最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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ディセプション・メモリー編

シャドウ・フェイカー

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メイアの炎によって後退させれ、元に位置に戻ったグレイグ。
無傷のまま部屋の奥から殺気を放ちながら、ゆっくりと歩みを進める。

白銀の鎧の甲高い金属音が部屋に響き渡り、その音にメイアは息を呑んだ。
六大英雄のグレイグと呼ばれた男は王宮騎士団を作った男だ。
さらに第一騎士団長であり、低波動のワイルド・ナイン。
北部で戦ったゾルア・ガウス以上の圧を感じる。
重くのしかかるような緊張感が常にあり、杖を持つ手が汗ばんだ。

しかし、なぜかクロードは笑みを浮かべつつ前に出た。
明らかにインファイトでは勝ち目がないような状況にも関わらずだ。

思わずグレイグが言った。

「まさか、私相手に近づいてこようとは」

「あなたもなかなかの策士だね。騙されるところだったよ」

お互いの距離は徐々に近づいていた。
だが、やはりクロードは歩みをやめない。

「何が言いたい?」

「あなたは"僕の心を読めない"ということがわかった」

「……」

クロードの後方に立つメイアは首を傾げた。
六大英雄であるグレイグのワイルド・スキルは"質問に答えさせるか"、"相手に触れるか"で心を読むことができるというもの。
特にディセプション・メモリーと呼ばれる能力はかなりの危険性がある。
この能力は触れた相手の記憶を別の記憶と入れ替えてしまうという。
ただし一人の人間に対して、たった一度だけ有効らしい。

「僕は二枚目に切る手札は決めていた。あなたからの一度目の攻撃を回避した後、すぐに思考していたが、なぜか僕の攻撃は当たった」

「……」

「あなたは僕の心を読んではいない。いや読めないんだろ?恐らく一度、"ディセプション・メモリー"をした人間の心は読めなくなるといったデメリットがあるんじゃないかと思われるが」

「正解だ。……だが、それを知ったところでどうなるものでもない。貴様は私には勝てん。その少女を背負っている以上は死と隣り合わせなのだよ」

「それはどうかな?心を読まれないのであれば僕にも考えがある」

グレイグは立ち止まった。
ちょうど部屋の中央付近、クロードとの距離は数メートルほどといったところ。
確実にワンステップで間合いに入れる距離だ。

「何をする気だ?」

「"ダークネス・フォース"……"影衣演者シャドウ・フェイカー"」

立ち止まることのないクロードがそう呟くと、背後からヒラヒラと舞うように"ドス黒いローブ"のような服が現れた。
ブラックローブはクロードに覆い被さるようにして全身を包み込む。
それは頭から足先まで真っ黒に染め上げ、さらに黒いオーラも放ち初めていた。

「なんと禍々しい気配だ……どんなスキルだ?」

「簡単なものさ。ただ、あなたの動きを真似るだけだ」

「なんだと?」

ブラックローブを纏ったクロードは胸のあたりで両拳を軽く打ち付けるようにして重ねた。
するとドロドロとした黒い何かが両腕に巻きくと、それは黒龍を模ったガンドレッドに姿を替える。
同時にブラックローブも次第に変化しはじめ、グレイグと同じような重厚な鎧と兜になった。
違う部分は全身が"光を飲み込むほどのブラック"だということだけだ。

「馬鹿にしているのか?」

「まさか、至って真面目さ。あなたはメイアに"触れれば"勝ち。僕はあなたの"目を見たら"勝ちだ。この戦いは長くは続かない」

「なら、次の攻撃で終わらせるとしよう」

グレイグが言うと戦闘の構えをとる。
右足を後ろに下げて右拳を腰に溜め、左拳を前に出す。
するとコンマ数秒のズレがあってクロードも全く同じ構えをとった。
それはまるで鏡写しのような状態だった。

構わずグレイグは前に出た。
狙うは右拳のストレート、場所は相手の心臓だった。

しかし突き出された右の拳はクロードの左のストレートで相打ちになった。
金属と金属が重なり合う音は部屋に響き渡る。

その後、一歩引いた両者だが、やはりグレイグがワンステップして拳の連打。
ほんの数秒だけ遅れてクロードが前に出て同じ攻撃を繰り出し、全て拳と拳がぶつかって相打ちになり続けていた。

「ありえん……どんな仕組みだ?」

「仕組みなどないさ。これはただ"あなた"という人物を演じているに過ぎない」

「演じる……だと?」

拳の連打は続いた。
"銀龍の拳"と"黒龍の拳"は同等の力だ。
それは完全に鏡写しと言ってもいい。

「"同じ力"がぶつかり合っても戦いは終わらんと思うがね」

「どうかな?」

グレイグは最後に渾身の右のストレートを放ち、それがクロードの左ストレートと重なった。
どちらの力も同等であるが故か、どちらも同じように仰け反る。

瞬間、グレイグは数メートル後方へとバックステップをして後退する。
少しだけ遅れて黒い鎧を纏ったクロードも全く同じ行動をした。

グレイグが両拳を腰に溜め、息をスーと吐いて筋肉を最大まで引き締める。
同じくクロードも全く同じ構えをとっていた。

そんなクロードの姿に構うことなくグレイグは呟くように言った。

「"秘拳ひけん"……」

するとグレイグの周囲の床や壁の至る場所に四方八方と亀裂が入る。
恐らく凄まじい波動量に空間が耐えきれていないのだ。

「"アース・スレイブ"」

そのまま両拳をクロスさせるように勢いよく地面を殴る。
ドン!という轟音と共に前方目掛けて岩でできた大剣が無数に突き上がり、それは高速でクロードへと向かう。

同じくクロードも両拳をクロスさせて地面を殴ると、黒い大剣が地面から突き上がり、前方へと進んだ。

大剣の大きさから、お互いの姿は隠れる形だった。

"岩の剣"と"黒い剣"が相殺しあって粉々に砕け散る。
あまりの衝撃に部屋の窓が順々に割れていく。

これで終わったかに思えたが、なんとグレイグはクロードの目の前に高速で移動していた。
体勢は低く、右足を前に出した踏み込みと上体を後ろへと反るようにして腰に構えた右拳。
それは攻撃動作が完了した状態だった。

「……"土杭カイザー・バンカー"!!」

斜め下から斜め上へ、クロードの胸を狙った右拳は直線的に放たれていた。
完全に伸び切った腕、グレイグの拳はクロードの黒の鎧を最も簡単に破壊し、後方へと吹き飛ばす。

重力など微塵も感じないほど、ふわりと浮いた体は猛スピードで壁に激突した。

「終わったな」

グレイグの言葉。
その瞬間、何かがグレイグの兜に当たった。
それはちょうど目のあたりで、グレイグは宙を見る形で仰反る。
不意な攻撃だったため回避できなかったが、さほど強くもない衝撃を考えるに致命傷ではない。

「それはこちらのセリフだよ。グレイグ」

「なに!?」

グレイグが上がった頭をすぐに戻して正面を見ると入り口ドア付近には無傷のクロードと杖を横に振った体勢をとっているメイアがいた。
クロードは黒衣を着ておらず、笑みを浮かべている。

「自分と戦っていた気分はどうかな?」

「なんだと……」

「さぞ手応えのある戦いだったろ。だが夢中になりすぎちゃダメだね」

「まさか貴様の狙いは……」

「メイアはすぐに気づいたよ。僕とあなたではこの戦いは終わらない。終わらせるのは自分だとね」

グレイグはハッとして兜を触った。
そこには砕けた部分があり、完全に目元が露出した状態だった。

「私はここまでか……」

「これで長かった旅は終わりだ」

「最後は……なかなか強引だったな」

「力が戻るまでは無理はしないのが僕の主義でね。それに誰かと旅をするのは楽しいからね」

「やはりゼクスは正しかった。そして……彼も……」

「彼?」

「……"クロード・アシュベンテ"だ」

「彼は何を言っていた?」

「貴様に教えるわけがなかろう。ただ、

グレイグは両膝を着き、項垂れるように俯く。
そのまま体は硬直して絶命した。
すぐに灰なる体に重厚な鎧は耐えきれず音を立てて崩れていった。

魔王カリムスを打ち倒したとされる六大英雄は全員、この世界から消え去った。
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