里失踪事件の情報を持っているのかと尋ねるが、その理由は教えてもらえない。和泉にその理由を話せば、この世界が消えてしまうらしい。そんな哀しみを持つあかねと和泉のミステリアスな調査が始まる。
【完結】心打つ雨音、恋してもなお
crazy’s7@体調不良不定期更新中
ミステリー
主人公【高坂 戀】は秋のある夜、叔母が経営する珈琲店の軒下で【姫宮 陽菜】という女性に出逢う。その日はあいにくの雨。薄着で寒そうにしている様子が気になった戀は、彼女に声をかけ一緒にここ(珈琲店)で休んでいかないかと提案した。
数日後、珈琲店で二人は再会する。話をするうちに次第に打ち解け、陽菜があの日ここにいた理由を知った戀は……。
*読み 高坂戀:たかさかれん 姫宮陽菜:ひめみやはるな
*ある失踪事件を通し、主人公がヒロインと結ばれる物語
*この物語はフィクションです。
天使の顔して悪魔は嗤う
ねこ沢ふたよ
ミステリー
表紙の子は赤野周作君。
一つ一つで、お話は別ですので、一つずつお楽しいただけます。
【都市伝説】
「田舎町の神社の片隅に打ち捨てられた人形が夜中に動く」
そんな都市伝説を調べに行こうと幼馴染の木根元子に誘われて調べに行きます。
【雪の日の魔物】
周作と優作の兄弟で、誘拐されてしまいますが、・・・どちらかと言えば、周作君が犯人ですね。
【歌う悪魔】
聖歌隊に参加した周作君が、ちょっとした事件に巻き込まれます。
【天国からの復讐】
死んだ友達の復讐
<折り紙から、中学生。友達今井目線>
【折り紙】
いじめられっ子が、周作君に相談してしまいます。復讐してしまいます。
【修学旅行1~3・4~10】
周作が、修学旅行に参加します。バスの車内から目撃したのは・・・。
3までで、小休止、4からまた新しい事件が。
※高一<松尾目線>
【授業参観1~9】
授業参観で見かけた保護者が殺害されます
【弁当】
松尾君のプライベートを赤野君が促されて推理するだけ。
【タイムカプセル1~7】
暗号を色々+事件。和歌、モールス、オペラ、絵画、様々な要素を取り入れた暗号
【クリスマスの暗号1~7】
赤野君がプレゼント交換用の暗号を作ります。クリスマスにちなんだ暗号です。
【神隠し】
同級生が行方不明に。 SNSや伝統的な手品のトリック
※高三<夏目目線>
【猫は暗号を運ぶ1~7】
猫の首輪の暗号から、事件解決
【猫を殺さば呪われると思え1~7】
暗号にCICADAとフリーメーソンを添えて♪
※都市伝説→天使の顔して悪魔は嗤う、タイトル変更

人外マニアの探偵
たとい
ミステリー
異形はびこる現世界。
比較的に平和な日常が訪れている時代でのこと。
それでも時折、多種多様な事件が舞い込んでくる。
なかでも謎に包まれた人外の案件はややこしく。
警察は、専門知識を持ってる人物に協力を頼んでいた。
「ヒトミさん、依頼が来てますよ。」
※小説家になろうにて投稿
そこはとある探偵事務所。
助手の声に応えて、探偵は飲んでいたコーヒーを置いた。
※小説家になろうにて投稿

変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる