最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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最終章 死の王 編

愛する人(1)

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王都マリン・ディアールを襲った"黒騎士"、"黒い獣"、"黒いローブの魔導士"はそれぞれ冒険者、騎士団に倒され、無数にいた魔騎士らも全て討伐された。

死傷者は数知れず。
貴族、平民、騎士、冒険者問わず多くの者が巻き込まれた。
恐らく街の復興も数年を要するだろう。

この出来事は"マリン・ディアールの悪夢"と名付けられ、歴史に刻まれることになったのは言うまでもない。

_______________


王城の中には来賓用のゲストルームがいくつもあった。
どこまでも真っ直ぐに伸びる廊下にびっしりと並ぶ部屋はどれほどあるのだろうか。

ある一室から険しい表情を浮かべながら出る者がいた。
短髪の赤髪で背が高い男。
ボロボロのローブと黒いパンツ、腰には漆黒の中型の杖を差す。

男の名はヴァン・ガラード。
元S級パーティのメンバーだ。

ため息混じりに廊下に出る男は、部屋の前の向かい側の壁に寄りかかって俯く女性に気づく。

「なんだ、いたのか」

「え、ええ」

紫色の髪、白いワイシャツの上に軽装の鎧とブラウンのレザーパンツ、ブラックのロングヒールブーツを履いた美しい女性。

「そういえば名前を聞いてなかったな」

「私はリリアン・ラズゥと申します。あなたは……ガイのお兄様でいらっしゃいますね」

リリアンの未だにかしこまった対応に苦笑いを浮かべて頭を掻く。

「さっきも言ったが敬語はやめてくれると助かる。身分的にも波動数値も君の方が高いだろ」

「ええ。身分はそうかもしれませんが、先ほどの戦いを見る限り波動数値はあなたの方が高いと思いますが……」

「それは違う。俺の波動数値は3000ほどしかないからな」

リリアンは絶句した。
3000という数値は平民の平均値と言われてる。
ごくごく一般的な数値で多くの平民がここに該当する……というのは女学校時代に学んだこと。
教師が"この数値"を語った瞬間、生徒たちの間で苦笑が起きたのはよく覚えている。

「それで、なぜあんなことが……?」

「あんなこと?」

「王宮騎士団のみなが苦戦していた魔物を、あんなに容易く倒すなんて……私たちよりも数値が高いとしか思えませんでした」

「数値ってのは、ただの目安でしかない。俺はある時から波動発動に必要な三工程をわずらわしく思ってね。途中でめんどくさくなって考えるのをやめんたんだ。そしたら"数値はほぼ無限に重ねられる"ってことがわかった」

「意味がわからないんですが……」

「んー、上手く説明できないな。俺はそういうの苦手だからさ」

リリアンは首を傾げる。
この男の言っていることが少しも理解できない。
学生時代は座学も実技も成績はよかった。
逆に一切、勉強もしていないヴァンは経験だけで培った何かしらの技術を使っているようだ。
これでは貴族の持つ"高波動"という、ある種の特別性は何も関係ないように思えてくる。

思考するリリアンに構わずヴァンは続けて言った。

「そんなことより、部屋に入らないのか?」

「え、ええ……」

歯切れの悪い返事をした。
部屋の中にいるのは命の恩人であるガイ・ガラード。
また、"なぜか"、ずっと会いたかった人物でもある。
理屈はわからないがリリアンにとってはとても大事な存在だった。

「彼の心の中にいるのは私ではない。そんな私が彼と会っても状況が良くなるかどうかわかりません……」

「じゃあ、なぜここにいる?」

「それは……」

「ガイの心に誰がいようと関係ないさ。君がやりたいようにやったらいい」

「もし彼が望んでいなかったら?」

「ここは理性的になる場面じゃないと思うけどね。それに死ぬほど傷ついた人間を励ますには、こちらもそれ相応に傷つく覚悟をもたないといけない。その痛みを分かち合うわけだからさ。それは誰が向き合っても同じだろ」

「確かに、そうですね……」

「君にその覚悟があるなら入ったらいい。無いなら、もうガイのことは忘れることだ」

そう言ってヴァンはリリアンに背を向けて廊下を歩き始める。

「あ、あの、どちらへ?」

「メイアを迎えに行く。ガイのことを頼むよ」

ヴァンは笑みを溢しつつ手を振って歩き去った。
1人残されたリリアンは視線を部屋のドアの方へと向ける。

"ガイのことを頼む"

このことから察するに少なくともヴァンという存在からは認められたと考えていいのか。

リリアンは深呼吸してドアノブを握るとゆっくと回して開ける。

真っ暗な部屋。
カーテンは閉め切っており、灯りは全く灯されていない。
ただ、どんよりとした雰囲気が重くのしかかるようだった。

かろうじて見えるのは左端中央に置かれた大きな天蓋ベッドだ。
そこまで歩みを進めるとベッドの上で背を向けてうずくまる影があるのが確認できた。

「ガイ……」

優しく呟くように彼の名を呼んだ。
だが全く反応を示すことなく無反応だった。

わずらわしいなら言って欲しい。……私はあなたのことが好き。今、言うべきことではないかもしれないけど伝えておきたかった」

「……」

「あなたに一番最初に会った時から、とても惹かれていた。あなたの炎を……見たら……何か……」

リリアンはこめかみを触れて過去のことを思い出してた。
だが深くは思い出せない。
ただ、ふとある言葉が一瞬だけ脳裏をよぎる。

"炎の男"

この言葉が何を意味しているのか?
一体なんのことなのかわからない。
そしてそれは、すぐに霧のかかったように頭から消えていく。

ただ確かなことはリリアン・ラズゥはガイ・ガラードを愛しているということだ。
この気持ちには全くの嘘偽りはなかった。

「私はあなたが立ち直れるまで、ずっと一緒にいるわ」

ガイからの返答は無かった。
だが構うことなくリリアンはベッドの近くに置かれたスツールに腰掛ける。

そして何日も彼を見守り続けるのだった。
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